MM部におまかせ!

木樹

M(マッスル)M(マジック)部へようこそ!

第1話 MM部へようこそ!


 『魔法』それが発見されたのは日本のある地域が発端であり西暦2000年になってすぐのことだった。


 初めて魔法に目覚めた魔法使いは直ぐさまTV、ネットで話題を集め知らぬ者はいない程瞬く間に全世界に広がり、人々はファンタジーでしか見てこれなかった『魔法』の存在にすぐに虜になった。


 おとぎ話のような夢や希望がありふれている『魔法』に期待を隠し切れず、その時代では『魔法』という言葉はTVでは見ない日が無いほど連日その話題一色に染まっていた。

 


 ーーしかし、話題性とは裏腹に『魔法』の研究はなかなか進まずにいた。

 当時は科学技術も常に進化し続けている技術革新が起きており、科学者・技術者達からはせっかく波に乗ってきていたものを横から努力と結果を奪われてしまうと危惧する声が強かった。


 実際にその時には市民や国から科学よりも魔法の研究を最優先されることが多く、長年積み重ねてきた研究成果は興味を持たれず見られることなく消えていった物が多い。

 そのせいで非科学的な『魔法』などという科学とは相反するモノを研究したい物好きな科学者は少なかった。

 多くの科学者達は『魔法』の研究に手を挙げることは無く変わらず己の研究を進めていくようになっていた。


 それにより研究者不足となった『魔法』の研究は難色を示し解析は進まないまま話題性だけを残していた。

 『魔法』の研究に痺れを切らした国と夢を見せるだけ見せておいて何も進展が無いことに不満がピークに達した市民から怒りの声が出始め、その矛先は科学者ではなく始まりの魔法使いに向けられていた。

 


 魔法を世間に公表した人物を始まりの魔法使いを「オリジンウィザード」と呼ばれていた。世間は初め救世主や先導者、神の子と崇め皆から持ち上げられる存在だった。

 

 だが、『魔法』について何も進展がないと『魔法』の情報を独占して自分だけのモノにしようとしているのではないかと疑惑の目に変わった。

 

 そして世間は掌を返すように今までの歓声はバッシングやブーイングに変わってしまいオリジンウィザードを蔑み軽蔑し化け物を見る目で関わり始めた。

 その時世間にとって『魔法』は、独占欲に飲まれたオリジンウィザードのような意地汚い者を生む『化け物の力』とされていた。

 


 そこからは夢と希望であったはずの未知なる『魔法』は化け物の力と認識され畏怖すべき対象に変わり果てた。

 災いをもたらす呪い、自然災害が起きれば『魔法』のせい、異常気象や異常事態になれな『魔法』が関係している。

 『魔法』が解明されていない事をいいことにことあるごと全て『魔法』のせいにされていた。

 ここまで『魔法』の解明が進まないと世界の人々は未知への恐怖に必要以上に怯えていた。

 

 『魔法』は一体どれ程の事ができどれだけの威力を発揮するのか。

もし簡単に人や動物を殺せるならどうする?

もし自然現象にも手を出せたら?

もし予想もしない力だったら?


 様々な危険性が危惧され国際的問題にまで上り詰めた。恐怖心で肥大した妄想ともとれる考えのせいでオリジンウィザードは日本だけで無く全世界から疎まれる存在にされた。

 

 このままいけば『魔法』は忌み嫌われ今後増えてくる可能性がある魔法使いの肩身は狭く差別されてしまうのは目に見えてわかりきっている。

 そんな未来に危惧したオリジンウィザードは行動せざるを得なかった。

 今まで行動を起こせば周りからはブーイングやパッシングの嵐にあい誰も聞く耳をもつ人などいないため説明しても意味が無い。

 それでもやらねば『魔法』の未来が無いとわかっていた。


 オリジンウィザードが開いた行動は世間に蔓延している『魔法』に対する概念や思い込みを全て打ち消すほどの絶大な効果をもたらす行動になる。

 

 その行動は至ってシンプルなもので、誰もオリジンウィザードの話を聞かないのなら聞かざるを得ない状況で話せばいい。オリジンウィザードは全世界に向けて記者会見を開いた。

 

 急なオリジンウィザードの記者会見に世界はようやく独占欲が無くなって『魔法』について話す気になった愚か者と比喩されていた。

 再び全世界は『魔法』を公表した時と同じかそれ以上に注目しオリジンウィザードの言葉を待っていた。

 そして、ついにオリジンウィザードは重く沈黙していた口を開き言葉をだした。


「魔法は確かに存在します。ですが、ぶっちゃけ出来ることはショボいものばかりです。なんでここまで話題になってしまったのかわかりませんが、出来ることなどたかが知れている夢も希望もないものばかりです。四大元素とかカッコいいこと言われましたが、火の魔法なんてチャッカマンより火力が出ませんしチャッカマンの方が速くて楽に点火できます。水の魔法なんて使うより蛇口を捻った方がいっぱい水が出ますし便利です。風の魔法の威力は手持ち扇風機といい勝負です。土の魔法に至っては使い道がありません。こんなものを研究するぐらいなら家電や家をオール電化にするとかそっちの研究の方が数段階有意義です。」


 オリジンウィザードの言葉は止まらず更に続いていった。


「自然災害?そんなの起こせるほど便利でスバらしい力では無いです。皆さんは家電で自然災害を引き起こせますか?魔法はそれよりも威力が無いんですよ。もってて残念なガッカリスキルなんです。」

 

 言葉を終えたオリジンウィザードの姿はまさしくサンタの正体が親だとわかってしまった悲しみにくれる子供のような哀愁漂う悲惨なもので、この記者会見は後に『魔法(笑)宣言』とされネット上に受け継がれていくのだった。


 これで『魔法』の研究成果がどうして発表されなかったのか判明した。

 世間は『魔法』と言う言葉に期待を持ちすぎ今の科学力を超える文明進化になると誰一人疑ってなかった。

 そのせいで『魔法』の期待値が高まり本当は科学以下の存在ということをずっと公表できずお茶を濁していた。


 多くの人々の理想や希望を打ち砕いたが『魔法』を理解されるきっかけになった事には変わりなくこの記者会見以降に『魔法』へのバッシングは無くなった。

 ついでに魔法に対する幼き日に見た夢と希望も無くなった。



 それから年々魔法使いは増加していったがオリジンウィザードの言うとおり魔法は脅威となるほど凄まじいものでは無く、あったら便利かもという程の便利グッズ程度の評価をされていた。

 『魔法』に脅威は無いと分かり魔法使いは差別を受けること無く生活を送れるようになり早20年がたとうとしていた。


 そして現代2020年、『魔法』が発見され魔法使いと共存する社会は大きなトラブルも無く魔法による差別や亀裂が生じないまま20年の年月が過ぎ魔法使いの比率は人口の4割を占め『魔法』が当たり前に存在する世界となっていた。



「さて、皆揃ったか?では部活を始めるぞ。」

「はい、その前に悠莉、一件だけいいですか?」

 悠莉と言われる男子生徒に女子生徒は手を上げて発言した。


「なんだ楓?今日の絶好調筋肉は腹筋がいい感じだぞ。」

「お前の筋肉事情なんて知るか気色悪い。前回レスリング部と柔道部が練習場所の取り合いでケンカ寸前の所で仲裁をした件です。」

 楓はいらない情報を吐き捨てるように流しすと本題に入った。


「それなら平和的かつ迅速に解決したが?」

「レスリング部と柔道部の負傷者合わせて10名、後軽傷が8名、重傷が2名ですけどこれが平和的ですか?」

 平和の意味をはき違えた答えに楓は声を低くして男子生徒を見下した。


「それは……筋肉がいい日にケンカなんてしちゃったからで…それにレスリング部と柔道部の部長達の筋肉が『そんな筋肉でくるとかクソ雑魚www』って煽ってきたからその…俺の筋肉が叫びました…。」

 楓に見下されると蛇に睨まれた蛙のように覇気を失っていた。


「はぁ……、これだから脳筋はダメなのよ。全部筋肉で解決しようなんてそもそもの発想自体がおかしいのよ。この件のせいでウチの部は1週間の謹慎を余儀なくされたんです。ここにいる部員に土下座して詫びて下さい。」

「すいませんでしたッ!!!!もうしませんッ!!!!」


 夕暮れが差し掛かる教室より一回り小さい特別教室の中では、1つの永テーブルを囲むように椅子に座っている4人の女子生徒の部員達に対して頭を地面に擦りつけプライドも何も無いと思わせるほど馴れた手つきで土下座している男子生徒の姿が映されていた。


 短髪の黒髪に人相の悪いツリ目で中肉中背の彼はこの部活「MM部」部長の櫻井悠莉。

2年A組に所属している魔法使いである。


 悠莉の躊躇の無い土下座に対して4人の女子生徒達はバラバラの反応を示しており、

慌てる様子を見せる者、

頭に手を組みながら爆笑している者、

興味が無いようにボーッとしている者、

土下座を要求し冷徹な目で蔑みGを見ているようにしている者、

反応は一人を除いて酷いものばかりだった。


 それでも土下座をしている悠莉はそんな酷い反応をされても怒ることなく許しが出るまでひたすら頭を地面に擦りつけ床から軋む音が聞こえても尚頭を下げ続けた。


 あまりにも必死な土下座に慌てる様子を見せた女子生徒は耐えきれず椅子から立ち上がり土下座中の悠莉の元まで駆け寄っていった。

「あの……櫻井先輩そんなに気にしなくても大丈夫ですよ……。櫻井先輩が……ふざけてやったことじゃ無いくらい……わかりますから。」


 駆け寄った女子生徒は眉をひそめ悠莉に同情するように慰めた。


「紅葉……だが俺は自分の筋肉を抑えきれずこんな失態を犯してしまった。鍛錬が足りていないばかりにっ……!」

「私は気にしてないので大丈夫です……。確かにちょっとやりすぎかなって思いましたけど……。でも櫻井先輩は皆のためにがんばったのは知ってますから……。」


 失敗を悔やんでいる悠莉の背に手を置き必死に数少ない長所を探した。


「紅葉!お前はなんて懐が広いんだ!ありがとう……!ありがとう……!さすが部のマスコットだ!」


 悠莉の元へやってきた黒髪サイドテールの小柄で気弱げな少女、花咲 紅葉は土下座している悠莉が見るに耐えなかったため背中をさすりながら励ましていた。


 紅葉は悠莉の一つ下の高校1年生のA組に所属している魔法使いであり、小柄で内気な性格に加えいつもオドオドしているせいでその姿がまるで震える子犬のように見えるためMM部のマスコット的後輩になっている。


 そんな愛くるしい後輩に慰められれば自然と癒やされてくるため悠莉の頬は緩みきり流れるように紅葉の頭を撫でていた。


「紅葉ありがとう、おかげで元気が出てきた!筋肉達も嬉しくて歓声をあげてるぞ!」

「そ、そうですか……元気になったのなら……よかったです……。筋肉が嬉しいってなんだろう……褒められたのに、ちょっと複雑……。」


 伝わらない褒め言葉に戸惑いを覚えるが、悠莉が元気になった事に笑顔をみせた。


「部長は相変わらずですねー。何かあったらすぐ筋肉筋肉、これって部長の元々の性格なんですか?それとも宴会芸にも使えない部長の魔法のせいなんですか?」


 悠莉と紅葉との会話に割って入って来る明

るい声が現れた。


「元々の性格……ではないな。魔法使いに目覚めたのが中学に入る前だったから、魔法のせいかもしれないな。」

「はぁ~、それは大変ですね。部長の魔法聞くの面白いんでまた説明して下さいよ。そしたら爆笑してあげますから!」


 笑う気を隠さず堂々としながら爆笑宣言をすると両手で拳を作り胸の前に構えると悠莉の魔法を聞いた。


「蓮華これで何度目だ……毎回説明する度に爆笑どころか馬鹿にしてくるじゃないか……。これで最後だからな、俺の魔法は『筋肉の声』を聞くことができる。」


 何度目か忘れたくらい言わされた言葉を言わされ爆笑されている悠莉は今回も諦めた姿でまた説明した。


「あっはははは!魔法で筋肉の声とか残念魔法じゃないですかッ!あははははっ!ゴホッゴホッ!あー……笑いすぎて腹いたいですよ。」


 蓮華は宣言通りイスに座ったまま腹を抱え足をバタつかせて大爆笑した。


「笑いすぎだ!」

 悠莉の魔法を爆笑した少女は先程土下座している最中にも頭に手を組みながら爆笑していた者であり彼女の名は桂木 蓮華、紅葉と同じ高校1年生のA組に所属して彼女も魔法使いである。


 紅葉とは同級生だが性格も体型も正反対で悠莉より頭一つ小さく、明るく先輩にも物怖じしない大胆な性格で、それを表すように爆笑している最中は茶髪のポニーテールが揺れ動いている。


 さらに制服も自分好みに改造しスカートに星や月など刺繍し、上着の袖にはフリルなどを付けているせいで先生達から目を置かれている問題児だが、人懐っこいところや冗談で笑わしたり悠莉をイジって楽しむMM部のムードメーカーでもある。


 だがちゃんと相手が気にしているところをしっかり気持ちをくみ取ることもできたりするため、蓮華は冗談交じりながら悠莉の失態を笑い飛ばした。


「まぁー、部長が何かやらかすなんて今更ですしアタシも気にして無いっすよ。あ、でも部長の土下座面白かったのでもう一回お願いできます?」

「蓮華!お前という奴は良いこと言ったと思ったら一言余計だぞ!土下座なんてそんなホイホイ筋トレ感覚で出来るか!」


 友人からトイレ一緒に行こうと誘われる気さくさでお願いされ頷きかけたが途中で気付き悠莉は声を荒げ中断した。


「うわぁ~さっきまで躊躇無くしていた人からの言葉だとは思わないっすね。あんな奇麗な土下座出来てたんでてっきり土下座の常習犯かと思いました。」

「そんな事あるか!俺はそんな軽い男では無い!堅実で紳士的でクールな男だ!」


 先輩相手とは思えない失礼な態度の蓮華に悠莉は叱咤しながら答えた。


「部長、一回堅実と紳士的とクールって言葉調べ直した方がいいっすよ。どれも部長に当てはまっていませんからね?むしろ対極的ですよ。」

「なん……だと……!」


 蓮華から返された答に目を見開き思い描いていた自分の理想が崩れ落ちた。


「はいはい、そんなテンプレ反応いいんでさっさと2回目の土下座お願いしますよ。ほーれ土ー下ー座、土ー下ー座。」


 驚愕している悠莉のつまらなかった蓮華は手拍子をしながら土下座コールを奏でた。


「そんな風にノリよく言われてもやらんぞ!」


 蓮華の悪乗りにもう一度土下座されそうになった悠莉だったが、蓮華との付き合いも長くなってきたおかげで蓮華も本気で言っている訳ではないのはわかっていたため最初からする気は無かった。


 だが、蓮華からの執拗なイジりにさっき紅葉によって回復した分以上に疲れがきていた。そんな疲れを見せている悠莉に今まで興味を示していなかった女子生徒が話しかけてきた。

「悠莉くんはいつ見てもオモシロいね。普通あんな土下座すぐにできないよ。コッソリ練習でもしていたのかな?」


 ボーッとしていた女子生徒は初め興味が無かった悠莉の土下座に蓮華とのやり取りで簡単に土下座をしてくれるのか気になり深く頷きながら感心していた。


「土下座の練習なんてしていませんよ菫先輩、そんなことするなら筋トレします。」

「本当に筋肉が好きなんだね、それは悠莉くんの魔法のせいなのかな?先輩に教えてくれないかい?」


 悠莉の筋トレ好きが魔法のせいなのか気になり興味深く観察するように尋ねた。


「確かに魔法も関係してますが……それよりも筋トレ以外の趣味がないので……。」


 遠い目をしながら自分に筋トレ以外の趣味が見つからなかった事に泣きそうだった。


「そうか、確か悠莉くんは俗に言うボッチと言うものだったね。ごめんね……辛いことを聞いてしまって……先輩が慰めてあげるからね。」

「違う!ボッチでは無くて一匹狼なんです!己の肉体を鍛え上げ強靱な体と精神を身につけているんですよ!だからこそ一人で……筋トレして……筋肉と会話してるだけなんですよ……。」


 菫に同情され虚しく思えた悠莉は悲しさを紛らわすように声を大きくしていた。


「よしよし、辛かったね悲しかったね、いいよ先輩にどーんと甘えてきなさい。先輩の包容力を見せてあげよう。」


 強がっている悠莉の顔を胸に押し寄せ耳元で囁いた。


「はぁ……これは……筋肉が……どんどんと癒やされていく……。」


 悠莉は膨よかな菫の胸に囲まれ癒やされていた。


「ん~、こういうのが無かったらカワイイ後輩なんだけどな……。」


 ゆっくりと落ち着きがある声で疲労している悠莉に優しく声をかけながら子供をあやす母のように正面から抱き締め胸に悠莉の顔を引き寄せ頭を撫でているのは、MM部唯一の3年生の赤坂 菫である。


 菫の所属は3年A組で魔法使いであり、腰まで伸びた黒髪の癖っ毛に悠莉よりも頭一つ大きい背丈を持ち、常に落ち着きがあり穏やかな表情を浮かべ感情的になることは無いが興味の無いものに対しては認識すらしないドライな性格をしている。


 この部きっての最年長ということもありMM部の頼れる先輩兼母である。


 菫の母親オーラに当てられされるがままになっている情け無い悠莉に後ろから低い声で怒りを感じさせる威圧的な存在醸し出しながら腕を組んで悠莉を睨んでいる女子生徒がいた。


「いつまで菫先輩に甘えているの悠莉、さっさと離れて部活始めるんでしょ。まったくこの脳筋は数分前のことも覚えていないのかしら。」


 菫とのやり取りを見ていた楓は惚けている悠莉に怒気を強め腕組みを言った。


「はっ!いかんまた菫先輩の安らぎ筋肉に呑み込まれてしまった!楓助かったぞ!」


 楓の怒気を帯びた声に反射的に背を伸ばし飛び退けるように菫から離れて何事も無かったようにお礼をした。


「本当かしらね?菫先輩の大きな胸にもっと顔を埋めていたかったんじゃないの?」


 目を細め疑う目が悠莉に刺さった。


「そ、そんなことは無いぞ!?しっかり部長としての威厳をここで見せないといけないしな!」

「あんたにまだ部長としての威厳があるなら簡単に土下座なんてしないんじゃないの?」

「土下座しろって言ったのは楓だろう!?理不尽じゃないか!?」


 後ろから睨みつけていたのは悠莉の幼馴染みの小崎 楓、高校2年生で所属はB組にあたり彼女だけMM部で魔法使いではない普通の学生になる。


 悠莉と同じ背丈で肩まで伸びてる黒髪に勝ち気で遠慮の無い物言いをしているためクラスとMM部内では頼れる姉御と称されている。


 本人はその事に不満を感じているが、幼少期から悠莉の面倒を見ていたおかげで困っている人を放っておけないようになっていた。


 幼馴染みの失態のせいで部が謹慎されたことを気にしており、信頼の回復と尻拭いをさせるため部長の悠莉に今日の部活を始めさせた。


「あんたが部長なんだからしっかりしなさい。ただでさえこの前の一件で先生達から目の敵にされてるんだから、ここでまた問題を起こしたら廃部になるかもしれないわよ。」

「それはいけないな、よし!ここいらで問題をスパッと解決して名誉挽回!汚名返上するぞ!」

「はぁ~……何でかしらあんたのその言葉がスゴく不安にさせられるんだけど。それで、やる気を出してる所悪いんだけど何か依頼はきているの?」


 大きな不安を抱え溜息をつきながら悠莉に依頼が来ているか確認した。


「ああ、この部室前に設置されている筋肉型相談ボックスに一件入っていた。」


 悠莉は筋肉型相談ボックスといわれる箱を楓の目の前に突き出した。


「ねえその筋肉型相談ボックスって言うの止めない?普通に相談ボックスでいいじゃない、筋肉型なんていう意味ないでしょう。」


 悠莉が手に持っている筋肉型相談ボックスとはMM部が活動している教室前の机に置かれており、生徒達が解決して欲しい悩みや相談事を書かれた紙を入れてもらう目安箱である。


 だがその見た目は縦長の長方形で真ん中より上に投書口があり、そこ一面に描かれているのはボディビルダーの様に逞しくシックスパックに割れている腹筋がリアルなタッチで再現されている。


 さらに投書口はちょうど胸筋辺りについているため相談用紙が胸筋に吸い込まれるという意味不明な現場を見ないといけない。


 こんな気持ちが悪い物の立案し作成したのは他でもない部長である悠莉である。


 設置する際には筋肉を消してまともなデザインにしろという楓の意見と反発し大喧嘩したが、最終的にはじゃんけんをして決める事でお互いに納得し悠莉がじゃんけんで勝ってしまったため現在採用されている。


 ちなみに部員達からの評価は最低で近いうちに撤去される予定になっている。


「ダメだ!筋肉型相談ボックスは筋肉型相談ボックスなんだよ!筋肉型がついていない相談ボックスなんてただの箱じゃないか!」

「そもそも筋肉型っていうのが意味分かんないのよ!なんで投書口にシックスパックに割れてる腹筋の絵が書かれているの!?見た目も気持ち悪いしこんなものに悩み事を投書したくないわよ!」


 楓は筋肉型相談ボックスの見た目の気持ち悪さに引いていた。


「この美しいシックスパック腹筋のどこがダメなんだ!いいじゃないか格好よくて素敵だろうが!筋肉馬鹿にするなよ!」


 悠莉は筋肉型相談ボックスの腹筋部を叩きながら力説した。


「だったらせめて裏とかに書きなさいよ!なんでわざわざ筋肉に相談を入れるなんて気持ち悪いことしないといけないのよ!」

「筋肉はなぁ!何でも解決してくれる魔法の筋肉なんだよ!筋肉があるからこそ人や動物達は生きていけるんだぞ!筋肉を崇め称えよ!」


 両手に持っていた筋肉型相談ボックスを天に掲げ怪しい宗教文句を唱えた。


「あの……先輩方、そろそろ相談のほうに……入りませんか……。」


 筋肉型相談ボックスのせいで話が一向に進まないのに痺れを切らした紅葉は萎縮しながらも震える声で悠莉と楓の言い争いの仲裁に入った。


 後輩から宥められている事実に冷静になると悠莉と楓は静かに顔を合わせ互いにやってきたことを恥ずかしく思い始めた。


 悠莉は軽く咳払いし改めて筋肉型相談ボックスに入っている相談用紙を取り出しそこに書かれている相談事を読み上げるため部員達を一見した。


「それじゃあ今回の相談を読み上げるから皆心して聞いてくれ。」


 入っていた相談用紙を片手に全員が準備できるまで待った。

「わかりました……。」

「わかりました!茶化す用意してますね!」

「私はいつでも大丈夫だよ。」

「さっさと読みなさいよ。」


 悠莉は部員達の意気込みを確認し終えると角を寸分の狂いも無く奇麗に四つ折りにされている相談用紙を広げると、中央に女子が書かれたと思われる丸文字で書かれている相談内容を意を決して読み始めた。


「『皆様、この度は急な相談事で大変恐れ入ります。今回相談させて頂きたいことは恥ずかしながらクラスで友達を作りたいというものです。詳細は会ってお話し致します。1年B組小森 茜』……ということらしいがやることは一つだな、1年B組にカチコミだー!」

「おおー!行ってやりましょう部長!いざ殴り込みだー!首を出せーい!」


 悠莉と蓮華は右腕掲げ高らかに宣言した。


「さ、櫻井先輩……蓮華ちゃん、落ち着いて下さい……。そんなカチコミに行っても小森さんを困らせるだけですよ……。」


 二人の野蛮な行動を止めようと二人を交互に見ながら慌てていた。


「筋肉とバカは少し落ち着きなさい、紅葉の言うとおり急に殴り込みに行ったらこの小森って子に悪いわよ。少しは落ち着いて行動しなさいよ。」


 久しぶりの部活動にテンションが上がっていた悠莉は勢い任せにカチコミ宣言をすると同じくテンションが上がっていた蓮華もそれに乗っかり舞い上がっていた。


 そんな暴走している二人を紅葉と楓は止めに入り熱くなった筋肉と問題児に説教をしている間、菫は読書をして終わるのを待ち時々茶々を入れる。


 これがいつものMM部の解決風景になっている。そして最後は楓の回し蹴りが悠莉に襲いかかり物理的に黙らせてから話し合いが始まる。


 しかし今回は約1週間ぶりの部活動ということで悠莉と蓮華のテンションもいつも以上に高くなり活発になっていたせいで楓の回し蹴りの前に二人は教室を飛び出し1年B組目掛けて走り出して行った。


「蓮華行くぞ!相談者が俺たちを待っている!」


 言い終わるとすぐに部室の扉に向かって一目散に駆け出した。


「もちろん行きますよ!なんてったって久しぶりの部活ですからねー!もう抑えきれません!GOGO!ヒャッホー!」


 悠莉の後ろを追うように蓮華も釣られて駆け出し部室を出て行った。


「あ!コラ筋肉とバカ止まりなさい!……ってもういないし!どんだけ早いのよ……。ハァ……仕方ない紅葉あのアホ共捕まえて引き戻すわよ。」


 二人の行動に頭痛がおき右手で頭を押さえた。


「わ、わかりました……。迷惑をかけてしまう前になんとかしないと……。」


 紅葉も悠莉と蓮華が問題を起こす前に止めようと楓に頷いた。


「それじゃあ私はここで待ってるよ。もしかしたら依頼人が来るかもしれないからね。」


 楓と紅葉に駆け出した二人を任せるように菫はイスから立とうとせず座ったままでいた。


「わかりました、菫先輩は留守番お願いします。もし依頼人が来たら私達が戻ってくるまで待っててくれるようにお願いします。」


 脱兎の如き駆け出した悠莉と蓮華を追うようにして楓と紅葉は教室から飛び出していき教室には菫だけが残された。


 廊下から聞こえる楓の怒声がどんどん小さくなっていくと先程まで賑やかだった教室とは打って変わって菫の本をめくる音が響くだけの静かな雰囲気になっていた。


 菫は本のページをめくっていた手を止めると賑やかに騒いでいた入り口の方を見渡していると、窓から入ってきた風にページを捲られていきページは最初の方まで戻された。


 今から読んでいたページまで読み直す気分にならない菫は本を畳むと風が入り込んできた窓から外の景色を眺めると昔のことを思い出していた。


「こんなに静かなのは久しぶりだね。半年前だと当たり前の事だったのに今じゃ考えられないね。まさか3年になってから部活に入ってしまうとはね…。何が起こるかわからないものだね。…ん?そこにいるのは誰かな?入ってきても大丈夫だよ。」


 静かな部室を懐かしんでいると部屋に来訪者が現れ懐かしむ時間は強制的に終わされ現実に戻された。


「あ、あの…失礼します。わたし小森 茜と言います。えっと、悩み相談を入れた者です…。」

「ああ、君が相談者の茜ちゃんか、詳細は会って話したいということだったね。すまないが部長達は今少し席を外しててね、しばらくしたら戻ってくるからお茶でも飲んで待っていてくれ。」


 菫は本を閉じて来訪者に警戒心を与えないように穏やかな表情を浮かべた。


「は、はい。わかりました。」


 菫が物思いに耽っていたところ教室の入り

口から中の様子を伺っている女子生徒を見つけ中へ案内すると、そこにいたのは先程話題になっていた相談者の小森 茜がMM部まで足を運んでいた。


 タイミングが悪くちょうど悠莉達が出ていった後で入れ違いになってしまった。


 そのため、菫は教室内に準備されてるポットの残量を確認し急須と湯飲みを準備するとお茶を煎れ悠莉達が戻って来るまでお茶会をしていた。

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