第11話 計画開始

 次の日、学校の授業が終わり、浩太こうたのスマホに蓮季はすきから高校に到着した、とメールが届き校門前に向かうとそこには生徒たちの群衆ぐんしゅうが広がっていた。

 邪魔だ、と一言告げると生徒たちは浩太がいることに気がつき始め、一斉に恐怖で散らばる、そこには制服姿の蓮季が校門前に立っていた。

 

「よう、蓮季。(なっ、かわいい。制服姿の蓮季もかなりいい、生徒たちが群がるのも理解できる……)」

 

 白のブレザーに、青いチェック柄の膝丈スカートの制服姿に兄である浩太も悩殺されてしまう。

 

「遅いよ、お兄ちゃん。早く行こう」

 

 来てすぐ蓮季には悪いが、これから一つ上の先輩である桜井さくらいが待つ校舎裏まで案内する。

 不快感を抱いてる蓮季と二人で校門広場を歩いていると、周りの学生たちの視線が気になる。(特に男子生徒に)

 

「何、あのかわいい子」とか「なんであんな野蛮やばんな男と歩いているんだ」とか「きっと奴隷にされているんだよ」など周りの生徒たちはひそひそと会話をしているがその会話が残念なことに浩太には筒抜けであった。

 

「お兄ちゃん、何かあったときは助けてね」

「そのときは全力で守ってやるから心配するな」

 

 浩太の腕の袖口をぎゅっと摘まみ、不安そうにブルブル震えるウサギみたいな表情で蓮季は見つめてくる。どんな男でもそんな表情をすれば守ってやりたくなるかわいさに浩太は顔には出さないがメロメロになっていた。

 

 校舎裏に到着すると、目の前には桜井が立っていた。


「俺はここで退散するから、ここから蓮季が一人で桜井先輩と会うんだ」

「お兄ちゃん……」

「大丈夫だって言っているだろ。兄ちゃんを信じろ」

「兄ではなくて一人の男としてなら信じる」

「わかった、わかった」

 

  蓮季に別れを告げて浩太は帰るふりをし、近くの木陰で身を潜め二人の様子を窺う。

 

 桜井の顔中から汚い肉汁が溢れだし、蓮季を見てニタニタしながら近づいてくる。今すぐハンターを呼んで、あそこにいるバ○コンガを討伐してほしい。

 

「あれが浩太の妹の蓮季ちゃんか。かなりの美少女だな」

海斗かいといつから!?」

「俺はいつも神出鬼没のイケメンなのさ」

「おまえの前世は忍者か、それとも暗殺者なのか」

 

 息と足音を殺して浩太の背後に突如現れた海斗に驚き、腰を抜かしそうになった。

 

「おい見ろ浩太、桜井先輩が仕掛けてきたぞ」

 

 浩太は咄嗟に桜井のほうに目を向け、注意深く監視する。万が一蓮季に危害がおよばないためにも。

 

「蓮季ちゃん、俺と付き合ってくれ! 蓮季ちゃんのためなら何でもするよ」

 

 息づかいを荒々しく近づいてくる桜井におどおどと蓮季は一歩後ずさる。

 

 どう見てもこの光景は端から見れば変質者そのものだ。

 

「何度も言うようにあなたは、タイプじゃないからお断りします!」

 

 蓮季の一言に桜井はびくともしない。

 

「蓮季ちゃん、俺の気持ち受け取ってくれ!」

「だから無理だって言ってるの、この豚! バラ肉にして廃棄にするぞ!」

 

(そこは『バラ肉にして売り飛ばす』じゃないの!? 廃棄にしちゃうの! ――実際、あのデブの肉じゃあ売れずに、そのまま廃棄処分されるのが目に見えてるけどね)


 蓮季の桜井にかける言葉に思わず苦笑くしょうしてしまう。

 

「ハァ、ハァ、俺をそうやってののしる蓮季ちゃんが……かわいい」

「気持ち悪い! 死ね! 家畜!」


 蓮季が桜井に罵声ばせいを浴びせるたび、桜井の興奮度が臨界点に達する。

 

「俺の頭をこの前みたいに足で踏んづけてくれよ」

 

 そう言い桜井は地面に這いつくばり匍匐前進ほふくぜんしんしながら蓮季に向かってくる。

 

「あっちに行って! 近づかないで! 変態!」


 さすがの海斗も桜井の蓮季に対する行動にドン引きしだす。

 

「なあ浩太、あれどう見ても美少女にお仕置きをしてほしいと縋る、ドMの変態野郎にしか見えないぞ」

 「確かに、このままだと蓮季の身が心配だな……でもまだ助けない。なぜならこの状況は面白いから!」

 

 浩太はポケットからスマートフォンを取り出し動画を撮り始めた。

 

「何してるんだ?」

「この状況を動画にし、マイチューブに投稿させて金を稼ぐのさ!」

「おまえ最低だな」

 

 浩太の最低な行動を無視し、海斗は桜井を監視する。

 

「さあ、蓮季ちゃん。その綺麗な素足で俺の醜い頭を踏んでくれ!」

「いい加減にしろ!」

 

 蓮季は、足元付近に落ちてあるコンクリートブロックを持ち上げ、桜井の頭めがけて勢いよく振り落とした。

 

〈ブギャアッ!!〉

 

 鈍い音が辺りに響き、さすがの桜井も苦痛な表情で身もだえる。

 

「ほんと最低! 二度とわたしの目の前に現れないで変態! それとわたしは好きな男性がいるのだから諦めて!」

 

(好きな男性がいるだと!?)

 

 それを聞いた浩太は録画をやめて、蓮季の所に向かった。

 

「遅いよお兄ちゃん! わたし、そこの変態に如何わしいことさせられそうになったのよ!」

「悪い悪い。でも俺が出る場面はなかったようだな。――それと蓮季。さっき好きな男性がいると言っていたよな……誰だ?」

 

 蓮季は頬を熟したリンゴのように赤く染め、両手を頬にあて身体をくねくねウナギのようにゆらす。

 

「わたしの好きな人って……キャッ、恥ずかしい」

 

 その行動を見た浩太はなんだかイラッとしてしまう。

 

「いいか、俺の目の黒いうちは男性とのお付き合いは禁止するからな(かわいい妹をどっかの知らない馬の骨に容易たやすくやるわけにはいかないからな)」

 

「もしかしてきもちですか?」

 

 蓮季は浩太の周りを、うれしそうにぴょんぴょん飛び跳ねる。

 

「そんな訳あるかっ!」


 浩太は怒りではなくただの嫉妬で、顔を赤く染めて浮かれている蓮季に騒ぐ。

 

「いいや、浩太はできたばかりの妹にゾッコンだからな。いわゆるというやつだよ」

 

 海斗からの横やりを食らう。

 

「そうなの! お兄ちゃんはシスコンなの!?」

「俺はただ、妹を誰にも手放したくないだけだ、それにシスコンって何だ?」

 

 浩太の頭の辞書にはシスコンという言葉は載っていないみたいだ。それも当然ブラコンもわからないのだから。

 

「シスコンとはな、妹や姉に異性として好意を抱いていることだ」

 

「なっ、何言っているんだ海斗! 俺が蓮季に好意を抱いているわけないだろ!」

 

「その慌てぶりが何よりの証拠だ」

 

 浩太の慌てふためく姿に海斗は鼻で笑う。

 

「ふふふっ、お兄ちゃんがわたしのこと好きとか愛しているとか……ふふふっ」

 

「おいおい、そこまで言ってないぞ。誰か俺の妹の暴走を止めてくれー!」

 

 喜びの感情が抑えきれず暴走している蓮季を落ち着かせようとしたが、既に手遅れ。

 

「わかったから、落ち着け蓮季!」

「だってだって、こんな一生に一度あるかないかの幸せなことだよ」

 

「おまえの一生に一度の幸せはそんな安っぽいことなの? もっと大きな幸せを持とうよ」

「これ以上の幸せは今後お兄ちゃんにプロポーズをしてくれるまでないもん」

「誰がおまえにプロポーズするか! そんなの永遠に来ない!」

「もう、そんなに照れないで、お兄ちゃん」

「そ、それより、かなり陽が暮れてきたから、そろそろ帰らないか?」


 このまま浮かれすぎの蓮季に誤解を解くことは不可能だと思った浩太は直ぐに話を変える。

 

「そうだな。さすがに陽も暗くなってきたことだし帰ろっか」海斗が言う。

「うん、帰る。お兄ちゃんのアパートに」

 浩太の腕に蓮季は抱きついてくる。

 

「やめろ! おまえの胸が俺の腕に直接感じる」

「いいじゃん。へるもんじゃないし」

「はいはい。校内であまりイチャつくな。見ているこっちが恥ずかしいぞ」

「イチャついてねぇっ!」

 

 こうして桜井の玉砕計画は見事解決? した。


(……おっ、俺を忘れていないか……)

 

 一人寂しく地面に倒れる桜井はむなしく痛みがある頭を押さえながら悶えていた。

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