8.学園は割と普通だった

 学園にたどり着いたかと思えば囲まれてしまった俺達。

 冒険者としての依頼で来ているので特に慌てることもなく兵士長っぽい人物に説明をした。


「俺たちは冒険者ギルドの依頼できた冒険者です」


「嘘をつくな悪党め! 本当に冒険者ギルドから来たのであれば、結界を破壊する必要はないだろう!」


 反論ができなかった。というかなんで依頼を受けたときに結界があることを教えてくれなかったんだろう。説明があればこんなにめんどくさいことにはならなかったのに。


 俺たちを囲む兵士たちは、まるで俺だけが悪者のような目で睨んでいるように見える。

 リセとイリーナを見る時は、少しだけ優しい感じになっていた。これはあれか、女の子には優しいけど野郎には厳しい的なノリでもあるのだろうか。


「大体、ここの学園には各国の子息令嬢がおられるのだ。部外者の男が学園の門をくぐりたければ、まずは去勢をして来い!」


「嫌だよっ!」


 なんでそんなことしなきゃならないんだよ。その言葉を聞くだけである場所がとても痛く感じて怖いんだよ。イリーナとリセはよく分かっていなかったようで首を傾げている。よかった、めんどくさいことにはならなそうだ。


「分かったよ。今日はもう帰る。この依頼についてはもうやめだ。ほかの仕事にするぞ」


「でも違約金が発生するよ。依頼主ってここに通っているお嬢様のお父さん何でしょう? けっこうな額に……はっ! 諸刃が私を頼ってくれている? 任せて、なんたって私は女神なんだからね」


「リセ、あなただけ役に立とうと抜け駆けしないでください」


「あれ、違約金って依頼が失敗した場合に払うんだろう? 冒険者ギルド経由で学園に断られたって言えば、俺が失敗したわけじゃなくなるから大丈夫じゃないか。もしも依頼元がパルメラ公爵家だったらあれだ、直接公爵家に抗議して、学園側が邪魔をするってチクってやればいい。そこの兵士長が痛い目に遭うだけだ」


「ちょちょちょ、待ってくれ。君たち、本当に待ってくれ!」


 兵士長らしき人が急に慌て出す。さすがに公爵家の名前が出てきて、それが本当だったらいろいろとまずいだろうからな。まあ本当のことだから、今ここで俺たちが引き返すと確実に兵士長が大変な目に遭うんだけど……。


「ほ、本当に依頼を受けてやってきた冒険者なのか? だったらどうして正規の手順でやってこない……」


「受付嬢がいい加減な仕事をして教えてくれなかったから……」


「依頼主はパルメラ公爵家なんだろう? だったらどうしてそちらに顔を出さない」


「娘のそばにいる侍女に話は通してあるから直接そっちに行くようにって書いてあるんだよ、ほら」


 俺は依頼書のコピーを兵士長に見せる。上から下までじっくりと呼んで、そして悩ましい顔をしている。


「確かに、このように書かれているが、冒険者の受付嬢がそんな間違いをするか? うーん、どうだろう……」


「判断に迷うなら上の人やほかの人にも聞いてみてくれ。それで問題なさそうなら入れてほしい。ダメならチクる」


 チクるは魔法の言葉。本当を言ったのに拒絶されたらそれはそれで問題になる。さて、問題になった場合、一体だれがその責任を負うのだろうか。もちろんこの兵士長だ。


 もう一度言う、チクるは魔法の言葉。兵士長は慌てふためいて「確認してくりゅ」と言って去っていく。


 最後噛んだ感じが妙にかわいかった。ちょっと男っぽいと思っていたけど、どうやら女性だったようだ。ちょっとひどい感じに言い過ぎたかな?


「主殿、コレで問題なさそうですね」


「別に私たちは間違ったことしてないものね。さっさと入って仕事を終えて、そしてラーメンを食べに行きましょう」


「お前ら……ラーメンばかり食ってると、太るぞ?」


「「うぅ」」


 俺の太るという言葉を聞いて、イリーナとリセがおなかに手を当てて不安そうな顔を浮かべる。

 別にそんなすぐに太りはしないが、ちゃんとした食生活をしないと、本当に太るぞ。


 適当な雑談をしていると、兵士長が慌てた様子で俺たちのところに戻ってきた。


「すまない。君たちの言っていることは本当だったようだ。冒険者ギルドの方には苦情を入れておいた」


「いえ、信じてくれて何よりです」


 結局、悪いのは全てあの受付嬢ということになった。仕事の話をちゃんとしないのが悪い、と言うことなのだろう。当たり前だよな、それ。


 兵士長の後をついていき、俺たちは学園の敷地内に入る。お貴族様の学園と言うからにはさぞすごいんだろうなと少し期待していただけに、学園の普通さを見てちょっと残念に思った。


「なんか思ったよりも普通ね。貴族様の学校じゃないの」


『のじゃ、だからリセは馬鹿なのじゃ!』


「むむ、女神な私を馬鹿にするからには、のじゃロリは全て分かってるんでしょうね」


『のじゃ、すべて簡単なのじゃ。すべては繋がっているのじゃ!』


 何やらのじゃロリとリセが言い合いを始めた。先頭を歩く兵士長が「ん、知らない声が聞こえる」と言ってきたので、一瞬だけドキッとした。

 でも「気のせいか……」と言って先頭をゆっくりと歩く。何だろう、メタルでギアなゲームをしてる時の感覚になった。

 と言うか、兵士長が後ろを気に出した瞬間に黙るのやめような。別に俺達隠し事しているわけじゃないんだからな。


 にしても驚いた。

 兵士長に案内されて学園の敷地内に入ったのだけれど、こう、イメージしていた学園とは全く違っていて、逆にびっくりさせられた。

 まず、校舎の作りだが、いたって普通だ。普通の高校みたいな感じだ。私立高校という訳ではなく、どちらかと言えば公立の高校に近い作りをしている。普通だ。

 グラウンドらしきところもちらりと見えたが、いたって普通だった。大きさも特別大きいわけではない。体育の授業でもあるのだろうか、先生らしき人の指示のもと、聖都らしき人達が必死に走っている。


 一つ一つの光景が、なんだろうか、懐かしさを感じさせてくれる。ここ、本当に各国の子息令嬢が集まるすごい学園なのだろうか。


「うわぁ、普通って顔してますね」


 不意に兵士長が声をかけてきた。そんなに表情に出ていただろうか。別にそんなつもりはないんだけど、この光景を見せられたのだ。仕方ないと思うことにする。


「まあ、そうですね。よく見る光景です」


「そんなことはないはずなんだが。これでもこの辺りの周辺国では一番設備が整った学園のはずだよ」


「うーん、そうなんですか……」


 これはアレだろうか、異世界と元の世界とのギャップという奴。漫画とかだとすごい学園みたいに描かれることが多いけど、実際はそうでもないっぽい。というか技術的に元の世界の方が発展しているわけだし、学園の作りが同じだとしても不思議ではないのかもしれない。むしろファンタジーな世界に元の世界と同じレベルの技術が使用されている学園というのはある意味ですごいのかもしれないと思った。


 俺たちは学園に案内されて、そこで例のお嬢様と対面すると思っていたのだが、兵士長は普通に学園を通り過ぎてしまう。


「あれ、依頼書にかかれているご令嬢の元に向かうんだよな。だったらどうして学園に向かわないんだ」


「ああ、君達はこの学園に来るのが初めてだったね。この学園はいくつかの区に分けられている。今ここにいる場所は学校区といって学ぶための施設が立ち並ぶ区なのだよ。ほかにも学生区、技術研究区、戦闘訓練区、魔法研究区、魔法訓練区などなど、いろいろな区がある。今から行くのは学生区だな。この時間なら学生寮が立ち並ぶ学生区にいるはずだ。さっき連絡して確認したので間違いない」


「な、なるほど」


 見た目に騙されてはいけないというものだな。確かに今見える学園は俺の知る元の世界で一般的な高校と大差ないかもしれないが、ここは学園の一部に過ぎない。俺達の知る異世界学園的これすげーはほかにあるってことだよな。

 俺はちょっとだけ期待に胸膨らませて兵士長の後をついていった。


『のじゃ、期待するだけむだなのじゃ』


 そしてのじゃロリに鼻で笑われた……。

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