第3話 妹はサディスト!?

 新しく家族になった妹の蓮季はすきと一緒にアパートから徒歩十分の所にあるスーパー有田に昼食と夕食の材料を買いに出かけるの事になった。

 生まれて初めての年の近い女性と買い物に出かけるのに浩太こうたは少し嬉しかった、これが彼女だったら嬉しさが何十倍にもなる。


「なあ、俺と歩いてイヤじゃないか」

「何で? わたしはむしろお兄ちゃんと一緒にお出かけするのは楽しいよ」


 頬を赤らめながら蓮季は笑みを浮かべている姿に浩太も少し照れてしまう。今まで女性に笑顔でそばにいて楽しい、と言われた事は初めて言われたからだ。


「そ、そうか、ならいいんだ」


 もしここが学校の校舎内だったらきっと、すれ違った生徒たちから怪訝けげんそうな視線を浩太にぶつけてくるに違いない。


「お兄ちゃんさあ、さっきからわたしに気を遣いすぎてない。私たち今日から家族になるんだよ。気を遣わずに暮らしていこうよ」


 正直なところ浩太は学校の男子生徒や女子生徒全員に恐怖を抱かれており、自分自身の顔がとてもコンプレックスになっていた。そのため蓮季も無理して付き合っているんじゃないかと気を遣っていたのだ。

 だが、蓮季は他の女性とは違く、本当に浩太のことを怖からず心を開いてくれているとわかった。


「そうだな。俺たちは今日から家族になるんだから、お互いちゃんと言い合えるような、仲の良い兄妹になろうな」


 蓮季の天使みたいな笑顔を見ると安心しんする。浩太が近づくと学生達はライオンに睨まれた小動物みたいに、ビクビク震えて逃げ出すので蓮季も内心恐れているんじゃないかなと思ったが、アパートでの言動をや行動を考えるとその心配はないなと思った。

 民家が転々と並ぶアスファルト通りを蓮季と歩くと、目の前に黄色く塗られた四角い看板に、赤く有田という文字がデカデカと書かれている年季の入った小綺麗なスーパー有田に到着した。

 店内は子連れの主婦やお年寄りなどが買い物をしていて、大手スーパーの品揃えには劣るがそこそこ充実はしている。


「今日は何を作るんだ?」

「時間も中途半端だし、カレーにでもしようかな」

「おっ、いいね」


 母親が死んでからの浩太の食生活は毎日コンビニの弁当やカップラーメンばかりで過ごしていたため、家族に料理を作れる人物がいると、とても頼もしい事だ。

浩太の持っているカゴに蓮季は考えずにポンポン入れている姿を見て、何を作るのかもう決めているのだと感心してしまう。


「お兄ちゃんカゴ持ち変わろうか?」

「力を使う作業は男の俺に任せろ」

「さすが、お兄ちゃん、頼もしい。大好き」


 照れながらレジに進みお会計を払い、買い物を終わらせて店の外に出た。

 二人で会話しながら歩いていると突然、聞き覚えのある声が背後から聞こえてくる。


「おい浩太!」

(この声は……桜井さくらい先輩!?)


 ジャイ○ンみたいに登場したこの人物は、いつも浩太に喧嘩を吹っかけてくる高校の先輩、桜井剛さくらいつよしが背後から現れた。


「桜井先輩、何の用ですか?」

「テメェをブチのめす以外に用はねえよ」

「今あなたの相手をする気は無いのでお引き取りしてもらえませんかね?(場所をわきまえろよ、この豚)」


 桜井は拳の関節をポキポキ鳴らしながら、こちらに近づいてくる。

 さすがに蓮季のいる前で暴力沙汰は起こせないので桜井と喧嘩はせずに穏便にことを済ませたいと浩太は思っていた。


「何だと、おまえなに眠たいこと言っているんだよ、俺とタイマン張りたくないなら全裸で土下座しな」

「ぜ、全裸!?」

 なぜかわからないが、蓮季は急に顔を真っ赤にさせハァハァ、と息を荒くし桜井の言葉に食いついてきた。


「先輩いい加減にしてください。こっちはあなたの相手をしたくないんですよ」

「なに弱気な事を言っているんだよ!」


 困っている表情をした浩太を見た蓮季は急につかつかと桜井の前に両手を広げ、仁王立ちをしだした。


「わたしのお兄ちゃんに手を出さないで!」


 蓮季が桜井に食ってかかった姿を浩太は見て背筋が凍ってしまう。


「バカッ! 勝手な行動しやがって! おい桜井てめぇ、妹に手出したら殺すぞ」


 浩太はレジ袋を置いていつでも蓮季を助けられるように身構える。


「おまえ名前は?」


 桜井は鋭い視線で蓮季を睨む。


「先に名乗るのが筋じゃないの!」


 蓮季も負けないぐらい桜井を睨み返す。


「俺は桜井剛だ」

「わたしは小泉蓮季こいずみはすき。そこにいる小泉浩太こいずみこうたの妹だよ」

「と言う事は浩太の彼女じゃないということでいいんだな」

「かっ彼女! そういう風に見えるの!?」


 チンアナゴのようなクネクネにし急に喜びだす

蓮季に一瞬桜井はたじろぐが、すぐ元に戻る。


「一緒にいるからついそう捕らえてしまったのだが……」

「当たり前だろこの子は俺の彼女じゃないに決まってるだろ」

「それどういうつもり!」


 急に蓮季は眉をつり上げて怒りの矛先を浩太に変えた。


「だって、本当の事だろ――急に怒りだしてどうしたんだ蓮季?」


 急にふくれっ面になる蓮季を落ち着かせようと必死に浩太はなだめた。


「別に何でもない」

「まあ、とにかく浩太の彼女じゃないって事だな」

「だったら、何だっていうのよ!」


 桜井は蓮季に威嚇いかくしながら顔を近づけるが、蓮季は眉一つ動かさずびくともしない。かなりの肝っ玉だ。

 突然、桜井の目が吊り目から垂れ目に変わり頬を真っ赤に染め上げ、衝撃の言葉を言い放つ。


「……おまえ……かわいいなあ。俺と付き合わないか?」

「…へっ? 告白?」


 あまりの衝撃に浩太は拍子を抜けて目を丸くする。

 さすがの桜井も女性には手を出さなかったが、まさか蓮季に恋を抱くなんて予想外。それに蓮季の見た目はかなりの美女だから桜井が惚れるのにも納得がいく。


「はっきり言って無理です」

「だよね~」


 断った蓮季を見て、浩太は当然の結果に納得していた。

 桜井は岩石がんせきが崩れ落ちるように倒れてしまう。


「ど、どうしてダメなんだ。蓮季ちゃんの言う事なら何でも聞いてやるぞ!」

「気安く名前を呼ばないでこの豚がっ!」


 崩れ落ちている桜井の背中に足を乗せて、罵声を浴びせる蓮季の姿は、まるでSM嬢そのもの。


「蓮季ちゃんに豚と言われても俺は構わない! だから付き合って!」

「イヤだって言っているでしょ、この家畜がっ!」

「今度は家畜呼ばわり!」


 蓮季のあまりにも暴言についつい浩太はツッコミを入れてしまった。


「せめて奴隷でも!」

「豚を奴隷にする人間がいると思う? あんたは養豚場で人間様の餌になるのを怯えながら暮らすほうが、お似合いよ」


 今度は桜井の後頭部を、足のかかとでグリグリと押しつける。

 公共の面前で、その行動はやり過ぎだと思った浩太は、蓮季の行動に身が引けてしまう。


「また、お兄ちゃんを傷つけるようなことをしたら許さないんだから! わかったら早くここから消え失せて!」

「わかった。でも俺、諦めないから」


 桜井は、全速力で去っていった。


「言葉の暴力で、桜井先輩を倒すなんて……。もし俺が桜井先輩だったら、今頃自殺してるねきっと」


 蓮季の恐ろしさを身にしみる浩太だった。


「お兄ちゃん。さっきの人は誰なの?」


 一瞬ビックと背筋が伸びる。今まで浩太をビビらせた人物なんてただ一人しかいなかったのに、まさか年下の少女にビビってしまうとは浩太は思いも寄らなかった。


「えっと、俺の一学年上の先輩かな」

「町中で絡まれるなんて、物騒で怖いね」


 正直桜井の乱入よりも蓮季の性格の方に恐怖を抱いてしまう。それなのに当の本人はいかにもか弱いフリを浩太に見せる姿にある意味天然かと思ってしまう。


「……ああ、そうだな。早く家に帰ろうか」

「そうだね」



 ドSの妹とビクビクしながら浩太はアパートに帰って行くのだった。

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