第81話 休みの日

 ユウヤが朝食の準備のために台所に移動すると、いつも朝食の準備を始める時間にイザナミがまだ来ていなかった。

 ユウヤが珍しいなと思っていると、イザナミが台所に入って来た。

 イザナミはいつもの巫女服ではなく、黒を基調とした着物を着ていた。


「どうして道着を着てるの?」


 いつも通りに道着を着ているユウヤに不思議そうに首を傾げて問いかけてきた。

 ユウヤもいつもと服装の違うイザナミに不思議に思って首を傾げた。

 二人が向かい合ってお互いに不思議そうな顔をしていると、イザナミがユウヤに問いかけた。


「昨日、今日は修行を休みにして町に行くって言わなかった?」

「あ、ああ、言ってたな」

「忘れてたの?」


 イザナミの問いで思い出したユウヤに、イザナミは呆れた顔で確認した。


「いや、少し寝ぼけてただけだ」

「そう。じゃあ、朝食の準備はしておくから着替えてきなさい」

「ああ、すまないな」

「気にしなくていいわよ」

「ありがとう」


 ユウヤはイザナミに御礼を言って、借りている自室に戻りお祭りの日以来の冒険者として着ていた服に着替えた。

 着替え終わり台所に戻ると、ほとんど朝食を作り終わっていた。


「遅くなって悪いな」

「気にしなくていいわ。それより、作った料理運んでくれる」

「わかった」


 ユウヤはイザナミが作った料理を皿に持って居間に運びはじめた。

 朝食の準備を終えていつも通りに食べ終わる。


「片付けはやっておくから出かける準備してきていいぞ」

「そう。ありがとう」


 イザナミは食器をまとめると、居間から出て行った。

 ユウヤはイザナミが準備をしている間に食器を洗い居間でイザナミが来るのを待った。

 少しの間待っているとイザナミが居間に戻って来た。


「お待たせ」

「それじゃあ行くか」

「ええ」


 居間に戻って来たイザナミと一緒に建物を出た。

 建物から出てイザナミと一緒に町までつづいている階段を下りながら町の景色を眺めた。


「ここから景色を見るのは二回目だが、相変わらず凄いな」

「そうでしょ。低いとは言え山の頂上付近に神社があるから景色は最高なのよ」

「それにしても一年近く住んでるが、食材の買い出しとかで町に言ったこと無かったな」


 ユウヤはここ一年の経験を思い出して不思議に思い首を傾げた。

 イザナミは首を傾げるユウヤの姿を見て微笑みながらユウヤの疑問に答えた。


「私達が修行をしている間に町の人が食材を持ってきてくれてたからね」

「そうだったのか、全く気付かなかったな」


 イザナミの言葉にユウヤは納得した後、少し暗い顔をした。

 その顔を見てイザナミは首を傾げてユウヤに問いかけた。


「どうしたの?」

「いや、町の人の気配に気づけなかったのが少し悔しかっただけだ」

「修行に集中してたんだし仕方ないんじゃない」

「そうなんだが、戦いの中だとそんなこと言ってられないからな」


 イザナミの言葉にユウヤは真剣な顔で返した。


「……まあ、これから気づけるようになればいいじゃない」

「そうだな……」


 少し悩んだイザナミの言葉にユウヤも小さな声で呟いて返した。

 それからイザナミと一緒に雑談をしながら階段を下った。


「漸くついたな」

「そうね。数年ぶりに下りたけど、意外と長いわよね」

「そうだな」


 階段を下り終わり呟いたユウヤに、イザナミも振り返って階段を見ながら返した。

 階段から視線を外して二人は町を歩いた。


「それでどこに向かってるんだ?」


 ユウヤはイザナミの隣を歩きながら問い掛けると、イザナミは何かを探すように辺りを見回しながら答えた。


「着けばわかるわ。きっとユウヤも興味を持つわよ」

「それはいいんだが、さっきから辺りを見回しているのはどうしてだ?」


 ユウヤの問いにイザナミは少し困ったように微笑んでユウヤの顔を見ながら答えた。


「さっきも言ったけど、久しぶりに来たからお店の位置が曖昧でね」

「……大丈夫か?なんなら俺も一緒に探すが……」


 ユウヤはイザナミに答えながら辺りを見回した。


「大丈夫よ。大体の位置は分かるから」

「そうか」


 イザナミはユウヤに返して周りを見渡しながら歩いて行った。

 お店の位置が曖昧と言いながらも特に迷った様子もなく進んで行った。

 しばらく、イザナミについて歩いていると目的の店に辿り着いたのか、イザナミは店の前で立ち止まった。


「ここか?」

「ええ、迷わずに来れたわ」

「しっかりと覚えていたじゃないか」

「ちょっと曖昧だっただけだから、それより入りましょ」


 イザナミはユウヤに返して目的の店に入って行った。

 ユウヤもイザナミにつづいて中に入った。


「ここは……武器屋か」

「ええ、正確には刀鍛冶の店ね」


 ユウヤは店に置かれた大量の刀を見回しながらイザナミに問いかけた。

 イザナミはユウヤの言葉を補足しながらお店の中の刀を見て回り始めた。

 ユウヤもイザナミと同じように刀を見ていると、店の奥から店員が出て来た。


「いらっしゃいませ。これは、イザナミ様じゃないですか」

「どうも」


 イザナミは店員に頭を軽く下げて挨拶した。

 ユウヤもイザナミと同じように軽く挨拶した。

 店員は困ったような表情でイザナミに要件を確認した。


「それで本日はどのような要件で?」

「刀を買いに来たんです。ここに置かれてない刀もあれば見せてくれないかしら」

「ありますよ。ここに置かれているのより高品質のものが数本」

「じゃあ、持ってきてもらえますか」

「分かりました」


 店員はイザナミの言葉を聞いて店の奥に入って行った。

 店員が奥に言ったのを見て、ユウヤは店に並んでいる刀をじっくりと見て回った。


「それにしてもすごいな。ここにある刀もかなりの品質だと思うが……」


 ユウヤは置いてある刀を鞘から少し抜いて刀身を見ながら呟いた。


「ここはこの町で一番の鍛冶屋だからね」

「なるほどな。奉納の舞で使った刀はここの物か?」

「ええ、よくわかったわね」


 イザナミは少し意外そうな顔でユウヤを見た。


「これでも刀を使う剣士だからな」

「そう。気に入ったものがあれば買ってあげるわよ」

「いいよ。俺にはすでに愛刀があるし、今更二刀流の修行をするのは大変だしな」


 ユウヤは愛刀に軽く触り、肩を竦めて返した。


「けど、予備の刀はあった方がいいでしょ」

「んー、確かにあった方がいいが、今はいいや」

「そう」


 二人が話していると、店員が刀を十数本抱えて戻って来た。

 店員は刀を台の上に並べてイザナミに声をかけた。


「お待たせしました。好きなだけ見て言って下さい」

「ありがとうございます」


 イザナミは店員が持って来た刀を一本一本じっくりと見ながら選び始めた。

 ユウヤはイザナミが選んでいる間に店員に声をかけた。


「すいません」

「ん、どうしました?」

「この刀と同等クラスの刀を作れますか?」

「ん、どれどれ……!?」


 ユウヤは店員に愛刀を私ながら問いかけた。

 店員はユウヤから刀を受け取り、鞘から刀を抜いて刀身を見た瞬間に目を見開いた。


「これはすごい。純度の高い魔石を砕いて混ぜ込まれているのか」

「ああ、そうらしい」


 ユウヤは見ただけで愛刀のことを言い当てた店員に少し驚いた。

 店員は刀身をじっくりと見ながら、呟くように話し始めた。


「魔石を混ぜ過ぎず、刀としての品質を失われないように作られている。それに刀もかなりの品質だ。こりゃあ、相当な腕の刀鍛冶が作った物だな」

「そ、それでこれと同等クラスの物は出来そうですか?」


 ユウヤは店員の勢いに戸惑いながら問いかけた。

 店員は少し悩んでから横に首を振った。


「悪いが無理だな」

「……そうか」

「言っとくが技術が無いわけじゃないぞ。ただ、これに使われたのと同じクラスの魔石が無くてな」

「魔石か……」

「同等クラスの魔石さえあれば、もっといいものをうてるぞ。刀だけの品質で言えば、今イザナミ様が見ている物の方が上だぞ」

「そうか。魔石が手に入ればまた来るかもしれない」

「おう。いつでも来てくれ」


 ユウヤは店員から刀を返してもらい、イザナミと一緒に刀を見始めた。

 イザナミは刀を一本選び、店員にお金を渡して店から出た。


「それじゃあ、お昼を食べてから帰りましょうか」

「もうそんな時間か」

「ええ、行きましょ」

「ああ」


 歩き出したイザナミの隣に並んで飲食店を探して一緒に町を歩いて回った。

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