第10話 妹の激昂!!

 学校が終わりアパートに着いた浩太こうたは、一学年上の桜井剛さくらいつよしの玉砕計画を開始するために早速父親のスマホに連絡をする。


『どうした浩太』

「仕事中悪いんだけど蓮季はすきの電話番号とメールアドレス教えてくれないかな?」

『悪いが蓮季ちゃんの連絡先は知らないんだ。母さんに教えてもらえ』

「え! ――わかった。連絡する」


 新しくできた母親の紀香のりかから訊くのは少し抵抗があるのだが蓮季との連絡を取るため仕方なく実家の固定電話に連絡をする。


 TURRRRR


『はい、小泉こいずみです』

「あっ紀香さん、俺です浩太です」

 

 電話越しでも四十代とは思えないほどの若々しい声がスマホのマイクから聞こえてきた。

 何故か浩太は頬を赤らめてしまい若干敬語になってしまう。

 

『浩太くん、どうしたのお母さんに恋しくなったの?』

「紀香さんみたいな母さんに会えないのは寂しいですけど今回は別な件で電話をしたんです」

『もう、可愛い事を言ってくれるんじゃないの。それで要件とは何かな?』

 

 義理の息子に会えなくて寂しいと言われて嬉しいそうな声で紀香は話す。

 

「蓮季のスマホの電話番号とメールアドレス教えて欲しいんだけど」

『別に構わないわよ。一応私の番号とアドレスも教えといてあげる』


 電話で紀香自身の電話番号とメールアドレス、蓮季の電話番号とメールアドレスを伝えられた。


「ありがとうございます。それじゃこれで失礼します」

『もう敬語なんて使わなくていいんだよ私たち家族なんだから』

「そうは思っているんだすけど…………まだ緊張して」

『早く馴れてくれると嬉しいな』

「努力します」

『じゃあ、何かあったらいつでも連絡してね。今度は固定電話じゃなくて私の携帯で』

「……はい、それじゃ何かあったら連絡します」

『またね、愛しているよ』

 

 紀香にからかわれて通話は終わった。

 まだ二人だけで会話をするのが苦手なため、通話が切れるとホッと肩の力が抜ける、大事な人物に電話をかけなくちゃいけないので紀香から教えてもらった蓮季の携帯番号にかけることにした。


 TURRRRR。

 

『はいもしもし、どちら様ですか?』

 

 登録されてない電話番号のため、疑わしげな声で蓮季が出た。

 もの凄く無愛想な感じの声に浩太はメールで内容を送れば良かったと思う。

 

「浩太だけど、ごめん今電話を掛けるのはまずかったか?」

『えっ!? お兄ちゃん! どうしてわたしの番号を知っているの!?』

 

 電話先で蓮季は驚き戸惑っている。

 兄のことが大好きな蓮季は何かのサプライズだと思い、徐々に驚きから嬉しさの気持ちが強くなり、ブラコンゲージが臨界点に向かっていた。


 

「紀香さんに蓮季のスマホの電話番号とメールアドレスを教えてもらったんだ。迷惑だったか? やっぱりメールの方が良かったよな?」

『全然迷惑じゃないよ! むしろうれしいよ! 幸せ! ナイスです、お母さん! 大好き――あっ、今の大好きはお母さんじゃなくてお兄ちゃんに向けた言葉ですから嫉妬しないでね』

 

 電話越しの蓮季の声は、愛嬌あいきょういっぱいの声に変わる。

 

「いや嫉妬してないよ。むしろ紀香さんに向けた言葉の方が嬉しかったのだが……まあ、迷惑じゃなかったなら良かったよ。ところで明日蓮季は、何時に下校するんだ?」

『明日は委員会の仕事がないから学校が終わり次第帰るけど?』

「委員会? 蓮季は生徒会に入っているのか?」

「うん。まだ書記だけどね」

「すごいな。優秀な妹ができて俺はうれしいよ」


 頭の良い妹をもってしまうと兄としての立場がないと頭を悩ませた。


『お兄ちゃんに褒められるなんてうれしい。ねえもっと褒めて! 褒めて!』

「偉いぞ、さすが俺のかわいい妹だ」

『かわいいわたしのこと好き?』

「ああ。好きだぞ蓮季」

『わたしもお兄ちゃんのことが……好きです、――キャアッ、言っちゃった』

 

 電話元でも蓮季がどんな仕草をしてるか目に浮かぶ。

 

「蓮季にそう言ってもらえるとうれしいよ。まあ、俺の好きはとしてだけどな」

 

 その言葉聞いて急に蓮季は怒りで声を張り上げ始める。

 

『ひどいお兄ちゃん! 乙女の純情を返して!』

「乙女もなにも、お前は俺の妹だろ。妹を一人の女として見るわけないだろ」

『言ったな~!』

 

「ごめんごめん。許してくれ。(電話元で怒っている蓮季もかわいいな。もちろん妹としてかわいいだけだ……多分)」

『許してほしければ、わたしに『愛しているよ蓮季』と言って!!』

「愛しているよ蓮季。これでいいか?」

 

 軽い気持ちで答えると蓮季はひっかかりを感じている。

 

『う~ん。なんだか愛が込められていない感じがしないけど、良しとしましょう。それでお兄ちゃん。わたしに何のよう?』

 

 蓮季は不満足しながら浩太に問う。

 

「明日なんだけど蓮季が高校が終わり次第、俺が通っている高校に来られるか?」

『お兄ちゃんが通っている高校!? 行きたい。いや絶対行く!』

 

 蓮季は歓喜に息を弾ませているが、そんな気持ちを踏みにじるかのように浩太は最悪な言葉を発言をした。

 

「わかった。桜井さくらい先輩に蓮季が、明日うちの高校に来ることを伝えておくな」

『…………お兄ちゃん』

 

 一瞬、悪寒がした……。これ完全に地雷だった。


「どうしても桜井先輩が蓮季と会いたいってしつこいんだよ。だからお願い一度だけでいいから会ってくれないか?」

『嫌だよ!あんなデ――桜井さんには会いたくない!』


 今さっきデブと言いかけた事を浩太は見逃さなかった。

 

「……蓮季、これは、おまえのためでもあるんだ」

『その言葉のどこがわたしのためなの!』

 

 さすがの蓮季も堪忍袋の緒が切れた。多分周りにいる生徒たちも蓮季の激昂げきこうに驚いていると思う。

 

「おっ、落ち着け蓮季。別に桜井先輩と会うだけで付き合えとは言ってない。このままだと桜井先輩に、一生付きまとわれるかもしれないんだぞ!」

『むむむ、それも嫌だけど、会ったからといって、無事に帰れる保証もないでしょ。私がその場で襲われたらどう責任を取ってくれるの?』

「桜井先輩がもし襲ってきたらこの俺がぶっ飛ばしてやるから問題ないだろ」


 実際に一度、蓮季は桜井をコテンパンにしたのだから護衛する必要は無いと思うが、それを本人に伝えると大騒ぎしてしまう恐れがあるので電話元では言わなかった。

 

『問題大ありだよ! いくらお兄ちゃんが強くても欲情している人間に勝つのは難しいんだよ』

「なんか蓮季が言うと説得力あるな…………」

「私はあんな奴と一緒に思わないでほしいんだけど、毎日お兄ちゃんの部屋で兄系のエロ本やアダルトビデオを見て兄に対する欲情をコントロールしているんだから」

「想像を絶する性欲丸出しの妹だな! 桜井先輩の方がまだマシだぞ! ――ていうか人の部屋で何しているんだよ!」


 ここまで義理の妹がド変態だとは思いもしなかった。今度実家に行ったとき両親にこのことを伝えようと浩太は思った。


「とにかく私はこの件は引き受けないからね」

 

「桜井先輩がおまえを好きすぎてストーカーをするかもしれないんだ。だから一度会って立ち直れないほど玉砕させてほしい。頼む、これは蓮季のためでもあるんだ」

 

 少しの間、静寂が走ると、

「わかった、あんなデブにストーカーをされたくないしね。そのかわりこちらも条件を出してもいいよね」

「ああ、何だ?」

「今週三連休があるよね。その三日間、実家に泊まりに来て。それで彼女みたいに甘えさせてもらうから」

 

「……わっ、わかった。いいぞ(甘えさせてもらうだと……こいつ俺に一体なにをさせる気だ)」

 

 しょうがなく蓮季の条件を呑むことにした。

 

「それじゃ契約成立ね。明日お兄ちゃんの学校に着いたら連絡する」

 

 そう言って通話が切れた。

 

 まさかの条件付きになってしまったが、なんとか蓮季を丸め込むことができた。桜井玉砕計画という企画を楽しみに思いながら明日を待つ浩太であった。

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