第7話 お見送り
昼食を終えた
「久々に浩太が実家に戻ってきたから死んだ母さんも喜んでいるぞ」
父親も和室に来て浩太の隣に腰を下ろす。
「喜びよりも勉強しろ、とあの世でガミガミ言ってそうだけどね」
「確かに口うるさい母さんだったけど浩太のこと世界で二番目に愛していたぞ」
「そこは二番目じゃなくて一番目だろ」
「なに言っている一番愛されていたのはこの俺だ」
「あっそ」
自慢げな表情をする父親を見て浩太は呆れてしまう。
今の母親もそうだが男らしいところが一つも無い父親を好きになるのが不思議でしょうがなく、新しい母親に訊いてみたいと思った。
「今日は泊まるのか?」
「いや、夜に友達と遊ぶ約束があるから夕方には帰る予定だよ」
「なら夕飯ぐらい食べていけ、
「あいつ余計な事を……」
「浩太のことをいつも気遣ってくれてるんだぞ、あんな優しい妹ができて良かったな」
「優しいを通り越して、いき過ぎてる感じがするんだが……」
昨日蓮季の行動を見れば兄に対しての束縛が強すぎる感じがし、今日だって母親の
「昔から兄が欲しかったて紀香から聞いていたからな迷惑を掛けるかも知れないが蓮季ちゃんと仲良くやってくれ」
「迷惑なんてしてないから心配するなよ親父、――俺ちょっと自室で休んでくるよ」
「あっ浩太の部屋は――」
父親の言葉を聞かずに浩太は和室から出て二階の昔使っていた自室へと向かった。
部屋のドアを開けると浩太は、目を疑うような光景にビックリしてしまう。
「あっ、お兄ちゃんどうしたの? もしかして私と添い寝したいの、いいよ。早くこっちにおいでよ」
昔浩太の使っていたベッドに蓮季が横たわっており、手招きで浩太を誘っている。
「すまんな、浩太。今はこの部屋は蓮季ちゃんが使っているんだ」
「……じゃあ、俺どこで休めばいいんだ」
「スマンが蓮季ちゃんと一緒に我慢してこの部屋を使ってくれないか」
「イヤだよ! せめて親父の部屋で寝かせてくれ」
蓮季に指を差して父親に話した。飢えた獅子の前にウサギを放つみたいに蓮季と二人きりは非常に身の危険を浩太はしてしまう。ちなみに獅子はもちろん浩太ではなく蓮季のことだ。
浩太が拒否すると無論蓮季は反発をする。
「お兄ちゃんは私の部屋で仲良く二人でいるの! お父さんの部屋に行くのはダメ!」
「ここは俺の部屋で蓮季の部屋じゃないだろ! 親父だって男女二人きりで部屋にいるのは反対だろ?」
「いや、俺は構わないぞ。それに浩太は妹を襲うようなやつでもないし、別に仲良く二人でいてもいいんじゃないか」
「むしろ俺が襲われるんだよっ!」
「まさか、蓮季ちゃんが浩太を襲うわけないだろ。――そうだよね蓮季ちゃん」
「もちろんだよ、お父さん。私がお兄ちゃんを襲うわけないでしょ」
「俺、親父の部屋で寝てくるから」
「ちょっとお兄――」
浩太は部屋のドアを閉めて父親の部屋へと向かった。
父親の部屋のドアを開けると少し模様替えをされている。昔は布団が敷いてあったが、いつの間にか大きいダブルベッドに変わっていたので浩太はダブルベッドに横たわると身体が気持ちよく沈む低反発マットが心地のいい気分になり、そのまま寝付いてしまう。
しばらく
まだ浩太が六歳だった頃、高熱を出して布団で横になっていると母親が看病してくれた懐かしい思い出を夢の中で蘇る。
またあの頃に戻りたい気持ちが強く感じていると母親に看病されている光景が徐々に消えていき、やがて夢から覚めてしまい浩太はゆっくりと瞼を開くと亡くなった母親らしき人物が浩太の寝顔を眺めていた。
視界もぼやけ、寝ぼけてもいたのでついつい母親が生き返ったのだと思い込んでしまった浩太は、その母親らしき人物の袖を手で掴む。
「……母さん……行かないで」
「あらあら」
寝顔を眺めていた紀香を亡くなった母親だと勘違いしてる浩太の頭を優しく撫でて浩太は安心したかのように再び寝息に入っていく。
それから浩太は気持ちよく眠りから目覚めると隣で紀香が寝ている事に気付く。
「どうしてここに紀香さんが寝ているんだ…………」
目の疑うような光景に悩まされている浩太に、
「おはようお兄ちゃん。お母さんの
「……蓮季……どうしてここに?」
そこには
「私との添い寝はあんなに嫌がっていたのに、お母さんとの添い寝はするんだね」
「これは違うんだ。勝手に紀香さんが隣で――」
〈言い訳は聞きたくない! お兄ちゃんの大馬鹿者!!〉
この後、こっぴどく蓮季に二時間にも及ぶ説教を浩太は正座をして受けるのであった。
☆
夕食も終え一段落した浩太はアパートに帰ることにした。
「ご飯ごちそうさま。俺そろそろ帰るよ」
「ん、もう帰るのか? まだ、ゆっくりしていけばいいのに」
「そうよ。なんなら今夜泊まっていってもいいのよ。そしたらまた一緒に寝てあげるわよ」
「いいや。遠慮しときます!」
一瞬蓮季は浩太にひと睨みし、慌てて浩太は手を左右に振り、紀香の言ったことを断った。
寂しそうな眼差しで浩太を見つめる蓮季は、
「お兄ちゃん今日は帰らないでしばらく泊まって行ってよ――いやむしろ永遠にここにいて」
帰って欲しくない気持ちは嬉しいが、蓮季のいる実家で泊まるとなると日々身の危険に
「今日、友人との用事があるからもう帰らないと、次の三連休にまた顔を出すよ」
「それなら仕方ないな。気をつけて帰るんだぞ」
「また顔を見せてね」
父親と紀香は、手を振り玄関前で浩太を見送る。
「わかった。じゃあね」
「お母さん、お父さん、行ってきます」
「…………ちょっと待て、どうして蓮季も俺のアパートに向かう気満々なの?」
「もう、早くしないと電車に乗り遅れるよ! お兄ちゃん」
「いや遅れるも何も、何で付いてこようとするの?」
「お兄ちゃんを一人にさせるわけには行かないでしょっ!」
腰に手を当て言う蓮季に額に手を当てて浩太はため息を吐く。
「今日はダメだ。さっきも言ったように、友達との用事があるから」
「イヤッ!」
食べ物を詰めたリスのように、頬をぷくぷくに膨らませ蓮季はそっぽを向く。
「まったく聞き分けのない子だな……」
「蓮季。浩太君に迷惑かけないの! 嫌われたくないなら大人しく家にいなさい」
「……だって……」
言う事を聞かない蓮季に、眉をキリリとつり上げて紀香は話す。
「あっそ、お母さんの言う事をきかないならいいわ。浩太君に言いふらしてもいいのかしら昔の――」
「わかった。今日は家に大人しく待ってる!」
落ち着きのない蓮季の言動に浩太は気になってしょうがない。
蓮季は母親になにか弱点を握られているみたいだ。その弱点をここで紀香に教えてもらえれば、今後蓮季をコントロール出来るんじゃないかと悪知恵を考えてしまう。
「あの、蓮季は俺に何か隠しているんですか? それに最初に紀香さんに会ったときも、何か蓮季が俺のことを言っていたと訊いたので」
「それはいずれ本人が言うわ」
紀香の台詞が気になるが、話してくれないと思い無理に追求せず浩太は自宅を後にした。
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