第85話 巫女見習い
ユウヤはいつものように裏庭でイザナミが飛ばす薪を斬る剣技の修行をしていると、何となく思い出したことを飛んでくる薪を斬りながらイザナミに問いかけた。
「なあ、来月の祭りの準備いつぐらいに始めるんだ?」
「そろそろ始めるわよ。それと明日からは午後の修行は一人でお願い」
イザナミはユウヤの問いに薪を飛ばしながら返した。
「それは構わないが、何かあるのか?」
「明日から私がいなくなった後に巫女の仕事を任せる娘が来るの。その娘に奉納の舞を教えないといけないから」
「なるほどな」
イザナミはユウヤの返事を聞いて話が終わったことを確認し、飛ばす薪の速度をさらに速くした。
ユウヤも薪が速くなったことで斬ることで手一杯になり、イザナミと話す余裕もなくなって剣技を続けることに集中し始めた。
一年の修行でユウヤの剣技は途切れることなく綺麗に自然な動きで型を繋げられ、最初の頃に比べて格段に速い速度で剣技を続けられている。
それでも速くなり続ける薪を斬り切れなくなり斬り損ねたことで薪が止まった。
「今日はここまでにしましょうか?」
「ああ、そうだな」
ユウヤは近づいて来たイザナミに呼吸を整えて返し、刀を鞘にしまった。
刀をしまったユウヤの姿を見てイザナミは神社に向かて歩き始め、ユウヤもイザナミに並んで神社に向かい歩き始めた。
「イザナミ」
「どうしたの?」
「明日の午後から俺が祭りの準備をしようか?」
「準備してくれるのはありがたいけど、修行はしなくていいの?」
イザナミはユウヤの提案に首を傾げながら問いかけた。
「ああ、魔力の量を増やす修行になれたからな。修行しながらでも日常生活くらいできるさ」
「……そう」
ユウヤの自慢げな胸を張った姿を見てイザナミは呆れて微笑みながら返した。
「じゃあ、明日から準備お願いするわ。私も手が空いたら手伝いに行くわ」
「それはいいが、巫女見習いの娘は毎日家と神社を往復するのか?」
ユウヤの疑問を聞いたイザナミは少し困ったように微笑みながら返した。
「そうらしいわ。大変だから神社に住めばって言ったんだけど、家の手伝いがあるから今は無理らしいの」
「その娘も大変だな」
「ええ、休憩も出来るだけ多くするつもりだけど、体を壊さないか心配なのよね」
「あんまり無理させないように気を遣うしかないだろ」
「そうね」
神社についたところで話は終わり、二人は台所に移動して昼食の準備を始めた。
それから二人はいつものように過ごし眠りについた。
次の日も昼まではいつものように過ごし、昼食を食べているとユウヤと同じくらいの歳の少女が居間の扉を少し開けて申し訳そうな顔を覗かせた。
「あの~、イザナミ様。予定より早くついてしまったんですが、どこで待っていればよろしいですか?」
「ちょうどいいわ。入ってきなさい」
「はい」
少女は返事をすると、扉を開けて中に入って来た。
長い黒髪を首の後ろ辺りで縛ってまとめた少女は机の上の昼食を見て頭を下げた。
「昼食の途中に来てしまって申し訳ありません」
「気にしなくていいわよ。それより、ユウヤに自己紹介しなさい」
「はい、わかりました。私は巫女見習いの優奈です。これからよろしくお願いします」
「俺はユウヤだ。こちらこそよろしく」
ユウヤは優奈の礼儀正しく綺麗な姿勢で頭を下げる姿に呆れて苦笑しながら軽く返した。
「優奈、来たばかりで疲れてるでしょ。座って待ってていいわよ」
「食事のお邪魔になりませんか?」
イザナミの言葉に優奈は困ったような顔でユウヤとイザナミの顔を見ながら問いかけた。
「俺もイザナミも気にしないから大丈夫だよ」
「ええ、お茶を持ってくるから座ってなさい」
「はい」
イザナミは立ちあがって今から出て台所に向かった。
優奈はイザナミに言われた通りに机の近くにあった座布団に正座して座った。
優奈は座ると、ユウヤの方を向いて気になっていたことを質問した。
「あの、ユウヤさんはどうしてここに住んでいるんですか?」
「ん~、なんて言えばいいかな」
優奈の質問にユウヤがどうこたえるか困っていると、お茶を入れたコップを持ってイザナミが戻って来た。
「どうしたの二人とも」
「いや、俺がここに住んでいる理由を聞かれてな。どうこたえるべきか困ってたんだ」
「そうね」
イザナミは優奈にお茶を渡しながらユウヤの話を聞いて、座り口元に指をあてて考え始めた。
「簡単に言うと、ユウヤのお願いを聞く代わりに私のお願いを聞いて貰ってる、かな」
「お願いですか?」
「ええ、詳しい内容は話せないけど、大体そんな感じよ」
「そうなんですか」
優奈は腑に落ちない顔でイザナミとユウヤの顔を交互に見て、イザナミが持って来たお茶を飲んだ。
「それじゃあ、俺達も早く昼食を食べるか」
「それもそうね」
ユウヤとイザナミはお茶を飲みながら座って休んでいる優奈から視線を外して昼食をいつもより急いで食べた。
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