第13話 地獄の三連休

 待ちに待った三連休……だが、この三連休はもう浩太こうたには既に予定が入っていた。

 この前の一学年上の先輩桜井剛さくらいつよしを玉砕する件に義妹の小泉蓮季こいずみはすきに協力してもう条件で三日間実家で二人きりで暮らすことになってしまった。

 重い足どりで実家に着き、玄関の入り口のドアを開けるとそこには蓮季が出迎えてくれた。

 

「お帰りお兄ちゃん」

 

 玄関から犬のように飛びだし、満面な笑みで浩太に抱きついてくる。

 

 蓮季のふくよかな胸の感触が身体の隅々に伝わってくる、何とも言えない快感だ。

 

「いちいち抱きつくな」

 

 抱きしめたい気持ちを無理に抑え、蓮季を両手で突き放す。

 

「もう、照れちゃって」

 

 浩太の鍛え抜いたお腹を蓮季は指でツンツンしてくる。

 

「ああもう! ツンツンするな! (チクショウ……妹じゃなかったら押し倒してたぞ!)

 

 蓮季の誘惑を押し切って浩太は自宅の中に入る。

 

「あれ? 親父と紀香のりかさんはいないのか?」

「うん。二人で旅行に行ったから、明後日まで帰らないよ。だから、今日から三日間は私たち二人だけの生活になるんだよ」


「今すぐ帰ります。お邪魔しました」

「約束覚えているよね?」

「うっ……。覚えていないな……」


 蓮季はスマホを取り出してどこかに電話を掛けた。


「あっ! お父さん。今お兄ちゃんにレイ――」

「ごめん! 俺が悪かった! 覚えています。覚えているから電話を切って!」


 蓮季の肩を掴んで必死に謝罪した。

 生まれて初、両親以外に本気で謝罪した。しかも相手は義理の妹。

 父親に連絡して浩太に犯されると発言されたら社会的制裁いや家族的制裁をされるところだった。


「わかればよろしい」

「くそ……覚えてろよ……」

 

 渋々、浩太がリングのソファーに腰を下ろすと蓮季も隣に腰を下ろし、浩太の肩に寄りかかり上目使いで愛らしい子猫のように甘えてくる。

 

「あんまり近づくな暑苦しい」

 

 白い無地のTシャツと、水色のショートパンツで、ラフな服装の蓮季に目のやり場もない。

 

「いいじゃん、いいじゃん。兄妹水入らずって言うしね」

 

 乳白色の綺麗で豊満な胸が浩太の腕に吸い付いてくるせいで、蓮季の胸を揉みたいという脳から流れる誘惑をギリギリ制御する。

 

「そんな事より、両親もいないしこれから何をする?」

 

 あまりの刺激の強さにジッとしているのは耐えきれず、蓮季に話題を振る。

 

「う~ん、ちょっと待ってて」

 

 蓮季は駆け足でリビングから出ていった。何か持ってくるのかと期待してしばらく待っていると、桜色のノートPCと何かのゲームソフトを持ってきた。

 

「ノートPC持って、一体何をするんだ?」

「お兄ちゃんには妹のすばらしさをこのゲームで知ってもらいたいと思うの」

 

 そう浩太に告げ、ノートPCをセッティングし電源を起動する。

 

「へぇ~、PCゲームが好きってことは蓮季はやっぱりゲーマーだな」

「前も言ったとおりゲームは好きだけど、ゲーマーではないよ。それに今はPCゲームは学校の生徒たちはみんなやっているんだよ」

「そうなの? 俺はてっきりPCゲームってコアな人達がやるものかと思ったぞ」

 

 幼馴染みである芝崎海斗しばさきかいとの妹も勉強もせずにPCゲームばかりやって困ったもんだ、と口酸っぱく言っていたのを浩太は思い出した。

 

「さあやろう」

 

 蓮季からコントローラを手渡された。

 

(ゲームは別に嫌いじゃないけど、ジャンルが……)

 

 このゲームは少女を恋に落とすゲーム、いわゆるギャルゲーというやつだ。

 

「蓮季はこのゲーム、プレイしたのか?」

「うん。三日以内にクリアした。隠し要素や隠しキャラも全て」

 

「自覚してないだけで、間違いなくゲーマーじゃないか」

「こんなの誰でもできるヌルゲーだよ」

「ぬるま湯?」


 ヌルゲーという言葉を浩太は知らなかった。

 仕方なく蓮季が持ってきたゲームを起動し、タイトル画面に変わりスタートを押した。


「ゲームの内容は主人公は高校三年生で、ヒロインは中学三年の妹。主人公がヒロインである妹を恋に落とすゲームって……妹の横で妹物のギャルゲーをプレイするとは、どういうシチュエーションだよ」

 

「さあ早くやろう。お兄ちゃんは今日一日、このゲームをプレイして妹がいるすばらしさを知ってもらわないと」

 

「すばらしさを知るのはいいが、好きでもないゲームを一日中プレイさせるのは鬼畜じゃありませんか我が妹よ……」

 

 仕方なく、蓮季に強要されるがままプレイすることにした。

 

「さあ、まずは主人公の名前は……えっと何にしようかな」

「自分の名前を付けて」

「いやさすがに、それは……」

 

 蓮季に指示されるがそれを拒み、浩太は幼馴染みの海斗の名前を付けようとしたら蓮季の表情が変わった。

 

「付・け・て」

「……わかった」

 

 強要され仕方なく浩太は了承した。重い指先を無理に動かせ自分の名前を渋々入力する。

 主人公である浩太は学校から下校して、家に帰るところから物語は始まる。

 家に着くと制服姿の妹が出迎えてきた。

 

「妹の名前は前神ハスキ、中学三年生……って、おまえと同じ名前じゃねぇか!?」

「さあ、ヒロインのハスキちゃんを攻略してお兄ちゃん」

 

 喜色満面きしょくまんめんの蓮季に浩太は困惑する。

 

「何で実の妹と同じ名前のヒロインを攻略しなくちゃいけないんだ!」

 

 今すぐこのゲームを開発した会社を今すぐ潰したい気分に浩太は思ってしまう。

 そんな気持ちを抑えつつ、仕方なくゲームを進める事にした。

 今はヒロインと食事をしている最中、三つの選択アイコンが表示された。

 

(なになに……)

 

 ・食事中に妹を押し倒す。

 

 ・食事中に妹を襲う。

 

 ・食事中に妹とプロレス対決。

 

「……ちょっと待て、三択の文章が違うだけでどれも同じ意味だろ。しかも三番目の文章が意味わからん。何で食事中にプロレスするの? このゲーム、クソゲー臭を漂わせてるぞ。それに襲うならせめて寝る前にしろよ!」


 こんなツッコミどころ満載な三択を浩太は考え抜いた。

 この三択中、一番|無難そうな三番目の文章を選択した。するといきなり食卓をしていたはずのリビングから、急にプロレスリングへと場所が変わる。

 リビングからプロレスリングへと変わる場面に、この主人公とヒロインは瞬間移動ができるのかとプレイしている浩太は疑ってしまう。

 すると突然ヒロインのハスキが、主人公の浩太にめがけてチョークスリーパーを決めると、兄は失神してリング上で息を引き取った。いわゆるゲームオーバーだ。

 

「何これ、話の展開が読めなさすぎて、ついていけない……。ていうか主人公弱すぎるだろ。自分からプロレスしようとか言っておいて瞬殺かよ」

「あっ、言うの忘れてた。これ、選択を失敗すると、そく妹に殺されてゲームオーバーになるから」

 

「これまだやらないとダメ? (何その鬼畜設定! クソゲーにもほどがあるだろう!)」

「うん」

「そんな爽やかな笑顔で言わないでくれ頼むから」

 

 浩太は必死にゲームのヒロインである前神ハスキを攻略するのであった。

 

 

 また前回のゲームオーバになった食事中の場面までたどり着いた。

 

(三番は外れって事は一番か二番の選択肢のどちらか……ってどちらも選びたくない! どうすんのこの場面! どうすんの!)

 

 錯乱する頭をこれ以上酷くさせないため浩太は決断する。

 

〈ええいこうなったら、一番だ〉

 

 一番の文章を選択する。

 

 すると食事中の主人公、前神浩太がヒロインの前神ハスキを押し倒し、強引に服を脱がして生まれたばかりの姿が露わになる。

 

「ちょっと、そっから先は純粋なギャルゲーの先を超えている! 蓮季このギャルゲー過激すぎるぞ!」

 

 いきなりの卑猥な画像が映し出されて浩太の顔は噴火しそうに真っ赤になる。

 

「何言っているの、お兄ちゃん? これギャルゲーじゃなくて

 

 蓮季からのまさかの発言に浩太は吃驚仰天びっくりぎょうてん

  

「こんなゲームできるわけないだろ! 俺にこんな卑猥なゲームやらせるな!」

「これのどこが卑猥なの! このゲームの制作会社ゲームエロティックに今すぐ謝罪して!」

 

「制作会社の名前事態が卑猥だろ、なんだよエロティックって、よくそんな名前を会社に付けられたよな。そこに謝罪しろっていう蓮季、おまえの頭は大丈夫か? お兄ちゃん心配してきたぞ」

「私の頭は平常です。いつもお兄ちゃんとのエロい事考えているんだから」

「平常を通り越して異常だろ! 俺を妄想してエロい事考えるな!」

「イヤです」

 

 色々言いたい事がやまずみだが、疲労困憊ひろうこんぱいの浩太はこれ以上突っかかっても自身が余計に疲れるだけなので蓮季の言う事に流す。

 

「もういいわかった、わかった、俺が悪かった。もうこのゲームは満足したから違うゲームをやらないか? 俺にはこのゲーム刺激が強すぎみたいだ」

 

 余り納得がいかない蓮季は腕を組み、眉を吊り上げる。

 

「それじゃ、このゲームはどう?」

 

 蓮季から別なゲームソフトを手渡され、恐る恐る受け取る。

 

 今度のは大丈夫だよな……。

 

「濡れ濡れシスターズ? ふーん、それで年齢別レーティング区分は……これも対象年齢十八歳以上じゃねえか! おまえは、まともなゲームを持っていないのか!」

「わたしの持っているゲームコレクションをバカにするの!」

 

 エロゲーのことで喧嘩するのもくだらないと思った浩太は、目頭を熱くさせ、ぷくぷくに頬を膨らませる蓮季を宥めさせることにした。

 

「落ち着け蓮季。それとこういうゲームは何本所持してるんだ?」

 

 蓮季は顎に指を当てて考える。

 

「う~んと、五十本ぐらいかな」

 

 どんだけ持っているんだよ。おまえは年中発情している猫か!

 

「蓮季がこういうゲーム持っている事、親父や紀香さんは知っているのか? (どんだけ持っているんだよ。おまえは年中発情している猫か!)」

「知らないよ」


 そうだろうと浩太は思った。もし父親がこの事を知ったら即処分されているに違いない。

 

「こういうゲームを所持している事は、二人には絶対に言うなよ」

 

 首を傾け蓮季は不思議そうな表情をしている。

 

「お兄ちゃんがそこまで言うなら内緒にしとくけど、別にわたしはバレてもいいと思うけどな」

  

「とにかくエロゲー以外のゲームがやりたいんだけど? (こいつは両親のいる目の前で、近親相姦の卑猥なゲームをプレイできるというのか!? だとしたら、かなりの天然少女だ――いや強者だ!)」

「わかった。部屋に戻って全年齢版のゲームを持ってくる」

 

 不服そうな表情で蓮季は出て行った。

 

(早く親父たち旅行から帰ってこないかな……)

 

 今日から三日間、浩太にとって地獄の生活が始まるのだった。

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