第2話 ドS腹黒王子参上!


「澪!」


「何だねタッキー」


「何その口調…。まぁいいや。見て、腹黒クソムズ王子攻略した!」


「ワー、スゴーイ」


「感情こもってない…」


「だってさぁ、ヒロインが月乙女って何?ファンタジーすぎ。

王子だって、ドSで、ソフトマッチョで好みだし。

騎士は色気がむんむんしてるし。

王国一の魔術師は可愛すぎるし。ツンデレだし。

公爵令息はそれこそフェロモン駄々漏れでヤバくて語彙力失うし」


「うん。澪がこのゲームを好きなのはすごく分かったよ。

あっ、シークレットキャラがいて…─っていうんだ~」


その会話をした日、私は死んだ。



◇◇◇



「はは…」


口から乾いた笑みが零れる。

だって、ありえない…こんな非現実的なこと。

ここが乙女ゲームの世界だって…。


「セレスティーナ嬢?」


陛下が、穏和そうな表情を今は困惑に染めている。


「失礼いたしました。何でもありませんわ…」


「そうか。それでは私の息子を紹介しよう。ジルリファだ。ジルリファ、セレスティーナ嬢じゃ」


「ご機嫌麗しゅう、殿下。セレスティーナ・クリエラと申します」


「ご機嫌よう、セレスティーナ嬢。第一王子のジルリファだ」


絵に描いたような薄っぺらい笑顔を貼り付けたジルリファは陛下を見た。


「父上、どういうおつもりですか?」


「そなたと、セレスティーナ嬢の婚約を結ぼうかと思っての」


……えっ!?

私、結ばないって言いましたよね…?


「なるほど……」


ジルリファはあまり乗り気ではないらしい。

まぁそうよね。

十二歳の男の子だもの。

好きな人の一人や二人─いや、二人はおかしいか─はいると思うの。


「お父様、やはり私…」


「嫌?」


頷き、すみませんと言うと、お父様は気にしなくていいと仰った。


だって、タッキーが言ってた。

セレスティーナは全パートで断罪・処刑イベントを迎えるって。

だから、攻略キャラと関わったら私の命が危うい。

前世では親孝行なんて出来なかったし、孫の顔見せたいし。魔法も楽しみたいし。

アクセサリーを作るのが夢だったから今世で作りたいのよ…!


「陛下、セレスティーナは嫌だそうです」


「むっ…。そうか。ジルリファ、どうだ」


「そうですね…。クリエラ家…。……僕はしたいのですが」


うぅ…そうだよね。

クリエラ家を取り込みたいもんね。

でも王太子妃とか無理だから…!


「陛下……私は…」


「セレスティーナ嬢、お願いじゃ…」


アクアブルーの瞳が子犬がおねだりしているような目になって…、


「承知いたしました。…殿下の婚約者という名誉、喜んでお引き受けいたします」


「ありがとう、セレスティーナ嬢」


陛下は私が断れないことを知っていたのだろう。

瞳の奥でくつくつと笑っているのが窺える。


「セレスティーナ嬢、これからよろしく」


「よろしくお願いいたします殿下」

(うわぁああ!嫌だ!ドS腹黒王子の婚約者なんて!)


と、言えるわけもなく、私たちの婚約はトントン拍子に進み、翌日には正式な婚約を結んでいた。

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