7.いざ行かん、ラーメンの聖地へ

 きれいな景色。さわやかな風に乗ってやってくる脂ぎった濃厚なにおい。俺たちはラーメンの聖地へやってきた。

 これから学園に向かい、お仕事相手とお話をすることになっている。


 そこで初めて悪役令嬢になりたい女の子と出会うのだが、そういえばその子の名前、まだ知らない……。まあ、その場で聞けば大丈夫だろうと思い込むことにする。

 さて、せっかくラーメンの聖地に来たのだ。仕事までまだ時間はあるし、今の時間はちょうどお昼時。せっかくなのでラーメンを食べておきたい。仕事相手と会う前にラーメンを食べるなんてどうかと思われるかもしれないが、食べたいものは食べたいのだ。こればかりは仕方ない。


「というわけで、最初にラーメンを食べに行こうぜ」


「「え?」」


 俺が声をかけると、リセとイリーナはきょとんした表情を浮かべて首を傾げた。

 手には昨日渡したパンフレットが握られており、いろいろと書き込みがされている。

 きっとどこの店から食べ歩きたいのかが描かれているに違いない。どんだけラーメンにハマっているんだよ……。


「とりあえず話聞け。たくさん丸が書いてあるけど、今すぐにそこに行けるわけじゃないからな」


「「え?」」


 リセとイリーナは驚愕の表情を浮かべる。まさか、その丸って今日一日で食べたいラーメン屋さんだったの!

 えっと、1、2、3、4、5…………全部で13件か。無理だな。そんなに食えないし、太るし、塩分が多すぎて将来が不安になる。せめて1杯だろう。時間があるんだからまだまだ……ん?

 リセとイリーナの手元を見ると、持っているパンフレットが一枚じゃないことに気が付いた。どうやってコピーしたんだ?


 んで、持っているほかのパンフを見ると、他の店がたくさん丸してある。端には1日目、2日目、3日目……。

 こいつら、仕事で滞在している期間中にすべてのラーメン店を制覇するつもりでいる……だとっ。


「とりあえず、昼食に1件だけ行くぞ。それで本当にそれだけのラーメンが喰えるのか見当しろ」


「むー、諸刃がそういうなら我慢する」


「そうですね。主殿の言う通りです。無理をしては店の人に失礼というものですよね」


「「じゃあお昼はここに行きましょう!」」


 二人して全く違うラーメン店を指差した。そして二人はいがみ合う。


「俺は腹が減った。先に行ってるぞ。そんなにそこのラーメンを食べたいんだったら、お昼は別行動にするか? 俺はそれでもいいぞ」


「「それはそれで嫌!」」


「じゃあ俺が行く店に行くぞ。喧嘩するだけ時間の無駄だ」


『これが……噂に聞く亭主関白という奴なのかのう。諸刃は怖い奴なのじゃっ!』


「のじゃロリ、てめぇ後で覚えておけよ……」


『儂の扱いひどくない!』


 のじゃロリの扱い? いつもこんな感じだと思うが、そんなにひどいだろうか……。



 ◇◆◇◆◇◆



 言い争いを始める二人をなだめた俺は、何とか美味しいラーメン店に行くことが出来た。そこのラーメンは鳥ガラ豚骨のスープがベースとなるラーメンで、うまみがすごく凝縮されていた。とても勉強になった。

 前に鳥ガラは買えたけど豚骨が買えなくてスペアリブで代用したことがあったな。豚骨ラーメンは作れたけど、なんか違うものができた……。

 なんて昔のことを思い返しながら、俺たちは自称悪役令嬢のいる学園へと向かっていた。


「ねえ諸刃、学園はまだ? まだなのかしら?」


「リセ、主殿と困らせてはいけませんよ。大人しくしていなさい、ハウスっ!」


「私は犬じゃないもん、女神だもん! ハウスとか言って私をのけ者にしないでよね! イリーナの方が小さいんだから、小型犬みたいじゃん、ハウスっ!」


「私と主殿は将来的に一緒にゴブリン帝国を繁栄させていくんですぅ、邪魔しないでください!」


「「がるるるるるるるるる」」


 たまにこいつら、意味不明なことで喧嘩するんだよな。あと俺、イリーナと一緒にゴブリン帝国を繁栄させていく気なんてないぞ。俺は料理人になりたいんだ。自分のお店を持つことが将来の夢、だからな!

 それはそうと、学園にはい到着できるのだろうか。


 手元の地図を確認してみる。そろそろ学園近くのはずなのでそれっぽいものが見えてきてもいいような気がするのだが。

 見渡しても周りは木々が生い茂っているだけの一本道だ。別に編なところはない。

 ところどころに設置された『この先学園、関係者以外立ち入り禁止』という看板が見えるが、うーん、これはもしかして……。


「なあリセ、イリーナ」


「どうしたの諸刃。急に声かけてきてびっくりするじゃない」


「それ、主殿に対してすごく失礼な気がするんですが……」


『のじゃ、イリーナの言う通りなのじゃ。リセは馬鹿じゃのう。それでは諸刃に捨てられてしまうぞ』


「お願い諸刃! 私を捨てないで。なんでもするから! もう一人は嫌なのよっ」


「いや捨てないから。絶対に捨てないから大丈夫だって。周りに人はいないけどそれ、変に誤解を与える言い方だからな。マジでやめてくれ。まあその話題は置いておいて、俺達ってさ、さっきから同じところぐるぐる回ってない?」


「「『うん』」」


 なんか声がそろって聞こえて来た。あれ、どういうこと。俺以外の全員が分かっていたということなのだろうか。だったら言ってくれればいいのに。俺の仲間は冷た……え、のじゃロリまでわかっていたの?


「主殿、あそこから怪しげな気配を感じるでござる」


「なんか急にキャラ作ったよね? どうしたの」


「これに書いてあったんです。どうですか?」


 イリーナが唐突に取り出したのは、『モテる女の秘訣、32のテクニック』という本だった。いつの間に買ったのやら。


「あの魔法、私の回復魔法で浄化できそうなんだけど、やる?」


「回復魔法って魔法を浄化もできるのかよ」


「回復系だったらなんたってできるわよ。解呪もある意味で状態異常からの回復でしょう。だから得意みたい」


 そういうものなのだろうか。まあでも、リセは運の向上と回復系の魔法に関してはエキスパートだからな。俺がとやかく言うことじゃないだろう。


「できそうなら頼む、やってくれ」


「分かった、任せて。頑張るからあとでちゃんと褒めてよね!」


「ああ、分かったわかった。ちゃんと褒めてやるから」


「頭なでなでしてね、約束よ!」


 嬉しそうな顔をしながら魔法をとな始めるリセ。頭なでなでって、子供かとちょっとだけツッコミを入れたくなったが黙っておいた。


「じゃあいっくよー! えいやっ!」


 リセが回復的な魔法を唱えると、景色が歪み、今まで歩いていた道が消えて綺麗に整備された道が現れた。

 目の前に現れたのは、ラーメンのにおいが充満する街とは全然違う、自然豊かでとてもきれいな学園が現れた。ただ一つ気になることと言えば、学園の門がとても独創的な形とということだ。


「これ、黄金比……。どう見ても黄金長方形と黄金螺旋の形にしか見えないんだけど」


「「『う、美しい……』」」


「え? なんか疎外感を感じるんだけど」


 黄金比は縦横1:1.6の比率にすることで人が最も美しいと感じることのできる、デザイン黄金パターンな比率のこと……だったと思う。

 その黄金比について調べた時によく見かける図形が、黄金長方形と黄金螺旋だ。

 1:1.6の比率が美しいというのは、まあなんとなくわかるけど、あの図を模したこの門が美しいと、俺には見えなかった。

 なんだろう、しかものじゃロリも、なんか分かった風なこと言ってるし……。


『なあ諸刃よ。あれのどこが美しいんじゃろうな。リセとイリーナに合わせてつい言ってしまったが……』


 のじゃロリはやっぱりのじゃロリだった。なんかほっとする。

 そんな時だった。


 急に警報がなり始める。そしてわらわらと兵士らしき人達が集まって、俺たちを囲んだ。

 俺たちを囲んだ兵士たちの中から一人、一番身なりのいい人が前に出てきた。こいつがこの兵士をまとめている奴なのだろうか。


「貴様ら、幻術の結界を破ってまで何用だ、あやしいやつめ……ひっとらえてやるっ!」


 なんか波乱の予感がする。

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