第56話 後処理

 ユウヤと精霊王が軽く雑談をした後、ユウヤは精霊王に頭を少し下げた。


「ありがとう、精霊の眼を貸してくれて。おかげでマユリを傷つけずに助けることが出来た」

『気にしなくていい。私は彼女を護るために生み出された精霊王だからね』

「護るために生み出された?どういうことだ?」


 精霊王の言葉にユウヤは頭を上げ、首を傾げて問い返した。


『私は精霊王の意思の一つでしかないということだよ。そして彼女は放置できないほどに多くの精霊から愛されているからね。今回のようなことが無いように護るために私は生まれたのさ』

「あいつもレティシアと同じで特別な存在ってわけか……」


 精霊王の言葉を聞いてユウヤは未だに座り込んでいるマユリとレティシアを見ながら小さな声で呟いた。


『それじゃあ、そろそろ精霊の眼を解いておこうか。もう必要ないだろうしね』

「そうだな」

『じゃあ、解くよ』


 そういって精霊王が小さな手を掌をユウヤに向けて目の当たりを何かを拭きとるように振った。

 すると、先ほどまで見えていた魔力や霊力の色が消え、いつも通りそこに流れて存在しているという感覚だけが残った。


『終わったよ』

「随分と簡単に解けるんだな」

『霊力を霧散させただけだからね。貸すよりは簡単さ』

「そういうもんか……」


 ユウヤは元の眼に戻ったのを確認するように、周りを軽く見回してから手に持っている未だに燃えている刀に視線を向けた。


「これも解いて貰わないとな」

『私は宝石に力を込めて結界を張り直しておくわ』


 小さな声で呟いたユウヤは、座り込んでいるレティシアに歩いて近づいて行った。

 精霊王はユウヤの呟きを聞くと、壊れた噴水の中に落ちている精霊王の力が宿っていた宝石に飛んで近づいて行った。


「レティシア……レティシア!」

「……え!?な、なに?」


 ユウヤはいつも通り呼び掛けても反応しなかったレティシアの肩を片手で揺らしながら少し大きな声で呼びかけた。

 その呼びかけでようやく気付いたレティシアは少し驚きながら、ユウヤに聞き返した。


「何って、付与してくれた炎とこの広場の魔力障壁もう解いて大丈夫だぞ」

「ああ、それもそうね」


 レティシアはユウヤの言葉を聞いて指を軽く鳴らした。

 レティシアが指を鳴らしてすぐに、ユウヤの刀の炎は弱まって消え、広場を覆っていた魔力障壁は何も無かったかのように一瞬で消えてなくなった。


「大丈夫か?ぼーっとしてたみたいだが、さっきの戦闘で魔法を立て続けに使った疲れか?」

「え?……まあ、そんなとこ……大丈夫だから気にしないで」

「そうか。あんまり無茶はするなよ」


 ユウヤに対して口づけが羨ましかったなど、本当のことを言えないレティシアは適当にはぐらかした。

 それを聞いたユウヤは疲れているのだと思い、刀をしまって未だに座り込んでいるマユリに近づいて行った。


「マユリ、怪我は無いか?」

「……」

「マユリ?」

「え?何、どうかした?」


 ユウヤはレティシアと同じように反応しなかったマユリの肩に手を置いて軽く揺らすと、ユウヤの顔を見て驚いた顔をしてすぐに、恥ずかしいのか顔を少し赤くして視線を逸らして聞き返した。


「いや、怪我とか無いか?邪霊に取り込まれていたわけだし、何か変なこととかあるか?」

「大丈夫、いつも通りよ」


 マユリは軽く体を確認してからユウヤの問いに返した。

 マユリの言葉を聞いて安心したユウヤは少し小さく息を吐いて表情を少し緩ませた。


「そうか。ああ、後いきなりキスして悪かったな。他に方法を思いつかなかったんだ」

「別に気にしなくていいわよ。おかげで助かったし」

「ならいいんだが、今度埋め合わせはするさ」

「……分かった」

(レティシアにも埋め合わせをしてあげて、なんて言えないよね~)


 口づけのことを申し訳なさそうに謝るユウヤを内心で呆れながらマユリはレティシアにどう話すか考え始めた。

 ユウヤはマユリの傍から離れると、避難誘導を終えて戦闘の準備を整えて走ってきたグラムたちに近づいて行った。

 グラムたちは刀を鞘に納めて歩いて近づいて来るユウヤに、驚いた顔を向けて辺りを警戒して見るが魔物がいないことでさらに驚いた顔をしてユウヤに問いかけた。


「ユウヤ、魔物はどこに?」

「つい先ほど討伐した。今は精霊王が町に結界を張り直している」

「精霊王様が!?」


 グラムたち冒険者は魔物を倒したこと以上に、精霊王がすぐ近くで結界を張り直していることを聞いて驚き近くにいる者と顔を見合って小さな声で話し始めた。


「後処理を任せていいか?」

「ああ、戦いに参加できなかった分、しっかりと働かせて貰おう」


 ユウヤの頼みを引き受けたグラムは冒険者たちに指示を出しながら、噴水の修理などの後処理を始めた。

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