第107話 魔導帝国

 ユウヤ達が港町を出発して数日経つと高い壁に囲まれた町が見えてきた。

 町を見てユウヤはルクスに問いかけた。


「あれが港町を出た時に言ってた帝国か?」

「ああ、この大陸で一番大きい国だ」

「あれが……」


 ルクスに確認を取ったユウヤは町に視線を戻す、町は大陸で一番大きいと言われるだけあり、かなり栄えているようだがユウヤは少し違和感を感じていた。


「あの国、少しおかしくないか?」

「何がおかしいの?」

「確かにおかしいわね」

「レティシアも?」


 ユウヤの呟きにマユリが問いかけるが、ユウヤが答える前にレティシアもユウヤと同じ結論を出した。

 二人が同じことを言うのにマユリは首を傾げて帝国を見るが、二人が何がおかしいと言っているのか分からなかった。


『マユリ、二人が言いたいのはあの国の空気中の魔力濃度が異常に高いからだよ』

「え?ああ、そういえば、二人は知らないんだったね」

「ん?どういうことだ?」

「何かあるの?」


 マユリはルイスの助言で二人が帝国を警戒している理由が分かり納得した。

 マユリの言葉に首を傾げる二人の姿にマユリは微笑んで返した。


「中に入れば分かるよ」

「そうね。知らないなら入ってみるのが一番早いわ」

「じゃあ、行きますか」


 首を傾げて不思議そうな顔をしている二人を置いて三人は帝国の入口の門に向かって歩き始めた。

 ユウヤとレティシアはお互いの顔を見合って不思議そうな顔をした後、三人の後を追った。

 二人が三人に追いついて少し経つと帝国に入るための門の目の前に来ていた。

 門で簡単な入国審査を受けて帝国内に入ると、ユウヤとレティシアは目を見開いて驚き、マユリは子供のようにはしゃぎ始めた。


「なんだ、これ?」

「……」


 ユウヤ達の目の前では空中に浮いて移動する者、客の前で肉の塊を浮かせてどこからともなく出した炎で焼く店、見たこともない色鮮やかな宝石のような石がついた様々な物を売る店。

 どれも今までの町では見たことが無いものばかりでユウヤとレティシアは戸惑い、マユリは事情を知っているため楽しそうに周りを見ている。


「この国は魔導帝国って呼ばれてるんだ」

「それって……」

「この国は国民の九割以上が魔導士で、この国では魔道具もかなり発展していて特殊な技術も使っているそうよ」

「すごい……」


 レイラの説明を聞いてレティシアもマユリと同じように目を輝かせながら周りを見渡し始めた。

 ユウヤはレティシア達ほど興味はなさそうだが、何かを探すように大通りに並ぶ店を見始めた。


「まあ、気になるみたいだし宿を今夜の宿を見つけたら自由行動にするか」

「そうね」


 レイラとルクスは三人の様子を微笑ましそうに見ながら今夜泊まれる宿を探して大通りを進み始めた。

 三人も町を見て回りたいのを我慢して二人について行き、大通りに出ている出店を見ながら宿を探した。

 少しすると宿を見つけ宿泊の予約をして部屋の確認を終えると、ユウヤ達はこれからの予定を話し合い始めた。


「それじゃあ、これからどうする?」

「俺はちょっと欲しいものがあるから町を回って見るがみんなはどうする?」


 ルクスの問いにユウヤは答えて女性陣に視線を向けながら問いかけた。


「特に見たいものがあるわけじゃないからユウヤについて行くわ」

「私は少し欲しいものがあるから一人で回ってみる」

「私はルクスと見て回るわ」


 マユリはユウヤについて行くと言い、レティシアは一瞬だけマユリに羨ましそうな視線を向けるが一人で回ることを選んだ。


「それじゃあ、日が沈むころに宿の前に集まるか」

「分かった」

「じゃあ、また夕方な。マユリ、行くぞ」

「はーい」


 予定を決めるといち早くユウヤが部屋から出て行き、マユリもユウヤの後を追ってすぐに出て行った。

 レティシアも二人が部屋を出たのを見送って椅子から立ち上がると、レイラに問いかけた。


「レイラ、この国で魔導書が売られてる場所は分かる?」

「分かるわよ。ちょっと待ってね、今紙に大体の場所を書くから」

「ありがとう」


 レイラは近くにあった紙にペンで簡単な地図と道順を書いてレティシアに手渡した。

 レティシアは紙を受け取ると一礼して部屋を出た。

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