面談
「いやー、今期は大活躍だったね!!社長も君をべた褒めしてるよ!!!」
社内の面談室で目の前の上司が ガハハ と豪気に笑いながら褒めちぎる。
見た目に違わずめちゃくちゃでかい声だ。評価面談で二人きりなんだからそんなに大きな声である必要ないのに。
目の前にいるわたしに伝えるには十分すぎる声で上司がまくしたてる。
「ここまで半期で一気に頭角現す社員って、なかなか居ないんだけどね!その中でも君は歴代トップなんじゃないかな!!!
若いのに大したもんだね!や、若いからこそか!!はははは!」
「ありがとうございます、やらなきゃって思ったことやってるだけのつもりなんすけど、
そんなに評価してもらってるなんて素直に嬉しいです」
やっと一言返せた。
「おーなるほど、自分がやらなきゃって思ってることが会社の方針とマッチしてる感じね、結構結構。
いやこちらとしてはこの上なくありがたいからさ、今後もよろしくね!!
その分、基本給もボーナスもバッチリ反映されてるから、期待しちゃってください!
―で、今期に関しては何も言うことないのでバッチグーなんだけ、ど、
んー、一応聞いておこうかなー、
今後どうしたい?」
「今後すか。」
「うん、今後。」
上司の両目がわたしを捉えて離さない。
全然気の利いたことが浮かばない。というか今期の仕事、何したっけ。
喜んでもらえてるようなのでそれはすごく嬉しいけれど、実感がない。
「……今残ってるタスクを消化しつつ、…ですかね。」
「なんか煮え切らないねー!その辺は他の社員と変わらないね!!」
またガハハと上司が笑う。
そして太く熊のようにがっしりとした両腕を机に乗せ、両肘に体重をかけながらわたしに顔を近づける。
その両目は依然わたしを捉えて離さない。
そして、まるで初めてその言葉を発するかのようにして続けてこう言った。
「それで、今後どうしたい?」
思わず、は?と声が出た。
「たった今、その質問返しませんでしたっけ?」
上司は微動だにしない。瞬きもせず厳しい顔つきでこちらを見ている。
気圧されつつわたしは言葉をやっとの思いで繋げる。
「えっと…。今残ってるタスクを消化しつつ……
触ってない分野も勉強してステップアップしていきたいですね……。」
上司は動かない。さっきまではわたしが応えるたびに手元のMacBookにチャカチャカと打ち込んでいたのに、それもしない。
ただわたしをじっと見つめている。
「今後どうすんの?」
「え?ちょっとその質問三度目ですけど」
「お前これから先このまま生きていけると思うなよ。」
言われた言葉の意味が分からない。
さっきまで過剰なぐらい上機嫌で部下の好成績を褒めちぎっていた上司はどこへ行ったのだ。
会議室を二度三度こだまするかのような大仰な声の主は、はっきりとした通る声を維持しつつ、目の前のわたしだけにしっかりと伝わるのに必要十分な声量でわたしに言葉を突き刺してきた。
その言葉には一切の情緒はなく、しかし必要な言葉を必要な分だけ必要なエネルギーで発しているようで、アンドロイドのようだった。
わたしはうろたえながらも目の前のアンドロイドが人間かどうかを確かめるかのように言葉を返した。
「あの…大重さん?
なんか、さっきから様子が変ですけど…大丈夫ですか?」
大重さんはわたしの言葉に全く反応しない。ついにわたしは耐えきれなくなってその視線から逃れようと身体を横に傾ける。
目の前の大きな男の形をしたものは、正確無比に目線だけをわたしから離さない。
その視線に射抜かれたのか、わたしもその目線から目を背けることができない。
進退窮まり思わず立ち上がると、地面が大きく揺れる。
なにがなんだかわからない。
目の前の大男は微動だにしない。
揺れはどんどん大きくなる。次第に天井や壁もぼろぼろと崩れていく。
崩れた先にはあるはずの会社のオフィスが見られない。それどころか何もない。
揺れはどんどん大きくなる。
立ち続けることもままならなくなり、わたしは揺らされるがままに室内を転げまわる。
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