第20話 義妹 対 幼馴染みの妹
額に大量の汗がにじみ出る。早くこの状況を打破しないとまたトラブルが起きると思い急いで解決策を練る。
「浩太お兄ちゃん?」
「お兄ちゃんいるの? いたらここを開けて」
何度も蓮季はドアベルを鳴らすたび、浩太の脈拍が徐々に早まる。
(――このままじゃダメだ)
浩太は咄嗟に涼音の手を掴み、急いでトイレに向かう。
「ごめん涼音ちゃん! 少しだけここに隠れてて!」
「ええっ! どうしてですか!? 何があったんですか?」
「ドアの前に蓮季がいるんだ。早く用を済ませて帰らせるから、ここに身を潜めて欲しいんだ。おねがい!」
「……わかりました。なるべく早く追い返してくださいね」
涼音は不服そうに告げ、浩太はトイレのドアを閉め、部屋の玄関ドアを開けた。
「どうしたんだ蓮季。来るときは連絡一本入れろと伝えていただろ」
「妹なんだから連絡入れなくても問題ないでしょ。それにお兄ちゃんがちゃんと生活できているか観察しに来たの」
蓮季は両手に買い物袋を手にするのを見ると、料理を作りに来たんだとわかる。もう少し遅く来てくれたら、こんな修羅場みたいなイベントが来なかったのに、と浩太は嘆く。
早めに蓮季を帰らせないとと、慌てる気持ちを押し殺し、平然とした態度を装って蓮季を招き入れる。が、浩太はとんでもないミスをここで犯してしまった。
「お兄ちゃん、誰か部屋に来ているの?」
「誰も来てないぞ」
不審がる蓮季に平然を保って話しに答えた。なぜ、部屋に誰かを招き入れた事を知っているのか正直驚くが、蓮季の次の台詞に納得した。。
「だってローファーが置いてあるから」
痛恨のミス。浩太は涼音の靴も一緒に隠すのを忘れていたのだ。
「それは俺が昨日買ったんだ」
咄嗟に考えた苦しい言い訳は蓮季には通用するわけがない、それにローファーを履く男性なんているわけがないのに。
「これ、どうみても女子高生が履くローファーだよ!」
「うぐっ」
「お兄ちゃん!」
浩太の顔面すれすれまで蓮季は眉毛を吊り上げ寄せてくる。
何を言っても通用しないとわかっていても最後の悪あがきを浩太は思い切ってぶちかます。
「落ち着け蓮季。これは――そうだ女性本能が目覚めたんだ。女性用のスカートだって持っているぞ」
「…………」
さすがの蓮季も顔を引きつり、腐敗した食べ物を見る目を浩太に向けた。
妹にオカマに目覚めた、と発言したら誰だってそういう顔になる。
義理とはいえ兄としての評価を下げてしまった浩太だけど、涼音と揉め事を起こさないためやむを得なかった。
「なあ、蓮季さん。そんなゴミを見るような目で、俺を見ないで欲しいんだけど……」
「だって兄が女装に目覚めたなんて言われると……、気持ちが悪くて……」
浩太の心のガラスが割れてしまった。一番言われたくない言葉を妹に言われてたのだ。身体が崩れ落ちそうになってしまう。
だが、今はそんな事を考えている場合ではない。
「女装の件はひとまずおいといて、今から用事で出かけなきゃいけないんだ。せっかく来てくれたのに悪いけど今日は帰ってくれ」
必至に追い返そうとする浩太に、何か聞かれたくない事でもあるんじゃないかと、思った蓮季はなんと反抗してきた。。
「何か怪しい……。やっぱりわたしに何か隠していない?」
浩太の顔をジッ、と見つめる蓮季の目に耐えられず思わず視線を逸らしたのが痛恨のミス。
「わたし今日は帰らない!」
目をそらしてしまった事で、蓮季はさらに疑いの心を強く持ち、予期せぬ事態を招いてしまった。
「それはダメだ! 両親が心配するだろ!」
蓮季は腕を組み俺にキッと睨む。
「今日のお兄ちゃんはおかしい! それに女装の事だって嘘でしょ!」
「それは……その……何というか」
「どうしてわたしに隠し事をするの! 隠さないとマズい事でもあるの!」
蓮季は瞳を潤ませ、今でも涙がこぼれ落ちそうな雰囲気に浩太はしどろもどろしだす。
この蓮季の行動は隠し事を吐かせるための演技なのか、それとも本気で兄に対して涙を見せているのか、浩太の頭はパニックになる
「俺は蓮季を大切な妹だと思っている。そんなかわいい妹に隠し事するわけないだろ」
蓮季に力説する浩太の心臓がチクチクと、針が刺さるような痛みが感じる。
大切な妹に嘘をつくというのは、こんなにも辛いことなのだと痛感した反面、『俺は本当に女装に目覚めた』と断言したことにもなるため、複雑な気持ちにもなる。
「それじゃ、別に部屋に入ってもいいよね」
「もちろんだ。蓮季が帰ってから用事を済ませるよ」
プルプル震える蓮季の肩を浩太は優しく包み込む。
罪悪感に呑まれながら浩太は、蓮季を部屋に招き入れた。
トイレに身を潜めている涼音を気に掛けながら、部屋で腰を下ろす蓮季を優しく慰める。
「俺のことが心配で、わざわざ電車を使ってきてくれたのに、追い出そうとして悪かったな」
蓮季の頭を優しく撫でると猫のように気持ちよさそうな表情をする。
「わたしも嘘をついていたの、お兄ちゃんの事が心配で様子を見に来たんじゃなくて、ほんとはお兄ちゃんに会いたくて、いても立ってもいられなかったの」
その蓮季の言葉を聞いて浩太は、妹にとても好かれていると思うと、幸せな事だと実感した。
「それじゃ、これでおあいこだな」
「そうだね」
瞳を潤ませながら笑みを浮かべる蓮季にキュン、と心を奪われてしまう。
欲望に駆られる浩太の理性は、ボルテージMAX近く上りそうになるが、今はそんな場合じゃないと自分に告げ、なんとか正気を取り戻す。
「蓮季と仲直りしたら気が緩んじゃって、トイレに行きたくなったよ」
今蓮季が部屋にいる隙に、トイレに隠れてる涼音を帰そうと試み出る。
せっかく来てもらった涼音に申し訳がないがまた後日、日を改めて来てもらう事にする。
浩太は立ち上がり、涼音のいるトイレに向かおうとすると、
「ちょっと待って、お兄ちゃん」
蓮季は氷のように冷たい言葉を放ち、浩太は全身悪寒がした。
「ん、どうした?」
トイレに向かう浩太を蓮季は止める。先ほどまでの笑みを浮かべる表情とは打って変わり、笑顔ある表情なのになぜか目が笑っていない。
「わたしがほんとのこと喋ったのに、お兄ちゃんはわたしに、ほんとのことを喋っていないよね?」
「えっ! 一体何のことかな……」
浩太の目はキョロキョロ泳ぐ。
「玄関の土間に置いてあるローファーや、テーブルに置いてある飲みかけの麦茶が入ったコップ、もしかしてわたしとお兄ちゃん以外に、この部屋に誰かいるの? ねえ教えてよお兄ちゃん。かわいい妹なんだから答えてくれるよね?」
ヤンデレモードに変わった蓮季に、身の危険を感じ一歩身を引く。
先ほどの
こうなってしまうと、もう言い逃れができなくなってしまう。
「もういいよ。どうせバレるんだから」
「何でここにあんたがいるの!?」
蓮季は怒りで全身震え上がる。
「浩太お兄ちゃんに用があるからに決まっているでしょ」
「お……にい……ちゃん……だと」
その言葉で蓮季の髪が逆立ち、激昂モードになる。もし髪の色が金色に変わったら国民的バトルアニメのキャラになっていただろう。
「お兄ちゃん、て呼んでいいって許可をもらったもん」
涼音は蓮季に向かって、とんでもない一撃を食らわせる。
〈お兄ちゃんと呼ぶなー!!〉
「はっ、蓮季!?」
激しい怒りの蓮季に、浩太は腰を抜かす。
蓮季は自分の理性が抑えきれず、とうとう暴走をしてしまった。
「なに嫉妬しているのよ。みっともない」
殺気むき出しの蓮季を、涼音はちっとも恐れない肝っ玉。
「ウキー! この女、目障りなのよ!」
蓮季は涼音の頬に『バチンッ』と強烈なビンタをお見舞いする、その光景に思わず浩太は目を大きく見開く。
「痛っ……何するのよ、このデカ乳!」
今度は涼音が蓮季の頬が真っ赤になるほどの強烈なビンタをお見舞いする。
「くっ……あんたがいなかったら、お兄ちゃんはわたしだけを見てくれるのに!」
「あくまでも妹としか見てくれないような生活のどこがいいと思っているの? いくら血縁のない兄妹でもあなたは、浩太お兄ちゃんの家族に違いないのだがら異性として付き合えるわけないじゃん」
お互い叩き合いを初め、一気に場がキャットファイトとなる。
「それでもわたしは、お兄ちゃんと付き合って将来結婚したいの! それが小学校ころからの夢だったの!」
蓮季の爆弾発言に浩太はあっけカランとする。
「えっ!? ……おまえ、俺と結婚したいのか? それに今小学校からって――」
「――わたし、もう帰る!」
「ちょっと待て蓮季! まだ話が――」
ハッと両手で口を覆い蓮季は勢いよく部屋から飛び出して行った。
(あいつやっぱり俺に何か隠しているんだな。小学校のころ、俺はあいつと会ったことがあるのか?)
蓮季の事を浩太は考えていると、
「浩太お兄ちゃんは蓮季の事、どう思っているの?」
突然、浩太の背後にいた涼音ちゃんが問う。
「蓮季は血縁が繋がっていないけど大切な妹だと思っているよ」
「妹以上とは思っていないんだよね?」
疑心に溢れる涼音は浩太に尋ねた。
「正直、妹にするのは勿体ないとは思っている」
「……浩太お兄ちゃん」
一瞬、涼音は寂しそうな表情になる。
「だけど俺と蓮季は兄妹になってしまったんだ。そこから先には踏みこまない(それだけは絶対にしてダメだ。何があってもそれだけは……)」
「それをちゃんと伝えないとダメだよ。蓮季はお兄ちゃんの事を一人の男性として見ているんだから」
「ああ、わかっている(確かに、このままほっとくわけにもいかないな。傷跡が深くなる前に早く伝えないと)」。
「それとね、わたしも浩太お兄ちゃんに伝えたい事があるんだけど」
「そうだったな、その事で涼音ちゃんは今日来たんだもんな。それで伝えたい事って何?」
「わたし浩太お兄ちゃんの事が好きなの、だからわたしと付き合って」
こんがり焼けた肌でも、涼音ちゃんの顔が真っ赤になっている事が見て取れた。
まさかの本日二度目の告白に浩太はモテ期到来し、思わず頬を綻ばせてしまいそうになる。
「ごめん、今日中に答える事ができない。数日間、待ってもらえないか!」
「わかりました。でも三日以内に答えを聞かせてね」
「わかった。約束するよ」
「それじゃ、わたしは帰えるね」
「家まで送るよ」
「うん。ありがとう」
浩太は涼音ちゃんを家まで送る事にした。
いつの間にか辺りは日が暮れていた。
軒並み続く道、涼音にどうして俺の事が好意を抱いたのか聞いてみる。
「ねえ、涼音ちゃんはいつから俺の事が好きになったんだ?」
恥ずかしそうに俯きながら涼音は答えた。
「幼稚園のころは、もう一人のお兄ちゃんだと思っていたんだけど、中学に入ってわたしが同じ学年の男子中学生にしつこく絡まれていたときに、浩太お兄ちゃんが助けてくれたよね」
「そんな事あったっけ? 覚えていないな……」
「わたしはちゃんと覚えているよ。それから毎日浩太お兄ちゃんの事を思うようになって、これが好きという事なんだなとわかったの」
涼音は自分の心臓のある胸にそっと手を乗せ語った。
「そうだったんだ。そんな大事な事を忘れてしまってごめんね」
「気にしないで。昔の事だから」
それから二人仲良く夜道で会話を弾んでいると、涼音と海斗の住んでいる自宅にたどり着いた。
「それじゃ、またね涼音ちゃん」
「うん。今日は送ってくれてありがとう。それと良い返事を待ってるね」
「あっ、うん」
浩太は渋柿を口に入れたみたいな表情で答える。
涼音を送り浩太は、そのまま自分の住んでいるアパートに帰った。
アパートに着いた浩太は、自分の部屋に入り、床に腰を下ろし一息つきながら深く考え込む。
蓮季を傷つけずに断り。それと涼音の気持ちにも答えなくちゃいけない。頭部を掻きむしりながら、浩太は深く考えてしまう。
とにかくこうして考えてもらちがあかないため、その件はひとまず置いておいて、急に部屋から飛び出していった蓮季が心配なため、電話をかける。
スマホで蓮季に電話を掛けるが一向に電話には出ず、お留守番サービスに繋がってしまう。
(どうして電話に出ないんだよ、蓮季のやつ!)
それから何回も電話を掛けても応答はしなかった。
風呂にでも入っているのかと思い、着信履歴に気づくと思い、向こうから連絡をくるのを待つことにした。
それから一日待っても蓮季から連絡がこなかった。
このとき蓮季は事件に巻き込まれていた事に、浩太は気づいていなかった。
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