5.ゴブリン帝国再び
リセが微妙な雰囲気を漂わせながらも、俺達は仕事をするための買い物をした。店の人たちから、なんだこいつらと言った視線を頂戴したが、華麗に無視をする。そうしないと心の平穏が保てない。時折、女の敵だという視線を向けられて心が挫けそうになったけど、イリーナとのじゃロリのおかげで何とか心の平穏を保っている。
「後は、少し食料を買い足して終わりか」
「そうですね。さっさと買って帰りましょうか」
「まぁぁっぁぁぁぁてよおおおおおおおおお、捨てないでぇぇぇぇぇっぇぇぇ」
「リセ、お前いい加減にしろよな!」
もう精神的に不安定になり過ぎて、表情が崩壊して号泣しているリセ。こいつがそばにいて「捨てないでぇ」なんて叫ぶものだから、周りから痛い視線を向けられてしまう。
「だから捨てないって言ってんだろ。いい加減こっちの話を聞けよ!」
「でもぉぉぉぉぉ、ロリコンがぁぁぁぁぁぁぁ」
「だからロリコンちゃうわ!」
さっきからずっと同じやり取りをしている気がする。一度思い込むとこいつはなかなか抜け出せないからな……。その辺イリーナは全然大丈夫そうだ。こっちはいつも通りに戻ってくれて安心できる。
リセの対応を考えながら食料品が売っていると通りを歩いていると、珍しいお菓子を見つけた。火事でいろんなものを失ったとは言え、このお菓子を買うだけのお金は全然ある。いい匂いだし、とてもおいしそうだ。これをリセに買ってやったら落ち着くだろうか?
俺はお菓子を買い、ペットに餌をやる感覚でリセに揚げた。
「はぐ、うみゃい…………え、これもくれるの?」
一気に警戒心が溶けた。俺は今まで一体何をやっていたのやら。ロリコン疑惑問題がお菓子で解決するって、なんか複雑な気分になる。
リセの豹変に驚愕していると、服の袖を引っ張られた。
「私には……くれないのですか。主様はいつもリセばっかり……」
こういう時は平等に接しないといけないらしい。周りから攻撃的な視線を感じる。うん、こういうのはよくない。
俺はイリーナにもお菓子を買ってやった。
すべての買い物を終えて、リセとイリーナによるロリコン疑惑問題も大方収束してきたころ。俺はふと気が付いた。
買い物してもこれから目的地を目指すには時間がかかる。かといって戻る家もない。今日、すべて燃えてしまった……。一夜をどうやって過ごせばいいだろうか。野宿か。別に俺は良いのだが……。
ちらりと視線をリセとイリーナに向ける。
さすがに俺のせいでこいつらまで野宿させることないよな……。いや、放火は俺のせいじゃないんだけどさ……。
女の子を仕事以外で外に放置って、こう、なんというか……倫理的にまずい気がする。この場に飛鳥がいたらたたき斬られてしまいそうだ。
次の仕事の為とは言え、家無しの状態で大量の買い物をしてしまった。正直あまり金がない。宿に泊まるにしても、この後の移動代などを考慮すると……ちょっと心許ない。
俺が悩んでいると、リセが能天気なことを言い始めた。
「諸刃! おなかすいた! ご飯食べたい」
そういえば、今日のごはんすらなかった。
『諸刃よ。イリーナもお腹を指すってアピールしているのじゃ』
のじゃロリに言われて視線を移すと、本当にお腹が空いているような雰囲気を出していた。若干上目遣いな視線を向けてくるところが実にあざとい。
まあ、そんな二人の訴えはよく分かる。おれも少しばかりお腹がすいてきたところだ。
だけど、料理を作る環境がない。それに、仕事のことを考えると、あまり出費は出したくない……。仕方ない……。
「ほらよ」
「わわ、え、なんでお金?」
「どういうことですか主殿」
俺はリセとイリーナに1食分のお金を渡した。
「お前らそれでご飯食べて来いよ。俺は適当にぶらついて時間潰しているからさ」
できるだけ節約したいけど、この二人を食べさせないのは違う気がしたので、どこかで食べてもらうことにした。それについてイリーナが異議を唱えた。
「なんで主殿は一緒じゃないんですか。私は一緒がいいです!」
ついでとばかりにリセも手を挙げて抗議してきた。
「私は諸刃のご飯が食べたい。もう諸刃無しでは生きていけない体にされてしまったんだからね。諸刃は責任を取る義務があると思うの!」
「なんでそんな紛らわしい言い方をするんだよ! 後半部分、俺がクズ野郎みたいになってるじゃねぇか! ふざけんな!」
リセは「なんで自分だけ怒られるの」と訴えてくるが、当然だ。リセが紛らわしい言い方をするせいで、俺の風評は悪くなる一方だ。俺は無罪を訴えたい。俺は何もしていない。
「リセの無駄話は置いておくとして、どうして主殿が一緒じゃないんですか!」
「まあ落ち着け。イリーナの言いたいこともわかるが、今は節約がしたいんだ。これは仕方のないことなんだ」
「意味が分かりません。お金を節約したいなら私と一緒にゴブリン帝国にいけばいいじゃないですか」
「いや、イリーナの実家にあまり迷惑をかけるわけには……」
「別に私は気にしません。主殿には皇位を継いでもらわなければならないのです。私の伴侶として。私の伴侶として!」
「なぜ二回言った!」
「大事なことだからですよ。とりあえず、ゴブリン帝国に行きましょう! そこで一緒にご飯を食べましょう!」
うきうきしながら亜空間魔法を扱うイリーナ。俺は慌ててイリーナを止めた。
「ちょちょちょ、ちょっと待て。人の目があるんだから、場所を移動してからにしよう」
「む、それもそうですね。主殿との愛の巣について探られたくありませんからね」
イリーナの一言で、なんか周りが余計にざわついたような気がした。なんか「ロリコン」という言葉がちらほらと聞こえてくる。それにリセも、「やっぱり……」という視線を向けてきた。何度も言うが俺はロリコンじゃない。もう抵抗するのも疲れたので、周りを無視して話を進める。
「愛の巣いうな。それで、ゴブリン帝国に行くことなんだけど、迷惑じゃないかな。前に色々あったわけだし」
「大丈夫です。腰を痛めたじいやが悲惨な目に遭うだけで、他は歓迎していますよ。世継ぎはいつ生まれるんだろうって話でにぎわってますけど?」
「ああもう、なんで誤解されそうな言い方をするかな。まあ、でも……迷惑じゃないんだったら少しだけお世話になろうかな」
なんか女にたかるダメ男になって行っている気がする。でもこれはしょうがないと自分に言い聞かせた。すべて放火が悪い。
「とりあえずお世話になろうかな。ゴブリン帝国ならお前たちにいつものようにご飯を作ってやれるし」
『のじゃ、すごく嫌な予感がするのじゃ。また魚を捌くのに使われそうなのじゃ!』
「もちろん。前にゴブリン帝国にいった時、ちらりといい魚が見えたんだよな。とっておきの料理が振舞えると思うぞ」
「わぁ! やった。ねえ、早くゴブリン帝国にいきましょう!」
「リセ、ちょっとせかさないで! 主殿、すぐに行きましょう! おなかが減りました!」
二人は盛大におなかを鳴らした。さっきまで俺をロリコンと罵倒していたとは思えないほどの手の平返しだ。食の力は凄い!
そんなことを考えながら、俺たちは再びゴブリン帝国に足を踏み入れた。
イリーナの魔法によって、突如として広がるにぎわった世界。俺たちがいた街よりもかなり発展している。むしろゴブリンの方が進んでいるとさえ思える程大きな国だ。ただ、皆ゴブリンなので、成長してもイリーナのような子供みたいな姿にしかならない。ロリコンやショタコンの楽園ともいえる国!
そんな国に、俺は再び足を踏み入れてしまったのだ。
「ささ、主殿。おいしいごはんの為に、まずは食材を見てみましょう」
「あ、ああ、そうだな」
俺はイリーナに手を引っ張られ、ゴブリン帝国の城下町に向かった。
「ちょ、ちょっとまってよー」
リセは置いてけぼりを食らった……。
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