第3話 母ちゃんの死


 目がさめると、俺は産んでくれた母ちゃんが亡くなったのを知った。


 誰にも教えてもらわなかった。

 けれど、なぜだか分かる。


 そんなバカな!!

 こんな理不尽な事ってあるのか!?


 俺をこの世に送り出してくれた大事な母ちゃん……。

 俺を産んだ為に亡くなった……。


 俺は……。


 俺は自分の感情が抑えきれずに大泣きを始めた!


「オッギャー! オッギャー! オッギャー!」


 俺は、泣いて! 泣いて! 泣いた!!


 突然、……俺の中にある何かが大きく開いた感覚がして、体が猛烈に熱くなっていく。


 ドアが突然開く音がして、誰かが急いで入って来た。


 そして俺を優しくて抱き上げてくれる。


「トルムルったら、身体が燃えるように熱くなってきているわ!

 早く父さんの所に行かないと、トルムルまで死んじゃう!」


 俺を抱いていた女の子も泣いているのが分かった。


 けれど、俺は泣くのを止められなかった。


 きっと女の子は、エイル姉ちゃんだ!


「お父さん! トルムルの体が燃えるように熱い!

 トルムルまで死んじゃうの!?」


 父ちゃんは俺を抱いて、何かの魔法を使った。


「トルムルの体内に、魔法力マジックパワーが大量に流入して、暴走している!

 エイル、そこの魔石を取ってくれないか?」


「これでいいの?」


「多分それでいいと思う」


 俺のおでこに、ヒンヤリとした感触がする。


 父ちゃんが何かの呪文を唱えると、俺の体から何かの力が少しだけ抜けていった。


「この魔石にはもう入らない!

 けれど、まだトルムルの体内には大量の魔法力マジックパワーが残っている。


 エイル、そっちの1番大きなダイヤモンドを渡してくれ!」


「お父さん、これ!?」


「それだよ。

 お父さんが持っている中で、1番多く魔法力マジックパワーが入るダイヤモンド!


 これなら大丈夫だろう」


 再びおでこに、ヒンヤリとした感触を受ける。


 父ちゃんは呪文を再び唱え始めた。


 今度は体から燃えるような物が全て出されていったのを俺は感じる。


「これは驚いた!

 このダイアモンドが一杯になっている……。


 このダイヤモンドには、5、6人分の魔法力マジックパワーが入るのに?」


「お父さん、トルムルはどうしちゃったの?」


「多分トルムルは、お母さんが亡くなったのを本能で感じ取ったらしい。

 そしてそれに耐えきれなくて、魔法門マジックゲートが大きく開かれたみたいだ!」


「お父さん、それって魔法がたくさん使えるって事だよね?」


「おそらく。

 この魔法力の量からすると、今の段階でも賢者級の魔法力マジックパワーを使えることになる」


「賢者級って……、この世界に10人もいないとされている賢者だよね?」


「間違いなくそうだね。

 これから色々な魔法を覚えるに従って、更に使える魔法力マジックパワーの量が増えてくる筈だ!


 このままトルムルが順調に成長すれば、大賢者も夢でないかもしれない……」


「だ、大賢者って!

 父さんそれって……、伝説にしか出てこないよ!」


「分かっている。

 ナタリーが奇跡を起こしたのかもしれない」


「お母さんが?」


「ナタリーが亡くなった衝撃によって、この子の魔法門マジックゲートが大きく開かれたみたいだ。

 普通は、年と共に徐々に大きくなって、使える魔法力の量が増えていくものなんだけれど……。

 

 稀に……、稀に、爆発的に魔法門マジックゲートが開くことがあるとは聞いてはいたが……」


 俺は、父ちゃんの話に驚いている。

 神様に、大賢者……、になりたいと頼んだ覚えはないのに……?


 どうしてこうなった?

 母ちゃんの最期の願いが……、もしかしてこれ?


「しかし大賢者になるのは、それ相当の試練が数多くある。

 そんな茨の道を、トルムルに歩ませたくはない。


 エイル、よく聞いて!

 この事は内緒にしなければいけないよ。


 トルムルの潜在能力を知ると、上の人達が彼を欲しがるからね」


「ほ、欲しがるって、私達と離ればなれになるってこと?」


「そうなるね」


「そうなったら嫌だわ、私!

 弟が生まれたばかりなのに、すぐに離れて暮らすなんて……」


 それは俺も嫌だよ。

 ありがとう、エイル姉ちゃん。


 向こうの世界で、家族と別れたばかりなのに……。

 こちらの世界でも繰り返されるのだけは、断固拒否!!


 あ……?


 無性にお腹が空いてきた。

 どうしよう?


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