第49話 邪霊 マユリ

 ユウヤはマユリを取り込んで段々と人の形に近づいている魔物に刀を構えて臨戦態勢に入った。

 軽く息を吐いて集中し、魔物の攻撃を警戒しながら魔物に取り込まれたマユリの気配を探る。


(魔物の中にまだマユリの気配はあるな。かなり微弱で弱っているがまだ生きている)


 マユリが生きていることを確認して、どうやって魔物からマユリを引きずり出すかユウヤが考えていると、魔物は完全に人の形になった。


「な!?」


 その姿にユウヤは驚き完全に思考が停止してしまった。

 人の姿になった魔物のはどこからどう見てもマユリである。

 先ほどまでのマユリとの違いは黒いフリルの着いたワンピースだった服装が、黒い肩を出したドレスで胸のあたりに大きな花の飾りがついて、スカートは地面近くまで丈がある。

 靴も黒いハイヒールを履いていて、手には肘まである黒い手袋をつけている。

 そして頭には赤い宝石が着いた綺麗な黒いティアラを付けている。

 その姿はどこかの国の姫の姿を思わせるほど美しかった。


「なんで……」

「それはどういう意味かな?」

「!?」


 ユウヤの呟きに大してマユリが先ほどまで瞑っていた目を開き、怪しく光る赤い瞳でユウヤを見ながら聞き返してきた。

 マユリの声で話しかけられたユウヤは驚き少しの間戸惑っていたが、すぐに冷静になって魔物に質問をした。


「お前は山の下に隠れていた魔物で間違いないか?」

「ああ、そうだ。先日、洞窟で私の分身体がお世話になったな」

「じゃあ、なんで、お前がマユリの姿をしている」


 ユウヤの警戒しながらの質問に魔物は怪しく微笑みながらユウヤの質問に答えてきた。

 その普段のマユリがしない顔や話し方にユウヤは苛立ちながらも軽く深呼吸して怒りを抑えて冷静に魔物に質問していく。


「私がこの娘の体を借りているからだ。私の本体はこの服の方だ」

「なんで、マユリの体を乗っ取った?」

「この娘が精霊に愛されていて、精霊はこの娘の影響を受けて力が得るからだ」

「それがお前と何の関係がある?」

「私は元精霊でな。魔物や動物などの負の感情の影響で変質し、邪霊になったんだ」

「邪霊だと……」


 ユウヤは謎の声が言っていた単語が出て来たことで、少し警戒が薄まった。


「元精霊である私は、この娘の負の感情から力を得られる。だからこの娘の負の感情に満たされた歌は私に絶大な力を与えた」


 誇らしげに自慢するように言いった邪霊は、少ししてユウヤを警戒した目で睨んだ。


「しかし、そんな私を超える魔力を持つ貴様は何者だ?」

「ちょっと変わった体質のただの冒険者だ」

「変わった体質?」

「魔力の排出が出来ないだけだ」

「排出器官の異常か。しかし、それにしても異常な魔力なことに変わりはない」

「知るかよそんなこと」

「やはり、貴様は危険だな」


 邪霊はそれだけ言うと、腕を振るうと手袋の手の甲の部分が延びてユウヤに襲い掛かってきた。

 ユウヤは手袋から伸びた黒い鞭のようなものの薙ぎ払いを刀で受け流した。

 受け流された黒い鞭はユウヤの背後にあった噴水の一部を破壊して、壊れた噴水から水が噴き出した。


「一つ聞きたい」

「なんだ?」


 ユウヤは二本に増えた黒い鞭を躱し受け流しながら、邪霊に質問をした。

 邪霊も両手で鞭の攻撃を行いながら、ユウヤの質問を受け入れた。


「マユリの体を傷つけたら、お前にダメージは入るのか?」

「残念ながら、この体は私の物ではないのでな。この娘の体を傷つけてダメージを受けるのは娘だけだ」

「そうかよ」


 ユウヤの質問に対する邪霊の言葉にユウヤはあからさまに舌打ちして、不機嫌そうな態度で二本の鞭を斬り落とした。


「要するに、マユリを傷つけずにお前を引き剥がさないといけないってことか」

「そんなことが貴様に出来るのか」

「出来る出来ないじゃなくて、やらないといけないんだよ」


 挑発的な笑みを浮かべていう邪霊の言葉に、ユウヤは忌々しそうに返して邪霊に刀を向けた。


「かっこいいこと言うじゃないか。しかし、私一人に集中していていいのか?」

「なにをいって……そういうことか」


 邪霊の言葉の意味が最初は分からなかったが、背後に気配を感じて振り返ると、先ほど斬り落とした鞭が洞窟にいた分身体と同じように自立して動き始めた。

 ユウヤは後ろの二体の分身体と目の前にいる邪霊を警戒しながら冷や汗を流した。


「これは一人だと流石にきついな……」

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