第52話 精霊王

 ユウヤはレティシアから後ろに少し離れて目を瞑って軽く深呼吸して集中力を高め始めた。

 そんなユウヤの姿を少し見て目の前にいるレティシアに視線を移して邪霊はレティシアに話しかけた。


「反撃……か、さっきまであの小僧は私に傷一つ付けられなかったが、貴様は小僧より強いのか?」

「さあ、戦ったことないから分からないわ」


 レティシアは邪霊の問いに適当に返すと、複数の魔法を用意しながら邪霊に斬りかかった。

 邪霊は慌てた様子もなく刀の攻撃を無視して邪霊を斬り付けて隙が出来たところに炎の球を生み出してを撃ち込んだ。

 それをレティシアは用意した魔法の一つの炎の球をぶつけて相殺し、もう一度斬りかかった。

 邪霊は何の動作も無しに放たれた炎の球に驚いたが、刀で斬られても傷つかないため安心してその攻撃を受け止めた。


「驚いたな。まさか、何の動作も無しに魔法を発動して私の魔法を相殺するとは。しかし、刀では私は傷つけられないぞ。仮に刀で私の体を容赦なく斬ればこの娘の体も傷つくことになる」

「そんなの分かってる」


 レティシアは無表情で邪霊に簡素に返すが、そのレティシアの表情や声には隠しているが付き合いの長いものなら怒りが含まれていることに気づくほどにレティシアはマユリを取り込まれて、人質にされたことに怒っていた。

 邪霊を数回斬り付けたレティシアは意味がないことを確認すると、邪霊から少し離れて用意していた魔法の一つを使用した。


「確かに、普通の斬撃は聞かないみたいね。けど、これならどう?」


 レティシアが魔法を発動させながら邪霊に話しかけている間、レティシアの刀は赤くなり刀の周りの空気が揺らぎ始めた。

 邪霊が不思議そうに刀を見ていると、赤くなり周りの空気が揺らいでいる刀から炎が出てあっという間に刀は炎を纏た。


「炎刀」

「!?」


 レティシアは炎を纏った刀、炎刀を構えて邪霊に先ほどより速い速度で近づき、炎刀で邪霊の体であるドレスのスカートを出来るだけ広い範囲に炎刀が当たるように斬り付けた。

 スカートは炎刀が振れた範囲は邪霊の体である黒い液体が蒸発し、スカートは少しして元に戻ったが確実に邪霊にダメージを与えた。

 邪霊は顔を歪めてレティシアから距離を取ると、炎や氷、土などさまざまな塊をレティシアに向けて放ち時間を少し稼ぐと、ユウヤに放っていた強力な魔法を用意し始めた。

 邪霊の放った魔法をレティシアは同じ系統の魔法で相殺し、新たに魔法の用意をしながら炎刀を構えて近づこうとしたが、踏みとどまり警戒して止まった。


「小僧より厄介な攻撃手段があることは分かった。ならば近づけさせなければいいだけだろう」


 邪霊は自分の周りに魔力障壁を複数張る


「さて、貴様はどこまで耐えられるかな」


 レティシアに向かって邪霊が言うと、地面が数か所盛り上がり、氷柱が空中の魔方陣から生まれ、レティシアの真上から吹き付ける暴風でレティシアの動きを鈍らせた。


「その魔法はさっき見たわ」

「!?」


 レティシアは真上から吹き付ける暴風以外の魔法が届く前に同じ魔法を詠唱して放ちすべて相殺した。

 すべての魔法を相殺すると、あらかじめ用意していた魔法で暴風を吹き飛ばして刀を構える。


「なるほど、貴様も化け物ということか……」


 邪霊はレティシアの異常な魔法の詠唱速度に呆れたようにため息を着くと、集中しているユウヤの足元から炎の柱を生み出して攻撃するが、レティシアに読まれていたらしく魔力障壁で防がれた。


「言ったでしょ。時間は稼ぐって」

「はあ、面倒な……」


 邪霊は面倒そうにため息を着くと、レティシアを見て複数の魔法を放ち始めた。


 レティシアが邪霊の魔法を相殺しながら、炎刀で攻撃しているなかユウヤは限界近くまで集中力を高めて邪霊の核の位置を探っているが、邪霊の魔力がマユリの魔力と似ているため核の位置が未だに何となくしか分からずにいた。


(くそ、これだけ集中してもダメか)


 邪霊はマユリの負の感情から力を得ているため、二人の魔力はほとんど同じものと言っていい。

 それが原因で魔力探知で魔力を見分けられるものでも今の邪霊の核の大体の位置さえ普通は分からない


(何となくの位置は分かったが、そこを攻撃すれば核を移動されるだろう)


 一撃で核を破壊しようにも場所が分からない上に、小さな核の集まりでまともなやり方では全部をほとんど同時に壊すことは出来ない。


(どうする?これ以上集中しても核の場所は正確には分からないだろう)


 ユウヤが邪霊の核の位置を特定することが出来ず、どうやって邪霊を倒すか考えていると、先日宿で聞こえた声が聞こえた。


『強き者よ、邪霊を倒してほしい』

「お前は、宿の……。お前は誰なんだ?」

『私は精霊王。すべての精霊を束ねるものだ』

「精霊王だと!?」


 ユウヤは隣に先ほどまで感じなかった強力な霊力を感じ、隣を見るが何も見えなかった。

 ユウヤの隣に強力な霊力を持つ精霊が現れたことに邪霊とレティシアも気づいたが、レティシアはあまり気にせずに邪霊を警戒していた。

 しかし、邪霊は忌々しいものを見るような顔でその精霊の方を見ていた。


『強き者よ、邪霊を倒してくれるか?』

「邪霊を倒すのは協力するが、あいつの核の位置が分からない」

『よかろう。ならば、私も力を貸そう』

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