第28話 夢のデート!?

 ギブスも取れ、晴れて小泉浩太こいずみこうたは病院から退院する事が出来た。

 ちょうど高校の終業式が終わり、夏休みに入って間もなくに退院できた事にホッと浩太は胸をなで下ろす。


 今日は義妹の蓮季はすきとの約束で一日限定のデートをする予定。

 小学生のころにイジメから助けた少女が、父親の再婚相手の連れ子で、浩太の妹になるとは、まだ信じきれない。


 世の中は狭いと浩太は実感しながら今日のデートする服装を決め身支度をしていると部屋のドアが勢いよく開く。


「お兄ちゃん。準備できた?」


 いつもよりテンション高めな蓮季は、待ちきれずノックもしないでズカズカ入ってきた。


「ノックもしないなんてデリカシーにかけているぞ」

「お兄ちゃんからデリカシーという言葉が出るなんて意外!」


 デリカシーのない蓮季に驚嘆されて腹立たしい気持ちに浩太はなる。


「着替えたら早く行くから、リビングで大人しく待ってろ」

「わかった。早くしてよ」


 そのまま慌ただしく部屋から出て行き蓮季はリビングに戻っていく。


「ハァ~、まったく蓮季のやつは油断も隙もないな」


 部屋に入ってきたとき、もし下着姿になっていたら、きっと間違いなく蓮季に襲われていたに違いないと身を震わせながらホッとした。

 これ以上蓮季を待たせると機嫌を損ねるかもしれないと思い、急いで支度をした。



 リビングに入るとミニスカに露出の多い服を着こなした蓮季を見て、兄としては猛反対。

 そんな肌を大きく見せる格好をしたら以前起きた遊園地の時みたいにチャラ男達に狙われるに違いない。


「その服装何とかならないのか。まだ時間があるから急いで違う服に着替えてこい」


 浩太の答えに渋々な顔を蓮季は見せる。


「やだよ。せっかくこの日のために買ったんだから今日はこれ着て行くの! それにお父さんにお兄ちゃんの好みの服装教えてもらって買ったんだよ」


 その言葉に浩太は頭の血管が切れそうになる。


「もしかしてさ、その服装親父にも見せたか?」

「うん、それにこれお父さんとショッピングモールでお買い物したときに買ってもらったの。条件付きだったけどね」

「条件付き……だと?」

「うん、買ってもらうとかわりに当分お父さんの前ではこの服を着ていなさい、と言われたの」


 義理の娘になんという事をしたのか浩太は我が父親としてとても情けなく思う。


「そのこと母さんは知っているのか?」

「ううん。だってこれブランド品だからお父さんに買ってくれた事は言えなくて」

「その事について俺から事細かく母さんに伝えておくから」


 まさか父親が義理の娘にとんでもないクズ提案をしていた事になんとも情けなく思い、ここは紀香に伝えて厳しい指導をしてもらったほうが得策だと思い、友人とお茶しに出掛けている紀香にメールで事細かく今の件を告げるのであった。



 

「蓮季、準備できたからそろそろ行くぞ」

「うん!」


 玄関で叫ぶとまるで愛くるしいペットのように掛けてきた蓮季は勢いよく浩太に抱きつき満足そうな笑顔を見せてくる。

 よほど今日一日が楽しみにしていたんだなと思う。

抱きつかれて重苦しい状態のまま玄関から出て鍵を施錠して歩くのであった。

 家から出たらお互いカップル同士の設定のため、名前を呼ぶときは呼び捨てにするというルールを強制的に決められた。


「最初はどこに行くんだ?」


 舗装された街灯が並ぶ道路を小刻みに歩きながら、蓮季に問う。


「お父さんからチケット二枚貰ったんだ」


 蓮季はチケットを手渡してきた。


「ん、何々、ジョウト動物パーク? 蓮季、動物園に行きたかったのか?」


 ジョウト動物パークは、地元の駅から西側にある駅を一つ降り、そこからバスで十五分行った所にある国内で有名な動物園。その数なんと一千種類を超えるほどの生き物がいるので、子供のいる家族連れに大変人気な動物園なのだ。


「うん。わたしね小さいころから動物が大好きだったんだ。でも、お母さんは動物苦手で前住んでたウチでは生き物を飼うのは禁止されていたの」

「へえ~、母さんが。意外だな」

「猫や犬を見るとキチガイみたいに騒ぐのよ」

「そんなに動物嫌いなの!? 逆にその光景を見てみたい! (今度、母さんに野良猫を捕まえて見せつけよ)」


 義母の紀香に向けてのしょうもない悪巧みを浩太は考える。


「うん。わたしが小さい頃に捨て犬拾って飼おうとしたら、お母さんに殺されかけたこもあったし……」


 イタズラした光景を想像しながらワクワクしていると、蓮季の口が恐怖のあまり青白くなるのを浩太は見て、とんでもない怒りの落雷受けると思い紀香に悪巧みをする計画を白紙にする事とした。

 だが蓮季は一体紀香に何をされたのか少し興味を湧いていたが、彼女にとってのトラウマを口に出さるのは申し訳無いと思い訊くの控えた。


 ペットの話しから普段学校での日常の会話などをしながら和気藹々な会話をしている姿はまるで仲の良いカップルにカップルに見える。

 五分くらいして浩太と蓮季は駅に着き、電車に乗る。

 電車降り、改札口から出て、そこからバスで動物園近くのバス停で降りたら、徒歩でしばらく歩いていくと、巨人でも入場が出来るような、とてつもなくデカい正面ゲートがそびえ立っていた。

 正面ゲートの上には大きい太文字で『ジョウト動物パーク』と書かれている。


「動物園なんて小学生以来だな……」

 

 内心浩太は少しワクワクしていた。

 入場するときカップルよりも家族連れが多く、浩太と蓮季も大勢の家族連れに混ざりながら受付にチケットを渡し入場した。


「最初は何の生き物を見るんだ?」


 そう蓮季に答えると、予想もしない答えが返ってきた。


「プエルトリコヒメエメラルドハチドリ」

「????」


 一瞬有名な芸術家の名前が浩太の脳裏に浮かび上がる。


「どうしたの?」

「いや、何でもない。そのプエ何とかていう動物はこの動物園にいるのか?」

「浩太くんはダメだな。プエルトリコヒメエメラルドハチドリは動物じゃなくて鳥だよ。そんなのもわからないなんて恥ずかしい」


 やれやれと呆れたように蓮季は浩太に説明する。 


「わかるわけないだろ! おまえの好きな生き物がマニアックすぎるんだよ! おまえは鳥類学者か! そもそも、ここの動物園にそんな鳥が入るのか!?」

「いるよ」


「いるのかよ! すげーなここの動物園は! それでどこにいるんだ?」


 浩太はそのがバカ長い名前の鳥が気になってしょうがない。


「室内に飼育しているみたい」


 とりあえず蓮季はデカい建物の室内に入っていく、浩太も後を追って入いっていった。

 一階はここの動物園でしか置いていない土産品や動物のぬいぐるみなど数豊富に陳列されており、二階の室内には沢山のガラス張りでできた、中くらいのケースに蛇や爬虫類や、鳥などが飼育されていた。

 キョロキョロ辺りを見渡していると、蓮季が浩太の襟袖を引っ張る。


「この鳥だよ」


 ビシッと差した指の方に目を向ける。一体どういう鳥なのだろうと一番気になっていた。芸術家の鳥みたいにとてもカラフルな色をしており名前にふさわしい芸術的な鳥なのだとついつい想像してしまう。

 実際は外見はツバメぐらいの大きさで、色が名前の通りエメラルドの光沢のある鳥だ。

 想像していたのとは違っていたが、とても綺麗でまるで生きた宝石のような鳥についつい見とれてしまう。

「やっぱりこの鳥嫌い」

「どうした急に?」


 いきなりふくれっ面になる蓮季にどうして不機嫌なのか浩太は理解できない。


「浩太君が私以外に見とれるのは許せないから」

「おいおい、鳥にしっとするな」

「だって浩太君は私だけを見て欲しいの!」


 さらに風船のように頬を膨らせる蓮季に頭を撫でながら深いため息を浩太は吐く。


「他にも珍しい生き物がいるのか?」

「うん。ここは普通の動物園と違って、珍しい生き物が多数いるんだよね。噂だと国の許可を無視して動物を輸入してるとかって話しだよ」

「それって密輸じゃね!?」


 この動物園は何か闇を感じる。


「ま、単なる噂だけどね」


 そう言い蓮季は浩太の肘を掴み、室内の生き物を見て回った。

 正直、蓮季から変な噂を聞いたせいで、周りの生き物を偏見な見方をしてしまう。

 一通り見終わって、一階に戻り、売店に入ると大きなゾウのぬいぐるみが欲しいと蓮季に強請られたが、今買ってしまうと歩くのに邪魔になると思い、帰りに買ってやると伝えて建物から出た。


「次は外の動物たちを見て回らないか?」

「そうだね。でもその前に、近くに休憩所があるから、そこで休んでから行こう」


 二人は、近くの休憩所で一息休むことにした。

 休憩所の近くに自販機が設置されていたため、浩太はペットボトルのジュースを二本買って、一つを蓮季に手渡す。


「ありがとう、浩太くん」


 蓮季は手渡されたペットボトルのジュースのキャップを開け、よほど喉が渇いていたのだろうグビグビと音を鳴らしながら飲む。


「おかしい……」


 浩太は蓮季の顔を窺いながら不審がる。

 それもそのはず、退院して自宅で暮らしている間、一度も蓮季の口から放送禁止用語が語られていないのだ。


「なあ、蓮季。最近身体の具合でも悪いのか?」

「別に具合なんか悪くないけど、どうかしたの?」


「どうして今の言葉で突っ込んでこない! いつもの蓮季だったら「うん。わたしはいま恋煩い、という不治の病にかかっているから介抱して」とか言うのかと思ったぞ」

「何それ、私をなんだと思っているのよ」


 さらに浩太の言葉の返しがまともであった事に思わず背筋が凍るほどの驚愕を受けてしまう。

 しかし浩太は打ち上げ花火みたいに頭に何かが閃く、蓮季はなんでテンションが悪いのかわかったのだ。

 すると大勢の家族連れの中で大声で最低な一言を口ずさむ。


「蓮季、もしかして生理なのか!」


 一斉に周りの視線が蓮季に集中する。


「…………」


 蓮季は炎が燃え上がるような顔色に変わった。


「やっぱりそうだったのか。無理はするなよ、ゆっくり休め」

「…………う」

「え?」

「違うに決まっているでしょっ!!」


 勢いよく蓮季の右ストレートが浩太の顔面にヒットする。


「……ちょっ、どうしたんだいきなり……」

「最低! 人の密集地で何言っているのよ! 少しは場を考えて言ってよ!」


 またまた蓮季の口から、まともな言葉が飛んでくる、しかも今回は自分も浩太にしてきた同じ言動の特大ブーメラン。


 それもそ、周りにいるのはカップルよりも子供を連れている家族が大半だったので、子供が両親に『ママ。せいりって何?』と聞いてる子供たちが続出していたのだ。


 

子供の両親たちは、浩太や蓮季を睨んでくるので、二人は急いでその場から去ることにした。

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