第25話 病院内での出来事 

 米倉高校の番長 室井翼むろいつばさとの激闘の末、小泉浩太こいずみこうたは重傷を負って救急車で近くの大学病院に搬送され治療を受けるのであった。


 (……ここは)

 

 目を覚ますとそこは先ほどまでと違う清潔感のある室内のベッドで横になっていた。

 

「お兄ちゃん。気がついたの」

 

 うっすらと視界がぼやけているが、声で義妹の蓮季はすきだとわかる。

 少し経つと視界が回復し、蓮季を見ると心配そうな瞳でこちらを窺っていた。

 

「……蓮季か。ここは……痛ててて!」

 

 ベッドから起き上がろうとすると、全身に電気が流れるような痛みに襲われ悶絶してしまう。

 

「ダメだよ、安静にしてないと。お兄ちゃん重症なんだよ!」

 

 腕、頭、身体に足にも包帯がぐるぐる巻き付かれてミイラ男になっていることに気がつく。

 その光景の見た浩太は本当に自分の身体かと疑ってしまい少し気が動転した。

 蓮季が全身包帯まみれの浩太の身体を押さえ、ゆっくりとベッドに戻す。


「見る限り重傷だとわかるけど、俺的には腕と頭だけ怪我したと思ったんだけどな」


 寝ながらまた何度もキョロキョロと自分の身体を見渡す。


「頭蓋骨と足の膝にヒビが二カ所と、腕とあばら骨が無残むざんにバラバラで全治一ヶ月だってよ」


 蓮季の言葉を聞き、浩太は魚のように目を見開く。


 「こりゃ当分入院生活を送るしかないか……夏休み前に治れば良いんだけどな」

「入院している間わたしがキッチリ看病してあげるから心配しないで」


 蓮季の目をキラキラさせている姿にため息をつき、浩太は肩を落とす。


「そうだ。あれから事件はどうなったんだ?」


 浩太は意識を失ったため事件の結末を知らなく、目の前にいる蓮季に教えてもらう。


 

「わたしを監禁した二人は警察に連行されて今頃は少年院に入っているよ。それから海斗かいとさんと……えっと……」


 急に難しい表情を浮かべて蓮季を助けに来た一匹のブタを頑張って名前を思い出そうと必死になる。

 その姿を見た浩太は少し笑みを浮かべながら語り出す。

 

「もしかして桜井さくらい先輩のことか?」

「そうそう、そのブタ」

「ブタって……、蓮季の頭から桜井先輩の記憶が抹消されているとは……」

「二人とも二時間近く警察の取り調べを受けていたよ。ちゃんと海斗さんと……桜井はいいか。お礼を言わないとダメだよ」

「桜井先輩を呼び捨て! しかもお礼言わなくていい、とはよほど嫌っているんだな。一応、桜井先輩にもお礼は言うつもりだけど……。それはそうと蓮季は怪我はないか?」

「お兄ちゃん達が必死で私を助けてくれたおかげでわたしは大丈夫だよ」

「良かった。女の子なんだから傷跡が残るような怪我をしたら将来に関わるからな」


 その言葉に蓮季は、ふわりと頬に爽やかな赤みがかかり手をモジモジさせて俯く。


「お兄ちゃんは、いつもわたしの事を気にかけてくれるよね」

「当たり前だろ兄妹なんだから」

「兄妹じゃなくて恋人っていわれると嬉しかったけど、だけどわたしお兄ちゃんの妹になって、すごく幸せだよ」


 愛嬌のある笑顔を見せる蓮季を見た浩太は可愛らしいペットみたいに愛撫しそうになる。


「俺も蓮季を妹にするのが勿体ないくらい好きだぞ(お世辞だけど)」


 もう少し言葉を考えたほうが良かったと後悔する、この言葉は地雷だと思ったときには遅かった。蓮季の理性を制御している頭のネジが一気に外れ、暴走機関車のように変わり出す。


「それってつまり、恋人になりたいって事だよね!」

「ん? 何を言っているんだい蓮季さん。あと息が荒いよ」


 荒い吐息をしながら、蓮季の顔が浩太の顔近くまで、ジリジリ迫ってくる。


 浩太は取り返しの付かない事をしてしまった。


「ほんとは寝ているお兄ちゃんを犯すのを我慢していたんだけど、もう我慢しなくていいんだね」

「この万年発情期がっ! かわいい顔して恐ろしい台詞を吐くな!」


 馬乗りになった蓮季を何とかどかそうと試みるが、怪我のせいで動く事ができない。


「大丈夫だよ、すぐ終わるから。お兄ちゃんはそのまま動かなくていいんだからね」

 と蓮季は薄いピンクのブラウスを脱ぎ始め、白く艶のある肌を露出させて下着姿の露わな姿になる。


 とっさに目をつぶる。蓮季が腹部に乗っているため身動きもできず首を横に傾け必死に大声で抵抗する。いつもなら吹き飛ばす事ができるのだが、身体が重傷のためされるかままの状態になってしまう。


「バカッ! ここ病室だぞ! 場所をわきまえろ!」

「ここ個室だから誰にも見られないし問題ないよ」

「大問題だよ! 病室で妹に犯される兄がどこに居るんだよ! こんなの蓮季がもっているエロゲーにも出てこなかったぞ!」

「だったらここでエロゲーを超えるシチュエーションをしよう」


 ハァハァと息づかいの荒い蓮季になすすべがなく、浩太は絶体絶命の大ピンチ心の中で必死に助けを求めていると……。


「痛いっ!」


 突如、強烈な物で蓮季の頭部を叩く音が聞こえた。


「あんた怪我してる兄を相手に、如何わしい行為をするんじゃないわよ! この変態バカ娘!」


「その声は紀香さん!?」


 浩太は恐る恐る目を開けると、そこには手にスリッパを持つ義母の紀香が蓮季に向かって怒鳴りつける光景を目にした。

 蓮季は頭を抑えながら悶えている姿を見ると、紀香がスリッパで勢いよく頭を叩いたのだとわかった。


「ナイスです紀香さん! よく助けに来てくれました」

「助けに来たわけではなくて、お見舞いに来たのだけど……、それはそうとごめんなさいね、浩太君。この発情期のバカ娘が迷惑かけたみたいで」


(母親にまで言われるとは……)


「助かりました紀香さん」


 とりあえず先に礼を紀香に言う。紀香が来なかったら今頃発情期の義妹に身体を汚されるところであった。

 

「紀香さんじゃなくてお母さんでしょ。それかママでもいいのよ」

「最後の言葉は勘弁してください。それと俺の事も呼び捨てで構いませんから。(なんか雰囲気が蓮季そくっりだな……)」

「わかったわ浩太」


 紀香も何か言葉を掛けてくれと言わんばかりな表情を見せてくるが、浩太はまだ『母さん』と呼べず頬を赤くて目を反らす。

 蓮季は沈んだ気持ちで脱いだブラウスを着てこちらにやってくる。


「なにこの空気……。それとお母さん、わたしとお兄ちゃんの愛の営みを邪魔しないでよ」


 拗ねた表情をする蓮季に浩太はため息をつく。

 

「おまえと愛なんて営みたくないわっ! それにおまえは俺の妹だろ!」

「今はね。もしかすると恋人になる可能性だってあるでしょ」

「ないわ!(この病院に精神科ってあったけ、あったらこいつを今すぐ精神病棟にぶち込んで隔離させてやる)」

「じゃあ、妹でも愛さえあれば関係ないよね」

「ないよね、じゃねよ。関係あるわボケェ! (段々蓮季との会話が疲れてくる、傷口が広がったらどうするんだよ……)」


 深くため息をついて浩太は疲労困憊でよけいに身体を悪化させてしまうか自分自身に心配になってきた。

 

「ほんと度が過ぎるところがあるけど、仲が良くてよかったわ。これからも蓮季をよろしくね浩太」


 紀香はクスクス笑い出す。


「任せてください。変態妹を真っ当な妹にしつけて見せます」


 自信たっぷりに言うと、蓮季は頬を膨らませムスッとする。


「わたしをペットみたいに言わないでよ」

「そうだ蓮季のせいで忘れるところだった。浩太君に食べ物持ってきたのよ。冷蔵庫に入れとくから食べてね」


 浩太の大好物である、プリン五個とエクレア三個を紀香は冷蔵庫に入れてくれた。


 浩太の好物を紀香さんが知っているっていう事は父親が伝えたのだ。


「ありがとうございます」

「いいのよ。それと他人行儀はやめなさい。何度も言うように、わたしはあなたの母親になったんだからね」

「わかったよ……母さん……」


 照れるように頬赤らめ浩太は言う。

 まだ馴れていないせいか背中がむずかゆくなる。


「よろしい。それじゃあ長居すると身体に触れるから今日は帰るね。大人しく安静にしてなさいよ浩太」

「お母さんも帰るとき気をつけてね」

「何でおまえが言うんだ蓮季」

「えっ、だってお兄ちゃんのそばに居たいんだもん」


 無邪気の笑顔を見せる蓮季にキュンとくる。まるでかわいい子猫を見つめているみたいに。あくまでペットの感情で異性への感情ではない。


「蓮季、あなた学校に行く時間でしょ、早く帰るわよ」

「イヤだ」

「いい加減にしなさい!」


 母さんは蓮季の頭にゲンコツを一発おみまいする。


「帰るよね」


 笑顔で蓮季に問いかける紀香だけど、なぜか目が笑っていない。


「……うん」


 スマホのマナーモードみたいに全身をブルブル震える蓮季を見て、浩太の身体から恐怖が一気に溢れ出す。


(母さんに反抗したら殺されるな……)


 無理矢理、蓮季をつれて紀香は帰っていった。


 台風が過ぎ去ったような気分に陥り、浩太は疲れてもう一眠りする事にした。

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