第114話 襲撃

 ユウヤがアヴローラが遊べるように魔道具を買った後、レティシア達と合流して大通りの店で必要な買い物をしたのちに昼食を食べて町を出た。

 ユウヤ達が町を出てからしばらく経ち、マユリが寒そうに腕をさすりながらユウヤ達に声を掛けた。


「ねえ、少し寒くない?」

「ん?そうか?」


 マユリの言葉にユウヤは首を傾げてルクス達に問いかけると、ルクス達はマユリの言葉を肯定するように頷いて返した。


「私も少し寒い」

「私も」

「帝国はこの時期からかなり冷え込むからな。正直、俺も少し寒い」

「……そうなのか」


 ルクスの言葉にユウヤがよく分からないと言いたげに首を傾げて返した後、アヴローラに視線を向けて問いかけた。


「アヴローラも寒いか?」

「ユウヤ、暖かいから大丈夫」

「少しは寒いってことか」


 ユウヤの言葉にアヴローラは頷いて返した。

 アヴローラの言葉を聞いたユウヤはアヴローラを羽織りにしている着物で包み込むように抱き直した。


「これで大丈夫か?」


 ユウヤがアヴローラに問いかけると、アヴローラは嬉しそうに頷いて返した。

 アヴローラが頷いたのを見てユウヤは視線をマユリ達に向けて問いかけた。


「マユリ達は大丈夫か?」

「まあ、我慢出来ないほどではないから」

「けど、夜になるともっと冷え込むわよ」

「……レティシア、コート持ってない?」

「向こうで使ってたコートならあるけど、あんまり厚くないわよ」


 レイラの言葉を聞いてマユリがレティシアに問いかけると、レティシアは異空間収納からコートを取り出しながらマユリの問いに返した。


「まあ、このくらいの寒さなら大丈夫じゃない?」

「そうね。この時期なら向こうで使ってたコートでも大丈夫でしょう」


 マユリはレティシアの言葉に返しながらレイラに確認するように視線を向けると、レイラは頷きながらマユリの言葉を肯定した。

 レイラの言葉を聞いたマユリはレティシアからコートを受け取り、レティシアやレイラ達も自分の分のコートを取り出して着始めた。

 ユウヤはコートを着ている途中のレティシア達から視線を外し、道から少し離れた場所にある森に視線を向けた。


「ユウヤ、どうしたの?」

「尾行されてる」

「え?」


 ユウヤが森へ視線を向けていることが気になったレティシアが問いかけると、ユウヤは呟くように返した。

 レティシアは少し驚いてユウヤが見ている方向に視線を向け、注意深く気配を探ると数人のわずかに敵意を向けてくる気配に気が付いた。


「本当だ」

「夜に襲撃されるのは面倒だ。もう少し行ったらこちらから仕掛けるぞ」


 ユウヤはレイラ達に視線を向けながら言うと、レイラ達は黙ったまま頷いて返した。

 ユウヤの着物に包まれているアブローラだけは何のことか分からずに首を傾げているが、ユウヤはアブローラの頭を優しく撫でて予定通りに雑談をしながら進み始めた。

 ユウヤ達がしばらく歩き戦闘をしても町に被害が出ないだろう場所まで来ると、ユウヤ達は視線で確認を取って振り向いた。


「いつまで付いて来る気だ?」


 尾行している者達にユウヤが大きな声で問いかけるが、尾行していた者達は道から少し離れた森の木に隠れながらユウヤ達の様子を伺ったままユウヤの問いに返事をしなかった。


「はあ。レティシア、マユリ、あの辺り吹き飛ばしてくれ」

「ん」

「はーい」


 ユウヤの言葉を聞いた二人は高威力の高位魔法発動させ、ユウヤの指さした辺りを風と炎の魔法で吹き飛ばした。

 森の一部を吹き飛ばされたことで隠れていた黒いコートを着た四人が先ほどまで抑えていた殺意と敵意を隠そうとせずにユウヤ達に向けてきた。


「いつから気づいていた」

「最初からだ」

「……なるほどな」


 リーダーらしき男がユウヤを睨みつけながら問い掛けると、ユウヤは当たり前のように返した。

 現れた四人の殺意にレティシア達が警戒しながら武器を構え、黒いコートを着た四人も臨戦態勢に入るが、ユウヤだけはアブローラが怖がらないように着物で包み優しく撫でていて尾行者を一切警戒していない。


「応援を呼ばれたり、逃げられると面倒だからしばらく目が覚めない程度に痛めつけよう」

「向こうは殺す気満々だぞ。殺さなくていいのか?」

「殺す理由がないからな。手加減して戦うのが厳しいなら、俺がやろうか?」


 ユウヤの言葉にルクスが苦笑しながら問い返すと、ユウヤは首を傾げながらルクス達に視線を向けて問いかけると、ルクスはレイラ達に視線を向けて確認をしてユウヤの問いに答えた。


「悪いが頼めるか?」

「分かった。アヴローラ、少しの間離れてくれないか」

「いや!」


 ユウヤの言葉にアヴローラは首を横に振って返し、ユウヤから離れないためにユウヤの服を握る手に力を込めて必死にしがみついた。

 アヴローラの態度にユウヤは少し困ったような顔をしてため息をつき、左腕でアヴローラが落ちないように支えながらアヴローラに声を掛けた。


「じゃあ、振り落とされないようにしっかりとしがみついとけよ」

「ん」


 ユウヤの言葉にアヴローラは頷いて返し、ユウヤはアヴローラがしがみついているのを確認して尾行者たちに視線を向けた。


「この子がいるからあまり動きたくない。そっちから来てくれないか?」

「……なめてるのか?」


 ユウヤの言葉に尾行者のリーダーはユウヤを睨みながら問い掛けるが、ユウヤは何も答えないためリーダーは舌打ちをして仲間にユウヤ達に聞こえない声で指示を出し始めた。


「見た目からして魔導士じゃない。魔法による攻撃はないと思っていいだろう。取り囲んで魔法で仕留めるぞ」

「あれを抱えてるが良いのか?」

「魔力量が桁違いに多いから極大魔法でもないと傷つかないから大丈夫だ」

「了解」


 リーダーの指示に従いユウヤを取り囲むように移動した尾行者たちは移動を終えると同時に魔法による攻撃を開始した。

 火球や岩石、風の刃等の魔法による攻撃をユウヤは最小限の動きで躱し続けていると、リーダーは避けられないように広範囲の土魔法でユウヤの周辺の土を棘のように変形させて襲い掛からせた。


「はあ……」


 ユウヤはリーダーの魔法を見て退屈そうにため息をついて足元の地面を強めに踏みつけた。

 それによりユウヤを中心に地面が大きく凹み、ユウヤに襲い掛かっていた土の棘は衝撃で粉々に砕け散った。


「「「「!?」」」」


 異常な光景に尾行者たちが驚いていると、ユウヤは足元の地面が砕けて出来た石を拾い尾行者たちに投げつけた。

 石は高速で尾行者たちの腹に直撃し尾行者たちを吹き飛ばした。

 尾行者たちはあまりの痛みに血を吐きながら少しの間悶えた後に気絶した。


「終わったな」


 気絶した尾行者たちを見て呟いたユウヤをレティシア達は離れた場所で苦笑して見つめた。

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