第86話 お祭りの準備
ユウヤとイザナミが昼食を食べ終えると、「ごちそうさまでした」といいすぐに食器を重ねはじめた。
優奈は二人の息の合った動きに少し驚いていた。
「食器は俺が洗っておくよ」
「分かったわ」
ユウヤはまとめられた食器を持ち、まだお茶の残っているコップだけ残して台所に向かった。
イザナミはお茶を少しのみ、優奈に視線を向けて話しかけた。
「優奈、休憩できた?」
「え?あ、はい。もう十分休めました」
二人の動きに驚いて見入っていた優奈は突然イザナミに声をかけられたことで驚き、慌てて姿勢を正して返した。
「そんなにかしこまらなくていいわよ」
「わ、分かりました」
「もう少し休んだら舞の練習に行きましょうか」
「はい」
イザナミは優奈の返事を聞いてお茶を飲みながら少しの間休んだ。
休憩しているイザナミの姿を見て優奈も残ったお茶を飲みながら休んだ。
少し休んだ後イザナミが立ち上がったことで、優奈も立ち上がった。
「そろそろ練習する部屋まで移動しましょう」
「はい」
二人は居間から出てユウヤが最近魔力の修行をしている、去年イザナミが舞の練習をしていた部屋に移動した。
部屋に着くとイザナミは壁に置かれている木刀を取り優奈に渡した。
「何回か教えたことがあるけど、最初お手本見せた方がいい?」
「はい、お願いします」
「分かったわ。お手本を見せた後はダメなところを少しずつ修正していくわ」
「分かりました」
優奈は練習の内容に大きく元気な声で返事をした。
優奈の返事を聞いてイザナミはもう一本木刀を取り、部屋の中央で舞を始めた。
イザナミの舞を見逃さないように優奈は集中して細かい動きまでじっくりと見つめた。
イザナミと優奈が舞の練習を始めた頃、ユウヤは昼食の食器を洗い終わり居間でお茶を飲みながら少し休憩していた。
「祭りの準備を始める前に魔力だけ増やしておくか」
ユウヤはコップを机に置いて集中し、いつもやっているように耐えられる限界まで魔力を増やした。
魔力の生成が終わったユウヤは深く息を吐いてコップの持ちお茶を飲み始めた。
それから少しの間休憩したユウヤはイザナミや優奈のコップも持って台所に移動してコップを洗った。
「よし、そろそろ準備に行くか」
ユウヤは台所から倉庫に移動し、イザナミから借りていた鍵で倉庫の扉を開けて中に入った。
倉庫の中の演舞場や屋台を組むための木材を倉庫から出して雑巾を濡らして一つ一つ丁寧に拭いて行った。
かなりの数の木材を倉庫から運び出していく中でユウヤは違和感を感じていた。
「去年運んだ時より軽い?」
違和感の正体に何となく気づいたユウヤは木材を降ろして体の中に意識を集中させた。
「体に回している魔力量が増えてる!?」
ユウヤが体の中に流れる魔力に意識を向けると、魔力を増やす修行を初めてからも身体強化を調整するために体に回す魔力の量を変えずに調整していた。
しかし、現在のユウヤは体に回している魔力量が微量だが増えていた。
「日常生活や剣技の修行では気づかなかったが、体に魔力を回す時の調整が少しずれているのか」
ユウヤは魔力の修行を初めて数か月で魔力量が格段に増えたことで魔力の微調整が出来ずに体に回している魔力を増やして身体強化する時必要以上に強化してしまっていた。
「これからは魔力を増やしながら微調整の修行もしないといけないな」
今後の修行に魔力の微調整も加えたユウヤはさっそく魔力量を微調整しながら祭りの準備の続きに取り掛かった。
微調整をしながら作業をしたことで長時間集中し続けたことにより、精神的な疲労により頭に軽い痛みが走りユウヤは手で頭を抑えた。
「流石に無茶しすぎたか」
ユウヤは身体強化をやめ、倉庫の扉を閉めて鍵をかけた。
「イザナミは優奈の練習に付き合ってるだろうし、今晩は俺が飯を作るか」
ユウヤは大分傾いた日を見ながら呟いた後、台所に向かって歩きだした。
イザナミが優奈の舞を見ながら修正すべきところをまとめていると、窓の外がかなり暗くなっていることに気づいた。
「イザナミ様、どうでしたか?」
舞終わった優奈がイザナミに声をかけると、イザナミは舞の修正点を一つ一つ丁寧に優奈に教えた。
「今日はここまでにしましょう。外も大分暗くなっているみたいだし」
「本当ですね。それでは今日はありがとうございました」
優奈は木刀を壁に戻し、帰る準備を始めた。
イザナミも木刀を片付けて優奈に近づき、どこかから取り出したタオルを手渡した。
「あ、ありがとうございます」
「夕ご飯食べて帰らない?」
イザナミの言葉に優奈は渡されたタオルで汗を拭いて問い返した。
「いいんですか?」
「ええ、構わないわよ」
「じゃあ、いただきます」
「それじゃあ、居間に戻りましょうか」
イザナミは優奈と一緒に居間に向かって移動すると、居間の机の上にはすでに料理が何皿か並べられていた。
台所からユウヤが料理を持った皿を持って来た。
「お、ちょうど切り上げたのか。今から呼びに行こうと思ってたんだが」
「やっぱり、夕ご飯作ってくれてたのね」
「ああ、優奈の分もあるから座っててくれ」
「え、あ、ありがとうございます」
ユウヤは優奈に視線を向けて伝えると、優奈は突然のことに驚いて慌てて返した。
ユウヤは料理を机の上に置くと、また台所に向かった。
イザナミはユウヤが今から出たのを見て机の近くに座った。
「ほら、優奈も座りなさい」
「は、はい」
イザナミに言われて優奈も席に座った。
優奈は先ほどのイザナミとユウヤの会話で気になっていたことを質問した。
「あの、イザナミ様はユウヤさんが私の分の夕食を作っていることを知っていたのですか?」
「ユウヤなら作っているかなと思ってね」
「……お互い理解しあってるんですね」
「そうかしら」
優奈はイザナミの言葉に呆れて苦笑しながら呟いたが、イザナミは不思議そうな顔で首を傾げた。
それからユウヤが残りの料理を運んできて、三人で夕食を食べた後、優奈は一人ユウヤとイザナミに見送られながら家に帰った。
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