第9話 MM部へようこそ! その9
浩一郎から告げられた話に誰しもが口を紡ぎ声を出すことができなかった。
理解できる内容では無い事も沈黙の原因だっただがそれ以上に小森 茜という人物が自分の命を人質にしてまでも恋人を使って己の破滅願望を満たしてくる危険人物だったことが一番の驚きで虫の音も聞こえない程の静かな空間を作り出している原因だった。
「じゃあさっき手遅れって言っていたのは……。」
「もう諦めて自殺するんじゃないかって……。」
「じ、自殺って本当にそんな……ただの脅しとかじゃ無いんですか……?」
いざ死のうとして本当に死ねるのはごく限られている。一時自殺を考えるが実際に命を絶とうと実行しても体が竦んで動けなくなり未遂で終わる人の方が多い。
小森もその多い方の人だと思いたかった蓮華の憶測は浩一郎によって否定された。
「脅しなわけないだろう!?小森さんは自殺するっていったら本気でするよ!あの目は全部諦めてて……死んでもいいってそんな目だったんだ!」
「浩一郎君まずは落ち着いて、今彼女には私達の仲間が付いてるからすぐに自殺なんかできないよ。それに今日は隣町まで買い物に行ってるそうだよ。」
菫は大切なモノを失う焦燥感に駆られている浩一郎の肩に手を置き宥めるが、手から伝わる震えは止まらず焦りが零れていた。
「菫先輩の言うとおり小森さんを一人にさせないように二手に分かれて向こうには楓と紅葉がいる……から……、っておいおい待てよ!?もし小森さんが全部バレたと気が付いていたとしたら楓と紅葉が危ない!」
「今日に限って隣町まで行ってるのも気になるね。悠莉くんここは任せて急いで後を追いかけるんだ。」
菫が浩一郎を宥めている間に悠莉は胸に嫌な予感を抱えながら小森と一緒にいる楓と紅葉の元へと駆け出した。
「すいませんお願いします!蓮華も来い!取り押さえるなら頭数が欲しい!」
「了解です!菫先輩後はお任せします!」
小森の正体がわかった以上危険な状態にいるのは現状側にいる楓と紅葉になる。確証は無くただの嫌な予想だが、もし小森がすでに自分の正体を知られていると気付いていたのなら、あんな危険人物が次にどんな行動に出てくるか読めない。
しかも今日に限って隣町まで買い物に行っていることが悠莉の不安を加速させ頭はどんどんと嫌な考えの方ばかり考え始めてきた。悠莉はその大きく膨れ上がってくる不安を燃料に、すぐにでも楓と紅葉の下へ駆けつけるため階段を使って降りる時間を惜しみ屋上のフェンスを跳び越えそのまま屋上から飛び降りた。
屋上から飛び降り落下している最中の悠莉には地面が感じたことの無い速さで迫ってくるが楓達が危険な状態に比べたら今の自分の危機など大したことなくそれに悠莉には日頃最高の状態に仕上げている筋肉達がいた。
悠莉は自分の筋肉を信じ校舎3階辺りを落下している最中に教室の窓の縁を右手で掴むと強烈な付加が右の手・肘・肩を襲ってきたが筋肉達から『大丈夫まだいける、でも2回目は無理』と声が聞こえ痛みを我慢しながらも少し落下速度を減速させられた。
そしてすぐさま校舎2階に差し掛かり、先ほど使った右手には痺れが残って2回目は耐えきれないと言われているため、右がダメなら左手でいくだけだと今度は左手を準備もう一度教室の窓の縁を左手で掴むと右腕に喰らった痛みと同じ痛みが襲い掛かり激痛に顔を歪めながらも筋肉達の声を聞き『厳しいからもう無理かな』と言われたが落下速度を減速させるのには成功した。
だがまだ最後の着地が残っており両腕の筋肉達はすでに限界を迎えているため掴んでの減速はできない。落下速度は両腕の筋肉達のおかげで2回減速に成功していたが無事に着地するにはまだ勢いがあるため最後にもう一度減速させる必要がある。
両腕の筋肉達は使えない、ならば別の筋肉を使うまでと悠莉は落下が1階に差し掛かると教室の窓の縁を斜め前に蹴り上げて衝撃を真下にするのではなく少し斜めにズラすことで衝撃を和らげそのまま残りの衝撃を殺すように体全身を捻りながら地面に転がり屋上からの着地を決めた。
屋上には飛び降りていった悠莉の様子を慌ててフェンス越しに見ていた蓮華達に悠莉は無事を伝えるように握りこぶしを挙げ、悠莉の屋上落下に野次馬ができておりその野次馬達からも拳が挙がるのと同時に拍手があがった。
拍手の渦にいる悠莉は拳を挙げたまま屋上にいる蓮華に向かい大きな声で先に行くことを伝え校門に向けて全速力で走り出した。
「先に行ってるぞ!後から追いついてこい!」
「わかりましたー!私もすぐに飛び降りまーす!………ってできるかぁ!?!?あの人ホント何やってるんですか!?ここ屋上ですよね!?命綱も無いのに平然と飛び降りましたよ!?バカでしょ!」
蓮華はフェンスから飛び降りていった悠莉の後を追うようにフェンスに近寄り、真下にあるグランドをのぞき込みノリツッコミを入れた。
「は、はは、今のは流石に驚いたね……。相変わらずやることが斜め上を突き抜けてるね。」
「驚いて腰抜けたんですけど……もうホントなに考えてるのあの人……。」
校門から走って出て行く悠莉の後ろ姿が数秒で小さくなっていき、その姿が消えた後に蓮華はフェンスにもたれ腰を抜かした。
「今更でもあるけどね。どれだけ自分の筋肉を過信しているんだろうか……まあ屋上から落下しても平気って思い知らされたけど……。」
「ああー……部長に付いていくなら命が何個あっても足りないですよ。」
「無理にあんなインチキ筋肉に付いていかなくても良い気がするけどね。」
悠莉の突拍子も無い紐無しバンジーに蓮華は腰を抜かしてフェンスに体を預け寄りかかって姿勢を保ち、いつも冷静でいる菫でさえ屋上からの紐無しバンジーを躊躇無く始めてあげく成功させた悠莉に呆気をとられていた。
悠莉の行動自体は悠莉がわかりやすい性格のため考えも単純で読みやすいが、時折今のような危険を類に見ない狂行に走ることがあり周囲を置いてけぼりにする事がある。
蓮華と菫はまだ部活で一緒にいて悠莉が時折狂行に走ることがあるという事前情報があるため今回の紐無しバンジーには驚きはしたものの悠莉ならやりかねると納得できていたが、何も知らない浩一郎とその友人は今だに状況を飲み込めず開いた口が塞がっていなかった。
「え、飛び降り、え、え?」
「落ちてった、真っ逆さまに、落ちてった……。」
「句を詠むんじゃ無いよ。確かに紐無しバンジーには驚いたけど部長だったらやりかねないしね。うん、馴れだよ馴れ!馴れれば何でも大丈夫!」
「まあ悠莉くんなら屋上から落ちたところで大丈夫だろう……ってそう思ってしまうことがすでに悠莉くんに毒されているよね。」
「そうですねぇー、部長の狂行にはもう馴れちゃいましたからね。あ、私動けるようになったらすぐ行きますので。」
「よろしくお願いするよ。回復するまでゆっくり待っていようか。」
状況に取り残された二人のフォローをしつつ蓮華は腰が抜けて力が入らない足を睨みつけるがそれで動いてくれる筈も無く徒労に終わり深く息を吐きながら空を扇ぎ早く悠莉に追いついて楓と紅葉を助けないといけないという気持ちが焦りを生み出していたが蓮華は楓と紅葉の事を考えながらある疑問が出てきた。
「そういえば菫先輩から隣町に行ってるって聞いて、部長は隣町ってだけでどこ探すつもり何ですかね?」
「……ま、まあ何とかなるんじゃないかな?」
空気が固まり菫は蓮華から目をそらした。
「え?ちょっと菫先輩?菫先輩は今日隣町に行ってるって知ってたんですよね。どこに行くかまでは聞いてないんですか?」
「きっと連絡があると思うよ……多分。」
「ちょっと!小声で多分なんて付け加えないで下さいよ!ええ!?じゃあ部長闇雲に探し回るって事ですか!?」
「なにかあったら連絡をよこすだろうから大丈夫大丈夫。」
「慰めるんならせめて目を合わせて下さいよー!」
蓮華の疑問に目線を逸らしハッキリしない態度になっている菫に行き先が不明だということに再び焦りが生じてきたが、ここで無闇に走り出して探しても見つけるのは厳しいだけで悠莉の二の舞になるのがオチだと思い菫の言うとおり回復しても連絡があるまで待機する事に決めた。
そして、その疑問に気付かないまま行き先が隣町とだけ聞いて文字通り飛び降りていった悠莉は案の迷子になっていた。
「隣町にいるって……それだけじゃわかんないだろー!」
夕日も沈み掛け帰宅するサラリーマン達が見え始める住宅街で楓と紅葉がどこにいるかわからないまま飛び降りてきた悠莉は勢いだけの行動を否絞めるように夕暮れの住宅街で叫び声をあげていた。
菫から隣町に来ていると聞き屋上から飛び降りその際に痛めた両腕の筋肉の痛みに耐えながらもここまで走ってきたが、隣町まで着いたときに肝心の場所を聞き忘れていたため町中を走り回る羽目になっていた。
隣町に対して土地勘など無く手当たり次第闇雲に走り回り裏道に入っては住宅街に戻り、また裏道に入ってはまた住宅街に戻ってくる繰り返しで体力も尽き始め最後にもう一度裏道に入って辿り着いた先が住宅街で疲労がピークに達して足を止めた。
肩で大きく呼吸をしながらどうにか二人を見つける方法を考えると自分のポケットにスマホを入れていたのを思い出し、居場所がわからないなら連絡を取って居場所を教えて貰えばいい当たり前の事を忘れていた。
思い立ったが吉と制服のポケットからスマホを取り出し電話帳を開くと楓の名前を呼び出しそのまま通話ボタンを押すとコール音がスマホから鳴り響いた。
一回一回のコール音が長く感じ呼び出しが続いている間落ち着いてられなく意味も無く周りを動き出しコール音重なる毎に悠莉の焦りも増していた。
なかなか電話に出てこないで同じコール音だけが何度も悠莉の焦りを煽るように鳴り続け、悠莉の不安はすでに二人に何かあったのか、もう手遅れだったのか悪い予感ばかりを見せてきた。
その不安から焦燥感と怒りが出てくると悠莉は頭を搔きむしり焦りと不安を紛らわすため近くの石垣を殴りかかろうと左手を挙げるとスマホからコール音が消えようやく待ち人と繋がった。
「無事か楓!?お前達今どこにいる!?」
『そんな大声で急にどうしたのよ。今隣町のショッピングモールで小森さんの買い物に付き合ってるわよ。んで今ようやくその買い物が終わってショッピングモールを出るところよ。』
「ショッピングモールだな!?俺が行くまでそこから動くなよ!あと小森さんをそこから移動させないように食い止めててくれ!頼むぞ!」
『え、ええ、いいけど本当にどうしたのよ…。はぁ、こっちに来たらちゃんと説明しなさいよ?』
「ああ説明する!今から行くから頼んだぞ!」
悠莉は最後に吐き捨てるように言うと楓からの返事を待たずすぐにスマホを切り急いで楓達がいるショッピングモールへ駆け出していた。
ここからショッピングモールまで徒歩10分圏内にあり走れば5、6分で着くことができるが悠莉はその数分間が別れ道になってしまう事を恐れ、屋上からの飛び降りに隣町町内マラソンで普段鍛えていても体力と身体に限界はあり悠莉の体はすでに限界に近かった。
身体中の筋肉達からも息苦しそうに野太い悲鳴が耳から入って頭を叩きつけるが最後の力を振り絞り悲鳴を上げている筋肉達に鞭を打ちショッピングモールまで二人が無事でいることを祈りながら走り続けた。
悠莉から電話を受け最後に挨拶をしようとしたら勢い良く電話を切られ眉をひそめながらあからさまに不機嫌になっていた楓は電話がかかってきて席を外して紅葉と小森から少し離れたいた。
悠莉の態度に不満があったが今はせっかくショッピングを楽しんでいたのだからしかめっ面でいると楽しんでる小森に水を差してしまうので首を軽く振り深呼吸してから楓を待っている紅葉と小森のところへ戻った。
「ごめんお待たせ。今悠莉から電話がきてアイツもここに来たいって。だからここで待っててくれって言われたんだけど二人とも時間は大丈夫?」
「私は大丈夫です……。」
「私も平気ですけど随分急ですね。」
「アイツの事だし新発売の筋トレグッズかプロテインでも欲しいんでしょう。」
電話越しでもわかるほど焦った様子にただ事ではないと思ったが、まだ何が起きているかわかっていないうちに二人の不安を煽るのは良くないと思い適当にそれっぽい理由を考えた。
「それって私達一緒に行く意味あるんですか…?部長さんにしかわからない世界だと思うんですけど……。」
「悠莉はああ見えて小心者だからね。一人で大きなショッピングモールに来るのがイヤなのよ。」
「言えばいつでも……ついていくのに……。」
「結構意外ですね。一人で焼き肉まで行ける人だと思いました。」
「ムリムリ、悠莉にそんな度胸は無いわよ。始めは見栄張って行けるって言い切ってから、いざお店に入ったら哀愁漂わせながら肉を焼き始めるわよ。」
紅葉と小森に悠莉が合流したい事を二人に告げると、紅葉は悠莉に会える事に顔を赤らめながら嬉しそうに来るのを心待ちにしており、小森は特に気にしている様子もなくどちらでもいいと興味が無かった。
何はともあれ二人とも快く承諾してくれた事に楓は一安心するが、電話越しで小森を食い止めてて欲しいという言葉の意味がどういう事なのか引っかかっていた。
昼休みにも小森には気を付けろと忠告され、今の電話でも食い止めていろと言われ、さらに電話越しでも伝わってくる悠莉の焦りに小森が確実に何か関係していると警戒心を感じ楓の視線は自然と小森を疑うように見つめていた。
そんな楓の視線に気が付いたのか小森は楓の警戒心を弄ぶように笑いながら疑われているとわかっている上で楓に話しかけてきた。
「楓先輩どうかしました?私の顔に何かついてますか?」
「いや……別に何でも無いけど、小森さん今日は楽しかった?ほら最近暗いことばかり続いていたから気分転換になれたか気になってね。」
楓の脳裏には昼休みに悠莉から言われた警告が蔓延っていた。悠莉からの急な電話に加え言葉からでも伝わってきたあの焦っている様子。
それに狙ったかのように今日に限っての隣町へのショッピングが偶然とは思えなかった。そのせいか楓は小森に対しての警戒心が強まり自然と距離を取り始めていた。
「はい!今日はとっても楽しかったですよ!久しぶりに誰かとショッピングできたので楽しいですよ!ほら小物とかついつい買っちゃいましたし……。」
「厳選しても小袋いっぱいだものね……目に入る物全部入れる勢いで驚いたわ。」
「久しぶりのショッピングだとサイフの紐が緩くなってしまって……。」
「それでも……買いすぎはダメだよ……?」
「ごめんなさい……ちゃんと気を付けます。」
「気持ちはわかるけどほどほどにしないとダメよ。」
小森の手には雑貨屋で買われた小物入れやガラスでできた手のひらサイズの動物の置物が数種類入ったビニール袋が握られていた。
楓の言うように雑貨屋に入った小森はカゴの中に目に入ったかわいい小物等を値段を見ずに次々に入れていき一緒にいた楓と紅葉が止めに入るまで続けておりあのまま全部買ったら学生のお小遣いでは足りない程の料金になっていた。
そんな事を思い出しながらこのままおかしくて笑える下らない日常会話になってくれたらよかったが、一度疑いの目を相手に向けてしまったらどんなに楽しそうに話していても続く事は無くチグハグでキレの悪いものにしかならなかった。
それから沈黙が流れてくるのに時間はかからず楽しくしていた時間は終わりを告げた。誰かが何を言ったわけでは無かったが場の空気がそう導いているのか楓の体は自然と小森から距離を取り紅葉を背中に隠すように動いていた。
楓自身もどうして回避行動を取ったのかわからないがおそらく本能が小森の得体の知らない何かを感じて無意識のうちにとった行動で楓の背筋に冷や汗が流れていた。
「楓先輩どうしたんですかそんな離れて?もっと近くでお話しませんか?」
「私もそうしたいんだけどね。なんか知らないけどあなたに近付くなって本能が警戒しているのよ。」
警戒心が限界まで達した楓はこれまで何となく危ないと感じていたが、目の前にいる小森の雰囲気が変わり危険人物だと察知した。
「それは残念です。そういう危険を知らせてくれるのが楓先輩の魔法ですか?」
「お生憎様私は魔法使いじゃないのよ。自己紹介の時B組だって言ってなかった?」
「ああ……言われれば確かそんな風に言っていたかもしれませんね。すいません、忘れていました。」
悠莉達の学校は基本A組は魔法使い、B組以降は魔法を使えない生徒として別れているため、大抵自己紹介するときにクラスを言えば魔法使いかどうかわかるようになっている。
これは入学の時に説明をされ新入生でも知っていることであり、楓を魔法使いか判断できていなかったのはクラスで魔法使いか別れているのを知らなかった訳ではなくただ単に興味が無く自己紹介を聞いて無かっただけだった。
挑発にも取れる小森の言葉に楓は懐に飛び込みたくなったが小森から感じられる異様な感覚を肌で感じとると寸でのところで踏み止まり小森を睨みつけるだけしかできなかった。
そんな楓の様子を嘲笑うわけでも中傷する事も無くただ黙って実験動物の経過を観察するように見つめていた。
何も言わず黙っている小森を不気味に感じながら悠莉が到着するまでこの場を持ちこたえようとこの停戦を続けるため時間稼ぎを行った。
「確証は無いし今さらだけど、今回の件は小森さんが主犯と受け取っていいのかしら?」
「そんなに警戒しておいて本当に今さらですね。まあ先ほどの部長さんの電話がきた辺りからバレてたと思いましたけど……案外すぐにバレるんですね。」
「わかってて逃げないのは余裕かしら?それとももう諦めた?」
自ら自白して立場的に不利になっているハズなの小森からは追いつめられている感じがしないどころか、こちらが何かに絡め取られる感触に楓は薄気味悪さを覚えた。
「どちらもハズレです。余裕でも無いですし諦めてもいません、もう終わったのかーって悲しみにくれてます。」
「終わったって言うのはどういうこと?嘘をついていたのが楽しいとでも言わないわよね。」
「そんな事言いませんよ。答えてもいいですけど、どうせ部長さんが来るんですから来たらお話しします。それより立っているのが疲れたのであそこのベンチに座っててもいいですか?」
「……勝手にしてなさい。ただ逃げないよう見張らせてもらうわよ。」
「わかりました。逃げる気なんて更々ありませんけどね。」
小森は近くに設置されていたベンチへと腰
を下ろすと楓はそのベンチの横に立って位置取りずっと沈黙を貫いている紅葉は楓の手招きで楓の後ろに位置取り逃げられないように見張っていた。
見張れているにも関わらず表情を崩すことなく涼しい様子に楓は相変わらず変な気分になっていた。力でいえば比べるまでも無く圧倒的に楓の方が上であるのは間違いなく、力で捻じ伏せようと思えば小森を簡単に捻じ伏せる事はできるが小森から感じられる不気味な何かがそれを妨害していた。
楓はずっとその不気味な何かが気持ち悪く、組み敷いても問い詰めても小森には届かずすり抜けて意味が無いように思えてしまい行動に移せなかった。
誰も喋らないまま再び沈黙が訪れショッピングモールの雑音がうるさく聞こえてくるほど静まり返り音を発していないこの場は賑やかなショッピングモールから切り離され、湿気のように肌に纏わり付く薄気味悪い空気が続きその時間は悠莉がショッピングモールに着くまで続いていた。
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