第2章

第6話 骨折?

 葬式の翌日、アトラ姉ちゃんをはじめ、姉ちゃん達はそれぞれの住んでいる国に帰っていった。


 最後の別れ際、俺を優しく胸の谷間でギューと姉ちゃん達は抱いてくれた。

 姉ちゃん達に愛されているなと思える、とても幸せな時間だった。


 母ちゃんが亡くなった後、改めて姉達を見ると、みんな美人でビックリした。

 母ちゃんが美人だったので、遺伝子を受け継いだみたいだ。


 それに、姉達が俺に接する態度が変わった。

 葬式の時は畏怖の目で見ていたけれど、別れる時は期待の表情に変わっていた。


 姉ちゃん達が近い将来俺を引き取って、一緒に暮らしたいと言っていた。


 でも……、何で……?

 どうして姉ちゃん達は、俺と一緒に暮らしたいのだろうか……?


 俺はまだ、生まれたばかりの赤ちゃんなのに……?


 ◇


 あれから6ヶ月が経った。


「お父さん、トルムル行ってきまーす」


「行ってらっしゃい、エイル」


「バブゥー」


 俺を優しく抱いてくれた後、美人のエイル姉ちゃんは元気に魔法学園に行った。


 エイル姉ちゃんは15才で、魔法学園の最上級生。

 エイル姉ちゃんは今年卒業で、進路を決めかねていると悩んでいた。


 卒業試験では、魔物を殺すと取れる魔石集めに苦労していると今朝の朝食で言っていた。

 なんでも、ゴブリンの魔石を一定数集めるのが課題だそうだ。


 エイル姉ちゃんは学園に行く前に、俺にミルクを飲ませてくれた。

 ゲップもエイル姉ちゃんに抱っこしてもらって、ちゃんとできました。


 下の世話は、恥ずかしいけれどエイル姉ちゃんにしてもらいました。

 と、とにかく、お尻の筋肉を強化して、自力でトイレに行かないと話になりません。


 魔法の勉強も大事だけれども、人間として普通に努力しないといけないな〜〜と、改めて実感しました。

 大人になっても、オムツを履きたくないので……。



 そういえば、ここは生まれて初めて来る場所だった。

 昨日までは別の部屋で、泣いたら父ちゃんが来て俺の世話をしてくれていた。


 ここは父ちゃんの仕事場で、武具などに魔石を埋め込んでスキルを付与すると言っていた。


 向こう側には剣、槍、弓などの武器が展示してあった。

 防具らしき物も見えた。


 これらの武具に、魔石を埋め込むのが父ちゃんの仕事なんだと、なんとなく分かった。

 しかし、母ちゃんから学んでいない単語が出てきたので、その部分がよく分からなかった


《スキルを付与する》がよく分からず、誰かに教えてもらいたい。

 しかし、俺はまだバブーとしか言えなくて、質問自体が言えない。


 赤ちゃん用のベッドに、俺はまだ入れられている。

 まるで、檻の中に居るようだ。


 周りが木の格子で囲われており、上からしか出入りが出来ない。

 どうあがいても、ここから自力で出ることは叶わなかった。


 古いベッドで、あちこちに小さな歯型がある。

 きっと、姉達が新しく生えた歯を試したくて噛んだ跡だ。


 姉ちゃん達もここで、俺と同じ様にしていたと思う。

 歯型を見るたびに、ますます姉ちゃん達に親近感がわいてくる。


 よく見ると、この部屋は作業場と店が一緒になっている。


 別の壁側を見ると下着類も売っていた。

 え〜〜と、……?


 ここは、下着屋さんもしているのか……?


 ブラジャーにパンティー。

 もちろん男物ある。


 ふと寝返りをしたくて、手足を使う。


 ゴン!


 勢い余って一回転して、木の格子に頭をぶつけてしまった!


 ……?


 あれ……?

 頭を格子に強くぶつけたのに、痛くない……?


 何で……?


 その時、体の中の魔法力マジックパワーが、少しだけ着ている服に移動したのがわかった。

 魔法力が移動した場所を手で触ると、小さな魔石が埋め込まれている。


 魔石を埋め込むのは、武具だけではなかったんだと思った。

 ブラジャーにもたぶん、魔石が埋め込まれている。


 俺の体を守るために、父ちゃんがこの魔石を服に埋め込んだ。

 そして怪我をしないように、何かの魔法を使ったんだと推測した。


 スキルを付与するが、何となく分かった。

 けれど、やはりしっかりと知識を持ちたいと強く思う。


 母ちゃんの意思を継いで大賢者になる為には、あらゆる知識が必要となるはずだ。


 ふと、父ちゃんの後ろの棚を見ると、本がぎっしりと隙間なく置かれてあった。

 文字は母ちゃんから習っていたので、本の背に書いてある文字はすんなりと読めた。


 その中で、俺の興味を示す本が一際輝くように見えた。


《魔石に、スキルを付与するための入門書》


 母ちゃんから、色々な種類の魔法があると習った。

 その本を手元に持って来るためには、唯一可能な種類の魔法があった。


 それは重力魔法で、使い方によっては物を持って来ることが可能だと母ちゃんが言っていた。

 すぐに実行に移そうとしてけれど、俺は少し考えた。


 母ちゃんの火葬で、いきなり全力を出しすぎてしまった。

 そのため、父ちゃんと姉達から畏怖の目で見られてしまい失敗をした苦い経験がある。


 ここは、慎重にならなければいけないと思った。

 まずは深呼吸をしてオシャブリを吸って精神を統一する。


 そして右手の中で、その本がこちらに来るイメージを思い浮かべた。

 手の中でイメージできたので俺は、ほんの少し、ほんの少しの魔法力マジックパワーを使って重力魔法を発動した。


 シュゥーーーーーーーーーー!


 その本は、予想を遥かに超えるスピードで俺に飛んで来る!!!

 避けようと思っても、余りにもスピードが速すぎて避ける事が出来なかった。


 ボキッ、ボキッ、ボキキキィィィーーーーーー!!!


 俺にぶつかると、何かが3、4本折れる音がした。

 も、もしかして……?


 じ、自分で骨を折ったのか……!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る