第87話 緊張
優奈が舞の練習に来るようになってからユウヤは午後からはお祭りの準備をしながら修行をして過ごした。
ユウヤはお祭りの準備の途中で気づいた魔力の微調整を修行に新しく加え、魔力を増やして過ごした。
イザナミは優奈の舞の練習を見ながら空いた時間でユウヤを手伝いながらお祭りまで過ごした。
「いよいよ本番ね」
イザナミは奉納の舞のために化粧し、一年前にイザナミがつけていた豪華な髪飾りなどをつけた優奈に声をかけた。
「は、はい。頑張ります」
優奈はかなり緊張してるようで硬い口調でイザナミに返事をしたが、イザナミの顔を見ることも出来ずに俯いた状態で化粧台の前に座っている。
優奈の緊張した姿を見ていつものように優しく微笑みながら、優奈の両肩に手を置いた。
「そんなに緊張していてはだめよ。もっと肩の力を抜かないと、練習の時みたいに動けないわよ」
「そうですけど……大勢の人の前で舞うと思うと、どうしても緊張して」
イザナミは優奈の肩に置いていた手から優奈の緊張の震えを感じ、優奈の緊張を解くために優奈の頭を優しく撫でながら声をかけた。
「誰かに見られていると思うから緊張するのよ。練習と同じように誰にも見られていないと思って踊ればいいんですよ」
「そんなこと言われても、言うほど簡単には出来ないですよ」
イザナミの言葉を聞いても優奈は俯いたまま暗い顔で返した。
イザナミもなかなか元気にならない優奈に少し困った顔をして、優奈の頭を撫でながらどうするか考え始めた。
「イザナミ、優奈、準備できたか?」
イザナミが困っていると、ユウヤが部屋の戸越しに声をかけてきた。
「準備は出来たから、入って大丈夫よ」
「そうか」
イザナミの返事を聞いてユウヤが部屋に入るが、優奈はユウヤのことを見ずに俯いたままだ。
「ん、どうしたんだ?」
緊張で俯いたままの優奈を見てユウヤは不思議そうな顔で首を傾げてイザナミに問いかけた。
「人前で舞うのに緊張してるのよ。さっきからこの調子で困ってるのよね」
「なるほど」
イザナミの言葉にユウヤは納得したような顔で頷いた。
ユウヤは優奈に近づくと優奈の背中を力を抜いて優しく叩いた。
「いた!?な、なに!?」
優奈は緊張でユウヤが近づいて来たことに気づけず、いきなり背中を叩かれたことで驚き勢いよく振り向いてユウヤを見た。
「肩の力、少しは抜けたか?」
「え、あ、はい」
優奈は背中の痛みと叩かれた驚きにより、舞のことが頭から完全に抜け先ほどに比べてかなり緊張が解けていた。
「人前で緊張するのは分かるが、深く考えても変わらないんだから気に方がいいぞ」
「それは分かってるんですけど、どうしても気になって」
ユウヤの言葉を聞いて優奈はまた俯いて考えこもうとしていた。
「今度はもう少し強めに叩こうか?」
「だ、大丈夫です!すでに、十分痛いので、これ以上はやめてください!」
ユウヤが右手を軽く握りながら問い掛けると、優奈は慌てて顔と手を上げて勢いよく首と手を左右に振って拒否した。
「冗談だ。考え込むくらいなら、裏庭を散歩して少しでも肩の力を抜いてこい」
「分かりました。ありがとうございます」
「気にするな。背中の痛みもすぐに引くとだろうから気にするなよ」
「はい、それでは行ってきます」
優奈はユウヤとイザナミに頭を下げて部屋から出て行った。
二人はそれを黙って見送り、部屋に残った。
「ユウヤ、女の子に暴力はいけませんよ」
イザナミはジト目でユウヤを見ながら悪戯をした子供を叱るような口調でユウヤに話しかけた。
ユウヤはイザナミの顔を見て少し怒っていることに気づくと、苦笑しながら返した。
「結果的に上手くいったからいいじゃないか。それにかなり手加減もしたし」
「はあ、確かに今回はいいでしょう。かなり乱暴なやり方でしたが」
「ああ、次はもう少しいいやり方を考えるよ」
ユウヤはイザナミから怒りが消えたことを感じ安心して軽く息を吐き返事を返した。
「そうですね。次はもう少しいいやり方を考えてください」
イザナミのいつも以上に優しく美しい微笑みにユウヤは少しの間イザナミに見惚れたが、イザナミに問いかけられて我に戻った。
「そういえば、今年は仲間の人達と一緒にお祭り回らないのですか?」
「ああ、さっき準備中に仲間が泊ってた宿のおじさんに聞いたんだが、まだ町に戻ってきてないらしい」
「どこかに行ってるのですか?」
「ああ、秘薬の情報を調べてもらってる。多分、情報が正しいか実際に行って調べているんだろ」
「そうでしたか」
イザナミは大して驚いた様子もなくユウヤの話を聞いていた。
「ユウヤ、仲間の人達回らないなら、私と一緒に回りませんか?」
「ああ、別に一緒に回る相手は他にいないから構わないぞ」
「私もお祭りを回るのは初めてなので楽しみです」
イザナミは嬉しそうに微笑んで部屋の戸に向かった。
「では、後のことは他の方にお願いしてきますね」
「じゃあ、居間で待ってるよ」
「分かりました。すぐに向かいます」
イザナミが部屋を出て行ったのを見て、ユウヤも居間に向かいイザナミが来るのを待った。
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