第105話 恩恵の力

 森から出て来た竜とユウヤがしばらく睨みあった後、竜がユウヤに向かって腕を振り下ろした。

 振り下ろされた腕を強化された身体能力による圧倒的な速度で腕を避けた。

 ユウヤが避けた腕が地面に叩きつけられたことで地面を陥没させ広範囲に地震を引き起こした。


「思っていた以上の力だな。竜種なだけあって魔物とは別格だな」


 竜の攻撃を見て感心したように呟きながらも警戒していたユウヤに、竜は体を捻り尻尾で木々ごとユウヤを薙ぎ払おうとするが、最大まで身体強化したユウヤの一太刀で尻尾を半場で斬り落とされた。

 尻尾を斬られた竜は斬られた痛みと驚きで絶叫し、慌てて翼を羽ばたかせ風圧でユウヤを吹き飛ばし飛んで空中からユウヤを見下ろした。

 吹き飛ばされたユウヤは体勢を立て直して空中に浮いている竜を見ると、斬られた尻尾から血を流しながら怒りに満ちた目でユウヤを睨みつけていた。


「その傷、治さなくていいのか?」


 ユウヤが竜に問いかけるが、竜は話す気が無いのか話せないのかは分からないがユウヤを睨んでいた視線を一瞬だけ斬られた尻尾に向けるが血が一向に止まらないことに少し困惑しながらもユウヤへの怒りが勝っているのか、すぐにユウヤを睨みつけた。


「イザナミの言っていた通り傷は治らないようだな」


 ユウヤがイザナミから与えられた恩恵の力を確認していると、竜は口を大きく開き空気を大量に吸い込み始め、同時に大量の魔力を胸の辺りに集め始めた。

 その行動にユウヤは嫌な予感がして森に向かって全力で走り出した。


「レイラ!」

「分かってる!」


 レイラも竜の行動に慌てて大量の魔力を消費して町と自分の周りを守るために魔力障壁を張り覆った。

 竜は町やレイラ達を気にせずに町と反対方向の森に向かって走り出したユウヤに向かって膨大な魔力を込めた炎の束ねた光線を口から吐き出した。

 ユウヤは光線を横に飛び避けるが、ユウヤを追うように光線が横に移動するがユウヤに追いつく前に光線は弱まり消えた。


「極大魔法より威力高くないか?」


 竜の放った光線の後を見ながらユウヤは冷や汗を少し長しながら呟いた。

 光線が直撃した地面はドロドロに溶け高温で周りの草木を燃やし、光線が直撃した木々は蒸発している。

 光線を撃ち終わった竜が一度咆えた後、竜の周りに巨大な火の球が複数出現しユウヤに向かって襲い掛かり始めた。

 ユウヤは火の球を黒い靄を纏った斬撃を飛ばして全て斬り裂き、竜にも同じように斬撃を飛ばすが、斬撃は竜に当たってもちょっとした切り傷をつけるだけで終わった。


「流石にこの距離だと斬り裂くことは出来ないか」


 ユウヤの攻撃はイザナミの恩恵により傷の再生が出来ないため、竜は切り傷からも血を流し続けている。

 それでも竜種は自然界に存在する生物の中で最上位種であり、多少切り刻まれ血を大量に流した程度で死ぬような生き物ではない。

 竜はユウヤに向かって炎の球を降らせ続けながらまた口を大きく開いて空気を吸い込み始めた。


「また、あれを撃つ気か……」


 竜に対して決定打を与えられずにいるユウヤは火の球を斬り裂きながらどうするか考えるが、思いつく手は炎の球を避けながら跳躍して近距離で斬ることくらいでまともな方法を一つも思いつけていなかった。


(下手に大怪我させて町の方で暴れられたらレイラ達の障壁でも町を守り切れないだろうし……ん、レイラ……)


 最悪の事態を考えていたユウヤは何かを思い出しそうになり障壁を張っているレイラの姿を見て完璧に思い出した。


(そうか、レイラの障壁みたいに空中に足場があればいいんだ)


 二年前の船旅の時に遭遇した魔物との戦いでレイラの障壁を足場にして魔物と戦ったことを思い出したユウヤが、レイラから視線を竜に戻すと空気を吸い込み終え口を閉じていた。

 ユウヤは慌てて近くに倒れていた木を右手で掴み竜の頭に向かって投げつけた。

 竜は投げつけられた木でユウヤの姿を見失うが気にすることなく炎を束ねた光線を放った。

 光線が投げつけた木を一瞬で蒸発させユウヤがいた場所に直撃するが、ユウヤは木が蒸発する前に木の陰に姿を隠して光線が消えるのを待った。

 光線が消えたのを確認したユウヤは木を斬り倒して竜に向かって投げつけ始めた。

 竜が炎の球で迎撃するより早く次々と木々を斬り倒して投げつけていく。

 ユウヤが竜に向かって木を大量に投げつけている間、魔法の詠唱をしていたレティシアはその光景を見てレイラに話しかけた。


「レイラ、私達が魔法を放ったら、魔力障壁でユウヤの足場を作って」

「分かった」

「マユリ、魔法の準備は出来てる?」

「いつでも撃てるよ」


 レティシアはマユリの返事を聞き、竜に視線を向けて詠唱を終えた魔法を放った。

 レティシアが魔法を撃ったのを見てマユリも竜に向かって魔法を放った。

 レティシアが放った魔法は巨大な氷塊を作り出し高速で撃ち出して竜の頭に直撃し、マユリの魔法は複数の巨大な雷を竜に振らせて竜を怯ませた。

 魔法で怯んだ竜はユウヤの投げつけた木の直撃により小さな悲鳴を上げた。

 竜が怯んだのを確認したユウヤは跳躍して竜の高さまで跳びあがるが、竜は翼を羽ばたかせて跳んで来たユウヤから距離を取った。

 ユウヤは投げつけた木を足場にしようとするが、木は思った以上に早く落ちたために足場に出来ず苦い顔をして冷や汗を流す。


「!?」


 足場が無く落下し始めていたユウヤのすぐ下に魔力障壁が張られ足場の代わりになった。

 ユウヤはレイラ達の方向に視線を向けて少し微笑んだ。


「ありがとう……」


 足場を張ってくれたレイラに小さく感謝の言葉を呟いたユウヤは翼を羽ばたかせて自由に飛び回る竜にもう一度跳躍して近づいた。

 竜はまたユウヤを避けるように距離を取るがレイラの張った魔力障壁によって足場が出来たユウヤは竜を上回る速度で空中を跳びまわり竜との距離を縮めて刀を振り抜いた。

 竜は高速で跳びまわるユウヤの振り抜いた刀によって首を斬り落とされて地面に落ちて行った。

 ユウヤは魔力障壁の上で刀をしまいレティシア達のいる方向に向かって跳躍してレティシア達の目の前に着地した。


「障壁と魔法助かった」

「どういたしまして」

「役に立てるようになったでしょ」


 ユウヤの言葉にレティシアは微笑んで返し、マユリは胸を張って返した。

 そんな三人をレイラとルクスは少し離れた場所で微笑ましそうに眺めた。

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