第29話 ヤンキー兄とブラコン妹
結構な距離を走ったため、二人は息切れをして壁に突っ伏していた。
「ハア、ハア、大丈夫か
「……大丈夫だよ。ほんと、信じられない」
蓮季は胸に手を当て大きく深呼吸をする。
「周りの空気が読めなくてごめんな蓮季」
「もういいよ、気にしてないから。それよりせっかく来たんだから気を取り直して見て回ろう」
ちょうど
「蓮季見ろ、ゾウがいるぞ!」
「どこどこ! わあ、ほんとだ!」
さっきのテンションとは打って変わり、目の前のゾウに目をキラキラと星のように輝かせる。
その姿を見た浩太は別に具合が悪いわけではないんだな、と
しばらくしてゾウを観るのを満足した蓮季は、別の動物たちのエリアに行く。
「浩太くんは好きな動物とかいるの?」
不思議そうに蓮季は訪ねる。
「俺か、そうだな……カバかな」
「以外。てっきりライオンとかトラが好きそうだと思った。どうしてカバが好きなの?」
口に手を当て蓮季は驚く表情を見せる
てっきり浩太の事だからライオンやトラなどの強い猛獣が好きだと思っていた。
蓮季の回答に浩太は腰に手を置き、力強く言葉を放つ。
「動物界いや、世界の生き物で最強だから!」
クスクス笑って、浩太くんらしい、と蓮季は言う。
「そうなんだ。じゃあ次はカバでも見に行こう」
「もちろんだ。蓮季にカバの魅力について教えてやるよ」
目を輝かせながら浩太は蓮季の手を掴みカバのいる動物エリアへと向かう。
カバと出会う浩太は先ほどよりも目を輝かせまるで絶世の美女を見たかのような表情で眺めてる姿に蓮季は動物相手なのに嫉妬する。
「浩太君。カバって食べられるのかな? もし食べられるのなら今ここであのカバを殺して鍋にしてから世界中のカバを刈り尽くしていきたい」
「物騒な事を言わないの」
隣でとんでもない発言をする蓮季に思わず顔を引きつってしまう浩太であった。
☆
それから、急に不機嫌になった蓮季を宥め終えると、いろんな種類の動物たちを見た二人は、最後に売店に寄って蓮季の欲しかった大きな象のぬいぐるみ買ってやった。(値段も迫力ある八千円!)
「ありがとう。浩太くん」
笑顔で浩太にお礼を言う蓮季の顔が、やはり切ない感じがする。
「なあ、蓮季。何で今日のおまえはそんな悲しい表情をするんだ」
「えっ! 何言っているの浩太くん?」
蓮季の見え透いた愛想笑いがよけいにひどくなる。
「無理な笑顔はやめろ。今日のデート楽しくなかったろ」
浩太に見透かされていたと感じ、蓮季の心臓がドキリと強く飛び跳ねた。
「とても楽しかったよ、お兄ちゃん。お兄ちゃんとデートが――はっ!」
「自分でルールを破るとは……」
蓮季の性格上自分が決めたルールは絶対守るのに今ここでルールを破るとは、やはり鈴音の件が関係するのだと浩太は思う。
「蓮季、正直に答えろ。怒ったりしないから」
すると、蓮季の瞼が溢れる涙に耐えきれず、ポツポツと一滴ずつ落ち始めた。
「だって……このデートが終わったら、海斗さんの妹と……正式に交際するんでしょ」
やはりその事が原因か……。
「……ああ」
涼音との約束で、蓮季との一日だけのデートが終わったら、正式に交際する約束を浩太はしていた。
滴が落ちるように流す蓮季の涙が、ついにダムが決壊したように、勢いよく涙が流れ出す。
「わたし、やだよ、あの女に、初恋だった人を、取られるのが……」
両手で顔を隠しながら泣く蓮季に、
「なあ、もう一度二人が出会った公園に行かないか?」
と浩太は泣いてる蓮季に優しく問いかける。
「……うん……いいよ」
蓮季と浩太は動物園から出て、二人が出会った思いでの公園へと向かう。
☆
夕陽がだんだん燃え上がって来るころ、浩太と蓮季は公園に着いた。
緑豊かな樹木に囲まれた小さな公園なので、綺麗な夕陽の景色を残念ながら眺めることはできない。
公園のベンチに蓮季と腰を下ろす。
「まさか、砂場でイジメられている少女が蓮季だったとは今でもビックリしてるよ」
「あのとき、同じ同級生の男女に無理矢理公園に連れて来られて、暴力を振るわれていたの」
「そのときのイジメも殺人級のイジメだったんだろうな。ほんと助けて良かったよ」
「ほんとあのとき浩太君がいなかったらわたしどうなっていたか」
「今じゃイジメられる側からイジメる側に着いたよな」
「ちょっと! 急に変な言いがかりはよしてよ浩太くん!」
「冗談だってば」
浩太は苦笑する。
「でもね、いじめっ子を倒してくれた浩太くんを見て、わたしも強くなりたい。強くなったわたしを浩太くんに見て欲しいと思った次の日、学校でわたしをイジメていた連中をコテンパンに倒したんだよね」
「そこからMからSに変化したんだな」
ふむふむと腕を組んで納得したように首を振る。
「もう! 話しの腰を折らないでよ! バカ」
「ごめんごめん」
蓮季は話しの続きを再開する。
「そしてわたしが小学五年生とき、お父さんが他界して今住んでる家から引っ越す事になったんだ。引っ越しの前日に、この公園を訪れたんだけど、小学生のときの浩太くんには結局会えなかった」
切ないような気持ちで蓮季が話す。
「そうだったのか……」
「高校生になってお母さんから再婚の話しを聞かされたの。そのときお母さんがわたしに兄ができると言ってその子の写真を見せられるとその写真に写っていた子は、あのときイジメから救ってくれた小さい頃の浩太くんだったの」
「それで俺が蓮季を助けた少年だと気づいたんだな。道理で最初にあったときの蓮季は俺に対して親近感があったんだな」
浩太はやっと全ての疑問が氷解する。
「うん。わたし嬉しくてお父さんの家に暮らすまで夜も眠れなかったんだよ。おかげてテストの点数も落ちちゃって」
「テストの点が落ちるほど、俺に会いたかったのかよ……、そんなに俺の印象が大きかったんだな。こんな不真面目な俺に……」
「だってわたしの初恋の相手だよ。お母さんにも浩太くんに助けてもらったことを話ししたら『わたしの救世主』って言ってくれたし」
「俺はヒーローみたいな男じゃないぞ、――むしろヒーローより悪役のほうが似合っていると、俺は思っていたんだけどな」
「だから自分の気持ちを伝えようと救ってくれた救世主にわたしの夢はあなたと愛し合える生活を死ぬまで永遠に送りたいと、……でもその夢は永遠に叶わなくなちゃったけどね」
蓮季は沈んだ気持ちに落ちる。
「蓮季……」
「だから決めたの! そう、今決めた!」
突然立ち上がった蓮季を見て、浩太は一瞬寒気がした。
「
「…………っは?」
蓮季の言っている事に理解不能になる。
「今から新しく生まれ変わった小泉蓮季は必ずお兄ちゃんを振り向かせるってこと!」
「いやいや、おまえと恋人にならない条件で今日、特別にデートしてやったんだろ」
にこりと不敵な笑みを浮かべて蓮季は語りはじめる。
「それは安達蓮季だったときの約束でしょ。今の私は小泉蓮季。今の私はフラれていないって事」
「それじゃ、小泉蓮季に異性の女性としてのお付き合いはしないと、今ここで宣言する」
「その言葉クーリングオフで!」
「ほんと聞き分けのない妹だ……」
抜け目がない妹にとことん手を妬いてしまう。
でもこうして桜のような幸せな笑みを向けてくる蓮季の笑顔を見ると、なんだかホッと心が落ち着く浩太であった。
新しくできた家族で血は繋がっていないブラコン妹だが、笑ったり、ときには喧嘩したり世界一仲の良い兄妹になりたいと強く思い蓮季の頭を優しく撫でた。
「私の事を好きにさせてやるんだから、覚悟してねヤンキーお兄ちゃん」
「望むところだよ、ブラコン妹」
夏の夕暮れ、幼い頃に出会った少女とまたこうして出会えた奇跡に感謝する浩太であった。
(完)
ヤンキーお兄ちゃんとブラコン妹 関口 ジュリエッタ @sekiguchi
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