第13話 ゴブリンクイーン

 ラーズスヴィーズルは先頭を走ってゴブリンを倒している。

 けれど、余りにも数が多すぎて走るスピードが落ちてきた。


 父ちゃんも戦闘に加わった。

 ラーズスヴィーズルの魔法の威力には及ばないものの、かなりの数を確実に倒している。


 俺を片手で抱いたままなので、戦いにくそうだ。

 ヒミン王女とエイル姉ちゃんも参戦する。


 命の危険が段々と増している現状では、彼女達の戦力もバカにはならない。

 一体一体倒しているのが、ここからでも分かる。


 不意に、前方から別次元のゴブリンの気配を感じる。

 今まで気配を消していたみたいだ。


 これは罠だと俺は感じた。

 しかし、時すでに遅く、その気配は猛突進してラーズスヴィーズルに襲いかかっていた。


「ゴブブブーーーー!!」


 地鳴りのような雄叫びと共に、ラーズスヴィーズルに体当たりした。

 不意をつかれた彼は、飛ばされて木に激突!


 魔石の付与で防御魔法が発動したみたいで、彼はすぐに起き上がった。

 あれだけの衝撃ですぐにおき上げれるとは、俺は内心感心する。


 上級魔法防御か、彼の体力が衝撃に耐えられたのかは分からなかった。

 しかし、明らかに彼は耐えたのだ!


 しかしよく見ると、彼は少しだけふらついていた。


 ヤ、ヤバイ!


 この状況で、1番頼りになるラーズスヴィーズルの戦力が低下すると……。



 人前では、決して魔法を使ってはいけないと父ちゃんは俺に念押していた。

 しかし、このままだと……、全滅の可能性が出てきた!


「父さん、このままだと!」


 エイル姉ちゃんは、悲痛な声を上げている。

 俺の魔法を使うべきだと、暗に言っているのが分かる。


 しかし……。

 父ちゃんは、未だに俺に魔法を使う許可を出さなかった。


 使ったが最後、ラーズスヴィーズルとヒミンに秘密がバレてしまう。

 ギリギリまで、父ちゃんは判断を遅らしていると分かった。


 それほど俺を心配しているのが分かって嬉しかった。

 けれど、状況が余りにも……。


 もしもの為に、どんな魔法を使ったらいいかを検討した。

 火性の魔法を周囲に使うと、火災旋風が起きる可能性があって巻き添えになる。


 土性の魔法がいいのではと、直感で思った。

 上空に岩でできた巨大な手や足などが現れ、下にいるゴブリン達に襲いかかり一気に殲滅できる。


 発動する人が、恐怖だと思っている人間の部分が上空に現れる。

 手が1番恐怖だと感じると、間違いなく手が上空に現れると母ちゃんが言っていた。


 四方から来ているので、4回発動すればいい。

 ゴブリンの位置を、正確に確認する為には……?


 俺自身が、重力魔法を使って上空に行き、そこから直接ゴブリンの場所を見るのがいいか?

 しかし、本は飛ばしたことがあるけれど、自分自身を飛ばしたことがない。


 しかも、最大土性魔法アルテメイトストーンは、今まで発動したことがない。

 俺に……、それができるのか……?



 思案していると、状況がいきなり悪化した。

 ラーズスヴィーズルが再び体当たりを食らって、今度は岩に激突した。


 今度も起き上がるかと俺は期待をした……。

 しかし……、彼は……、しばらくしても……、起き上がってこなかった!


 彼は……、気絶したのか……?

 あるいは……?


 それを見た父ちゃんは、俺に緊迫した口調で言う。


「トルムル、この状況を打開してくれ〜〜!!」


「トート!!

 バブブブブブーーーーーー!!」


 俺は気合を入れて上空を見上げ、行きたい空間を確認する。

 手の中でイメージが完了すると、魔法力マジックパワーを使って重力魔法をすぐに発動した。


 ヒューーーーーーー!


 父ちゃんの手から離れ、凄いスピードで上空に登った俺。

 下を確認すると、思った通り四方からゴブリンが迫っていた。


 父ちゃん達の前方のゴブリンの群れが1番近かった。

 4、5匹父ちゃん達と接触していたけれど、父ちゃん達が巻き添えになるので範囲外にする。


 俺は手の中で、範囲内のゴブリン達が押しつぶすぐらいの大きさの岩をイメージした。

 イメージが完了したので、俺は魔法力マジックパワーを使って最大土性魔法アルテメイトストーンを発動した。


 ズズゥーン!


  ゴブリン達の上空に巨大な……?


 え……、何あれ……?


 巨大なオッパイか。

 ま、まさか……、オッパイなの……?


 が、出現したかと思うと、猛スピードで下降していった。


 ドッゴーーーーーーーーーーン!!


 ゴブリン達を下敷きにするとオッパイは霧散して、ゴブリンの魔石が多く転がっていた。


 と、と、と、とにかく成功かな?

 俺は気をとりなおして、最大土性魔法アルテメイトストーンを3回使う。


 最初と同じようにオッパイが上空に現れて、ゴブリンを魔石に変えていった。


 えーと……、理想とは違ったけれど……?


 まさか、俺が1番恐怖を感じている部分がオッパイだとは夢にも思わなかった……。


 いや!


 アトラ姉ちゃんに、死ぬぐらい強く抱かれた後に悪夢を見た事が何度もある。

 それはまさに、アトラ姉ちゃんのオッパイで息ができなきくて、もがき苦しむ夢を!


 ……?

 そうか、俺はオッパイ恐怖症なんだ。


 でも、それって何だかんだ悲しい気がする……。


 えーと……。


 下から父ちゃんが呼んでいる。


 そろそろ降りますかね。

 3人の驚く顔が、ここからでもよく見える。


 下にユックリと降りて行くと、ヒミンが腰を抜かすほど驚いているのが分かる。

 父ちゃんとエイル姉ちゃんは免疫があるので、少し驚いているだけだった。


「トルムル、お疲れ様。

 思っていた以上の成果で、少しびっくりしたわ」


「エーエ。

 バブブブブブーーーー!」


「トルムルの活躍で、命拾いしたよ。

 ありがとう」


「トート。

 バブブブブブーーーー!」


 ヒミン王女は目が大きく見開いたままで、何かを言おうとしている。

 けれど言葉にならず、口をパクパクしている。


 俺は宙に浮いたまま、彼女の前に移動する。

 思っている以上に重力魔法は便利だ。


「こ、こ、こ、この子が、さっきの最大土性魔法アルテメイトストーンを4回も使ったんだよね……?」


 俺は右手を上げて言う。


「バブゥ」


「し、信じられない!

 しかも、宙に浮いたままだし!」


「えーと、ヒミン?

 トルムルよりも、向こうで倒れている彼の事を心配しない?」


「あ、忘れていたわ!

 大変!」


 みんなでラーズスヴィーズルに駆け寄ると、意識を回復しかけていた。

 気絶しただけで、大ケガもなくかすり傷で済んでいた。


「うーん。

 あ、そうだ、ゴブリン達は?」


「3人で協力して、やっと戦闘が終わった所です」


 父ちゃんが俺を抱いてそう言う。


 ヒミン王女は大きな目を、更に大きくして、穴が空くほど俺を見ていたのだった。

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