第53話 精霊の眼
ユウヤは姿が見えない精霊王がいるだろう霊力の感じる方向に視線だけを向けて話しかけた。
「手を貸してくれるのは助かるが、マユリから邪霊を引き剥がさないと俺とレティシアはあまり手が出せないぞ」
『そちらは私が何とかしよう。私があの娘の体に入る隙を作って欲しい』
「構わないが、俺はあんたの姿もあいつの核も見えないからあまり期待するなよ」
ユウヤが刀を構えて視線を邪霊に向けながら精霊王に言うと、精霊王は何か考えていたのか少しの間何も言わずに黙っていた。
『ならば、そなたに私たち精霊の眼を貸してやろう』
「精霊の眼?」
ユウヤは突然話だし、よく分からない単語を言い始めた精霊王に首を傾げて追い返した。
『精霊の眼は魔力や霊力を光と同じように色として見ることが出来る眼じゃ。魔力の微妙は波長の違いも見分けることが出来るようになる』
「そんな眼があるのか?」
『私たち精霊は皆生まれつき持っている。一部の魔導士も精霊に借りる者もいれば修行して身に付ける者もいる』
「それはすごいな」
『少しの間目を閉じてくれ、今から精霊の眼を貸す』
「分かった」
ユウヤは精霊王に言われた通りに目を閉じると、瞼越しに何か手のようなものが当たっている感触が伝わってきた。
ユウヤはその手のようなものから目に精霊王の霊力が注がれているのを感じながら、霊力がどう動いているか観察し始めた。
『もう目を開けていいぞ』
少しすると、手のような感触が離れて行き精霊王から声を掛けられたユウヤが目を開けると、そこには男のようにも女のようにも見える背中から白く光る楕円の形をした四つの羽が生えている幼い子供が浮いていた。
『どうだ、見えているか?』
「ああ、あんたの姿も良く見えるよ」
『それでは、私があの娘の体に入れるように、邪霊を引き付けておいてくれ』
「分かった」
ユウヤがそう言うと、精霊王はユウヤに背を向けて邪霊の方に向かおうとするが、その前にユウヤが精霊王を呼び止めた。
「ちょっと待ってくれ」
『どうかしたのか?』
「マユリに伝えて欲しいことがある。さっき伝えられなかったんだ」
『いいぞ。あの娘の精神を呼び起こす役に立つかもしれん』
ユウヤの頼みを受け入れた精霊王に先ほど伝え損ねた言葉を伝えると、今度こそ二人で邪霊に向かって歩き出した。
「さて、行くか」
『頼んだぞ』
「任せろ」
ユウヤは邪霊の魔法を同じ魔法で相殺しているレティシアの隣まで来ると、レティシアに話しかけた。
「レティシア、さっきの炎刀俺の刀にも付与できるか?」
「ええ、大丈夫よ。核の位置は分かったの?」
「ああ、精霊王に借りた精霊の眼のおかげで良く見える」
「そう。なら、私は魔法を相殺しておくわ」
「分かった」
レティシアはそれだけ言うとユウヤの刀に炎刀を付与した。
ユウヤは刀を炎が包んだのを確認すると、精霊王を背中に庇いながら邪霊に向かって走り出した。
精霊王はユウヤの背に隠れて飛びながら、邪霊に近づき始めた。
「忌々しい精霊王が!」
邪霊は魔法を放ちながら、先ほどまでとは違い両手だけではなくドレスの複数の場所から黒い鞭を伸ばしてユウヤの後ろに隠れている精霊王に攻撃を始めた。
「この眼、すごいな」
ユウヤは迫って来る十数本の黒い鞭の中に存在している分身体を作るための小さな核の位置が細かく見えた。
ユウヤは炎を付与されて炎刀となった刀を振り、黒い鞭に入っている小さな核ごとすべての黒い鞭を斬り焼き切った。
「!?」
黒い鞭の小さな核をすべて破壊されたことで斬り落とされた黒い鞭は地面に落ちてただの黒い水溜まりとなって全く動かなくなった。
先ほどまでと違い的確に核を破壊してくるユウヤの変化に邪霊はすぐにその理由を理解した。
「精霊の眼か!精霊王め、余計なことを!」
精霊王に対して怒りや憎しみを込めた言葉を発しながら、さらに黒い鞭の数を増やしユウヤが対処できない量の攻撃をしようとしたが、常軌を逸した身体能力ですべての黒い鞭の核を斬り捨てながら近づいて来るユウヤに恐怖と焦りが顔に浮かび始めた。
「この、人間風情が!」
怒りを込めて叫んだ邪霊とすれ違いざまにユウヤは、黒い鞭の伸びている根本とドレスの斬っても大丈夫そうな場所にある核を斬り捨てた。
ユウヤが黒い鞭をすべて斬り捨てたことで攻撃手段を一瞬だけすべて失った邪霊はマユリの体に飛び込んでくる精霊王に対処することが出来ずに精霊王の侵入を許してしまった。
「後は頼んだぞ」
ユウヤは怒りや憎しみを込めた目で見てくる邪霊の方に刀を構えて向いた。
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