第2話 MM部へようこそ!その2

 菫と相談者である小森 茜がお茶会をしている間1年B組にカチコミに行っていた悠莉と蓮華はちょうど目的地である1年B組の前までやってきていた。


 廊下を全力疾走してきた中で何度も生徒から奇異な目で見られていたがそんなことは些細な問題と言わんばかりに走るスピードは落ちなかった。


 そして二人は息一つ切れてなく入るタイミングを合わせるようにアイコンタクト取ると悠莉は教室の扉を開き中へと入っていった。


「失礼します、この中に小森 茜さんはいますか?」


 中へ入ると悠莉は腕と背筋を直線に伸ばし面接を受ける学生のように緊張で固まった。

「部長さっきまでの勢いはどうしたんですか?そんなクソ丁寧な挨拶じゃつまらないですよ。部長って案外小心者だったんですねー。」


 蓮華は半目で悠莉を睨みながら退屈そうに文句を言った。


「これは礼儀だろう。しっかりと礼儀正しくしないと警戒させてしまうからな。」

「そういう事にしておきますね。ところで小森茜って子は教室にいますか?」


 声を震えさせながら虚勢を張っている悠莉を無視しながら蓮華は集まっている視線に話しかけた。


「小森さんなら先ほど教室から出て行かれましたけど……。」


 二人の目の前に眼鏡をかけた男子生徒が萎縮しながら答えた。


「あちゃ~、入れ違いか~部室で待ってればよかった。あ、教えてくれてありがとうね。」


 1年の教室に2年生の先輩が訪れ一人の生徒を探している状態に放課後の教室内は何事かと小さな騒ぎになっていた。2年生である悠莉だけなら質問に答えるのに勇気がいるのかなかなか教えてくれる生徒が出てこなかった。


 2年生の悠莉よりも同級生の蓮華になら話しやすいようで一人の男子生徒が答えてくれた。


 蓮華に男子生徒は眼鏡でいかにも委員長ですと主張しているようなクラスに一人はいる委員長属性の持ち主だった。


「そうか、だとしたらもう帰ってしまったか?仕方ない一度部室に戻るか。」


 無駄足に終わり一気に緊張で固まった体がほぐれた。


「そうですね、教室にいないんじゃ後日改めるしかないですね。ああぁ……走って疲れた~部長ジュース奢って下さい。」


 あからさまに大きな溜息を見せ、両膝に手を付き体を支えながら飲み物を要求した。


「プロテインでよかったらあるぞ?」


 強請る蓮華に悠莉はポケットから小袋に包装されたプロテインを取り出した。


「そんなんいらねーっすよ!アホですか!乙女にプロテイン渡す紳士がどこにいるんですか!先輩の筋肉!」


 膝に置いて体を支えていた手は目の前に出されたプロテインの袋を奪い取りそのまま悠莉に投げつけた。


「あ、あの先輩達は小森さんに何か用があったんですか?もしよかったら明日小森さんに伝言伝えておきますよ?」


 眼鏡の男子生徒は二人に怖ず怖ずと申し訳なさそうに聞いていた。


「う~ん……どうするかな、じゃあMM部の部長から話があるから部室に来て欲しいとだけ伝えてくれるかな委員長。」

「わかりました、そのように伝えておきます。あと僕は委員長じゃ無いです。」


 悠莉は委員長(仮)に相談者の内容が露天されない程度の簡単な伝言を頼み1年B組から立ち去ろうと教室を背にした時教室の空気が一変した。


 委員長(仮)に伝言の内容を伝えてから教室のざわめきが大きくなりこちらを見ていた周りの生徒達が隣同士でヒソヒソ話を始め明らかに様子が変わっていた。


 急な空気の変化に悠莉と蓮華はお互い顔を合わせこの異様な雰囲気が気になり1年B組から出ようとした足を止め教室に足を戻した。


「なんだ?なんだ?急にどうしたんだ?何かあったのか?」


 悠莉は騒々しくなった周りの生徒達を見渡し狼狽えた。


「なんですかね?MM部って部長が伝えた辺りから変わりましたよ。委員長君何が起こっているのかな?」


 狼狽えている悠莉に対し冷静に状況を理解した蓮華は目の前にいる委員長(仮)に顔を近づけ問い詰めた。


「え!?それはその……なんでしょうね?あははは……。」


 両手で蓮華の進行を抑止するように距離を取り蓮華から顔を背けた。


「そこの君、急にどうしたんだ?一体全体何が起きてるんだ。」


 蓮華の追求から逃れている委員長(仮)の横で悠莉は近くの男子生徒に話しかけた。


「ひっ!?い、いえなんでも……何でも無いです!?スイマセン!スイマセン!許して下さい!」


 男子生徒は酷く怯え悠莉に頭を下げた。


「……えぇ、こんな怯えて何でも無いって無理があるだろう。」


 困惑の表情を浮かべ肩から力が脱けた。


「ひぃぃ!?スイマセン!スイマセン!何でもするので許して下さい!」


 悠莉は近くにいた体型のいい男子生徒に話しかけるとその男子生徒は生まれたての子鹿のように震えながら顔を青くしながら何もしていない悠莉にひたすら謝り続けていた。


 いきなり恐怖の象徴のような扱いに悠莉は腑に落ちないで周りを見ると、男子生徒と同じように目を合わせないようにしながら震えていた。


 そんな中委員長(仮)の周りで話していた女子生徒のヒソヒソ話が悠莉と蓮華の耳に入ってきてしまった。


「MM部部長ってレスリング部と柔道部の主将含めた10人を病院送りにしたっていうあの怪物?!」


 ヒソヒソ話から一際大きな声が挙がった。


「シッ!声が大きいよ!聞こえたら何されるかわかんないでしょ!?」


 女子生徒は声を挙げた友人を注意しながら会話が聞かれていないか悠莉を恐れながら見ていた。


「はっは~んなるほどなるほど?部長が先週起こした問題のせいで関わったら何されるかわからないって感じで危険視されてるんですね。」


 蓮華は今の会話で状況を理解すると腕組みをしながら何度も頷き納得していた。


「なに!?ちょっとまて俺は別に取って食おうとしてるわけじゃないぞ!この前の件だって語弊があるのに!」


 悠莉は蓮華の言葉に異議を唱え、話し声があった方を見た。


「ひぃぃ!?聞こえてた!?ごめんなさいごめんなさい!」


 悠莉に見られた二人組の女子生徒は怪物を見るように体を震わせ身を寄せ合っていた。


「だからちょっと待って!違うよ?俺はそんな危ない危険人物じゃ無いよ?優しい筋肉だよ?怖くないよ。」


 震えている二人組の女子生徒を宥めるようにできる限り声色を優しくしながら話した。


「え?じゃ、じゃあ先週起こったレスリング部と柔道部を病院送りにしたっていうのは嘘なんですか……?学園内じゃ既にみんな知っている程の信憑性なんですけど……。」


 二人組の女子生徒は短い悲鳴を入れ恐る恐る聞いていた。


「あ、それは本当。ケンカの仲裁に入ったけどどっちも聞く耳持ってなかったから筋肉を使った肉体言語で話し合って和解した。それに向こうの筋肉達が煽ってきたからつい熱くなって……。」

 あっけらかんと悠莉は認めた。

「ひぃぃ!?やっぱり噂は本当だったんだ!?」


 噂が本当だとわかり二人組の女子生徒の震えは増した。


「あーあ部長やらかしたー。女を恐怖で泣かすなんて最低ですよ。それともそういった趣味をお持ちなんですか?」


 蓮華は怯えている女子生徒に同情すると、軽蔑する眼差し偽りの性癖を悠莉にプレゼントした。


「キャァアア!?暴君だけじゃ飽き足らず異常性癖まで!?異常性癖者!?」


 何に怖がっているのかわからない悲鳴を挙げた。


「ちっがーう!誤解だぁー!」


 教室で起きていた異様な雰囲気の正体は悠莉が先週やらかしたレスリング部と柔道部の部員達を10名病院送りにした事件が学園に広まっていたらしくMM部の部長がきたとしり噂の危険人物だったことに気が付きざわめいていたのだ。


 先週の件がまさかここまで噂になっていたとは噂の中心人物である悠莉は思ってもいなかった。しかもそのせいで無条件に後輩達に恐れられている。

 

 下手をすると後輩だけではなく同級生や先輩達にすら同じように恐れられている可能性が見えてきた悠莉はどうにかしてここで誤解を解いていこうと思い教室にいる後輩達に向けて弁明を図った。


「いいか!確かに先週レスリング部と柔道部とケンカして病院送りにしてしまったが、それはあくまでちゃんと本人達了承の上で試合をした結果だ!レスリングや柔道とかだと怪我は付きものだろ?顧問も承諾してくれたから問題にはなっていない!あれは試合で起こった事故だ!」


 誤解を解くため周りに叫び散らした。


「で、でも病院送りになるほど叩きのめしたんですよね。」

「え?だって手を抜いて戦うなんて失礼だろう?だから全力で潰しにかかったよ。」


 さも当然とでもいうように断言し胸を張った。


「ひぃぃ!?現役選手を凌駕するほどの実力で叩きのめしたんだ!?」

「それもう何でも怯えるやつだろう!だから俺は意味も無く力を振り回さないから!MM部はそんな危険な事はしない!しっかり安全と言質を取った上で活動してるんだよ!」


 何を言っても意味が無いとわかり投げやりに安全性だけ強く主張した。


「まあ今回はルール上で反則にならないギリギリを責めたんですよ。しっかり両者の合意の元やったので恨まれる筋合いもないですけどね。これがMM部のやり方です!」


 悠莉の弁明に蓮華は補足説明をしながら弁を振るっていると教室にいた生徒達はルール上なら問題なしとギリギリを攻めてる持論にあっけにとられていた。


 そのせいでザワついていた教室は静まり返っていたが、噂の払拭をできたかというと新しく噂の種を撒いてしま結果になり弁明は失敗していた。


 そんな事に気付いていない悠莉はさらに弁明しようと話し出し自ら進んで自爆を重ねていった。


「大体噂が何だって言うんだ。自分の目で見ていないのに誰かが言ったから皆が言ってるからと信用して本当のことを知ろうともしていない。そんな奴らに何と言われても構わないしどうでもいいね。大事なのは自分の目で見て確かめることだろ。」


 周りから噂のせいで恐れられてる悠莉はやれやれと首を振った。


「まあその意見には賛成ですけど、今それを言っちゃうとMM部はルールの穴をついてくる危ない集団って確信されますよ?いいんですか?」


 蓮華は悠莉の顔を覗き込み確認をした。


「え?……あ、ヤッベさっきルール上で問題ないなら平気って言っちゃってた……。」

 今更後悔しても遅いとわかっていても後悔せずにはいられなかった。

「へー、そんなことを言っていたのね。」


 悠莉の後ろから冷たい声色を奏で、こめかみに血管を浮かべ笑顔の楓がいた。


「か、楓?どうしてここに?部室にいるんじゃなかったの……。」


 恐る恐る振り向きながら笑顔の楓に体は竦んだ。


「筋肉とバカを追いかけてきたのよ。あんた達二人だと何をやらかすかわかったもんじゃないからね。まあ案の定やらかしていたようだけど?」


 笑顔を崩さないまま質問に答える楓の後ろには般若が見えた。


「これはその~……変な噂の払拭をしていてだな……。深い意味があるんだよ……。」

 悠莉は後ろの般若に怯え腰が引けていた。

「それは後でゆっくり聞かせて貰うとして、まずは…何してんのよこの大馬鹿が!」

「どっふぅっ!?」


 悠莉の失言交じりの弁明を聞いて呆れ半分怒り半分の楓は怒りの声を挙げ悠莉の腰目掛けて渾身の回し蹴りが鈍い音と共に炸裂し悠莉は奇声を上げながら叩きつけられた床を打ちあげられた魚のようにのたうち回っていた。


 悠莉に回し蹴りを喰らわせた後、深く息を吐くと次の狙いを教室から物音を立てないで逃げようとしている蓮華に切り替えると、楓は笑顔で蓮華の元へ近寄りそのまま襟を掴まえた。


「あら?どこへ行こうとしてるの蓮華?まさか逃げようなんて考えてないでしょうね?」


 悠莉の時同様に笑顔を見せた。


「そそそ、そんな事思ってませんよ!?ちょっとお花を摘みにいこうかなーって思いまして!?別に部長を囮に助かろうとなんて考えていませんよ!?」


 身動きが取れない蓮華は小動物の鳴き声のようにか細いものになっていた。


「そう、それなら良かったわ。てっきり逃げようとしてるのかと思ったから、蓮華も回し蹴りの方が良いのかと思ったわ。」

「ま、まさかそんな事思ってませんよ!?ですから回し蹴りだけは勘弁して下さい!お願いします!」


 悲願しながら半ベソをかき頭を下げ続けた。


「そうね、回し蹴りは勘弁してあげる。」

「よしっ!これで死ぬことは無くなった。……ん?回し蹴り『は』勘弁してあげる?ってことはまさか……。」


 死亡フラグを回避したと思った蓮華の喜びは楓の言葉を理解していくにつれ消えていった。


「そのまさかよ、蓮華にはゲンコツ一発で許してあげる。」

「そんなぁ~!許して下さいよー!」


 泣き喚きながら許しを請うもすでに遅かった。


「せいっ!」

「いったぁー!割れる割れる!頭割れるー!おおぉ…痛いよぉ…。」


 蓮華の命乞いも虚しく楓から頭に鈍器で叩かれた音が聞こえる程のゲンコツを受け殴られた場所を両手で押さえながら涙目でしゃがみ込んでいた。


 迷惑をかけた罪人2人に制裁を加え楓は周りから視線を感じ目線を向けると教室にいた生徒達は目の前で起こった惨劇に身を縮こませていた。


 噂では危険人物とされていた悠莉を回し蹴り一発で捻じ伏せさらに蓮華にかましたゲンコツの音は本当の鈍器で殴った時と似た音がでていたため1年B組は今恐怖に支配されていた。


 下手なことをしてしまうと目の前にいるMM部二人の二の舞になってしうのではいかと本能で感じていた。

 

 そんな教室の空気を感じ取った楓はいつの間にか動かなくなって静かになっていた悠莉と半ベソかきながらしゃがみ込んでいる蓮華の襟を掴み持ち帰る準備を始めた。


「よいしょっと、お騒がせしてごめんなさい。後でこいつらには説教しておくから…。それじゃ失礼するわね。」


 そう謝罪をした楓は襟を掴んでいる悠莉と蓮華を軽々と引き摺りながら1年B組を後にした。


 残された生徒達は嵐が急にきてすぐに過ぎ去った事に呆然としながらしばらく誰も言葉を発することは無かった。


 そしてこの出来事が後に新たな噂の種になり、レスリング部と柔道部を倒したのは本当は楓なのではないかという噂が駆け巡ることになる。


 悠莉と蓮華を引き摺り廊下へ出たところで息を切らしながら走ってくる紅葉が遅れながら追いついた。


「はぁ……はぁ……か、楓先輩すいません……遅れました……。」


 息を整え痛む胸を押さえながら紅葉は楓に謝った。


「大丈夫よ、私こそ置いていってごめんね。今部室に戻るところだからゆっくり行きましょう。」

「はい……あのそれで桜井先輩と蓮華ちゃんはどうしてぐったりしてるんですか……?」


 紅葉は動かなくなっている二人に疑問を持っていた。


「ああ、ちょっとおいたがすぎたからちょっとね。部室まで引き摺るのは簡単だから気にしないでいいわよ。」


 襟を掴んでいる二人を少し持ち上げ問題ない事を伝えた。


「わ、わかりました…。やっぱりやらかしたんだ…。」


 紅葉と合流した楓は抵抗無く気絶している悠莉と全てを諦めた蓮華を紅葉に見せると、何事も無かったように部室まで歩を進める中紅葉は引き摺られている二人の様子を心配そうに何度も見守っていた。

 

 部室まで行く途中に階段を昇らなければいけないが楓は持ち上げることはせずにそのまま階段にぶつけながら昇りきり階段には小刻みに蓮華の悲鳴があがった。


「いたっ!ちょっ!待っ!おしりが~……!」


 お尻にくる思い衝撃に蓮華は半泣きになっていた。


「蓮華ちゃん……もう少しだからがんばって……。」

「ええ!?紅葉助けて~このままじゃおしりが二つに割れるよ~!」

「えっと……おしりって二つに割れてるよね……?」


 蓮華の言葉に素朴な疑問をぶつけると蓮華は救いが無いと力無く項垂れた。


「そうよ、大丈夫だから心配しなくても平気よ紅葉。」

「うぅ~あぁ~……救いは無かった……。くそーおしりが赤くなったら部長に腫れが引くまで撫でて貰おう。」

「え…?!それは流石にダメだよ蓮華ちゃん……。そ、そんなおしり触って貰うなんて……。ズルイ……。」


 紅葉は二人に聞こえないよう小声で呟いた。


「蓮華はバカなこと言ってないで少しは反省しなさい。紅葉も蓮華の言葉を一々真に受けない。」

「はーい、わかりました。」

「は、はい……ごめんなさい……。」


 階段を昇りきり楓は相変わらず二人を引き摺り蓮華は反省の色を見せずずっとニヤニヤと笑いながら引き摺られ、紅葉は蓮華の言葉が頭に残り自分のおしりを気にしながら悠莉を見て廊下を歩いているとようやく気絶していた悠莉が目を覚ました。


「うっ…ここは一体…あれ?さっきまで1年B組で筋肉教室を開催していたはずだが!?」


 目が覚めた悠莉は気を失う直前に味わった恐怖で記憶が混乱していた。


「そんな悪趣味な催し物は開催されてないわよ。」

「楓?どうして楓が……って引き摺られている!?どういう状況なんだ!?」


 死角から聞こえる楓の声に驚き状況を確認するため隣に居た蓮華に説明を求めた。


「部長…これから私達は裁かれるんですよ…。短い付き合いでしたが楽しかったです…。」

「裁かれる!?ちょっと待って本当に?本当に裁かれるの?裁判長ってもしかして……楓?」


 聞きなれない言葉と現実を見たくない悠莉は何度も蓮華に聞いた。


「はい、そうですよ。なので部長、一緒に仲良く裁かれましょう。時には諦めも肝心ですよ。」

「ははっ……終わった。」


 蓮華の遠い目に悠莉は全て諦めた。


「あの……桜井先輩……その、きっと大丈夫ですよ……。」


 今の状況を理解した悠莉は楓から逃げられないと諦めの表情を浮かべている悠莉を紅葉は心配そうに見つめながらどうにか励ます言葉を探していたが、気の利いた言葉が出てこないまま見守ることしかできなかった。


 そんな葛藤をしている間に一行は部室前まで戻ってくると中から楽しそうな話し声が聞こえてきた。


 1年B組に行っている間に誰か部室に来ているようで、引き摺られながら入るわけにはいかなくなったので楓は二人の襟を離し悠莉と蓮華は解放感に浸る事無く身嗜みを整えると部室へ戻っていった。


「菫先輩、誰か来ているんですか?」


 部室へ入るとイスに座っている菫に話しかけた。


「やあ悠莉くん達おかえり、お互いの待ち人が揃ったようだね。紹介するよ彼女は例の相談者の小森 茜ちゃんだ。そして今来たのがMM部の部長と部員達だよ。」


 菫は向かい側に座っていた小森に悠莉達を紹介した。


「は、初めまして!私1年B組の小森 茜と言います!」


 座っていた小森はイスから立ち上がり部室の入り口にいる悠莉達に頭を下げた。


「ああ、君が相談を入れた子か。俺は部長の桜井悠莉でこっちの目付きが怖いのが同じ2年の楓と、派手な制服なのが1年の蓮華で後ろに隠れているのが1年の紅葉だ。」

「ちょっと目付きが怖いとか言わないでよ。よろしくね小森さん。」

「茜ちゃんよろしくー。」

「えっと……よ、よろしくお願いします……。」


 部室にいたのは永机で菫と一緒にお茶を飲み談笑していた悠莉達の探し人の相談者の小森 茜だった。


 入れ違いになっていたようで少し気まずさがあったが、悠莉達はさっそく本題に入るため永机に腰を下ろし、全員が席に着いたのを確認すると悠莉は小森 茜に向き直り咳払いをした後に話しだした。


「まずはMM部にようこそ!小森さんの相談をどんな手を使ってでも解決するから遠慮無く頼ってくれ!」


 悠莉は胸に手を当て笑顔で小森に近付いた。


「え、えっと……そうなんですね……ははっ……。」

「小森さんアイツは無視していいわ。それで早速なんだけど相談の方は会ってから詳細を話したいって事だったわね。ゆっくりでいいから話してくれる?」

「は、はい。えっと相談なんですけど……私クラスで友達は疎か仲の良い子すらいないんです…。それでその、どうやったら友達を作れるか相談したくて来たんです。」


 楓に言われたとおり悠莉を気にせず言い淀みながら相談内容を打ち明けた。


「友達、なるほど友達か……クラスで友達を作りたい……友達……あれ視界が歪むな?どうしたんだろう?」


 悠莉の目には悲しくも無いのに涙が溜まっていた。


「ああ、部長ボッチですからね、この手の相談は戦力外なんで隅っこでいじけてて良いですよ。私達が相談にのるんで。」

「ち、違う……これは目から筋肉がでてきたんだよ!悲しいわけじゃない!」


 否定しようにも謎の言い訳しか出てこない事に悠莉の心は痛み始めた。


「何気持ち悪い事言ってるのよ、アンタに友達がいないのは事実なんだから黙ってなさい。」

「悠莉くん、そんなに強がる必要は無いよ。友達がいなくても恥ずかしい事じゃ無いからね。でも泣くなら今は相談者がいるから隅っこで頼むよ。」

「うん……こんなに攻撃されるとは思わなかった。ちょっと隅っこにいるね?筋肉と慰め合ってるから……。」


 心配されること無く隅に追いやられた悠莉は哀愁漂う背中で隅っこに歩き出した。


「あ……桜井先輩、私も一緒に行きます……。」


 珍しく悠莉の隣をピッタリくっ付いて行きますと並んで話し合った。。


「ありがとう紅葉……お前だけだよ俺の見方はだ……一緒に隅っこに居ような。」

近くにきてるれた蓮華にととうり同士で

「はい……い、一緒にいます……。」


 悠莉と紅葉は部室の隅っこで体育座りをしていじけていると、小森 茜は任せてろと言って数分もしないうちに戦力外通告され追い出された悠莉の姿に戸惑いを隠せなかった。


 そんな小森 茜とは裏腹に戦力外通告をしてスッキリした楓、蓮華、菫の三人は何事も無かったようにもう一度相談内容を確認した。


「ごめんなさい、いつものことだから放っておいて大丈夫よ。相談内容の確認だけどクラスで友達を作りたいでいいのかしら?」


 脱線した話を戻すため相談内容を確認した。


「あ、はい!それで間違いありません。」

「茜ちゃんそこまで根暗じゃ無さそうだし話しやすいから自然と友達が出来ると思うんだけどなあ。クラスで何かあったりする?」


 蓮華は小森をグルグル見てから疑問を浮かべた。


「え?何も無いと思うけど…ただ、入学してすぐに告白されて断ったぐらいかな。」

「あぁ~もしかして恋愛絡み?もしそうだったらちと面倒だね。」


 恋愛絡みの話に蓮華は面倒臭い顔を浮かべ渋っていた。


「恋愛絡みね…、でもそう決め付けるのは少し早いかもしれないわね。まだ他の可能性だって残っているかもしれないでしょう。」

「そうだね、じゃあもう少し詳しく話して貰ってもいいかな?」

「はい菫先輩、少し長くなるかもしれないですがお話しします。」


 小森 茜から話された内容は、入学した当初は一緒に弁当を食べたり話せる友人がいて順調な高校生活を送っていた。


 1ヶ月が経った頃同じクラスの一人の男子生徒から告白され、その男子生徒と話したことはあったが特別仲が良かったわけでも無く小森自身も恋愛に今は興味が無くそんな状態では付き合えないとその場で告白を断った。


 その後は何事も無くその男子生徒と過ごしていたが、だんだんと一緒にいた友人達やクラスメイトに話しかけても素っ気ない態度をとられるようになっていき今では誰も話しかけてくれなくなっていた。


 一度弁当を食べていた友人に一緒に食べていいか聞いたら目を合わせる事無く拒否された。


 自分が何かしたのか、それとも他に原因があるのかわからないそんな日々に耐えられなくなり変な噂があったが相談にのってくれるMM部にわらにもすがる思いできたのだ。


「……これは相談内容を友達を作るじゃなくて、こんな状況になった原因を突き止めるに変えた方がいいわね。悠莉、聞こえてたでしょ?」


 小森の相談内容の変更を隅っこに座っていた悠莉に確認をとった。


「ああ、ふざけた事が起こってるな。小森さん、相談の変更だこの問題MM部が受け持つ。そんで原因をつくった奴に謝罪させる。」


 楓の言葉をすぐに了承すると立ち上がり腕を鳴らした。


「そ、そんな事まで悪いですよ!それに……もし相談したことがバレたら直接何かされたりしないか……怖いです……。」


 小森は体を小刻みに震え見えない何かに怯えていた。


「安心してくれ小森さんの安全は絶対に保証する。蓮華、紅葉お前達にお願いがあるがいいか?」


 震えている小森を励ますよう声をかけると、悠莉は蓮華と紅葉の方に振り向いた。


「はいはーい、私は茜ちゃんの教室で何が起こってるか調べますね。こればっかりは私が適任ですからね。んで紅葉ちゃんは……」

「小森さんと極力一緒にいます……。一人になってる時間を……減らします……。」


 二人は悠莉はの言葉を聞く前に言おうとしたことを先回りし、自分達の仕事を伝えた。


「頼むぞ二人とも頼りにしてるからな。それで楓と菫先輩だが……」


 何も言わずとも伝わっていた二人に頷き、今度は楓と菫に目を向けた。


「私も紅葉と一緒に小森さんと極力一緒にいるようにするわ。怪しい奴が来たらぶっ飛ばす。」

「うーん、それじゃあ私は茜ちゃんのメンタルケアをしようかな。茜ちゃん、私はここによくいるから何かあったら話し相手になるよ。」


 楓と菫も悠莉が指示をだすまでも無く自分の仕事を理解していた。


「ありがとう二人とも、あとは俺だが……蓮華と一緒に情報収集をしていこうと思う。男子生徒なら話せるだろう。」


 みんなの仕事が決まっていき肝心の悠莉の仕事だが、先程の1年B組での出来事のように恐れられているため意図せず情報を吐いてくれると思い蓮華と一緒の情報収集に当たる事にした。


「まあ、あんだけ恐れられていたら何でも吐いちゃいそうですけどね。」

「それじゃあ早速活動開始といきたいが……もう下校時刻になるから明日から本格的にスタートだ!」


 それぞれの役割を決め悠莉と蓮華は手を上に挙げ気合いを入れた。


「皆さん……ありがとうございます…!」


 最初と相談内容は変わり1年B組で起こっている小森 茜に対する問題の解決になったが悠莉の指示により各々今後の方針が決まり今日は下校時間が近づいていたため後日行う事で今日のMM部は解散となった。

 

 念のため帰り道は家の方向が同じだった菫と蓮華に付き添ってもらい連絡先も全員と交換して何かあったらすぐに連絡を貰うようにした。



 小森 茜と蓮華、菫の三人を見送ると家が別方向の悠莉、楓、紅葉達も帰り道につき一緒に下校している三人の空気は軽口を叩けるものでは無かった。


 怒りが伝わってくる楓、悲しそうにしている紅葉、そして胸糞悪い気分になっている悠莉、相談を聞いてから他の部員も同じ気持ちで何も言わなくても察しがついていた。


 重苦しい空気が続いていたがそんな空気を壊して口を開いたのは悠莉だった。


「今回の相談だが、小森さん相当堪えていた。筋肉からも疲労の声が聞こえてきた。」


 ゆっくりとその時の声を思い出すように楓と紅葉に零した。


「筋肉とか言われるとふざけている様に聞こえるけど、悠莉の場合はそうでも無いのよね。疲労の声ってことは精神的だけじゃなく肉体的にも辛いってことよね。」


 この空気で悠莉の言葉はふざけているように聞こえるが悠莉の魔法を知っている楓にとっては違って、反対に小森の肉体は悲鳴を上げている裏付けになっていた。


「精神が辛いと……体にも影響がでますからね……。」


 紅葉は自分の胸の前に拳を作り隣にいる悠莉の袖をギュッと摘まんだ。


「ふざけた魔法だけど相手の不調を気付けるのはものは使いようだな。だから小森さんのためにも一刻も早く解決しよう。」

「もちろんよ。あんな胸糞悪い状況さっさとぶっ壊すわよ。」

「そうですね……もし本当なら、あんなの……可哀想です……。」


 悠莉の魔法の『筋肉の声を聞く』は一見使い道どころかふざけたものだが、今回のように筋肉からの疲労の声を聞くことによって相手がどんな状態か、本当に辛いのか相手の不調を知ることが出来る。


 先ほどの部室でも隅っこでいじけている間に小森の筋肉から『辛い』『痛い』という声を悠莉はずっと聞こえていたため本人が苦しがっているのが伝わってきていた。だからこそこの問題を早く解決しようと思えた。


「お、もう家か。じゃあ俺はここで明日から頼むぞ!」

「言われるまでも無いわよ。それじゃあまた明日ね。」

「お疲れ様でした…。また明日…。」

「おう!それじゃあな!」


 悠莉の家に着くと二人に別れを告げ家の中へ入っていった。残った二人は挨拶を済ませるとそのまま帰路についた。そして各々明日に向けて早めに休み英気を養なっていた。

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