第14話 ゴブリン戦、その後

 ラーズスヴィーズルはその後、少しふらつくきながらも元の仕事に戻った。


 視界から消えたけれど、彼が俺達に付いて来ているのが分かった。

 みんなもう知っているから、一緒に帰ればと思うんだけれど……?


 一応、仕事だからか……?

 王女とは距離を置かなくてはならない深い事情を感じる……。


 王女のヒミンは、歩きながら俺の事をエイル姉ちゃんから詳しく聞いている。

 時々振り向いては、驚いた顔で俺を見る。


 エイル姉ちゃんの卒業課題である、ゴブリンの魔石集めは無事完了したみたいだ。

 というよりは有り余るほどの魔石で、持ち運ぶのに苦労している。


 俺は運べないので、3人が分担をして運んでいる。

 それに、マッタケもだ!


 特大の魔石が1つある。

 父ちゃんが言うには、これはゴブリンクイーンの魔石。


 ゴブリンクイーンの魔石は、物理攻撃大幅アップの魔法付与に適していると言っていた。

 市場では、高値で取引されているんだって。


 父ちゃんが歩きながら、魔石と魔法の相性について話してくれた。

 本ではまだ読んでいなかったので、父ちゃんを見ながら聞く。


 父ちゃんは言う。


「生きていた時の特性が魔石に残るので、それを最大限に活用するには見極めが必要。

 しかし、その見極めは経験と勘に頼るしかないんだよ」


「検査の魔法で、出来上がった魔石の良い悪いは分かる。

 しかし、付与する前から判断できにくいので、そこが難しいところだね」


「ゴブリンの魔石は凡庸性が高い特性があるんだよ。

 その為、あらゆる魔法を付与できる」


「けれど、初級の魔法しか付与できないのが難点。

 中級以上の魔法を付与しようとすると、魔石が耐えきれなくなって壊れる。

 まあ、だいたいこんなものかな」


 父ちゃんは話を終えると、俺にそう言った。


「そうだ。

 ゴブリンの魔石が沢山あるので、スキルの付与をトルムルもしてみるかい?」


 ほ、ほんとうに?

 俺は嬉しくなった。


 今までは、父ちゃんの横で魔法の付与を見ているだけだった。

 商売なので失敗は許されない。


 でも、今日のゴブリン戦で大量の魔石をゲット。

 失敗をしてもいいから魔法の付与をやりなよと、父ちゃんの暖かい心遣い。


「トート!

 バブブブブブゥーーー!」


 おんぶ紐で父ちゃんに抱かれながら手足をバタバタさせて、喜びを全身で表した。


「そうか、そんなに嬉しいのか。

 トルムルがスキルの付与をするのを見たくなってきたよ」


 前の方で聞こえたのか、エイル姉ちゃんとヒミン王女が父ちゃんの横に並んだ。

 そして、エイル姉ちゃんは興味のある顔で言う。


「トルムルが魔法を付与するの、私も見たいわ。

 卒業課題の最後は、ゴブリンの魔石にスキルを付与することなんだ」


「それでしたら、私も見させてもらってもいいかしら?

 とても興味があるんですもの」


 え、え〜〜!

 俺のスキル付与を、3人が見たいって?


 なんで……?


 最初だから失敗するかもしれないのに?


 どうも分からない。


 どうして3人は、これほど興味を示すんだろうか。

 赤ちゃんの俺に、何かを期待している……?


 そんな訳ないよな。

 単なる興味本意の気がする。



 分かれ道に来ると、ヒミン王女は俺を優しく抱いてくれた。

 しかも、思っていた以上に彼女の胸が大きかったので、少しだけ俺は恐怖を覚えた。


 やはり俺は、オッパイ恐怖症なのだと自覚した……。

 男として、これからの人生をやっていけるのか心配になる。


 でも、ヒミン王女の優しさはしっかりと受け取った。

 今度会う時までに、名前を言ってあげたいなと思う。



 家に帰ると、急にオシッコに行きたくなる。


 筋トレの成果で、少しは我慢ができるようになっていた。

 それでも大小をオシメの中にしていた。


 重力魔法を使って、自力でトイレ行くことにする。


 昼間、すでに経験をしている。

 慎重に重力魔法を使うと、フワッと体が浮いた。


 フヨ〜〜、フヨ〜〜、フヨ〜〜。


 微妙に体が上下左右に動いているけれど、さほど気にするほどの動きではなかった。


 トイレの方に、ユックリと行くように魔法を加えた。


 スーーーーーーーーーーー。


 トイレに行くと、誰かが入っていた。

 父ちゃんがさっき、トイレに行くのを思い出す。


 父ちゃんが出てくるのをトイレの前で待っていると、いきなりドアが開いた。

 父ちゃんと、目と目が合う……。


「……?

 もしかして、トルムルはトイレに来たのかい?」


「ト、ト」


 トイレと言えなかった。


「トルムルは自力でトイレに来たんだね。

 ちょっと待ってよ。


 お姉ちゃん達の使っていたオマルを、すぐに出すからね」


 え?

 トトで通じたよ。


 やったね。


 父ちゃんが大人用の横に、オマルを置いてくれた。

 俺はそこまで重力魔法を使って行き、床に降りる。


 オマルの横に降りた俺は、つかまり立ちをしながらオマルに座った。

 用を済ますと、再びつかまり立ちをして俺はオマルから離れた。


「トルムルがついに……、一人でオシッコをしたよ!」


 父ちゃんが凄く喜んでいる。

 俺も嬉しくなって、叫んでいた。


「ト、ト.

 バブブブブブーーーー!」



 晩ご飯になった。

 食卓には美味しそうなマッタケざんまいの料理を、エイル姉ちゃんがならべていた。


 部屋の中は、マッタケの匂いで充満していて、食欲をそそられる。


 しかし、俺はまだ固形物を食べれない。

 目の前にこれだけあるのに、食べれない。


 悲しい……。



 俺の前に、エイル姉ちゃんが何やら持ってくる。


「トルムル、今日はお疲れ様。

 マッタケの重湯を作ったから食べてね」


 え……?

 お、俺にもマッタケを?


 マッタケの匂いが重湯から漂ってくる。

 マッタケの土瓶蒸しを、重湯で再現したみたいなものか?


 凄く薄いマッタケが、2切れ重湯の上に乗っているのが見えた。

 前の世界では一切れだけだった。


 それが2切れになっている。

 エイル姉ちゃんの愛情と、マッタケを2切れ食べれる幸せを、俺は深く感じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る