第108話 ボロボロの少女

 ユウヤとマユリは一緒に宿を出ると、先ほど通った大通りとは違う方向に向かって歩き始めた。

 マユリはユウヤが何を探しているのか問いかけた。


「ちなみに、ユウヤは何が欲しいの?」

「ん?ああ、家事とかに使えそうな魔道具だ」

「家事?どうしてそんなものを?」


 ユウヤの答えが予想と違ったためにマユリは首を傾げて問い返した。

 マユリの問いに対してユウヤは何でもないように続けた。


「母さんへのお土産だよ。病気が治ってもすぐに元通りに戻るとも思えないからな」

「相変わらずユウヤはお母さん思いね」


 ユウヤの言葉にマユリは微笑んで返し、ユウヤはマユリの返しに少し照れてマユリから視線を逸らした。

 大通りから少し外れても多くの出店が並び、出店が無い場所には魔道具専門店や魔法の媒介、杖などの専門店が大量に並んでいた。


「……すごいな、流石は魔導帝国」

「大通りと違って飲食系がほとんどないわね」


 二人は魔法関係の店の多さに呆れながら通りの出店を見て回りながらユウヤはマユリに問いかけた。


「マユリは欲しいものないのか?魔法関係は何でも買えそうだが……」

「私はレティシアと違って魔法の理論とかよく分からないから……」


 マユリはユウヤの問いに対して苦笑しながら返したが、ユウヤは少し驚きながら問い返した。


「魔法理論分からなくても極大魔法って使えるものなのか?」

『残念ながら精霊魔法でも普通は理論が分からないと極大魔法は使えないよ』

「普通は?」


 ユウヤの問いに対してマユリの代わりに答えたルイスにユウヤが気になったことを問い返した。


『マユリは精霊に異常に愛されてるからね。理論が分からなくてもしっかりとしたイメージさえ出来れば精霊が再現してくれるんだよ』

「精霊に愛されてると、そんなことも出来るんだな」

『マユリ程愛されていればね。けど、普通はマユリ程になるとレティシアと同じくらいの魔法の才能があるはずなんだけどね』

「ん?」

「それってどういうこと?」


 ユウヤの言葉に返したルイスの言葉が気になったユウヤは首を傾げ、マユリはルイスにどういう意味か問いかけた。


『マユリの魔導士としての才能はかなり歪なんだよ。精霊に愛されていることと理論の理解力を覗けば優秀な魔導士と才能に大差がないんだ』

「得意不得意があるのは普通じゃないのか?」

『確かに得意不得意は人それぞれだけど、そのほとんどが努力で埋められる程度の差でしかない。けど、マユリの場合は努力でどうにか出来ないほど精霊に愛され、理解力が低いんだ』

「私、馬鹿にされてるの?」


 ルイスの言葉にマユリは確かめるようにユウヤに視線を向けて問いかけた。


「そんなことはないと思うが……」

『そういうことじゃないよ。本来あるはずの才能が無くて、無いはずの才能があるのがおかしいんだよ』

「それって……」


 ルイスの言葉にマユリは少し考えて二年前に似たような話を聞いたことを思い出し、視線をユウヤに向けた。


『マユリの考えている通りだよ。天災の化身が歪めた因果律を世界が修復する過程で起きたイレギュラーだ』

「じゃあ、私みたいな人は他にもいるってこと?」

「?」


 マユリはルイスの説明に納得したが、ユウヤは初めて聞く話でよく分からずに首を傾げた。


『いるよ。私の知っている限りだと、レティシアがそうだよ』

「え?」

「!?」


 ルイスの言葉にマユリとユウヤが驚いていると、ルイスは説明を続けた。


『レティシアの魔法理論の理解力は異常だけど、レティシアの他の才能は優秀な魔導士と変わらないんだよ』

「似たような影響を受けた人が他にもいるのか?」

『私は知らないけど、大なり小なり影響受けた人はいるはずだよ』

「そうか」


 ユウヤは少し暗い顔をして俯いたが、マユリとルイスが聞き取れないほど小さな声を聞きとったユウヤ辺りを見回し始めた。


「どうしたの?」

「小さな声が聞こえた。買い物は中断だ」

「それはいいけど、なんて聞こえたの?」

「『助けて』って聞こえたが、かなりかすれて聞き取りずらい声だったから正確じゃないが、一応確認はしておきたい」

「分かった。どこから聞こえたの?」

「向こうだ」


 状況を簡単に説明したユウヤはマユリを連れて急ぎ足で声の聞こえた方に向かっていった。

 通りから外れ大量に並んでいた出店が無くなった路地裏にボロボロの袋のような服を着た少女が通りの方へ這って向かっていた。

 手足は傷だらけで髪もかなり伸びているのにも関わらず一切手入れされている様子が無い。

 少女はユウヤ達に気づき傷だらけの手をユウヤ達に伸ばした。


「た……すけ、て……」

「ああ、分かった。必ず助ける」


 ユウヤは少女の手を掴み少女に返すと、少女は疲れ切ったためか気を失った。

 少女が気を失ったのを確認してユウヤは羽織っていた着物で少女に羽織らせて抱きかかえた。


「取り合えず、宿に戻ろう」

「そうね」


 ユウヤとマユリはボロボロの少女を連れて宿に戻った。

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