6.食への探求心
イリーナたちと料理の材料を買った後、お城の厨房に案内された。さて、これからイリーナたちの料理を作ろうと思ったところで、ふと、これから行く場所を思い出す。
(そういえば、ラーメンの聖地みたいな扱いの場所だったな……)
一度ラーメンのことを考えると、作ってみたくなってしまうのは仕方のないことだ。こういうこともある。
「よし、簡単なラーメンでも作るか」
『のじゃ……これから行く場所がラーメンの聖地じゃからって……。ラーメンの聖地で勝負したいとか絶対にいうのじゃ』
「言わないよ。あまり作ったことないジャンルでいきなり勝負とかできないからな」
飛鳥の家は和食がメインだった。なのでそっち方面は割と得意なのだが、ラーメンはあまりやったことがない。麺の作り方もいまいち思いつかないが、たまたまゴブリン帝国に生麺が売っていたのでそちらは気にすることがない。
今回作るべきはおいしいスープだ。ラーメンの命と言ってもいいスープの簡単な作り方を俺は知っている。
簡単に作れておいしいからよく作っていたな……。
日本にいたころを思い出しながら、俺は材料を準備した。
準備した材料は、豚ひき肉と鶏ひき肉。豚の肩ロースブロック肉にネギなどの野菜。醤油は……それっぽい物を見つけたので購入した。味見したところまたり醤油に近い気がする。こんないい醤油、日本でもそうそうお目にかかれないような、そんな出来栄えだった。ゴブリン帝国すげぇ。
それからラード、小魚の干物、ネギ油などを購入した。この材料を使って、昔ながらの中華そばを作ってみようと思う。
と言っても作り方は簡単だ。豚と鳥のひき肉を使って清湯スープを作り、醤油と油と混ぜるだけという簡単な作業だ。
すぐにできておいしい。このラーメンスープの作り方が一番手軽でおいしんだよな。
そんな妄想に更けながら清湯スープを作っていると、匂いに誘われてやってきたイリーナとリセが、手にフォークとスプーンを持って「ご飯! ご飯!」と待機している。
せかすな、今旨いものを作ってやるぜっ。
清湯スープを作っている間に、別の鍋でチャーシューと特性油を作る。清湯が出来上がったら麺を茹でてスープと和えていき……完成だ。
「ほら、特性ラーメンだ」
「「わぁ~」」
少し醤油が濃い目だったので、黒っぽいスープになってしまった。まるでどこぞかのブラックラーメンのようだ。まあそこまで黒くはないが。それにそんなにしょっぱくない。清湯はいい味を出しており、味見した限りではそれなりにうまい出来栄えになっている。
イリーナとリセはラーメンをずずずと食べ始めた。最初はその美味しさに驚き、二人とも美味しいと言ってくれる。作った側としては、これ以上嬉しいことはない。
「これが、ラーメン!」
「すごい、おいしい、いや、おいちぃ」
「イリーナ? なぜ幼児な言葉に言い直した?」
ちょっと言葉がおかしくなる場面もあったが、二人はおいしいと言いながら完食した。
しかも完璧にロリコン騒動を忘れてくれるというおまけつき。このおまけは俺にとってとても良かった。こう、心が落ち着く。
「さて、ついでだから、依頼について整理でもしようか」
「そうね、諸刃の言う通りだわ! だって次行く場所はイエケイラーメン公国ですもの。ラーメンの聖地、メンマ聖林あるおいしいラーメンが集まる国! どんな食べ歩きができるのかしら」
「主殿! こんなこともあろうかとパンフレットを持ってきました。どんな順番でお店を回りますか?」
「いや、俺たちは冒険者としての仕事をしに行くのであって、食べ歩き旅行をしに行くわけじゃないぞ」
「「…………え?」」
二人がすごく残念そうな表情を浮かべた。おいしいラーメンを食べて、今度行く場所がラーメン店が集まる、ラーメンの聖地だったら、たしかに食べ歩きをしたくなる気持ちが沸くのもわかる。だけど俺たちは冒険者だ。仕事はキッチリこなさないとな!
だけどリセとイリーナは突然、何もかもやる気がなくなったような、ダメな状態になってしまう。いやいやいや、なんでそうなるんだよ。
まあ、すごくがっかりしているみたいだけど、ラーメンぐらい食べる時間はあるからな? 一日中仕事をし続けるわけないじゃないか。
「まあ、ラーメンぐらい食べる時間はあるだろう。行きたい店選んどけ」
「「わぁ!」」
二人は、どんなラーメンがあるのかと妄想を膨らませ始めたので、いったんストップをかける。
「ほらお前ら。まずは仕事の話。それが終われば、お前たちにこれをやろう」
俺は仕事先の情報として一応手に入れておいたイエケイラーメン公国のパンフレットを取り出した。
そこにはたくさんのラーメン店の情報が記載されている。魚粉を使ったような、魚介系ラーメンは少ないが、豚骨系のラーメンは種類が豊富だ。陸地だからな、そっち形が盛んになるのも頷ける。
「ラーメン選びは後にしろ。まずは仕事。これからラーメンの聖地にある学園に向かい、とあるご令嬢の面倒を見る先生になるって仕事だ」
「ああ、諸刃がロリコンになるっていう仕事ね。大丈夫、私たちはちゃんとわかっているから!」
「そうですよ主殿、私たちがしっかり支えて、間違えは起こさせないようにしますんで」
『ぷぎゃあああああ、なのじゃ! 諸刃、全然信用されていないのじゃ!』
とりあえずのじゃロリに痛い目を合わせたい……。
「「という訳で、向こうにいったらどんなラーメンを食べるのか考えましょう!」」
「まだ仕事の話全然してないんだけどっ!」
二人は二人で、話し合いに飽きてしまったようだ。全然話が進まない。
「とりあえず、俺たちはこれからこのラーメンの聖地に向かうんだ。明日向かうんだぞ。お前ら、事前に確認しておくことがあるんじゃないのか」
「いや、でもですね主殿。ここ、ゴブリン帝国からすぐにラーメンの聖地に迎えますよ。あそこらへんとの貿易は結構行ってますので」
「え、じゃあ、馬車の手配もいらないし、ここからすぐに目的地にたどり着けるってことか?」
「まあ、そういうことになりますね。なので、今はおいしい食事と、明日どんなラーメンを食べるか相談しましょう」
「イリーナは良いことを言う。私も賛成よ。女神な私が賛成しているんだから、諸刃もどのラーメン食べに行くか相談しよう!」
二人の瞳にはラーメンしか映っていないようだ。と言うか仕事の詳細についても何も話していない。二人は、どこのラーメン店がおいしいのかなと想像を広げていく。
俺はこの二人に仕事の話をするのをあきらめた。
「なあのじゃロリ……、俺、何か間違っていたか」
『諸刃は存在そのものが間違いみたいなものなのじゃ。残念なのじゃ。非常に残念なのじゃ!』
「あ、うん」
この日はとりあえず、寝ることにした。
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