第111話 親子のような

 ユウヤ達が店の中で話して待っていると、レティシアとマユリがアヴローラを連れて戻って来た。


「お待たせ」

「お疲れ」


 ユウヤはレティシアに返事をして二人が連れて来たアヴローラに視線を向けた。

 アヴローラはところどころ汚れていた肌や手入れされていなかった長い髪を綺麗に洗われ先ほど買った服を着ていた。

 恐ろしく整ったその外見は人間離れした可愛さと美しさを兼ね備えている。

 アヴローラの変わりようにユウヤ達が驚いていると、アヴローラは小走りでユウヤに近づいて来た。


「これ」

「ん?ああ、ありがとう」


 綺麗に折りたたまれた着物を差し出すアヴローラにユウヤはすぐに理解できずに少し首を傾げて考えた後、アヴローラが何を言いたいのか理解して着物を受け取り羽織った。

 ユウヤが着物を羽織ったのを見てアヴローラはユウヤの前で両手を大きく広げて高く上げた。


「ん?」

「ん?」


 アヴローラが何をしているのか分からなかったユウヤが首を傾げると、アヴローラもユウヤと同じように手を上げたまま首を傾げた。

 少しの間不思議そうに首を傾げて見つめ合う二人にレティシアが微笑んでユウヤに声をかけた。


「多分、抱っこして欲しんじゃない」

「ああ、そういうことか」


 レティシアの言葉で漸くアヴローラの言いたいことを理解したユウヤは納得がいったような顔をしてアヴローラを連れて来た時と同じ様に抱きかかえた。

 ユウヤに抱きかかえられたことでアヴローラは嬉しそうな顔でユウヤにしがみついた。


「本当によく懐いているわね」

「ユウヤ、子供に懐かれやすいの?」


 アヴローラの姿を見たレイラとマユリがユウヤに声をかけるが、ユウヤは首を横に振って返した。


「特に懐かれやすいとかはないと思うぞ」

「まあ、昔から年下の子供と関わること無かったからね」

「その割にはユウヤによく懐いてるよな」


 ユウヤとレティシアの言葉を聞いて不思議そうな顔でアヴローラを見ながらルクスが返すが、二人もアヴローラがユウヤに懐いている理由はよく分からないため何も返すことが出来なくなる。


「そんなことより、そろそろ夕食食べる店を探しに行かないか?」

「それもそうだな。いつまでもここにいたら迷惑だしな」

「じゃあ、移動しましょうか」


 分からないことを考えることをやめてユウヤが移動を提案し、レティシアの言葉で店から出て夕食を食べれそうな店を探して大通りを歩き始めた。


「夕食何にする?」

「レイラとルクスは来たことあるんでしょ、おすすめのお店とかないの?」

「おすすめの店って言われてもなあ……」


 マユリの言葉にルクスは頭を搔きながら辺りの店を見て悩み始めたが、レイラが一つの店を指さして返した。


「あの店がいいんじゃない。肉料理とスープ系が美味しいわよ」

「ん?ああ、あの店か確かにあそこの肉料理は美味かったな」

「じゃあ、あの店にしましょ」

「そうだな」


 レイラの提案に全員が賛同し、レイラの指さした店に入った。

 注文を済ませてしばらく待つとたくさんの肉料理と人数分の暖かいスープが運ばれてきた。

 アヴローラは運ばれてきた料理を始めて見るような顔で見ながらユウヤに問いかけた。


「食べていいの?」

「ん?ああ、好きなだけ食べていいぞ」


 ユウヤの言葉を聞いてアヴローラはスープの入った器を持ってスープを一口飲んだ。

 スープを一口飲んだアヴローラは両目を見開いて驚き、美味しいものを初めて食べた子供のようにスープを勢いよく飲み始めた。

 スープを飲み終えると、肉料理に手を伸ばして素手で掴んで口に運んだ。

 その様子にユウヤは少し驚き、また料理に手を伸ばし始めたアヴローラを止めた。


「ストップ、手で掴むと手が汚れるからやめようか」

「ん?どうすればいいの?」

「フォークで食べるんだ、こんな風に」


 ユウヤはテーブルに置いてあるフォークを使って肉料理を食べて見せる。

 アヴローラもユウヤの真似をしてフォークを掴んで肉料理を取ろうとするが、上手く取れずに苦戦している。

 ユウヤは上手くフォークを使えないアヴローラの代わりに肉料理を取ってアヴローラの口の前に持って行った。


「ほら、アヴローラ、口開けて」

「あーん」


 アヴローラはユウヤに言われるがままに口を開けてフォークに乗っている肉料理を食べた。

 ユウヤは美味しそうに食べるアヴローラの頭を優しく撫でながら話しかけた。


「フォークやナイフの使い方は少しずつ練習していこうな」

「うん」


 自分が食べることを後回しにしてアヴローラが満足するまで料理を食べさせているユウヤの姿をレティシア達は微笑ましそうに見ていた。

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