第2話 最後の言葉

 起きている時間は、筋トレと胎内教育をしている俺。



 そんなある日、子宮が収縮を始めたのが分かった。


「貴方、赤ちゃんが生まれそうです」


「分かった、産婆さんを呼んで来る!

 エイルは母さんの近くにいてくれ!」


「分かったわ父さん!」


 俺の弟姉きょうだいの1人は、エイルって名前。

 母ちゃんのお腹の上から、優しく撫でてくれたのが分かって、とても嬉しかった。


 けれど、他の姉達の名前は聞かなかった。

 つまり、ここには住んでいないという事らしい。


 おっと!

 段々と子宮の収縮が強くなり始めた。


 しかも、徐々に間隔が早くなっている。


「ナタリー、産婆さんを呼んで来たよ!」


「あ、ありがとう貴方」


 産婆さんの声が聞こえる。


「うーむ、あまり良くないよ!

 子宮の収縮が弱い。


 これは出産が長引くよ!」


「わ、私、頑張ります!

 生まれてくるこの子の為に!」


 それから母ちゃんは、長時間に渡って陣痛に苦しんだ。


 俺も、当然のごとく苦しんだ。


 長く苦しい時間が永遠に続くのではないかと、俺は心配になり始めた。


 出産が、こんなにも苦しいものとは知らなかった。


 でも、俺以上に母ちゃんは苦しいはずだ。


 苦しみに耐えかねて、母ちゃんのうめき声が何度も聞こえてきた。


 何度も、何度も、何度も!


 永遠に終わらないかと思い始めた時、俺の頭が突然飛び出した。


「赤ちゃんの頭が見えたよ。

 もうひと頑張りだよ」


 産婆さんの声が近くで聞こえた。


 母ちゃんのうめき声が更に大きくなり、ついに俺は生まれた。


 感動するのが当たり前の状況だけれど、いきなり肺呼吸が始まった。


「オッギャーー! オッギャーー! オッギャーー!」


 はじめての肺呼吸で、俺は泣いて、泣いて、泣いた。


「初乳をあげないと、出血が止まらないよ。

 産湯が終わったら、すぐにその子にオッパイをあげるからね」


「わ、分かりました。

 もう少し待っていて下さい。


 エイル、バスタオルを頼む」


「はい。

 お父さん、これ」


「ありがとう、エイル」


 突然……、口の中に何かを無理矢理に入れられて目を覚ました。


 本能的に口が動き出した。

 音が出るくらい、いきよいよく吸うのが自分でも聞こえてきた。


 チュバ、チュバ、チュバ。


 俺は無我夢中で吸った。


 何が何だか分からないまま、母ちゃんのオッパオを吸っていた。


 生まれたての赤ちゃんが、こんなにも吸う力が大きのかと思うぐらいに、俺は大きな音で吸っていた。


 しばらくすると体力の限界に達したのと、お腹が一杯になったので吸うのを止めた。


 そして俺は、段々と眠くなってきた。


 もはや体力の限界で、これ以上起きているのは不可能になってきた。


「元気のいい赤ちゃんだよ。

 こんなに大きな音を立てて吸う赤ちゃんも珍しいよ。


 赤ちゃんを枕元に移動させるよ」


「ありがとうございます。


 私の赤ちゃん。

 良かったわ、無事に産まれて。


 可愛い赤ちゃん。

 私も……、なんだか眠くなってきたわ」


 母ちゃんの声を、近くで始めて聞いた。

 俺を優しく撫でながら言ってくれた母ちゃん。


 でもそれが、母ちゃんの最期の言葉になった。

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