第5話 最後のお別れ
一週間後。
俺のぼやけた目線から見える景色は……、オッパイの洪水だった……。
右を見ても左を見ても、そして前を見てもオッパイだらけ。
近くでこれだけたくさん見ると、嬉しいよりは恐怖を俺は感じている。
そして……、、一際大きなオッパイを見た。
長女のあまりの大きさに、俺は驚愕した。
もちろんオッパイもだけれど、腕の太さは俺の胴体と同じくらいある。
背も高くて、お父さんが低く見える。
もしかして、母ちゃんは背が高い?
「この子がトルムルなんだね」
そう言うとアトラ姉ちゃんは俺を抱き上げ、巨大な胸の谷間にギュッと俺を押し込んだ!
く、く苦しい〜〜!
嬉しいけど、これは、く、苦しい〜〜!
ア、アトラ姉ちゃん、力入れすぎで、……い、息ができない!
あまりの苦しさに、俺は思いっきり大暴れをした。
エイル姉ちゃんが突然、アトラ姉ちゃんに怒り出した。
「アトラ姉さん、やめて!
トルムルが苦しがっているわ」
エイル姉ちゃん、怒ると怖い?
「エイル、何を怒っているんだね。
トルムルを抱いているだけだろう?」
そう言うと、更にぎゅっと抱きしめた。
さっきよりも更に苦しくなり、俺は意識を失いかけた……。
その時、エイル姉ちゃんがアトラ姉ちゃんから俺を抱き上げて救ってくれる。
「トルムルはまだ赤ちゃんなのよ!
優しく抱いてあげないと、死んでしまうわ!」
あ、ありがとう、エイル姉ちゃん。
本当に死ぬところだった……。
エイル姉ちゃんの気迫に負けて、アトラ姉ちゃんは肩をすぼめている。
そして、申し訳なさそうな顔に変わっていた。
「ごめんな……。
つい嬉しくってさ、思いっきり抱いたんだけれど……?」
やっぱりアトラ姉ちゃん、思いっきり俺を抱いたんだ。
「トルムルが生まれたばかりだと、嬉しくて忘れていたよ」
「アトラ姉さん!」
「悪りぃー、悪りぃー。
もう一回抱かせて、今度は優しく抱くからさ」
それを聞いた俺は、恐怖が込み上げて来た。
俺は……、思いっきり首を左右に振り始める。
「トルムルが首を横に振って、イヤイヤしているみたい」
エイル姉ちゃんがそう言う。
「お願い、頼む!
もう一回抱かせて。
明日になれば……、ここを離れなければならないんだ」
懇願する様に頼み込むアトラ姉ちゃん。
それを聞いた俺は、首を振るのをやめる。
そして……、一度だけ首を縦に振った……。
「トルムル、確かに首を縦に振ったよな……?」
アトラ姉ちゃんは確かめるようにエイル姉ちゃんに聞いた。
「そうみたい……。
今度は優しく抱いてあげてよ」
「分かった。
今度は大丈夫だ!」
そう言ってアトラ姉ちゃんは今度は優しく、大きな胸の谷間で俺を抱いてくれた。
姉ちゃんの体から香水の香りがしてくる。
ゴッツイ体をしていても、アトラ姉ちゃんも女の子なんだ。
なぜだか知らないけれど、俺は少しだけ安心する。
もうすぐ、母ちゃんの葬式が始まる。
母ちゃんの葬式を心に焼き付けたいと、俺は強く思った。
しかし、このぼやけた視力では母ちゃんの顔がハッキリと見えなかった。
イメージできれば、魔法は何でもできると母ちゃんが言ったのを思い出す。
俺は母ちゃんの顔をハッキリと見たい!
今の俺に、自分自身で視力を上げることができるのか全く分からない……。
でも……、何もしなかったら一生悔やむと思う。
俺は意を決して、目の視力を上げることを決意する。
右手の中で、目と脳の神経が活発になり、視力を上げるイメージをする。
右手を目に近付けて、イメージ通りの魔法を発動した。
シュウーーー。
魔法を発動した静かな音が聞こえると目の中がむず痒くなり、徐々に視力が上がっていった。
遠くの山で鳥が飛んでいて、ネズミを足でつかんでいるのが見えてきた。
えっ……?
ちょっと待って……。
見えすぎだろこれ。
し、しまった〜〜、やり過ぎた〜〜〜〜〜〜!!
冷凍された母ちゃんが、墓穴の中に静かに入っていく。
初めて見る母ちゃんは、思った以上にきれいな人だった。
7人を生んだとは思えないような感じがした。
父ちゃんを始め、姉達が涙を流し始める。
俺も……、涙を止められなかった。
せっかく視力を上げたのに、涙で母ちゃんが見えなくなってきた。
母ちゃんが亡くなった日、あれほど泣いたのに……。
父ちゃんが花を母ちゃんに最初に投げ入れた。
最後のお別れだ。
俺も、抱かれているエイル姉ちゃんから花を渡された。
母ちゃんの方に、エイル姉ちゃんの手助けで投げ入れる。
母ちゃんの胸の所に落ちていった。
生まれてすぐに、母ちゃんのオッパイを吸ったのが鮮明に蘇った。
俺は……、俺は我慢しきれずに泣き始めた。
「オギャー、オギャー、オギャー」
「いい子ね、トルムル泣かないで」
そう言っているエイル姉ちゃんも泣いているのが分かった。
少し経って、俺は泣き止む。
俺が泣いていると、姉達が更に泣いているのが分かったからだ。
それに、このままだと母ちゃんの葬式を心に焼き付けられなかった。
俺は、根性で泣くのを止めたのだった。
弔問しに来てくれた大勢の人達が、母ちゃんに花を投げ入れてくれた。
こんなにも大勢の人達が来てくれて、母ちゃんの人徳を知った。
弔問に来てくれた人達が花を投げいれて全員居なくなると、家族だけの火葬が始まる。
墓穴の中に冷凍されている母ちゃんに、父ちゃんを始め、姉達が火の魔法を使って火葬を始める。
俺も参加しようと思った。
特大の魔法で火葬して、今まで母ちゃんにお世話になった恩返しになればと思った。
俺は右手を出して、手の中で燃え盛る太陽をイメージした。
イメージで熱くなっても、実際に火傷しないことは母ちゃんから学んでいる。
俺の手の中では、一瞬で手が蒸発するぐらいの高温になった。
熱い感覚は既に無くなっている。
それを、母ちゃんに向かって
ゴアァァァァァァーーーーーーーーーー!!!!!
超超高温の猛火が、俺の小さな手から出た!
一瞬で、母ちゃんの火葬が完了した。
母ちゃん、今まで本当にありがとう。
初めての火の魔法を使ったけれど、まずまずだよね。
ふと周りを見ると、父ちゃと姉達が畏怖の目で俺を見ていた。
もしかして……、もしかして……。
俺はやり過ぎたのか……?
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