第88話 二度目のお祭り
イザナミと別れた後、ユウヤは居間でイザナミが来るのを待っていた。
ユウヤがいつも食事の時に座っている席で寝っ転がっていると、居間の戸が開きイザナミが入って来た。
「お待たせ」
「そんなに待ってないから気にするな」
「そう、なら良かったわ」
ユウヤはイザナミに返事をしながら立ち上がり、イザナミの方に体を向けた。
「じゃあ、行くか」
「ええ」
ユウヤの言葉にイザナミは微笑みながら返事をした。
その顔はいつもの優しい母親のような微笑みではなく、無邪気な子供のような微笑みで初めて回るお祭りを心から楽しみにしているようだった。
ユウヤはイザナミの顔を見て微笑みなが話しかけた。
「そんなに楽しみなのか?」
「ええ、今までは見ることしか出来なかったから、実際に回れるなんて思っても見なかったもの」
ユウヤの問いに対してイザナミは今までのお祭りを思い出しながら返した。
「なら、早いとこ行こうか。少しでも長い間回りたいだろ」
「そうね。早く行きましょう」
イザナミはユウヤに返事をして少し速足で居間から出て、ユウヤに振り返った。
「ほら、早く行くのでしょ」
「ああ、今行くよ」
普段の大人びたイザナミとは違い子供のような姿に、ユウヤは少し呆れながらも少し楽しそうに微笑みながら返し、イザナミの後を追って居間を出た。
イザナミはユウヤの手を掴んで引っ張りながらお祭りの会場を目指して歩き始めた。
「おいおい、そんなに引っ張らなくてもいいだろ」
「そう?」
「神社から出たらすぐなんだから、普通に歩いてもすぐに着くさ」
「そうだけど……」
ユウヤの言葉を理解してはいるが、早く行きたくてはっきりと言えずに曖昧に返した。
そんなイザナミの姿にユウヤは呆れてため息をついて微笑みながら声をかけた。
「楽しみなのは分かるがすこしは落ち着けよ」
「分かってるわよ」
「それにまだ出店のほとんどが準備中だろうから、そこまで急がなくても時間ならあるさ」
「……それもそうね」
ユウヤの説得に少しの間考えたイザナミは多少落ち着いたようで納得したように頷いた。
「なら、行こうぜ」
「分かったわ」
イザナミは先ほどまでのように急ぐことなく多少いつもの大人びた雰囲気に戻ってユウヤの隣を歩いて会場に向かった。
二人が神社から出てお祭りの会場まで来ると、昼過ぎでまだ明るい時間のためほとんどの出店がまだ忙しそうに準備をしていた。
「やっぱり、まだ準備してるな」
「そうね。準備ができるまで邪魔しないようにゆっくり見て回りましょ」
「そうだな」
二人は少し離れた場所で出店を見て回りながら、たまに声をかけてくる出店の準備をしている人たちと話しながらゆっくりと時間をかけて回った。
出店の準備が出来るまでの間、二人はゆっくりと会場を何度も歩いて回った。
イザナミは出店の準備が出来ていくのを見ながら、今か今かと準備が出来るのを楽しみにしながら待った。
何周か回り準備が出来た出店が何店か見えてきた頃、イザナミがユウヤの方を向いて神社を出る前以上に子供っぽい雰囲気で話しかけた。
「そろそろ、準備できた出店もあるし買いに行きましょ」
「ああ、いいぞ。何を食べるんだ?」
ユウヤは楽しそうなイザナミの顔を見ながら問い掛けると、満面の笑みを浮かべて返した。
「全部よ」
「え?」
楽しそうなイザナミに付き合って回る気でいたユウヤはイザナミが何を言ってるか分からずに首を傾げて問い返した。
イザナミはそんなユウヤに当然というようにもう一度答えた。
「全部の出店を回るのよ」
「ま、まじで」
「当然よ。善は急げ、早く行くわよ」
「ちょっと待て」
ユウヤは何も考えずに一番近い準備が終えた出店に向かって歩きだそうとしたのを手を掴んで止めた。
イザナミは止められたことに不満そうな顔でジト目をユウヤに向けて問いかけた。
「どうしたの?」
「全部を食べるなんて無茶だ」
「夜までまだ結構時間があるから大丈夫よ」
「時間があっても無理だ。出店の数を考えろ」
ユウヤはイザナミを説得するために神社の敷地に並ぶ大量の出店を見ながら言った。
イザナミはユウヤと同じように出店に少し視線を向け、多少冷静になりユウヤに視線を戻して問いかけた。
「どうしても無理?」
「ん~」
ユウヤはイザナミの少し落ち込んだような顔を見て少し考えて返した。
「やってみないと分からないが、二人で分けながら食べれば出来るかもしれない」
「本当」
「まあ、一人で食べるよりは可能性はあるが……出来るかはわからん」
「可能性があるならやりましょ」
「まあ、やれるだけやってみるか」
「じゃあ、今度こそ行きましょうか」
ユウヤの提案に元気を取り戻したイザナミはさっそく先ほど向かおうとした出店に向かって歩きだした。
ユウヤはイザナミの後ろ姿を見てため息をついた後、イザナミの後を追った。
イザナミは出店に着くと、全ての品を一つずつ注文した。
イザナミがいたことで全て無料にしようとする店主をイザナミとユウヤは説得して多少のお金を受け取ってもらった。
イザナミは品を受け取って出店から離れ、渡された品の量を見てユウヤに話しかけた。
「一つ目でこの量だと、一人で食べ切るのは厳しそうね」
「まあな。二人で食べ切れるかも不安な量だが」
ユウヤとイザナミは出店の店主がサービスで量を少し増やしていることなど知らずに、思った以上に多い量の品を見ながら話した。
二人は最初に決めた通りに分けて食べながら、次の出店に向かって歩いた。
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