第24話 決着!
三人は
手応えある
「……嘘だろ……効いてない」恐怖のあまり浩太は顔色が変わる。
「……冗談きついぞ」桜井も同じく顔面蒼白。
「アニメのラスボスを相手にしているみたいだ」海斗は額から脂汗を滲ませた。
「何だもう終わりか? それじゃ今度はこっちの番だぜ」
と台詞を吐くと室井が桜井めがけてタックルを仕掛けてきた。
「グヌワァァァ!」
桜井は両手をガードしてタックルを防ごうとしたが、あまりにも室井の桁外れの強いタックルをくらい、そのまま後ろに弾け飛び意識を朦朧とし出す。
「これが本当のタックルだ。おまえのはただ俺を押しただけだぞ」
不敵な笑み浮かべる室井は桜井を見下した後、瞬時に次のターゲットに移る。
「桜井先輩!」
「よそ見してるんじゃねえ!」
「――くっ!」
今度は海斗に向けて強烈なハイキックをおみまいする。海斗は完全にかわしきれず頬をかすめる。だがあまりの鋭さに風圧で皮膚が裂けた。
「海斗大丈夫か!?」
「ああ、かわすのがやっとだけどな、浩太こいつを攻略するのは激ムズだぞ」
必死で室井の攻撃をかわすのがやっとのため、海斗は反撃ができない。
海斗の言うとおり、このまま戦っても戦況は不利になるだけ、何かいい戦略はないのか素早く練る。
浩太はフッと足下に目を向けると藤林が使っていた金属バットが落ちていたのを発見。
ほんとは武器に頼りたくはない浩太だが、この事態ではしょうがない。
「すげーな、俺の攻撃をかわし続けるのは、おまえが初めてだ」
「……こっちはかわすのがやっとなのに余裕だな」
後ずさりしながら室井の強烈なパンチを海斗はかわしていると、いつの間にか壁際まで追いやられていた。
「終わりだ!」
壁際に追い詰められた海斗の顔面めがけて室井は鋼の拳を振り下ろす。
「ウガッ」
鈍い音が轟くと、海斗の顔面すれすれで室井の拳が止まっている。
室井が海斗に気をとられている隙に、浩太は金属バットを室井の後頭部めがけて振り下ろした。が、利き腕ではない左で、なおかつ片手で振り下ろす威力にはそこまでダメージを負わせることはできなかった。
「……くそっ、ダメか」
「――貴様!」
きびすを返した室井は浩太めがけて力強い右ストレートをぶつけようとした瞬間、室井の右ストレートは、コンクリートに頭を強くぶつけ伸びていたはずの桜井が防いでくれた。
「何きょとんとしているんだよ。早く反撃しろ!」
「反撃しろったて、どうしたらいいんだよ。こいつ化け物並みに強いぞ!」
喧嘩に自信のある浩太でさえも、どう対抗したらいいかわからない。
武器もダメ、打撃もダメ、残る方法はなんだ、こいつに勝てる方法をほんのわずかな時間、浩太の脳みそをフルに働かせた。
ひとつの案を思いついた浩太は海斗に指示を出す。
「海斗! 桜井先輩! こいつの注意を引きつけてくれ!」
「何か策はあるのか!?」
海斗は険しい表情で浩太に問いただす。
「ああ。だからこの野郎にスキを作ってくれ!」
「わかった。任せろ!」と海斗は言う。
「しょうがねぇな任せろ」と続けて桜井も言う。
海斗と桜井は室井に死ぬ気で突っ込む。
「何度来ても同じ事だ!」
海斗はパンチやキックなど多彩に出して反撃し、それに続いて桜井も自慢のパンチを室井のボディ目掛けておみまいする。
「まるで子供がパンチしている威力だな」
あざ笑いながら二人の攻撃をわざと受ける室井。
二人の攻撃は室井にとってまるで子供のお遊戯の相手をしているみたいに見える。
室井が二人を意識を向けている瞬間を浩太は待っていた。
「打撃や武器もダメなら絞めればいい」
二人に気を取られてるスキに浩太は室井の背中にしがみつき、そのまま折れている腕を室井の首に絡ませ力強く絞めた。プロレスラーが使う技『チョークスリーパー』だ。
「ぐぬぬぬっ!」
さすがの室井もこれには耐えられず闘牛のように暴れ出す。
あまりにも勢いよく暴れ、しがみついている浩太も目を回しそうになるが、せっかくのチャンスを無駄にする事ができない。
力強く締めているせいで、浩太の右腕の痛みが段々強くなってくる。
室井が気を失うのが先か、浩太の右腕が壊れるのが先か、お互い接戦し合う。
「浩太決めろ!」海斗は力強く叫ぶ。
「そのまま決めちまえ!」続けて桜井も浩太を応援する。
室井は壁際まで走り、浩太がしがみついている背中を壁に勢いよく叩きつけ始めた。
「グハッ!」
室井の馬鹿力で叩きつけられているせいで、浩太は危うく失神しそうになる。
「うぐぐぐぐっ……離しやがれ」
「……誰が離すかよ!」
その瞬間、室井の力が徐々に弱まってきている。このまま絞め続けていれば勝てる、と思い最後の力を振り絞り力一杯絞め続けた。
浩太の体力も限界、もう右腕が麻痺して力が入っているかどうかもわからない。ここからは気合いとの勝負。
浩太の右腕が
お互い一触即発の展開に海斗と桜井は
お互いの攻防が十五分近く経とうとしたとき、決着が付く。
「……だめ……だ」
巨漢はそのまま浩太と共に地面に崩れ落ち、勝敗は浩太の勝ちに終わった。
急いで海斗と桜井は、浩太に近寄ってきた。
「ほんと大したやつだよ。おまえは」
「それでこそ俺のライバルだ」
海斗と桜井は、浩太の肩をつかみ取り持ち上げた。
「へへ、危なく負けるところだったぜ」
「こいつ……、死んだわけじゃないよな」
倒れている室井を見ながら心配そうに桜井が言う。
「大丈夫。気を失っているだけだ」
海斗は室井の心臓のある胸に耳を寄せて安否を確認する。
「そうそう死ぬような人間じゃないだろ」
へなっとした声で浩太は苦笑する。
二人に肩を担いでもらって工場の外へと出ようとしたとき、数名の警察官がやってきた。
「どうしたんだ、その怪我!」
一人の警察官を心配そうに浩太の所に寄ってきて。救急車の手配を無線で連絡する。
「救急車が来るまで外で待機してなさい。それと後でなにが起こったのか調書を取らせてもらうからね」
「……はい」
そのまま自宅に帰りたい気分だったのに、警察の事情聴取されるのはイヤな気分に海斗と桜井は気分が
工場から出ると、暗い夜空に綺麗な赤色が無数に輝かせ、そこに向かって草を搔き分け進むと六台のパトカーが入り口を囲むように並んでいのだ。
「まるで刑事ドラマのワンシーンだな」
初めての光景に海斗は驚く。
「明日の新聞に載るかな『女子高生を助けた男子高校生桜井剛』て見出しで」
「加害者の間違いじゃないですか」
「何だと! 俺の助けがなかったら、今頃あの世に行っていたかもしれないんだぞ!」
浩太にからかわれ桜井は顔を真っ赤にさせて激怒する。
苦笑しながら浩太は辺りを見回すと、複数の警察官に囲まれて事情聴取を受けている蓮季がいた。
「……お兄ちゃん」
お互い目が合うと、蓮季は瞳を涙で滲ませながら浩太の胸に飛び込んできた。
「そんなに強く抱きつくと痛いんだけど」
「心配したんだから……、バカバカ!」
その場で泣き崩れる蓮季の身体を浩太は優しく両手で包み込む。
「心配させてごめんな蓮季」
「……もういい。お兄ちゃんが無事に戻ってきたから許す」
蓮季は泣き止み、
「浩太!」
目の前に父親と紀香が血相をかいてかけてきた。
「親父に紀香さん。どうしてここに……痛てっ!」
紀香はいきなり浩太の頬を力強くビンタしたのが、あまりにも衝撃で周りは一瞬静寂した。
「この馬鹿息子! 大怪我するほど無茶して! 心配したのよ……」
蓮季に続いて紀香まで涙を流しはじめる。
優しい姿しか見ていない義母の怒りと悲しみを自分のせいで見てしまった浩太はもの凄く反省する。
「……ごめん。もう無茶しないから。約束をする」
「次また心配させるようなことしたら、身体を縛って、自宅に監禁するからね」
紀香はとんでもない事を発言した。
「えぇ! それは勘弁してよ」
「お母さんナイスアイディアです! お兄ちゃんを縛って監禁したらあんな事や、こんな事もムフフフ……」
「ナイスじゃねえよ。それに俺を監禁して蓮季は何を企んでいるんだ」
浩太は自分の身を案じて、当分は大人しく学校生活をするよう心がけることを心の中で肝に銘じた。
「ほんと親の言う事を聞かない馬鹿息子だな……。でも、よく蓮季ちゃんを守ってくれたな偉いぞ。さすが俺の息子だ」
「褒めるのか、叱るのかどっちかにしろよ親父」
さっきまで起きていた事件が嘘のように、その場で家族と会話をしていると、警察がこちらに来て重傷者である浩太を除く海斗と桜井を呼びに来た。
「すまないな。みんなに迷惑かけちまって」
二人に申し訳なさそうに話すと、海斗と桜井は一瞬目を丸くさせる。
「何言っているんだよ。迷惑なら散々かけてるくせに今更謝るな」
笑みを浮かべながら海斗は言う。
「俺はおまえじゃなくて蓮季ちゃんを助けに来ただけだがらな、別におまえのためにした事じゃない」
ツンデレのように桜井は話す。
(男のツンデレは生で見ると気持ちが悪いな。桜井先輩だからよけいに吐き気がする。まあ、これで一件落着したし、ゆっくり休みたい気分だ……)
緊張が解れたせいで浩太はそのまま勢いよく倒れてしまった。
「大丈夫! お兄ちゃん!」
蓮季は浩太を抱きかかえる。
「早く救急車を呼んでくれ!」
父親は近くにいた警察官に早く救急車を手配させるように促し騒ぐ。
家族や友人が声を荒げる姿を目にしながら浩太は気を失った。
それから数分後に救急隊員が到着し、浩太は近くの大学病院に搬送された。
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