第54話 マユリの選択
ユウヤとレティシアが邪霊と戦っている中、邪霊の中でマユリは暗い闇の中に一人沈んでいた。
光も音も届かない闇の中でマユリは眠っているかのようにして、先ほど邪霊に取り込まれる前にユウヤに言われた言葉を考えないように心を無にしていた。
そんな闇の中に先ほどまで無かった光が差し込み誰かの声が聞こえてきた。
「ユウヤ……?」
マユリはユウヤが来たのかと思い、闇の中に突然現れた光をまぶしそうに見て光の正体を確かめようとした。
しかし、そこにいたのは今まで見たことのない性別の判断がつかない背中に白い四つの羽を持つ幼い子供だった。
「……誰?」
『私は精霊王。君を助けに来た』
「私を助けに?」
『状況は理解できているかい?』
「ユウヤとレティシアと噴水広場で話していたところまでしか覚えてないわ」
マユリは精霊王の質問に首を横に振り、悲しそうな顔をして自分の覚えている範囲を思い出して精霊王に伝えた。
精霊王はマユリの答えを聞いてゆっくりと現状の説明を始めた。
『彼らと話していた君は、彼らの言葉で負の感情が強まったことで邪霊に力を与えてしまった。それが原因で邪霊は町の中に侵入してきて君を取り込み、今は彼らが足止めをしている』
「……そう。私のせいで二人に迷惑を掛けちゃったんだ……」
『君のせいではないよ。それに彼らも君を傷つけたくてあんな話をしたわけじゃない。邪霊がいなければ君には選択肢があったんだ』
「選択肢?」
精霊王の言葉にマユリが何を言っているのか分からず、首を傾げて問いかけると精霊王が説明を始めた。
『先ほど外でユウヤから「一緒に来ないか」と伝言を預かっている』
「どういう意味?」
『彼は君さえよければ君も冒険に連れて行こうと考えていたんだよ。しかし、君はこの町のことが好きみたいだから無理強いする気はなかったみたいだよ』
「ユウヤがそんなことを……」
『だから、君には二つの選択肢がある。一つは彼らと別れてこの町に留まること。もう一つは、この町を出て彼らと一緒に冒険をすること』
「……」
マユリは精霊王の言った選択肢の意味を理解して考え始めた。
しばらく黙って考えていたマユリは精霊王に話しかけた。
「いくつか聞きたいんだけどいい?」
『ああ、構わない』
精霊王に許可をもらったマユリは質問を始めた。
「町の人達が私のことを認識できなくなったのはどうして?」
『あれは君の願いが精霊たちの力によって具現化した結果起こったことだよ』
「私の願い?」
『当時の君は誰にも認識されずにゆっくりと休みたいと願っていた。その強い願いを精霊たちが叶えてしまったんだ。それも酷く曖昧な願いを力技で叶えた結果、今の現状が起こり、私でも解くことが出来ない状態にある』
「どうやったら解けるの?」
『君が毎日楽しそうに歌っていた頃に溜まっていた霊力の倍近い量の霊力を使って力技で解くか、同じ霊力で複雑に絡まった霊力をほどくかのどちらかだ』
「それは私に出来ること?」
マユリの質問に精霊王は少しの間目を瞑って考えると、目を開けて答えた。
『今のままじゃ無理だけど、十年もすればきっと解くことは出来るよ』
「十年……か」
精霊王の答えにマユリはさらに考え、違う質問をした。
「ユウヤ達はまたこの町に来てくれるかな?」
『彼らはまた来るつもりだろうけど、それは難しいだろうね』
「どうして?」
『彼らが長い旅の中で生きて帰って来れる可能性が少ないからだよ。特にユウヤの方は生きて帰って来る可能性は皆無と言っていいだろう』
「どうして、ユウヤはかなり強いって聞いたんだけど?」
『ああ、彼らは強いよ。特にユウヤは、これからの成長によっては人類最強の存在である勇者に届く可能性もある』
「じゃあ、どうしてユウヤ達が生きて帰ってこれないの?」
『それはユウヤが……』
精霊王の説明を聞いてマユリは驚き目を見開いた。
「そんなことって……」
『嘘じゃないよ。私から言わせれば、彼が生きているのが不思議なくらいさ』
「……」
精霊王からユウヤの秘密を聞いたマユリは先ほどまでより長い間考えると、精霊王に最後の質問をした。
「もし、私がユウヤ達と一緒に冒険に出た場合、私はユウヤ達の足手まといになるかな?」
『その心配はないさ。君について私も一緒に行くから』
「精霊王が?」
『私は精霊王ではあるが、精霊王の意思の一部でしかない。精霊王は一人しかいないからね意思を分けないと世界中にいる精霊の管理はとても出来ないのさ』
「じゃあ、あなたが私について来るとこの辺りの管理が出来なんじゃないの?」
『その心配はない。私は過去に例を見ないほど精霊から愛される君を守るために、精霊王が新しく生み出した意思だからね』
「そうだったんだ」
マユリは精霊王の言葉を聞くと何かを決意して精霊王を見た。
「私はユウヤ達と一緒に冒険に行くわ」
『それが君の選択なら私は止めない。じゃあ、君の体を取り返そうか』
「そうね」
マユリの答えを聞いた精霊王が差し出した手をマユリが握ると、光は強くなり闇を押し返し始めた。
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