第22話 強敵現る!
校舎は黒いシミで覆われ、所々にスプレーで卑猥な落書きがされており、校庭はゴミが散乱して足を運ぶのが引けるぐらいだ。浩太の通う高校より遙かに荒れている。
目の前に五人の男子高校生が屯っている所に目に入り、殺意の感情を押し殺し平凡な態度を装いながら浩太は近づいていく。
「なあ、おまえらに聞きたい事があるんだけど」
すると目の前の肌が黒く金髪の男が立ち上がる。身長は高く浩太を見下しながら睨め付けてきた、どうやら相手の風格を見ると、この五人の中では上だと思う。
「誰だテメェ、どこのもんだ?」
一斉に残り四人の不良生徒たちが立ち上がり、浩太を囲み戦闘態勢になるが、当の浩太は眉一つ動かさず質問を続ける。
「早乙女高校二年の小泉浩太だ。おまえらのとこの
「俺らが知るわけないだろ。知っていたとしても、おまえみたいなやつに教える義理はねぇ。だが、もし教えて欲しかったらせめて服脱いでせがめ」
不良生徒たちは浩太にあざ笑いだす。
教えてくれないのか、教えてくれるのか意味のわからない質問をする相手に浩太はため息を漏らす。
この荒れた高校を見れば猿以下の知能を持つ自分より知能が下しかいないのは見てとれるが、まさかここまでひどいとは思いもしないかった。
だが、こいつらは室井の隠れ家を知っている事だけはわかる。だったら話が早いと浩太は殺意をむき出しにして金髪の不良の前に詰め寄る。
「あっそ、そういう事言うんだ」
金髪の男の顔を手で鷲掴むと、もの凄い握力で相手の顎がミシミシと鈍い軋む音が鳴り響く。
金髪の男は強引に手を外そうと
「……ヴヴヴッ」
「おまえら早く室井の場所を教えないと、こいつの顎を粉砕ずるぞ」
浩太の威圧するような眼差しを受けた四人の不良は、恐怖のあまり足がすくむ。
「……わっかた。ここから西に向かい住宅街を右に曲がり真っ直ぐ行くと小さな廃工場がある。そこが室井さんの隠れ家だ」
不良グループの一人、スキンヘッドで口にピアスをしている男があまりの恭富で声を震わせながら居場所を告げる。
それを訊いた浩太は握力を緩め、金髪男はそのまま地面に倒れる積み木のように崩れ落ちる。
「廃工場だな、わかった」
「ちょっと待て! 室井さんに喧嘩を売るのはやめとけ! あの人はこの学校で一番喧嘩が強く、歴代最強と言われている人だ。おまえみたいなやつが勝てるわけがない」
「そんなのやってみないとわからない。それに俺のかわいい妹にひどい事してるやつを黙って野放しにするわけないだろ」
浩太はきびすを返し、西にある廃工場へと急いで向かった。
陽が暗く、住宅街の青く寂しそうに灯している街灯を頼りに走っていると、右折する通りを発見し、そこを右折し道なりに突き進む。
すると、でかく朽ちた工場が目の前にそびえ立っていた。不良の一人が言っていたとおりのいかにも崩れ落ちそうな廃工場がそびえ立つ。
(ここに蓮季が監禁されているのか、待っていろすぐ助けてやるからな!)
急いで工場の敷地内に足を踏み入れようとした刹那、浩太のスマホから着信音が鳴り響き、確認すると相手は『父親』からだった。
『蓮季ちゃんの行方はどうなった!?』
スマホのマイクにノイズが走るほど父親は大声を上げて慌てふためく。
「蓮季は隣町の男子生徒に監禁されている」
『な、何だって! 蓮季ちゃんが監禁されているだと!? ほんとうなのか!』
「落ち着け親父! 少し前に蓮季を監禁してるやつから連絡がきたんだ。今そいつがいると思う廃工場に来た。やつもいるなら蓮季も間違いなくいる」
耳鳴りがするほどの声を巻き上げる父親を何とか宥めながら浩太は冷静に話す。
『なら、今から警察に連絡して、浩太の居る場所に向かうように伝えるから、場所を教えろ!』
「わかった」
浩太は父親に自分の今いる現在地を細かく告げた。
『わかった。浩太も警察に任せてそこから離れろ』
「黙ってこのまま見過ごせって言うのか!」
『バカ! 後は警察の仕事だ。おまえがどうこうする問題じゃない!』
「……わかった」
『いいか。けして危ないような行為だけはするな。おまえも大事な俺の息子なんだからな』
慌てる父親を落ち着かせようと父親に『わかった』と一つ返事を告げてそのまま通話を切った。
だが、浩太はその約束は守れない。
そのまま引き返さず、浩太は鉄格子を跨いで、室井の居る廃工場へと足を運ぶ。
周りは雑草の山で人が通れるような場所ではない。
草根を搔き分け前に進むと、大きくそして頑丈な鉄の扉が目の前に現れた。
力に自信がある浩太も、この扉を開ける事はできないので、しょがなく裏口があるか探してみると、建物の隅の方に小さな扉を見つけた。
(開いた!)
ドアノブをひねると扉が開き、建物の中に入ってみると、辺りは暗闇に包まれていたのでポケットに入っているスマホを手に取り、スマホのライトを付け、周りを見渡すと無数の棚が配列されていた。棚は赤錆がひどく、かなり腐食しているようだ。
慎重に足音を立てずに歩いて行くと、奥の方にかすかな明かりが灯されていた。
明かりの方に吸い込まれるように進むと、そこには椅子に座り厚めのロープで体中を縛られている蓮季の姿が見えた。
「蓮季!」
慌てふためきながら浩太は咄嗟に蓮季の所に向かう。
「ヴヴンン!」
口にガムテープを貼られているため、何を言っているかわからない。
「待ってろ、今ロープを外すからな」
最初に口に貼られているガムテープを剥がし、次にきつく巻き付けられているロープを解こうとした瞬間、
「お兄ちゃん後ろっ!」
浩太は言葉を訊き、素早く背後を振り向こうとしたとき、何者かが浩太の頭めがけバットでフルスイングした。
鈍く響くような音が建物全体に響き渡る。
頭から大量に流血し、崩れ落ちそうになる身体を押さえつけながら浩太は自分の頭をフルスイングしたやつに目を向ける。
「……おまえが室井か!?」
目の前に立っているのは茶髪で背が高く痩せ気味の男。
「俺は室井さんの側近の
そこにいたのは室井ではなくまったくの別人だった。
致命的なミスを浩太はした。隠れ家にいるのは室井一人だけじゃないい事はわかっていたはずなのに、拘束されている大切な妹を見たときその考えを忘れてしまった。
「おまえに用はない。室井を出せ!」
鋭利で刺さすような鋭い殺気を藤林にぶつける。
「ほほう。いい目をしているな。まるで凶暴な獲物を狩る獅子のように」
藤林は浩太を見つめニヤリと不気味そうに笑みを向ける。
全身凍るような冷淡な鋭い殺気を感じさすがの浩太も身がすくみそうになる。
(何だこいつ! 今まで出会ってきた中で一番危険なやつだ……)
身の危険を感じた浩太は震える足を押さえながら野生のオオカミのように威嚇する。
「どうした足が震えているぞ、ビビっているのか?」
「……違う。これは武者震いだ」
血を流しすぎて身体がいうことを効かなく、立っているのがやっとな状態で、さらに相手の恐怖に足が震える。昔一度だけ自分より強者の相手とタイマンを張ったときの事が浩太の脳裏に蘇る。
だが、今目の前にしている相手は昔挑んだ人物よりも遙かに強敵だと思う。
だが、拘束されている蓮季の前で尻尾をまいて逃げるわけには行かない。
恐怖心を無理矢理押し殺し、足に力一杯踏み込んでそのまま藤林めがけて勢いよく右腕をふるい落とす。
遅いな、と呟き、ひらりと藤林かわす。
かわされた拍子に浩太はバランスを崩すのを藤林は見逃さず、持っていたバッドで浩太の脇腹めがけてフルスイングする。
「ウワァァァァァァ!」
骨が砕かれた音が工場内に響き渡り、浩太はその場で崩れ落ちてしまう。
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