第104話 魔物を襲うもの

 ユウヤ達が森から出て来る魔物を討伐している間、ルクスとレイラは森から絶え間なく出て来る魔物に違和感を覚えた。

 レイラはレティシアの極大魔法でユウヤから逃げていた魔物が殲滅されたため、町の方へ逃げる魔物がいないか確認しながらルクスへと近づき話しかけた。


「ルクス、気づいている?」

「魔物が未だに森から出続けてるな」


 ルクスが気づいていることを確認したレイラは頷いた後、視線を魔物が出てきている森に視線を向けた。


「もう魔物が出てこないはずなのに……」

「何か原因があるんだろうな」

「えっと……魔物が出て来ることの何がおかしいの?」


 二人の近くで魔法の詠唱をしていたマユリとレティシアは二人の会話を聞き、レティシアは少し考えて納得し、マユリは何が異常なのか分からずに二人に問いかけた。

 マユリに問いかけられ二人はマユリに視線を向けて簡単に説明をした。


「魔物にも生存本能がある。絶対に勝てないと分かる相手にはまず近づかない」

「それなのに、極大魔法が複数放たれた場所にわざわざ出て来てる。極大魔法以上に魔物が恐れる何かが森の奥にあるってこと」

「その何かって何なんですか?」


 二人の説明に納得したマユリは詠唱を続けながら二人に問い返した。

 マユリの問いを聞いた二人は視線を森に戻し、森から出て来る熊などの大型の魔物を見ながら考え予想を返した。


「何かは分からないけど、通常の魔物ではないのは確か」

「魔物が逃げ出すほどの存在となると候補は、竜種、霊獣、悪魔、そして最悪なのが……」

「天災」


 ルクスが候補を上げている途中でレティシアが呟くように最後の最悪な候補を上げた。

 その候補を上げたレティシアに三人の視線が集まり、レティシアが暗い顔で俯いているのを見た三人はある一体の天災を思い浮かべた。

 レティシアも三人と同じ天災を思い浮かべ、そんなはずはないと頭を振って最悪な考えを否定した。


「何が原因だとしても、強い魔物であることに変わりはないわ」

「……レティシアの言う通りだな。取り合えず、何が出て来てもいいように準備だけはしておこう」

「そうね」

「はい」


 ルクスの言葉にレイラとマユリは頷きながら返事を返した。

 レティシアも意識を切り替えて魔法の詠唱に集中し始めた。

 四人の会話など全く聞こえていないユウヤは大型の魔物を小型と変わらず一太刀で斬り続けていた。

 魔物を逃がさないために頭に魔力を集めたことで強化された思考能力により時間が止まったようにゆっくりと世界を見ながら、体に流す魔力量を増やして身体能力を少しずつ上げながら、剣技を正確に早く繋げることに集中していた。


「ん!?」


 魔物の位置を正確に把握するために研ぎ澄ませていた感覚に今までとは違う何かをとらえた。

 木々をなぎ倒す音に、倒れた木を踏みつけて近づいて来る一際強大な魔力を纏った巨大な何か。

 その何かの存在をとらえたユウヤは剣技を止めて魔法を詠唱しているレティシア達の近くまで後退した。


「ユウヤ、どうしたの?」

「何か、大きい奴が出て来る」


 ユウヤの言葉に先ほど話していた今回の魔物の群れの原因だと理解した四人は気を引き締めて森を見た。

 レティシアとマユリは魔法の詠唱を終わらせ、何かが出て来ても大丈夫なように備えた。

 レイラは町に向かおうとする魔物を魔法で倒しながら、森を警戒していた。


「来たようだな」


 木々の隙間からわずかに見える巨大な何かの姿を見てルクスが呟いた。

 ルクスが呟いた直後、巨大な何かの手が木々をなぎ倒し近くにいた魔物を潰して姿を見せた。

 木々が倒れたことで見えるようになった何かの身体に全員が目を見開いて驚いた。

 その腕と身体を覆う鱗に背中に生えた大きな翼、そんな特徴を持つ存在は竜しかいない。

 そしてその竜の姿や赤黒い鱗はユウヤとレティシアが話していた天災デザストルと同じものだった。

 だからこそ、話を聞いていた三人は竜を警戒をしながらユウヤとレティシアに話しかけた。


「あれが、デザストルですか?」

「…………違う」

「え?前に聞いた話だと、あんな感じの竜なんでしょ」

「うん、かなり似てるけど、デザストルじゃない。デザストルの魔力はもっと強大な魔力を持った化物だから」

「あいつもかなり強大な魔力を持ってると思うんだがな……」


 レティシアの言葉に苦笑しながら木々をなぎ倒して全身が見えるようになった竜を見て呟いた。


「それで、あの竜は狩るのか?」

「……」


 ルクスがユウヤに竜を討伐するか問いかけるが、ユウヤは何も答えずにゆっくりと歩き出した。

 ユウヤの様子に四人が驚いていると、ユウヤの手から黒い靄が発生し始めた。

 黒い靄が発生させ始めたユウヤは尋常じゃない殺気を放ちながら、刀に黒い靄を纏わせて竜に歩いて近づいた。

 ユウヤが放ち始めた殺気に四人は息を呑み、竜に近づいていくユウヤを黙って見ていた。

 竜を恐れて森から逃げ出した魔物もユウヤの殺気に怯え、竜を避けながら森の中に逃げていった。

 竜は殺気を放ちながら近づいて来るユウヤを睨みつけ、威嚇のために体を起こし咆哮した。

 竜の咆哮は近くの木々を吹き飛ばし、数百メートル離れたところにいるレティシア達があまりの轟音に手で耳を塞ぎながら竜を睨むが、ユウヤはまるで気にせずにゆっくりと歩き続けた。

 ユウヤは竜の手が届く距離まで来ると止まり、黒い靄を纏った刀を構えて竜を睨みつけた。

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