第2話 母親の連れ子参上!

 快晴の土曜日の朝、浩太は寝息についているとドアチャイムが部屋中に鳴り響いた。

 祝日の為まだゆっくり眠たい気持ちが強く、そのままシカトしていると、またチャイムが鳴り響く。何度も何度も鳴り響き、さすがに心が折れたのか、浩太こうたは重そうに身体をお越し、寝間着姿のまま玄関のドアを開けた。


「……だれ?」


 キツい形相ぎょうそうでドアを開けると目の前には歳の近い茶髪にサイドテールのヘアスタイルの美少女が立っていた。

 顔は綺麗に整い、大きい胸のせいで、ピンク色でVネックのカーディガンがはち切れそうになるほどの巨乳、しかも丈が短いミニスカートを穿いた衣装についつい釘付けになってしまう。

 豊満な胸に目を一点集中していると、

「あの……、あなたは小泉浩太こいずみこうたさんですか?」


 謎の美少女は少し挙動不審きょどうふしんながら、上目うわめ使いでこちらを伺う。それもそのはずこんな顔面凶器をした少年にビビるのは当然だ。

 興奮する気持ちを抑えつけ、何食わない顔で浩太は喋る。


「そ、そうだけど、あんたは誰?」


 ホッとした美少女は『よかった』と安心し胸をなで下ろした。


「初めまして、わたしはあなたの妹になる小泉蓮季こいずみはすきと申します。これからよろしくね、お兄ちゃん」

「……こいずみ? お兄ちゃん?」


 この美少女の言葉に浩太の頭は錯乱さくらんしてしまう。

 何処かの浩太に因縁がある不良が少女を自分の部屋に送り込んで何かのトラップを仕込まれたんじゃないかと疑う。

 ここは適当にあしらって帰らせようと試みる。


「あの、何か勘違いしているんじゃない? それに俺に妹なんていないよ。それじゃさようなら〜」

「えっ! ちょっと待って! じゃあ、ここに同姓同名の男性って住んでいるんですか?」


 オドオドしながら蓮季は、慌てふためいている。そんな姿を見て浩太は少し愛らしく思えた。


「いや、いないぞ……多分」


 安心したかのように、蓮季は豊満な胸に手を当てて安堵した。


「わたしのお母さんとあなたのお父さんが再婚した事は知っていますよね」


 その言葉に一瞬、浩太の脳裏に鋭い電気が流れ出した。


「もしかして親父の再婚相手の連れ子って……あんたのことか!?」

「はい」


 にっこりと笑う蓮季に動揺した。なぜなら兄弟ができたって言ったから、てっきり弟かと思っていたはずが、まさか妹で、しかもこんな美少女だなんて浩太は思いもよらなかった。

 警戒心解いた浩太は、このまま蓮季を玄関の外に立たせるのも悪いと思い、部屋に上がらせることにした。


「適当に座ってくれ、今飲み物を出すから」

「お構いなく」

「遠慮しなくていいよ。それともう家族なんだから敬語とかは使わなくていいぞ」

「わかった、お兄ちゃん」

「それと歳近そうに見えるんだけど」

「十五歳で高校一年生です」


 どうやらこの蓮季という人物は、浩太の一つ歳下らしい。

 浩太は冷蔵庫から、キンキンに冷えたオレンジジュースの五百㎖ペットボトルを二つ取り出し、蓮季に一つ差し出し、座布団に腰を下ろし話の続きを始めた。


「明日、実家に顔を出すはずだったんだけど、まさか妹と名乗る子が今日俺の住んでいるアパートに訪れるからびっくりしたぞ」

「わたし明日まで待てなくて我慢できずに来ちゃった」


 絶対蓮季の内心は、こんな人相が悪い兄だと知って幻滅しているだろうと浩太は思いながらオレンジジュースを喉音を鳴らしながら飲んだ。


「そうか。それで俺に会えてどう思った?」


 言うかどうか迷っていたが、意を決して浩太は恐る恐る訪ねてみる。


「とても男らしい感じで……かっこにゅい……かっこいいです」


 噛んだ瞬間、蓮季の恥ずかしいそうな表情についつい見惚れてしまう。


「可愛い妹にそう言われるとうれしいよ。ありがとな蓮季」


 蓮季は頬を赤く染め上げて顔を俯いてしまう。


「そ、そうだお兄ちゃん。朝食はもう食べた?」

「まだだけど?」

「だったら私が朝食を作ってあげる」

「いやでも……冷蔵庫の中は――」


 蓮季は立ち上がり冷蔵庫のドアを開き確認すると、飲み物とドレッシング以外はもぬけの殻だった。


「……お兄ちゃん。今までどんな食事を取っていたの?」


 冷蔵庫の中身が空なのを知り、浩太がどういう生活を送ってきたか、興味が湧いたらしい。


「カップラーメンを……食っている」


 浩太は冷蔵庫の隣にある、大きめの三つ重なっている段ボール箱を浩太は指で差す。

 蓮季はその段ボールの中を覗くと、カップラーメンがぎっしり詰まっていた。


「こんな生活じゃあ、身体を壊すよ!」


 初めて顔を合わせた妹に、叱られるとは兄である立場がなくなる。


「まあ、俺の内蔵は鋼でできているからな。ちょっとやそっとじゃ壊れない」


 自信に満ちた顔で話す浩太に、蓮季は呆れ顔になる。


「今は良くても歳を取ったら、間違いなく身体を壊すよ。ちゃんと栄養バランスを考えて食事をしてね!」


 正論過ぎる蓮季に浩太は肩をすくめた。


「そうだな。蓮季の言うとおりだ」


 蓮季は腰に手を当て豊満な胸を強調しながら、

「わかった。今日から毎日、お兄ちゃんに食事を作ってあげる」

「いや、幾ら何でもそれは悪いよ。それに実家からここまで料理を作りに通うとなると時間がかかるぞ」

「住み込みで」

「いや、さすがに男女二人の共同生活って問題ありすぎるだろ」

「大丈夫。きっと両親も納得するよ」

「いや、俺が納得しないわっ!」


 だんだん蓮季の言動がおかしい方向になっている。

 こんな可愛い少女と今後一緒に暮らしたきっと兄妹の一線を越えてしまい、すぐに家庭崩壊するに違いない。今だって目の前の蓮季に夢中になり押し倒したいと思う野獣のような気持ちを意地で抑えつけているのだから。


「とにかく俺のことを心配してくれるのはうれしいが、住み込みまでして俺の面倒なんて見る必要はない。それに俺は一人の方が気楽でいいんだ」

「そんなのダメ! お兄ちゃんを一人だけにしておくと、取り返しがつかないダメ人間まっしぐらになるかもしれないから!」

「近い近い! もっと離れろ!」


 前屈みで寄って説得する蓮季に対して恍太は目のやり場に困っていた。何故なら前屈みで寄ってくるせいでVネックの隙間からふくよかな胸の谷間が見えているからだ。

 理性が残っているうちに近距離の蓮季を両手で押しのける。


「まあ、着替えや荷物も持ってきていないから今日は泊まらないけど、終電までにはここにいるからね」


 床にふんづりかえる蓮季を見て何を言ってもダメだと確信した浩太は嘆息する。


「……わかった。夜までいていい」


 しょうがなく夜まで居座ることを承諾した。


「それじゃ、お兄ちゃん。一緒に食材の買い出しにい行こう」

「えっ、今から行くの面倒くさい」

「か弱い女の子を一人で行かせるき!」


 両手でテーブルを叩き、まるでチワワが威嚇いかくし相手を威圧するような目を浩太に向ける。


「今日、実家からここまで来たやつが何を言うか」

「もういい、わかった。買い物途中、変質者にその場で犯されても平気でいられるようなお兄ちゃんに来てもらう必要はない!」


 出会って早々に卑猥ひわい発言をする義妹の蓮季の性格を疑ってしまう。


「人の出入りが激しい朝方に、その場で少女を犯す変質者がいるわけないだろ」

「そんなのわからないよ。お母さんから男は皆オオカミだと、幼いころから言われてきたんだから」

「そしたら、俺はどうなるんだ。俺も一応男だから襲うかもしれないぞ」


 現に今の浩太は蓮季の美貌びぼうに精神が誘惑ゆうわくされ襲いそうな気持ちを必死に抑ているのだから。


「お兄ちゃんは別だよ。それに他の男性に犯されるなら、お兄ちゃんに犯されたほうがいいに決まっている!」

「よくないだろう! 家庭崩壊させる気か!」


 変態素質のある蓮季に振り回され、浩太は困惑する頭を抱え、うな垂れる。


「それじゃあ、女子高生という三年期間の限定ブランドを持っている私が、欲望でまみれた男性たちに強姦されているほうがお兄ちゃんはいいの!?」

「何で犯される前提で言うんだっ! それと女性が強姦という言葉を使うなっ! この被害妄想の塊がっ!」


 蓮季の頭のネジが何本か緩んでいることがわかった。この先この過激な妄想をする妹に手を妬かされると思うと肩の荷が重くなるようだ。


「わたしは被害妄想なんかしていない! 常に頭で犯されるシミュレーションを思い浮かべているだけだよ!」

「それを被害妄想って言うんだ!」

「妄想だったら、お兄ちゃんとの妄想は毎日欠かさずしていたよ」

「どういう妄想をしていたんだ!?」


 モジモジしながら頬を赤く染める蓮季の姿を見て、浩太は何か危険な香りがだだ寄ってくると感じた。


「わたしの妄想を知りたがるなんて、お兄ちゃんの……変態さん」

「変な妄想をしているいお前に言われたくねぇよ!」

「もう、お兄ちゃんのムッツリ」

「……もういい、らちがあかない。もうわかったからスーパーまで一緒に着いていってやるよ」

「やった! ありがとう。お兄ちゃん。愛してる」


 部屋に蓮季を招き入れた事に失敗した、と浩太は後悔してしまう。

 頭のネジが数本どころか全部掛け落ちている蓮季とこのまま会話していても時間の無駄だと思った浩太は仕方なく一緒に買い物を付き合うことにした。

 初めてあったばかりの浩太にどうしてここまでお節介をするのか疑問に思っていた。普通だったらこんな人相悪い俺を見たら恐怖で逃げると思うはず。

 浩太は疑問に思った事を蓮季にぶつけてみる。


「なあ、ひょっとして


 普段女子生徒に怖がられている人相の浩太を見て、何とも思わず平気に会話が出来る蓮季に以前どこかで出会っているのかと疑問を抱いていた。

 蓮季はびっくりして驚きの表情を見せた。


「え~と、今日会うのが初めてだよ」

「そうか。おまえが俺に親近感がありそうな感じがしたから、昔会ったことがあるのかなと思って……別にないならいいや」


 急に激しく瞬きをし、目をキョロキョロと怪しい挙動する蓮季を問い詰めようと思ったのだが、出会ったばかりだし何か深い事情もあると思った浩太は、余り追求をするのも悪いと感じ、この話しをやめた。


「――早く行こう。お腹をすく前に」

「外食でも構わないぞ」

「わたしがお兄ちゃんのために料理を作りたいの!」

「わかった。行くか」

 

 浩太は身支度をし、蓮季と買い物に行く事にした。

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