第55話 予想外の行動

 精霊王がマユリと力を合わせて邪霊をマユリの体から追い出そうとしているが、邪霊と精霊王たちの力が拮抗しているためなかなか追い出すことが出来ないでいた。


『これは私一人の力では難しいな』

「私に出来ることはある?」

『君の力を合わせても変わらないさ。外の二人に少し協力してもらうしかないね』

「協力って言ってもどうやって知らせるの?」

『外に私の力が宿った宝石がある。それを中継にして二人に念話で話しかける』

「そんなことも出来るのね」

『私が念話している間、押し返されないように抑えていてくれ』

「分かったわ」


 マユリは精霊王に変わって両手を前に出して、魔力を放ち邪霊の闇を押し始めた。

 精霊王はマユリが押し出し始めたのを確認して、力を少し緩め外にいるユウヤ達に念話を送り始めた。


『聞こえる、二人とも?』


 外で邪霊の足止めをしていたユウヤとレティシアは突然頭の中から聞こえた声に一瞬驚いたがすぐに冷静に戻り、邪霊との戦闘を続けた。


『頭の中で話したいことをイメージしてくれれば話せる』

『こういう感じか?』

『聞こえてるようだね』

『こっちも聞こえているわ』

『分かった。こっちも余裕はないから手短に伝えるね』

『なんだ?』

『力が拮抗しているせいで邪霊を追い出せないでいる。だから、何でもいいから邪霊の一瞬だけでも意識を逸らしてくれ』

『なんでもいいんだな』

『ああ、邪霊の意識が逸れれば問題ない』


 ユウヤの問いに答えて以降精霊王の声が聞こえなくなった。

 ユウヤは精霊王の言葉が聞こえなくなった後、邪霊に近づき破壊できる位置にある核を数個破壊した。

 レティシアはユウヤが隣まで下がって来ると、魔力障壁で邪霊の攻撃を防ぎ魔法を相殺しながらユウヤに話しかけた。


「邪霊の意識を逸らす案はある?」

「いや、まだない。核を破壊しても変わらないみたいだ」

「じゃあ、攻撃はだめってことね。予想できない行動をしない限り意識は逸らせそうにないか」

「けど、破壊した核の再生は遅いようだな」


 ユウヤはレティシアの隣に来る前に破壊した核が先ほどまでよりゆっくりと再生しているのを見ながら言うとレティシアもそれを見ながら考え始めた。


「核を破壊し続けて弱らせるって方法もありそうね」

「それは厳しいな。今残ってるほとんどの核を破壊できないところに移動させてる」

「じゃあ、どうする?」

「……」


 ユウヤは邪霊を見ながら少しの間考えていると、何かを思いついたのかレティシアにも聞こえない声で呟くと炎を纏った炎刀を構えて邪霊に近づき始めた。


「魔法の相殺は任せたぞ」

「何か思い付いたの?」

「ああ、上手く行くか分からないが、一応やってみる」


 レティシアにそう言うとユウヤは歩いて近づきながら、誰にも聞こえない声で小さく呟いた。


「後でマユリに恨まれそうだな~」


 ユウヤが近づいて行くと、邪霊は分身体の小さな核を含んでいない黒い鞭を数本伸ばして攻撃を仕掛けてきた。

 ユウヤは攻撃が始まったのを見て走り出すと、黒い鞭を炎刀で斬り落としながら近づいて行った。

 邪霊はユウヤが近づいて来たことで少し苦しそうな顔をしながらもユウヤにすべての攻撃を集中させるが、魔法はレティシアが後ろから相殺し、黒い鞭はユウヤの炎刀に斬り落とされてすべての攻撃が意味をなさい。


「人間風情が、いい加減に殺されろ!」

「お前程度じゃあ、俺は殺すのは無理だ」


 ユウヤは邪霊の目の前まで来ると、伸びているすべての黒い鞭を斬り落ちして刀を降ろし、邪霊に乗っ取られたマユリの体の首の後ろに手を回して引き寄せた。


「!?」


 邪霊は引き寄せられたことに驚いてユウヤを黒い鞭で貫こうとするが、その前にユウヤがマユリの唇に自分の唇を重ねて口づけをした。

 ユウヤの行動により、レティシアと邪霊、マユリの精神の中で様子を見ていたマユリの思考が完全に停止して一瞬だ完全に動きを止めた。


『よくやった。これで追い出せる!』

「な!?せ、精霊王め!?」


 精神の中では邪霊の抵抗が止まった一瞬の間に邪霊を追い出し、マユリの体を取り戻した。

 マユリは先ほどまで取り付いていた邪霊が、引き剥がされ服装がもとに戻ったマユリはレティシアと未だに思考停止して固まっている。

 邪霊もマユリの体から追い出され人の形に近い黒い液体になると、マユリの体から出て来た精霊王を怒りや憎しみを込めた目線を送っていた。


「余裕だな。もうお前の核は剥き出しの状態なんだぞ」

「!?」


 邪霊はユウヤの声が聞こえた方を驚いた顔で振り返った時には、目でとらえられない速度ですべての核を炎刀によって斬り落とされた。

 邪霊は驚き何か言っているようだが、小さくくぐもった声でいているため聞き取れなかった。


「これで終わりだな」

『ああ、助かったよ。まさか、口づけするとは思って無かったけどね』

「そりゃそうだ。俺も失敗すれば黒い鞭で串刺しにされるところだったからな。死ぬか生きるかの戦場で敵にキスする奴なんていないだろうからな」

『確かに、された側は意味が分からないだろうね』


 精霊王とユウヤが何事も無かったように話していると、マユリとレティシアは状況を把握してそれぞれに反応を起こした。

 マユリは顔を真っ赤にしてその場に座り込み両手で頬を抑えて何かつぶやき始めた。

 レティシアもマユリと同じようにその場に座り込むと、羨ましそうな目でマユリを見て呆然としていた。

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