第3話 お茶会という名のピクニック
私とジルリファが婚約を結んで数週間。
女王陛下の命により週に一度、お茶会を開かなければならない。
ホストは交代で、今回は私の番。
「お嬢様、殿下がいらっしゃいました」
「えぇ、今行くわ。ありがとう」
使用人さんたちは、いきなり変わった私に、始めは不信感を抱いていたが、最近は慣れたらしい。もう少ししたら、王都で流行っているアクセサリーとかを教えてもらおう。
部屋にある姿見でどこか変なところはないかチェックし、玄関ホールへと向かった。
「ようこそお越しくださいました殿下」
出来る限りの笑顔を作り、出迎えればジルリファは笑んだ。
さすがは攻略キャラになるお方。
ショタの時でもカワユスですわ。
「あぁ。ご機嫌よう、セレスティーナ嬢。とても綺麗だね」
「有り難う存じます…」
「そのドレス…僕を意識してくれたの?」
「そ、そうですね…?」
私は今日、シルバードレスを着ている。
陛下と同じジルリファのアッシュグレーの髪を意識したものだ。
髪飾り…気付いてくれるかな。
琥珀色の髪飾りは、女王陛下譲りのジルリファの瞳と同じ色。
「ふふ、ありがとう」
……気付かれなかった…。
さて、何故私がこのような事をしているのかというと、婚約破棄のためだ。
セレスティーナはジルリファを好きすぎて、鬱陶しがられて破棄されたらしい。
だから、私もジルリファを好き!っていうアピールをしとけば破棄されるんじゃないかな?と思ったのだ!我ながら良い考え。
でも。この髪飾り、気付かれなかったかぁ…。
私が自分で作ったから、気付いてほしかったかも。
だけど、仕方ないか…。
少しやさぐれていると、ジルリファがセレスティーナ嬢?と言った。
そ、そうよね!髪飾り一つで落ち込んじゃ駄目よ!
私は曖昧に笑って誤魔化した。
「……あ、もしかしてその髪飾り……」
「えっ?」
「新しいのだよね」
違うっ!気付いてくれたけどそこじゃない!
「色…っ」
「ん?その色…」
「殿下の瞳の色ですわ…」
うわ~、恥ずかしい!
私、精神年齢一回りも上なのに…大人気ないっ。
ショタ相手に恥ずかしがることなんて…そうだ。私、彼氏いなかったんだ。
悲しい。悲しすぎる。
「そっかぁ…。ありがとう」
「い、いえ」
ジルリファ、貴方も恥ずかしがりなさいよ!
私ばっかり恥ずかしがって不公平だわ!
「とと、兎に角!こんなところで立ち話もなんですし、お庭にいきましょう?
今日はいつもと違うスタイルですの」
二人で庭に行けば、そこにはピクニックの準備がされていた。
「名付けて、お庭でピクニック!ですわ。……殿下は大丈夫でしょうか?」
「うん。たまに城を脱け出して市井に行くからね。こういうのは好きなんだ」
そういうジルリファにホッと息を吐く。
そして、シートに座った。
「お昼時ですのでたくさんあるんです。食べましょう?」
「だね」
パカッと音を立てて蓋を外すと、質素な料理と豪華な料理が。
やっぱり、シェフみたいには出来なかった。
「セレスティーナ嬢、これは誰が?」
「シェフと……たしですわ」
「ん?誰?聞こえない」
意地悪!ドS!
「私…です…」
「ふふ。可愛いなぁ…。美味しそうだよ?」
お世辞じゃないの?
私がクリエラ家の娘だから。
「重いですよね」
「重い?」
「交際したての恋人の女性が殿方に料理を食べさせるのは愛が重いそうですわ…」
ですから、嫌いになったよね?鬱陶しくなったよね?
破棄、しますよね?
「そうかなぁ…?僕は尽くしてくれる女性が好きだよ」
「ふぁっ!?」
じゃあ、私が今までしていた行為は逆効果?
素の自分の方が嫌われる可能性高くない?
うん、猫被るのやめよう!
「殿下、私、もうこんな淑女みたいなことできません」
「う、うん?」
「私、尽くすタイプの女じゃありません。……ほら、嫌いになりましたよね?
これって性格の不一致!相性の不一致です!」
意気揚々と告げれば、ジルリファはそれはそれは盛大にため息を吐いた。
琥珀色の瞳には呆れと、悲しさと、愛が混ざっている気がした。
「セレスティーナ嬢は僕のこと嫌い?」
ふるふると首を振ると、少しだけ、ジルリファの顔に明るさが戻った。
「じゃあ、好きな人でもいるの?」
「そうじゃありません。しかし、殿下には…運命の人が現れるのです」
「もう現れてるよ?」
「ん?え?ううん!たぶん、ヒロインですのね?それで私と婚約破棄をするのですわ」
「違う。僕はそんなことしない」
する。絶対するよ。
「しますの。私には分かるんです」
「しないっ!僕はそんなことしないよ?」
「嘘!私と婚約したのもクリエラ家の娘だから!ヒロインが現れたらそっちに行くのですわ!私、家族にだけは…迷惑をかけたくないんです……」
セレスティーナが断罪・処刑イベントを迎えれば、クリエラ家は没落。
だから…円満的に婚約破棄をしたいの。
「はぁ…セレスティーナ嬢は僕のこと信じられないの?」
「違います……」
「確かに、僕は甘やかされて育ったし、世間知らずだし、力もそんなない。
けど、セレスティーナ嬢を愛せる自信ならあるよ?」
違う。ジルリファは世間知らずじゃない。ちゃんと、民のことを考えているし、毎朝剣術の練習をしているのも知っている。
そして、私を愛そうとしていることも。
こんな権力しかない金づる令嬢をしっかりと見ていてくれてる。それが嬉しい。
だって、ドレスや、髪飾りに気付いたのだって、ちゃんと見ている証拠。
お弁当も、シェフと比べるのは烏滸がましい位の出来なのに美味しそうって言ってくれた。
「殿下には…運命の人が…」
「もう。分かったよ。セレスティーナ嬢がそう思う理由は?何?」
ほら。今も見てくれてるじゃん。
ちゃんと向き合ってくれてる。
でも、信じてくれる?私のいうこと。
「大丈夫。信じるよ」
「はい…」
琥珀色の瞳から目が離せなくて、私は重い口を開き、ぽつりぽつりと話し始めた。
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