第18話 お泊まり終了
(ハア~、やっぱり地雷だったか……。弁解するのも不可能だな)
幼馴染みの
深く思い詰めながら、蓮季の背後を追うようにトボトボ浩太は歩く。
しばらくお互い無言のまま歩いていると、ようやく自宅前に着いた。浩太はふとリビングの方に目をやると明かりが灯されていた事に気付いた。
まだ両親が帰ってきてないはず、それに朝から外出したため電気を付けているはずはない。
リビングに疑いの眼差しを向けながら、のそのそと足音を立てずに二人は玄関に向かう。
「お兄ちゃん……」
もしかして泥棒が侵入した可能性もあると思い、恐怖で怯える蓮季を玄関前に待機させて玄関のドアをゆっくりと開ける。
自宅の中からかすかな男性の声が聞こえた、だが、この声に浩太は妙に聞き覚えがある。
背筋から冷たい汗が大量に流れながら、リビングのドア越し前まで、ゆっくりと足を運ばせて恐怖を押し殺し、浩太は勢いよくドアを開けた。
「よう。お帰り浩太」
浩太は一瞬この場の光景に目を疑う。
「親父!? 何でここに? 旅行に行っていたんじゃないのか」
そこにいたのは浩太の父親の
アロハシャツを着こなし、エンジョイ中の中年父親が、苦々しい笑みを浮かべながら口を開ける。
「南の島で紀香と二人っきりで楽しくバカンスをしてら、突然会社の後輩から連絡がきて、会社でトラブルが起きたと報告されたから急いで飛行機で帰ってきたんだよ」
父親の笑顔を見ていると何故かイラッと腹が立ってしまった。
蓮季もドロボーが侵入していたんじゃないとわかりホッと安堵している。
「何だ俺はてっきり泥棒が侵入したかと思ったぞ」
「うちにドロボーが来たとしても盗むほどの価値のある骨董品や財産なんてあるわけないだろ――だが、あるとすれば二つだけ俺の財宝はあるけどな。目から離さないように肌身離さず持っている」
「何それ?」
浩太は質問する。
するといきなり父親はソファーから腰を上げて紀香と蓮季の腕を掴み身体に引き寄せる。
「もちろんこの二人だよ」
「…………あっそ」
女性二人の方に手を当てて満面な笑みを浮かべてのろける父親に吐き気を促すような言葉で浩太は返した。
「ふふふ、私も良太さんのことを大切に思っているわよ」
紀香の言葉に父親は鼻の下を伸ばしていやらしい目つきをしだす。
「なら今夜はどうだい?」
「もう、良太さんったら」
「お前たちも新しい家族ほしいだろ?」
紀香の腰に、父親は腕を回し抱き寄せる姿を見た浩太は胸焼けをお起こしそうになる。
「子供のいる前でそういう話しするな! 蓮季もなにか言ってやれ!」
蓮季は頬を染めて恥ずかしそうな表情をする。
「私はお兄ちゃんとの……子供が……ほしいな……」
「お前も親父と同じか!?」
蓮季も同じような発言に浩太は
「まあまあ、ご飯ができたから食事にしましょう」
紀香はテーブルに料理を置き、俺たちは食事をすることにした。食事中、蓮季の様子を覗うと両親と仲良く会話している姿を見て機嫌が良くなったのかなと、一安心した。
その後は何もなく食事を終え、一息つく。
「少し休憩したら帰るよ」
その言葉に蓮季は飛び上がり、寂しそうな子猫みたいに浩太を眺めてくる。
「お兄ちゃん泊まっていきなよ。もう夜も遅いし」
まだ一緒にいたい蓮季は必死に浩太を帰させたくないため泊まっていくようにお願いするが浩太は今日は泊まるつまりはない。
「そうよ。蓮季の言う通り泊まっていきなさい」
「そうだ、今日は泊まっていけ」
紀香と父親も蓮季の意見に賛成みたいだ。
「ごめんな蓮季。学校に呼び出されていかなくちゃいけないんだ」
ほんとは今日まで蓮季の約束で実家にいるはずだったのに、担任の
なぜ呼ばれたか大体はわかっていた。三連休が入る前に他校の生徒と一悶着をしたことだと悟った。
浩太が下校中他校の生徒三人に喧嘩を売られ、その生徒を完膚無きまで叩きのめしたのだ。いつも日常茶飯事のことなので成れているが、このタイミングは正直に困る。
「お前はいつも問題ばかり起こすな。少しはおとなしくしとけ」
「したくてもこの顔のせいで目をつけられているんだよ」
「たいへんね……。でも男の子は少し悪い方がかっこいいのよ」
「とういうことで、明日の学校の呼び出しはサボるということに結論がでたので今日は大人しく泊まろう」
強引に浩太の腕を掴んでいく蓮季に浩太は諦めて帰るのを断念する。
自分の部屋は蓮季が使っっているため、しょうがなく和式の部屋で寝ることにした、が蓮季は一緒に寝ようと駄々をこねてきてたので軽くあしらう。
蓮季にちょっかいをかけられている最中、浩太のスマホの着信音が鳴る。
着信相手は幼馴染の海斗からであった。
抱きつこうとする蓮季をソファーに軽く吹き飛ばしリビングから隣の和室に移り、スマホの通話画面をタップする。
「なんだ海斗、俺になんのようだ?」
『今、お前が住んでいるアパートの部屋の前に来ているんだけど、どこにいるんだ?」
「実家だよ」
『えっ! なんだよ〜、てっきりそのまま蓮季ちゃんと一緒にアパートに向かったのかと思ったよ』
「蓮季と一緒に俺の住んでるアパートに向かうわけないだろ、そんなの自殺行為だ、身が持たない!」
『身がもたないのはどっちの意味だ? 近くにいると魅力的で持たないことか? それともうっとおしくて?』
「うっとおしい方に決まっているからだろ」
『なるほど魅力的だからか』
「だから違うっていうのっ!」
『ムキになっているということは図星だな』
電話口で高笑いしている海斗に腹ただしい気持ちが高ぶっていく。
そんな中、急に電話越しから海斗に怒鳴り散らす少女の声が聞こえた、その人物は海斗の妹の鈴音だった、なにやら先程、海斗のバカ笑いに耳障りだったのだろう。
鈴音の怒声のせいで浩太の耳はキンキンと耳鳴りがする。
『海斗スマン、うるさいゴリラ女が来たからもう切るぞ、本当はなにか伝えたいことがあったのんだが……、このバカが来たせいでポッカリ忘れてしまった……』
『誰がバカでゴリラ女なのよ、あんただって昔は――」
そこでぷつりと通話が切れた。
(あいつも妹で大変な思いをしているんだな…………)
前は一人っ子のため、海斗の妹に対しての不満な気持ちが今となってはわかる。
海斗の言っていた伝えたいこととは一体何なのか気になっていたが明日、海斗に訊けばわかると思い、和室から出ようとした時、襖の隙間からじっと見つめている人物がいた。
「そこで何を見ているんだ――蓮季」
「お兄ちゃんが浮気してないか観察しているの」
「何回も言うけど俺たちは兄妹だから浮気もなにもないだろ、お前は早く風呂入って寝ろ」
浩太はしつこく迫ってくる蓮季を突き放し、リビングに戻るのであった。
後日、学校の呼び出しがあるため、早朝に浩太は自分の借りているアパートに向かうのである。
蓮季の悲しい視線を背後で感じながら浩太は帰っていくのだった。
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