第7話 MM部へようこそ! その7
全ての授業が終了し太陽が沈みかける頃に放課後を告げるチャイムが大一番の開催の合図ように重く感じた悠莉は帰りのホームルームが終わるとすぐに席を立ちMM部の部室に向かった。
蓮華と菫には昼休みの時に放課後一度部室に集まってからある人物に真相を聞きに行くようにしていた。これから会う人物はおそらくこの件の真相を知っている重要人物になるため、相手から逃げられないよう確実に取り押さえる必要がある。
そのためには悠莉一人でいくより、蓮華と菫と協力した方が取り押さえる確率は上がるため予め集合場所を決めていた。
ここが重要になってくると感じている悠莉は部室への道のりが長く思いながらも部室に近付くに連れて緊張も高まってくると徐々に余裕が消えていき表情が硬くなってきた。
部室に着いた時にはすでに表情は強ばり、口は一文字に閉じ眉を眉間寄せるようにひそめ、目は細く鋭い狩り場の猛禽類の如く近付く者は全員敵と言わんばかりの殺気を放っていた。
部室のドアの前まで着くと中から蓮華と菫の話し声が聞こえ既に二人は部室にいるようで、集合時間は決めておらず放課後すぐに集合としか言ってなかったが最後だと遅れてしまったように感じてしまい一言謝りながら部室へと入った。
「二人とも遅れてすまない、早速話を聞きにいこう。」
「部長お疲れ様で……ってちょっとなんて顔してるんですか!借金取り立て役みたいなヤベー人の顔になってますよ!?」
「今から話を聞きに行くという意味合いが脅迫しにいくみたいになってるね。」
部室に入って来る組の者のような悠莉に、蓮華はいきなり出てきた化け物すら怯えさせる悠莉の表情に言葉を詰まらせ、菫は一瞬だけ体が強ばったが何くわぬ顔で的確に意味の吐き違いを指摘した。
「そんなに怖い顔しているか?ちょっと気を引き締めてみただけなんだが……。」
恐怖を感じている二人の様子に悠莉は思わず口元を隠した。
「メッチャ怖いですよ。今から人を殺りにいく人になってますよ。」
「凶悪犯のお手本という顔だね。でもその顔だと話し会う前に逃げられてしまうよ。」
「そこまでか……時間も無いしどうするかな……。そうだ笑えばなんとかなるか?」
蓮華と菫から表情が凶悪犯や借金取り立て役と不本意な呼ばれ方をされ、今から話を聞きに行く表情では無いと注意され表情を和らげるために悠莉は口角を上げ笑顔を作って見せた。
しかし笑顔が無い状態で凶悪犯と言われている表情に目が笑っていない口だけで笑顔を作ってしまっては逆効果で、これから戦争を楽しむ戦闘狂のような面構えになり悪化した。
「ダメダメダメダメ、絶対ダメ。もう確実に殺人を楽しむ狂人になってます。いやほんとコワいんで止めて下さい。お願いします。」
現れた戦闘狂に高速で首を横に振り蓮華は思わず姿勢を正した。
「はっはっはっ、それで話し合おうって来られたらトラウマだよ。話した後確実に殺されるよ。」
出来上がった悠莉の表情が戦いを好む狂戦士に乾いた笑みしか出ないまま菫は軽くトラウマを覚えた。
「そこまで言われると流石に傷つくぞ……。もういい!本当に時間が無いからもう行くぞ!」
本気で怖がられ落ち込みを見せると強ばっていた表情から軽く力が抜けいつもの表情に一歩近付いた。
「あ、少し戻った。はいはい、そんじゃちょっくら行きますか!」
「相手がどんな反応するのか楽しみだよ。」
笑顔を作っても逆効果になってしまい余計に怖がらせる結果に投げやりになつつも時間が無いため悠莉達は部室を出発してその人物が待っている場所へと向かった。
その人物には昼休みの内に放課後屋上で待っているように伝えておいて貰ったので逃げていなければ既に屋上で待っている。この人物に話を聞くため悠莉達は楓達が屋上で昼食を食べている間に昼休み部室に集まりすでに作戦会議をしていた。
「みんな待たせてすまない。作戦会議を始めるぞ。」
「あれ?昼休み集合って私の報告を聞くためじゃ無かったんですか?」
「もちろんそれもあるけどもう一つ大事な要件があるんだよ。」
「ほうほう、それの作戦会議って事ですね!」
時は昼休みまで遡り悠莉、蓮華、菫の3人は部室にそれぞれ昼食を持参して作戦会議を開いている。午前中の蓮華からの報告により急遽に開かれたものに見えたがその件がなくとも開かれる予定だった。
たまたま蓮華からの報告と重なりそれの詳細を聞く場にもなっていたが、あくまでそれはオマケであり本来の目的は別のものがあった。その話をするため限られた昼休みの時間の中で悠莉はすぐ本題に入った。
「まずは蓮華の報告の詳細だが、悪いが後から聞く。というより何となく察しはついてた。」
「そうだったんですか!?ええ~せっかく有益な情報だと思ったのに……。」
「そう悲観的になることは無いよ、実際とても有益な情報だったからね。ただ悠莉くんは一人で調べていた情報があったようだからその分のアドバンテージがあっただけだよ。」
得た情報が有益な物だと自負していた蓮華は自慢しながら話せることを楽しみにしていた。
しかし、悠莉からの反応は予想してたと軽く遇われたあげく自分のよりも有益な情報を持って勿体ぶっているのがおもしろくなかった。
「自分だけ知ってるのなんてズルいですよ。情報は共有するものでしょう。」
「怒らないでくれ、俺も知ったのは今日なんだよ。」
「はい?今日ってそんな時間ありました?朝はギリギリまで居ましたし情報収集する時間なんてありませんでしたよね?」
悠莉の行動に疑問と矛盾を感じた。朝から昼休みまでの間に情報を集められる時間は授業終わりの休憩時間に限られる。
それに情報収集は相手を見つけ話しをしてその事を相手が知っていたら話を聞く時間や思い出すためにある程度時間がかかる。
一発で核心に近付く情報が出てくることもあるため一概に不可能と言う事は出来ないがそれでも短い時間で得るには博打で難しい。
悠莉がそれを引き当てたなら何も文句はつけず運が良かったと済ますことが出来る。それなら蓮華も当たりを取られたと納得することができた、それが正規な方法なら何も言わなかった。
「ちょっとな……休み時間の間に少し肉体言語で話し合ってだな……。」
「端的に言えば無理矢理脅して吐かせたんだよ。自分の筋肉にものを言わせて……酷い事をするね。」
悠莉の言い淀む姿に菫はやり方を察すると菫の視線は鋭利な刃物に変わり悠莉を切りつけ、その傷口に塩を塗るように軽蔑の眼差しを送った。悠莉は菫から軽蔑されるのは覚悟の上で切り刻まれる視線に耐え言葉を続けた。
「脅しては無いですよ。ちょっと話を聞かせて貰っただけです。本当はしたくなかったがこっちも実害が出ている以上悠長なことはできませんから。」
「それで、脅して聞いてきた力業の結果を教えて下さい。」
ホームルームが終わった後の休み時間と授業の合間の休み時間で悠莉はB組に属している男子生徒を見つけては人気の無い場所へ連れ去り、逃がさないよう壁に追い込みそのまま相手を壁に押しつけ、そのまま右腕の上腕を相手の首下を押し潰すように力を入れ尋問をしていた。
小森が盗撮の被害に遭ってしまった事で最早なりふり構っている調査をしているといつまた盗撮などの実害が出てくるかわからないため、力尽くで聞き出し相手の知る限りの情報を吐かせていた。
中にはそんな強引なやり方に抵抗してくる者もいたが首下に押しつけている右腕で喉を潰してしばらく呼吸をできなくさせたら相手は抵抗してくる意思を捨て素直に情報を吐いた。
こんな相手を力で苦しめて情報を吐かせる拷問のようなやり方は間違っていると悠莉自身理解はしていたが、相手が何か知っていてあえて隠しているのなら、小森の状況を見て見ぬ振りをしているなら保身に走って逃げている相手に慈悲は無く苦しんでいる小森を救うのが最優先であると心に言い聞かせていた。
そして数人の拷問が終わりこの前教室と購買で見かけた体格の良い男子生徒を見つけ直ぐさま他の生徒と同じように拷問にかけた。
体格の良い男子生徒はいきなり無言の悠莉に腕を掴まれそのまま近くの空き教室まで連行され驚く間もなく首下を右腕で拘束された。拘束してきた悠莉の姿を見て何時かの如く体が竦み何の抵抗もできないまま悠莉に取り押さえられた。
「今から聞く質問に答えろ。お前達のクラスで何が起きている?何故小森さんがクラス全員から見放されてる?」
右腕の力を緩めず首を潰す勢いは残したまま問い詰めた。
「ぐっ……く、苦しい……」
首を押しつぶされ気道が狭まり酸素を取り込むのが困難になった男子生徒は残り少ない酸素を吐き出してまで言葉を話せなかった。
「質問に答えろ。知っている情報を一つ残らず全部吐け。」
質問に答えない事に苛立ちを覚えた悠莉の腕は更に首を押し潰した。男子生徒は取り込める酸素量が減っていたのが更に減り体中に酸素が回らなくなり答えない間中、血の気が引き続けた。
「こ……小森の事は……うっ……うぐぅ、ああするように脅されたんだよ……ぐっ……。」
このままだと窒息させられると直感した男子生徒は限界を迎える前に辛う時で残った酸素を使い自分の知っている情報を話した。
「誰だ?誰に言われた?理由はなんだ?」
「こ、答える……答える……から……ぐっ……うぅ……手を、離して……くれ……。い、息が……!」
トドメと言わんばかりの押し込みに脳にまで酸素を運ぶのが出来なくなってきた男子生徒は意識が朦朧とするなか、本能で何とか声を絞り出すことができた。
「わかった、離すが逃げるなよ。」
悠莉は逃げないよう念を押してから右腕の力を抜き男子生徒の首から腕を放した。
「ぶはっ……!はぁ……はぁ……はぁ……し、死ぬかと思った……。」
「さっさと話せ時間が無い。」
「ひっ……!わ、わかりました!は、話します!」
体格の良い男子生徒は腰が抜けてその場に尻餅をつき右腕で絞められた首を摩りながら体内から失われた酸素を取り戻すべく浅く速い呼吸を繰り返し呼吸を整わせてから鋭い眼差しで睨みつけてくる悠莉に怯えながらも知っている情報を話し始めた。
「小森の事ですけど、この前友人が少し変だって言ったの覚えてます?その友人浩一郎って言うんですけどわかりますか?眼鏡かけて大人しそうな顔して委員長タイプみたいな見た目をしているんですけど……。」
「あの委員長風の委員長じゃ無い奴か。前に一度職員室前で話して名前を聞いたことはある。」
悠莉は浩一郎と職員室前で出会った時のことを思い出し、あの時浩一郎に小森の事を聞いた途端に不穏な雰囲気を醸し出していたので記憶に残っていた。
「顔見知りだったんですね、それでそいつから小森を無視するように直接言われたんです。」
「他の生徒にも同じように聞いてみたが他の奴らはそんなこと言ってなかったぞ。どうしてお前だけが言われたんだ?共犯か?」
他のクラスメイトとは違う犯人に近い情報に悠莉は男子生徒が何かしらの形で犯人と接点があるのは目に見えてわかっていたため、右手に力を入れもう一度首を押し潰す構えを見せた。
「ち、違いますよ!俺だって最初はよくわかんないで説得しましたけど……、アイツ…言ったとおりにしないと小森が酷い目に合うって必死で…。なんでそんな小森を追い詰めるような事する必要があるかわからないけど…アイツのあんな必死な目みたら…。」
構えた悠莉に慌てて否定をしながら、もうあんな呼吸困難の苦しみを味わいたくない男子生徒は両手で顔を隠した。
「それでお前が小森を無視するのはわかった。お前が浩一郎に頼まれたのなら、他の生徒が言っていた小森が男遊びや援交して関わると大変な事になるっていう噂を流したのはお前だな?」
「はい、それもアイツに頼まれて……。入学して数ヶ月しか経ってなかったのでそういった噂はすぐに広まって……。小森には悪いと思ったけど……アイツのことも放っておけなくて…。俺、本当かどうかも知らない噂を流して…小森を……。」
男子生徒は顔を上げれず後悔を握り潰すように拳を震わせた。自分が友人の頼みを優先したせいで特に関わった事の無いクラスメイトの適当な噂を広げてしまい孤立にまで追いこんだ責任から逃げだし受け止めたく無かった。
「浩一郎は小森を追いやらないと小森が酷い目に合うって言ったんだな?」
「はい、確かにそう言いました。やってることと言ってることがメチャクチャで何だかよくわからないんですけど…。浩一郎は一体何がしたいんですか?!俺…もう何が何だかわからなくて…。」
男子生徒は事を告げる度に自分がやってきた事を後悔し始めたのか顔を下げながら聞いて貰うことで許しを請うようにポツポツと言葉を紡いでいた。
何も知らず友人の必死な願いに他者を陥れるような噂を流してクラスから孤立させた事がずっと気にかかっており、誰にも言えずずっと一人で抱えていたものが零れてきて自分の頭を搔きむしり何がどうなっているか理解できていない様子だった。
頭を垂れながら頭を抱え後悔しているか男子生徒を見て悠莉は腰を下ろしその男子生徒の頭を力強く撫で先ほどまで鋭い眼差しをしていた目は無くなり許しを願っている男子生徒をあやすように穏やかな目をしていた。
「話してくれてありがとう。ごめんなこんな強引な手で聞き出して……。浩一郎の事だが、今日の放課後直接聞き出してみようと思う。そのために協力して欲しいんだがいいかな?」
「ほ、本当ですか?俺もアイツが何であんなわけのわかんないことしてるのか知りたいです……。俺は何をしたらいいんですか?」
自分が何のために背負いたくない責任を背負わされ、小森を追いつめないといけなかったのか、それがわかるかもしれないと男子生徒は悠莉に協力の姿勢を見せた。
「浩一郎と一緒に放課後屋上に来てくれ。俺も蓮華と菫先輩と一緒に行くからその時何でこんな事をしないといけなかったのか聞き出そう。」
「は、はい!放課後浩一郎を屋上に連れて行きますのでよろしくお願いします!」
「よし!ありがとうな!それじゃあ放課後屋上で待ってるからよろしく頼むぞ!」
頭を垂れていた男子生徒は友人の真意を知りたいと思い悠莉の協力に応じてくれた。
協力者と情報を手に入れた悠莉は床に腰を落としている男子生徒の手を掴み起き上がる手伝いをすると、放課後の連絡をするためにスマホでメッセージを送ろうとした時ちょうど蓮華からMM部のグループに報告が入っていた。
蓮華の報告に急いで返信を打ち間違いが無いか確認する暇も無く仕舞いどうしていいかわからず立っていた男子生徒に向き直った。
「すまない、ちょっと放課後の事を部に連絡していたんだ。本当手荒な真似をしてごめんな…。放課後よろしく頼むぞ。」
「ホント驚きましたけど……でもアイツの本心を聞けるなら……。」
「もう時間も無いし急いで戻るか。あ、そうだ何かあったらこの番号に掛けてくれ、それじゃまたな。」
最後に悠莉は自分の電話番号が書かれたメモ用紙男子生徒に持たせ空き教室を後にすると急いで教室へと戻り昼休みまでの授業中先ほどの話を整理し、昼休みに蓮華と菫にこの事を話した。
悠莉の話しに蓮華は手荒な真似をしていたのが気に入らなく悠莉を睨みつけながら今にも飛びかかってくる勢いを見せた。
反対に菫は情報を得るだけなら手っ取り早い手段で根幹の情報を得た事に感心していると同時に強硬手段を行った悠莉を軽蔑していた。
そんな二人の様子を見ながら悠莉は放課後の件に話を進めようとすると睨みつけていた蓮華が両手で悠莉の胸ぐらを掴み上げ激しい怒りを見せるも悠莉は動じることはなかった。
「部長……なんでそんな方法で聞き出したんですか!?脅して聞き出すなんて最低ですよ!」
「時間が無かったからだ。思い返したら小森さんがMM部に相談してきてから盗撮が起きた。今まで無視するだけでそんな素振りが無かったのに相談してきてから起きてる。もし誰かに相談したから犯人が盗撮という犯行に出たならどんな手を使っても止める。」
「だからって何も知らないかもしれない子を力尽くで問いただすのは違うでしょう!?」
悠莉の強硬手段に納得などできない蓮華は掴んでいる手に力が入り悠莉のYシャツからミシッと裂かれそうな音を出した。その音に反応するほど余裕がなく蓮華の中には怒りと悲しみが混じり合っていた。
怒りはもちろん悠莉が筋肉に物を言わせ脅迫紛いの事をおこなったから。そして悲しみは悠莉がそんな手を使わないといけないほど自分の力が足りなかったから、この二つが蓮華の心で羅列していた。
「悠長に調査していたらまた被害が出るかもしれない。しかも今度は部員の誰かが巻き込まれて被害が出る可能性だってある。俺にとって部員の安全は最優先だ。危険の可能性があるならどんな手段だって使う。誰かに軽蔑されたり蔑まされたり罵しられたとしてもかまわない。」
「でもそんなの部長の勝手な言い分じゃないですか!理不尽に被害にあったのと同じですよ!?」
「それは悪いとは思っている。だが俺にとって大事なものを守るためにしたことは後悔は無い。依頼者も大事だが一番大事なのは部員達だ。部員を守れたらそれでいい。」
「でも!そんな理由で納得なんて!?」
感情を押し殺し喋り続ける悠莉に蓮華は怒りより悲しみが強くなった。部員のためという理由で脅迫紛いの行為に及び、それを止められずその行為に及んだ理由が自分自身にあったのが悔しかった。
傷付けてしまった生徒の心配や悠莉を止められなかった罪悪感はあったが一番辛く感じたのは悠莉が部員誰にも相談せず強硬手段に出たことだった。
部員のため、悠莉にとって部員は家族と同じで母親を幼い頃に亡くし父親も仕事で家に帰って来れない事が多く悠莉は家に一人でいる時間が多かった。幼馴染みの楓やその家族と一緒にいる時間もあったが、いつもその居場所にいることは出来ず別れの時がやってきて、家に帰れば誰もいない暗く冷たい空間に一人放り出される。
その空間が幼い頃の悠莉の心にある孤独感を強く引っ掻き回し傷痕を刻みつけた。つけられた傷痕は今だ悠莉の心に深く残っており、誰かが傷つき、いなくなるとまたあの空間を味わってしまうと知らず知らずのうちに恐れていた。
そのせいで悠莉は周りの人に危害が及ぶのを過剰に恐れ、敏捷に反応するようになっていた。その結果が今回の強硬手段に繋がった。
「蓮華ちゃん、悠莉くんに何を言っても意味は無いよ。もう終わったことだしね。それに悠莉くんもこの答弁では引く気は無いから押し問答だよ。」
今まで静観していた菫は意味の無い押し問答を終わらせるように口を挟んだ。
これ以上言い合っても守るために行った悠莉が蓮華の言うとおりに謝罪をすることは無い、蓮華もどれだけ責めたてても悠莉の理由がブレない限り対応は変わらない。
菫は先程までの悠莉の表情と言葉から何を言っても理由がブレることはないと思い止めた。
「菫先輩は部長のやり方に納得してるんですか!?私は納得できませんよ!相手を傷つけるやり方なんて……昔部長が私に怒ったことを自分でするなんて……。」
「悠莉くんだって好きであんな手段に出たわけじゃ無いよ。そうしないといけない、部員を守らないといけないって気持ちが前に出すぎてしまっただけだよ。ちょっと慌てて冷静さを無くしてただけ、すぐいつも通りのポンコツな悠莉くんに戻るよ。」
菫は悠莉の胸ぐらを掴んでいる手をゆっくり離していき怒りが収まらないで燃え上がっている蓮華を胸元に引き寄せそのまま蓮華の頭を自分の胸に押しつけ抱き締めた。
柔らかく暖かな温もが顔全体を包んでくる感覚に蓮華の怒りは静かに消火されていき菫の包み込む母性に蓮華は顔が蕩けてすっかり借りてきた猫のように静かになった。
そんな蓮華の頭を優しく撫でながら菫は悠莉の方に顔を向け軽蔑の眼差しは残ったまま笑顔で見据えた。その笑顔にどれ程の罵倒中傷が入っていたのか考えると悠莉は寒気を覚えた。
本当は菫も蓮華と同じで怒っているのを出さないでいることに気が付いた。
「私達のためにしたのなら私からは文句が言えない。そこまで悠莉くんに心配をかけてしまったからね。今回は許すよ。でも……二度目は無い」
「わかってます……。」
「わかってくれたならよかった。さて、そこまでしてくれたんだから、放課後は絶対に失敗できないね?」
「は、はい、もちろんです。放課後屋上に来てもらうように頼んでいるのでそこで問い詰めます。」
「部長暴力はダメですからね。いいですね、絶対にダメですからね。」
蓮華は眉をつり上げ穴が空くほど睨み念折りに釘を刺した。
「わ、わかった約束する。もうあんな事はしない。」
「約束破ったら楓先輩と紅葉ちゃんに部長から襲われたって言いふらしますから。あとついでに定期的にオカズを寄こせって脅されてるって。」
「おっ、いいね楽しそうだね、それじゃあ私もヤりすてられたって言っておこう。」
「わかりました絶対しません!だからそんな恐ろしいことしないで下さい!」
菫の言うとおりすっかりいつも通りの悠莉に戻りその後は放課後部室に集合してから屋上へ向かう予定を立てあおのまま昼食に入り談笑を楽しんでいた。悠莉は早めに昼食を食べ終え屋上の下見をするべく一人先に部室を後にした。
蓮華も着いていきたがっていたが二人で屋上に向かうの何かすると言っているようで、下見なら一人の方がやりやすいため蓮華の申込みを断り一人で向かった。
もともと屋上は昼休みと放課後は解放されおり誰でも入ることができるが悠莉は今まで屋上に行ったことなど数えるほどしか無く、長く行っていないと場所を忘れていないか不安になり行き方の確認と屋上がどんな場所だったか思い出すために向かっていた。
屋上までの道のりは案外すんなりと迷うことなく行け屋上のドアの前にやってくると、ドアには上の方にのぞき窓が着いており屋上を見れるようになっていた。
悠莉はそののぞき窓から屋上を確認すると生徒達がチラホラと見え全員昼食を食べながら談笑に花を咲かせ、そして視線を屋上に設置されてるベンチに移すとそこには楓と紅葉、そして小森が3人で昼食を楽しんでいた。
その3人の様子を見守っているとご飯を食べ終わった紅葉は周りを見渡し怪しい人物がいないか警戒していると紅葉と目が合った。
紅葉とはよく部活中や登下校中に目が合うため特に珍しいことでも焦るような事でも無い普通のことだと、この時は何も警戒していなかった。
あくまで目が合うのが普通の時はお互い側にいて互いを認識している時だからこそ普通であって、ドアののぞき窓から一歩的に存在を認識して紅葉が悠莉だと認識できていないのならば今の悠莉は怪しい人物になる。
その事に気が付いたのは紅葉が楓に報告した後楓がこちらに走り出して来た頃で時既に遅く、因果応報か男子生徒達を取り押さえて尋問にかけていた悠莉は簡単に楓に取り押さえられた。
それから楓の誤解を解き放課後の件を伝え、一言だけ小森には気を付けろと付け足し、楓にやられた左腕を摩りながら教室へと戻っていきこうして長く情報が錯綜していた悠莉の昼休みは終えていた。
そして、放課後に戻り悠莉、蓮華、菫は浩一郎達が待っている屋上のドアの前まで着いて気合いを入れ直していた。
「さて、これからここからが正念場だぞ。何としても浩一郎から話を聞き出す。」
「了解ですけど手荒な真似は絶対にダメですからね。」
「ご対面と行こうか、長引いたら待ってる人に失礼だよ。」
「はい!それじゃあ開けますよ!」
気合い一杯に屋上のドアを開き屋上には浩一郎と友人の体型の良い男子生徒がベンチに座ってお互い気まずそうに沈黙した空気を流していた。
周りには他の生徒の影は無く今屋上にいるのは悠莉、蓮華、菫と浩一郎、そして浩一郎の友人の5人で誰かに聞かれる心配も無い問い詰めるには最高の状況だった。
3人掛けのベンチに友人としては開けすぎなほど二人は隙間を開けてほぼ両端になるように座っており、その距離感が今の互いの心の距離感を現しているようにも見えた。悠莉達はベンチの前までやってくると浩一郎は驚きも動揺して取り乱したりもせず顔を上げるだけだった。
まるで来るのを知っていて全部諦めたように生気を感じさせない目で待っていた。浩一郎の状態に面食らった悠莉と蓮華は来るときの勢いを失ってしまい問い詰め言葉が詰まってしまった。
一言文句を言いながらも真相を聞き出すつもりだったが浩一郎の死んだ魚の目と出荷される事を察した畜生の諦めのような空気に言葉が失っていた。
浩一郎の友人も浩一郎の様子に戸惑いを隠せておらず何度も目でどうしたらいいかわからず助けて欲しいとアイコンタクトを送ってきていた。この誰も動かないだらしない状況を壊したのは最年長である菫だった。
「君が浩一郎くんかな?初めまして、私はMM部所属の3年赤坂 菫です。よろしくお願いするよ。」
「あ、私は同じく1年の桂木 蓮華!初めてじゃ無いけどよろしく!」
「何度もあってるがMM部部長の櫻井悠莉だ。俺たちがここに来た理由と呼び出された理由はわかるな?」
「……はい、わかってます。僕じゃダメだったんですよね。あんなにがんばったのに僕じゃダメだったんだ……。」
ベンチに座っている浩一郎の顔色に生気は無く光が消えている目は心を抜き取られ死人そのものだった。
「ダメだった?どういう事か話してくれないか?」
「何を言っているんですか……あなたも小森さんに頼まれたんですよね?」
「まあ、そうだがでもダメってことでは無いと思うが……。」
悠莉と浩一郎の会話はどこかズレているせいで成り立っていなかった。そのズレは小森という人物像の認識の違いであり、今回の件根本に関わる大きなモノだと直感した。直感を核心に変えるように浩一郎の行動が示した。
「そんな事無いだろう!?もうダメなんだ!こうなったらもう手遅れなんだ!」
「まってくれ!俺たちは小森さんから友達を作りたいって相談を受けたんだ!それで調査していくうちにあの嘘の噂を聞いてその噂のせいで友達も無くしたから噂の出所を掴んでそいつに謝罪させてあの噂を晴らせたら解決すると思って行動している!」
「え……えぇ……?小森さんが……何でそんなことを…?僕に言ったことは?手遅れなんじゃ無いの……?」
悠莉の言葉が信じられない浩一郎は瞳孔が開き、焦点が合わない瞳で輪郭が歪んでいる悠莉を視界に捉えた。そのまま浩一郎の体から震えが起きると悠莉の言葉を理解しきれず頭をかき乱した。
「何やら少し認識のズレがあるみたいだね。浩一郎くん、申し訳ないが君が彼女に頼まれた事を教えてくれないか?」
菫が誰も動かない状況を自己紹介をして相手に自分を理解させ話しやすいように状況を打破してくれたおかげで浩一郎から言葉が出てきたが、その言葉は何かズレており会話が噛み合っていなかった。
そのせいで悠莉と浩一郎の話の辻褄が合わなくなってきて聞いている蓮華や友人も訳がわからないようで頭を抱えて唸っていた。このままでは話が混乱するため、まずはそのズレを正すために菫は一度会話を打ち切り浩一郎が何を言われていたのか話をさせそのズレの正体を掴もうとした。
「は、はい。話すと長くなるんですが……。」
浩一郎は噛み合っていない会話に対して現実を受け入れられないという感じで前置きをすると初めて小森と出会った時と全ての始まりについて話し始めた。
この話で黒雲に隠されていたものが全て公にされようやく事件の全貌が日にあたった。
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