第103話 二年の成果

 ギルドマスターの部屋から出たユウヤ達はギルド職員の案内で魔物の大群が迫って来ている町の西側の門に案内された。

 門から町の外に出ると、数百メートル離れたところにギルドマスターが話していた森が見えた。

 森の出口には急ごしらえのバリケードがあり、足の速い狼などの小型の魔物の進行を妨げていた。


「見えるだけでも結構いるな」

「あの程度なら問題ないんだがな」


 森のバリケードで足止めされている魔物を見ながら呟いたユウヤの言葉に対してレイラから大剣を受け取ったルクスが隣に並びながら返した。


「少なくとも一万はいると考えた方がいいわね」

「そんなにいるの」

「大丈夫よ、マユリ。前衛にユウヤがいるから、私達は極大魔法を撃ち込むだけよ」


 レイラの予測に少しやる気を無くしてため息をつくマユリに、レティシアが肩を軽く叩いて励ました。

 レティシアの何気ない言葉にルクスは苦笑して肩を竦めて呟いた。


「俺一人だと心もとないってことね」

「そんなことはないですよ」

「まあ、細かいことは気にするな」


 ルクスの言葉をレティシアは少し申し訳なさそうな顔で否定し、ユウヤは軽くため息をついてルクスに話しかけた。


「冗談だ。全然気にしてないから」

「気にしてないなら、余計な事言わない」

「いたっ」


 冗談だと笑いながら言うルクスの頭をレイラはため息をついて杖で頭を叩いた。

 そんな二人を見てユウヤ達も少し笑い、魔物が攻めてきている森に視線を向けた。


「全員準備は良いか?」


 ユウヤが確認するように四人の顔を見て問いかけると、四人はユウヤの問いに頷いて返した。


「じゃあ、行くか」


 ユウヤは呟いた後四人は門から離れ戦いやすいように森と門の間にある平野の真ん中まで移動した。

 ユウヤ達が平原の真ん中に着くころにはバリケードまで辿り着いた魔物の数も増え、バリケードの一部が壊れ小型の魔物が平原に出始めていた。


「ルクスとレイラは魔法の詠唱をするレティシアとマユリを守ってくれ」

「ユウヤはどうするんだ?」

「今の内に雑魚を減らしておく」

「了解だ」


 ユウヤはルクスの了承を聞き、刀を抜いてバリケードを超えて来た魔物に向かって走り始めた。

 魔物の目の前に一瞬で辿り着いたユウヤはイザナミとの修行で身に付けた剣技で狼型の魔物を斬り、一太刀で一体を斬りながら剣技を繋げていった。


「ユウヤ一人で殲滅できるんじゃないの……」

「出来るだろうけど、町への被害は出るだろ」


 レイラはユウヤの戦いを見て呆れた顔でため息をつきながら呟いた。

 ルクスもユウヤの剣技を見て苦笑しながらレイラの言葉に返した。

 ユウヤの剣技を離れたところから見ているレティシア達には、斬撃が捻じ曲がりながら魔物に襲い掛かり斬り裂いているように見えていた。


『どうやら二年間の修行で格段に強くなったようだね』

「じゃあ、私達も二年間で強くなったってところを見せないとね」

「そうね。今の内に詠唱を始めようか」

「そうだね。ルイス、やるよ」

『分かった』


 マユリに返事をしたルイスはマユリの体の中に入り、マユリの背中から四枚の楕円状の白い光の羽が生え、体から薄っすらと白い光を放ち始めた。

 マユリがルイスと一体化したのを見たレティシアは空気中の魔力を集め始めた。


「私たちはどうする?」

「二人は俺が護るからレイラはあれを倒してくれ」


 レイラの問いに対してルクスは、ユウヤを恐れてユウヤから逃げている魔物を指さしながら返した。


「流石にこれだけ広い場所だとユウヤ一人では対処しきれないみたいね」

「逆に一人で対処出来たら怖いよ」

「それもそうね」


 レイラの言葉にルクスが苦笑して返すと、レイラは少し微笑んで頷いた。


「それで出来るのか?」

「私を誰だと思ってるの?」

「なら、頼んだぞ」

「分かったわ」


 レイラはルクスに返事を返すと同時に大量の氷の槍を創り出した。

 氷の槍を創り出した後、レイラが軽く杖を振るうと大量の氷の槍がユウヤとは別方向に逃げた魔物達に突き刺さり始めた。

 ルクスはユウヤの剣戟とレイラの魔法から生き延びて詠唱途中の二人に襲い掛かって来た魔物を大剣の一振りで数体をまとめて斬っていた。


「準備できたよ」

「私も」


 マユリとレティシアの言葉を聞いてルクスが森を見ると、オーガなどの中型の魔物の姿も見え始めていた。

 中型の魔物が見え始めたことで、小型の魔物の数も格段に増えてきた。


「魔物も増えて来たし、撃っていいと思うぞ」

「分かった」

「じゃあ、行くよ」


 ルクスの言葉を聞いてレティシアとマユリはそれぞれ詠唱した魔法を解き放った。

 マユリの解き放った魔法により、五つの巨大な竜巻が発生し平原と森に雷が雨のように降り注ぎ始めた。

 竜巻で多くの魔物は巻き上げられ風の斬撃によって切り刻まれ、竜巻に巻き込まれなかった魔物は降り注ぐ雷によって吹き飛ばされていった。

 レティシアが解き放った魔法は、森と平原を逃げ回っていた魔物の凍らせて動きを完全に止めた。


「まじか……」


 ユウヤは追いかけていた魔物がレティシアとマユリの魔法によって全滅したことで、マユリの魔法による雷を避けながら二人の魔法を見て呆れていた。

 マユリは雷を降らせる極大魔法と巨大な竜巻を発生させる極大魔法を五つ同時に発動させ、レティシアは広範囲の極大魔法を狙った相手にのみ効果を発揮させた。


「二年間で成長したのはよくわかったが……マユリ、前衛のことも少しは考えてくれないかな」


 二年間の修行で攻撃の感知能力と身体能力が格段に上がっていたからこそ、雨のように降り注ぐ雷を避けられているが、普通は避けられるわけがなくルクスなら巻き込まれていただろう。

 ルクスもマユリが放った魔法を見てユウヤと一緒に前に出ていなくて良かったと思い降り注ぐ雷を苦笑しながら見ていた。


「マユリ、ユウヤがいるんだから広範囲の攻撃は気をつけないと……」

「少し張り切り過ぎちゃった……」


 マユリもやり過ぎた自覚はあったようで頬を掻きながら苦笑してレティシアの顔を見た。

 レティシアはため息をついてマユリと一体化しているルイスに話しかけた。


「ルイスは分かってたんじゃないの?」

『分かってたよ。ユウヤなら大丈夫だって』

「……はあ、大丈夫でも少しは気にしようよ」

『次からは気を付けるよ』

「お願い」


 当然のように言うルイスにレティシアはため息をついて雷を避け切ったユウヤに視線を向けた。

 レティシアとマユリの魔法によって大量の魔物は吹き飛ばし凍らせたが、森の奥からは未だにオーガや熊など中型だけでなく大型の魔物までが現れ始めていた。


「まだ、たくさんいるみたいね」

「二発目の準備を始めようか。次は気を付けてね」

「分かってるよ」


 レティシアはマユリに注意をして二人は詠唱を再開し、ユウヤ達は二人が詠唱している間魔物達を狩り始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る