第110話 面倒事

 ユウヤは着物に来るんだアヴローラを抱えたまま、子供用の服や靴を売っている店を見つけて入った。


「アヴローラ、どれがいい?」

「……ん?」

「……どうしようか?」


 ユウヤがアヴローラに尋ねるが、アヴローラは店に置かれている服を軽く見て首を傾げてユウヤに視線を向けた。

 アヴローラの反応を予想していなかったユウヤもどうしていいか分からず、レティシア達に問いかけた。


「まあ、服は私達が選ぶわ」

「じゃあ、ちょっと待っててね」


 ユウヤに助けを求められたレティシアとマユリは仕方ないなとユウヤの代わりにアヴローラに似合う服と選び始めた。

 レイラとルクスはユウヤに近づいて来て話しかけてきた。


「あなたが連れて来たんだから、あなたが選ぶべきじゃないの?」

「まあ、そうなんだが……年下の子供周りに一人もいなかったからよく分からないんだよ。年が近いのはレティシア一人だったし、冒険者になってからも子供の相手なんてしたことないからな」


 レイラの言葉にユウヤは少し困ったような顔でレイラを見ながら返すと、レイラは少し納得したような顔で返した。


「なるほどね。年上とは初めて話す相手でも話慣れてるのに、同い年の相手とはほとんど話さないのはそういうことだったのね」

「そういえば、ユウヤがレティシアやマユリ以外の歳が近い相手と話すのはあんまり見たことないな」

「まあ、歳の離れた大人とは話慣れてるからな」


 レイラの言葉にルクスは今までのユウヤを思い出しながら呟き、ユウヤは苦笑しながら二人から目を逸らして返した。


「まあ、レティシアとマユリが居てくれて助かったよ」

「そうね。二人がいないと今頃服が決められなくて困ってたでしょうね」

「ああ、そうだな」


 レイラの言葉にユウヤが苦笑して困りながらアヴローラの服を選んでいる姿を想像していると、レティシアとマユリは店員と何かを話していた。

 話が終わるとレティシアがユウヤのもとに戻って来た。


「ここで着替えさせてもらえることになったわ。ついでに身体も洗わせてもらえることになったから、アヴローラ預かるわ」

「ああ、分かった。アヴローラ、レティシアに身体洗ってもらってこい」

「ユウヤは?」

「俺はここで待ってる。レティシア達に洗ってもらって来い」


 ユウヤはレティシアにアヴローラを抱きかかえさせ、アヴローラの頭を軽く撫でてやった。

 アヴローラは寂しそうな顔をしたが、ユウヤに頷いて返した。


「じゃあ、行ってくるわ」

「アヴローラを頼むな」


 ユウヤはアヴローラを抱えて店員の案内で店の奥に入って行くレティシアとマユリを見送り、レイラ達に視線を向けて問いかけた。


「レイラ、今の内に聞きたいことがある」

「何?」

「アヴローラの魔力、ルイスは多いと言っていたが、そんなに多いのか?」


 ユウヤは真剣な顔で宿でルイスと話していたことを思い出しながら問い掛けると、レイラも真剣な顔でレティシア達が入っていた店の奥を見ながら返した。


「あの子の魔力量、かなり異常よ。あなたに比べたら普通だからレティシア達は気づいてないだろうけど、あそこまでの魔力をあの年で持って生まれる子供を私は見たことないわ」

「他に気になったことはあるか?」

「あの子、かなり面倒なことに巻き込まれてるわよ」

「ん?どういうことだ?」


 レイラの言葉にアヴローラを逃げて来た奴隷かスラム街の子供だと思っていたユウヤには理解できなかった。

 ユウヤの疑問に対してレイラの代わりにルクスが答えた。


「この国にはスラム街も奴隷文化もないんだよ。それに貧富の差はあるが、魔導士としての才能がある子供は国が保護して育てられる。多少厳しいことはあるだろうが、一般的な教育の範囲での話だ」

「つまり、普通はアヴローラみたいな子供は優遇されて育てられるってことか」

「ええ、あの子は魔力の排出器官に異常があるわけでもないし、制御もしっかりと出来てる。だから、本来はあんな状態で見つかるはずがないのよ」

「なるほど」


 ユウヤは二人の説明に納得して少し苦い顔をして店の奥を見た。


「何かあった時はレティシア達を頼む」

「あなたはどうするの?」

「アヴローラをつれてこの国から逃げるさ。レティシアに秘薬は母さんに届けるように伝えてくれ」


 ユウヤは真剣な顔でレイラとルクスの顔を交互に見て伝えると、二人はため息をついて返した。


「分かれないといけない状況になったらね」

「そんな最悪なことにならないように頑張らないとな」

「何か起きることは前提なんだな」

「そうだな、何も起きないことを祈ろう」


 ユウヤはルクスの言葉に苦笑しながら返すと、ルクスは肩を竦めて言い直した。

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