脱!悪役令嬢の断罪イベント!

もちもち

第1話 『私』ではない『私』


走馬灯って本当にあるんだなぁ…って思った。

ではないが入ってきて。息の仕方を忘れるくらいに苦しくなって、目眩がした。くらくらする体を何とか持ちこたえて、ドレスの裾を握りしめた。


「──ティーナ?セレスティーナ?」


甘い、バリトンの声が私を呼ぶ。


「おと、お父様!」


「大丈夫かい?陛下への謁見は後日にしようか?」


「大丈夫…ですわ」


この美形は私のお父様─アバリス・クリエラ公爵。

クリエラ公爵家はスティファン王国三大公爵のなかでも莫大な力を持っている。

全てにおいて、能力が高いお父様が王家に対して反乱を起こせば、王家は間違いなく破滅すると言われている。


「そう?本当はあの馬鹿にはなるべく会わせたくないのだけれどね」


馬鹿…。御愁傷様ですわ、陛下。


「お父様、私ジルリファ殿下と婚約を結んでしまうのでしょうか…」


「嫌なのかい?あんなに婚約したがっていたのに」


そう。私、セレスティーナ・クリエラは我儘で、傲慢で、高飛車な令嬢だった。

そして、一目惚れしたジルリファと婚約したいと、お父様に頼んだのだ。

なんとも自分勝手なセレスティーナに嫌気がさす。

けれど、私には雪節澪ゆきふしみおという女性がいて、それも私なのだ。

否。正確には、セレスティーナの体に雪節澪の魂が入っている…だ。

十二歳の体に女子大生が入っているという事実。悲しきかな。


「いえ…私には荷が重い…と思いまして」


「そうかぁ…。でも、どうだろう。クリエラ家を取り込みたい王家がどうするか見物だね」


「お父様…、私を玩具のように扱っていません?」


ジトッとした目で見れば、お父様は目を見開いた。


「セレスティーナ、変わったね?」


「そそっ、そうでしょうか…?」


俯けば、お父様はふーんと呟いた。


しかし、お父様の言うことも間違ってはいないのだ。

クリエラ家が反乱を起こさないように私とジルリファを婚約させようという魂胆だろう。

でなければ、国母としては些か問題のある私を未来の王太子妃にするわけがないのだ。


「それじゃあ、行こうか」


「はい」


金ぴかの廊下を進み、重そうな扉の前に立つ。

王宮騎士が扉を開いてくれた。


「よくぞ来てくれた」


「お初にお目にかかり光栄ですわ陛下。私、アバリス・クリエラが娘、セレスティーナでございます」


陛下のオーラが凄いわあ。

無理無理無理。キッツ。

お会いしただけでこれだもの。王太子妃なんて絶対務まらないわ。


「どうです、うちの娘は可愛いでしょう」


「あぁ。黒髪黒目とは珍しいな。この国ではもういなかった筈だ。我もお祖母様しか知らぬ」


陛下のお祖母様はお父様のお祖母様でもある。

つまりは私の曾祖母だ。そして、私とジルリファは再従兄妹だ。


「して、何用でそなたらを呼んだか分かるか?」


「はい。あのバ…、ア…、ハラ…じゃない、ジルリファ殿下とセレスティーナの婚約ですね」


お父様、不敬罪にならない程度でお願い致します。

心臓が持ちませんわ。


「左様。話が早くて助かる。ジルリファはいいやつじゃ。かなり、腹の内は黒いがの」


「そうですか。セレスティーナ、どうする?」


陛下のアクアブルーの瞳が私を見据える。


「私には…王太子妃の役目は重すぎる気がします。それに、私、恋愛結婚というのに憧れていますの。貴族…ましてやクリエラ家に生まれた令嬢としてこの考えは不適切でしょうが。ジルリファ殿下も望んでいないと思いますわ」


「そうか…」


陛下は何度か思案し、側にいた侍従を呼んだ。


「ナリ。ジルリファを呼んできてくれ」


「畏まりました」


なんだろう…?

暫し待てば、重厚な扉が開き、とある人物が入ってきた。

瞬間、新たな情報が流れ込んできた。



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